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「何見てんだ?」 |
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「んー、廃墟写真集」 |
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「お、軍艦島」 |
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「ほんと軍艦みたいだよネ」 |
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「これは……居住区か。ここに沢山の人が住んでたんだなぁ」 |
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「一部の家具なんかは、まだ残されてるんだって。置いてったみたいだネ」 |
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「廃墟か……」 |
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「何、どうしたの?」 |
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「いやな、ちょっと前にさ、俺が3歳くらいまで住んでた社宅に行ったのよ。親父と。急な坂を上っていくと、小さな道路が張り巡らされた住宅街があって、そこの道路に面してそれはある。柵で囲ってあるだけの団地だ」 |
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「よくある感じの?」 |
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「まぁそうだな。そこはもう閉鎖されてるんだが、柵で囲ってあるだけだから道路から見えるんだ。もう、ほんと廃墟だったな。閉鎖されて6年くらいだったかな? まだ劣化はそんなに進んでなかったけど、人が居なくなると建物は生気を失うね」 |
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「誰も居ないからネ。人の気配がしないってとこカナ」 |
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「生活のニオイがしない、とかね」 |
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「うん、そういう感じ。俺がそこに居たのは3歳くらいまでだから、記憶はおぼろげだったんだけど、いざ目の前にするといろんな事を思い出したよ。あの頃はすべての物が大きく見えたから、今の視点とはずいぶんとズレがあったけど、紛れもなく俺が住んでいた社宅で、紛れもなく、今はもう廃墟なんだ」 |
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「きっかけができたから、薄れてた記憶がよみがえったんだネ」 |
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「ああ。バイクに跳ね飛ばされても無傷だった事とかな」 |
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(そんな頃から危機回避運だけは強かったのか) |
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「親父がさ、窓を指差すんだよ。『あそこに住んでたんだ』って。そうしたらさ、なんだか込み上げてくるものがあって、ちょっと泣きそうになっちゃったよ。俺が幼少の頃を過ごした部屋が、今では誰も居ない廃墟だなんてな。
あの頃は小さかったから、風呂がやたらと深くて怖かった、溺れるんじゃないかと。実際深かった筈。親父に支えられながら入ったのを覚えている。確か窓がある部屋が寝室だ、カーテンから漏れる日の光で目が覚めた日があった。たぶん休日だ。起きてるのが自分だけだったから、何か不思議な感覚に見舞われたな」 |
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「そういった思い出全部が、廃墟になっちゃってるって事だよネ。アッキーって物に凄く愛着持つから」 |
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「あー、家、と言うか部屋か? それも同じって事だな」 |
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「そうだな。地元に対する愛着、っていうのもあるだろ? 人は物や土地に愛着を持ったりするんだよな。それがない人も居るだろうけど、俺は持っちまうほうだ。生まれも育ちも横須賀だから、やっぱり俺は地元が好きだしね。
だから、ああやって生気のない、抜け殻のような……そう、屍のような姿を見ると、やっぱ悲しくなるよ」 |
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「見なきゃよかった?」 |
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「いや、そうでもない。ある意味、取り壊される前に見られて良かったと思う。崩落の危険もあるし、いつまでもそのまま放置って事はないだろうからな」 |
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「ネタにもなったしな」 |
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「そうだ──ってオイ」 |
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「しかしアッキーでもそういう事あるんだ」 |
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「そういう事って、どういう事だ?」 |
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「そういう事」 |
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「OK、喧嘩なら買うぞ、何で勝負する? ハンマー投げか?」 |
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「ハンマー投げ……」 |
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「あたしが圧倒的に不利ジャン」 |
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「そうじゃなくて、ま、そういう感情はあったんだネ」 |
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「お前俺をなんだと思ってんだ」 |
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「無気力星人」 |
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「無気力星人」 |
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「いや、おい、なんだこのやろう……」 |
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「これ言うと黙るよな、中尉は」 |
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「ネ、自覚はあるからネ」 |
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「ぐぅ……」 |
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「ま、そうじゃなくて、そういう感情って、あって悪い事はない筈だよ」 |
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「そうだな」 |
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「ん、ありがとう」 |
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