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「昨日の話なのですが」 |
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「え、何? 駄洒落の話? もっと聞きたいの?」 |
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「違います」 |
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「そんなに力強く否定するなよぅ」 |
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「で、昨日の話ですが。中尉は分度器でエライ阿呆な事をした、というお話でしたね」 |
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「マテや、それじゃおめぇ、俺がなんか分度器でなんかこう、やべぇ事したみたいじゃないか!」 |
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「アホなのは確かだけどな」 |
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「うるせぇ。で、何?」 |
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「まずはこれを(スッ」 |
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「ん〜、ああ、懐かしいな。地獄の加筆修正をやる前にとった、外機のログだな。で、と、これは外機用語集のページか」 |
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「はい、そこの『ポイント』と『ベクター』をご覧ください」 |
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「ん〜?」 |
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ポイント:旗艦若しくは基地などを中心とし、方位・距離・高度で示す場所指定の符丁。ポイント・90・300・300マイクの場合、方位90度(真東)・距離300km・高度300m。ポイント・0・500マイクの場合、方位0度(真北)・距離500m・高度0m。
ベクター:機首方位。北を0度、または360度として機首が向いている方位を示す。若しくはそちらへ向ける様に指示する。日本軍では北を0度とする。ベクター・ゼロ・ナイナー・エイツの場合、機首方位098度となる。
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「この場合の『ポイント』は外機日本軍のオリジナル用語、『ベクター』は実際にある用語だな。で、これが何か?」 |
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「……あ、わかった」 |
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「え、何?」 |
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「わかんないのか? よーく見てみろよ」 |
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「う〜ん……あ!」 |
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? |
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「方位、何処を0度にするって書いてあります?」 |
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「ん、北が0度──あ」 |
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「これ、地獄の加筆修正前のログなんだろ? その時点で、北は0度になってる訳だ。にも関わらず、何故か○○沖○○度の部分だけ、東が0度になってるんだよ!」 |
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「うわぁ、アホ通り越してバカだバカ」 |
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「………………」 |
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「何かご感想は?」 |
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「いや、マジわけわかんねぇ……なんでこうなってたの?」 |
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「こっちが訊きたいよ」 |
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「このポイントって外機用語と、ベクターって実際の用語は、地獄の加筆修正を行う前から使ってたんだ。なのに、何故か○○沖○○度の部分だけ、東が0度になってたんだ!」 |
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「それは今私が言った」 |
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「分度器使ってたからだろ」 |
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「やはり分度器か……」 |
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「アホだ……」 |
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「まぁ超適当だが、こういう分度器があるとする」 |
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「本当にテキトウですね」 |
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「うるせぇ。で、右が0度、つまり東が0度なのは間違えてた部分の中では一貫している。角度を時計回りに計算している場合は」 |
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「こう置いてたんだろう。ほら、これだとキスカ島沖150度がキスカ島沖060度になるだろ? 本来は、地図上の場合北が0度・東が90度だ。北が0なら、この置き方で計った分度器の角度、60度は、本来は150度になる」 |
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「なるね」 |
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「つまり、水平より下の角度を測る時は、こうやって置いてたんだ。で、ハワイ沖073度を023度と間違えてた時は……」 |
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「こう置いてた訳だな。ほら、これだと逆時計回りに計算するだろ? だから、北が0度・東が90度の時に、73度になる角度が、この置き方かつそのまんま読むと、23度になる」 |
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「水平より上の角度を測る時は普通に置いて、水平より下の角度を測る時は逆にして置いた。そして分度器のメモリのまま読んだ、と」 |
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「そーなるね」 |
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「マジもんのおバカじゃないかー!」 |
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「いやぁうっかりうっかり! |
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「中尉はうっかりが多すぎです」 |
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「うっかりってレベルじゃないだろ」 |
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