ACE COMBAT5 The unsung war〜謀略の破壊者・ラーズグリーズ〜




ACE COMBAT5 The unsung war〜謀略の破壊者・ラーズグリーズ〜
第26章 混迷より秩序へと

12/29 CVN「ウリヤノフスク」艦橋 1710時
「それで、何故俺達を呼んだんだ?」
「・・・」
カプチェンコとベルンハルトが艦橋に呼び出され、艦長がふぅとパイプを加え煙を出しつつ歩いてくる。40代くらいの艦長としては少々若い人物だ。
2人は空母艦載機が足りずSu-47に無理やり着艦フックを取り付けるなどの改造をしてグリューン隊、ゴルト隊ごとこの空母に転属されたのだ。
「2人に聞く。今のユークトバニアに正義があると思うか?」
「ストレートだな。どういうつもりだ?ま、ねぇと言うほうがあってるだろ。」
外に見える窓から戦艦「アドミラル・ヴォルギン」と「クラースナヤ」の2隻が見える。それぞれが両翼に展開し正面に陣取っているのがユークトバニア最大級の戦艦、ソビエツキー・ソユーズ級戦艦「アドミラル・ライコフ」だ。
戦艦といってもハリネズミのようにCIWSと速射砲を備えミサイルに対しての対策を万全にし、防御も硬く威力の高い砲弾を大量にばら撒いてくる戦艦は脅威そのものだ。トマホークやハープーンで一撃というわけにもいかない。
対抗できるのは戦艦か航空魚雷程度しかない。魚雷ならCIWSも当たりにくく信管を一撃で破壊できるほどの威力もなくなる。戦艦の主砲ならCIWSや速射砲を損傷させ、ミサイルなどを当てやすくすることは可能だ。
ちなみに近代戦間のさきがけはオーシアの戦艦「サウスダコタ」級であり、40cm57口径砲を主砲とした艦艇である。ケストレルにも随伴している。
「・・・同感だな。」
「なら話は早い。我が「ウリヤノフスク」はこの艦隊を裏切ろうと思う。」
「何・・・?」
「すでにクルーにも話はつけた。出航前にな。後はお前達に話しておく必要があったまでだ。」
カプチェンコが驚いた表情を見せるが、艦長は気にする様子も無く彼に答えを出す。
「あのラジオ放送・・・先日からニカノール首相の呼びかけも入っていた。「戦争を止めて平和のために集まろう」と。最高指導者の言葉を聴かないのは軍人として失格だろう?」
「そうだな・・・」
「だったらお前達も協力してくれるな?まぁ俺がいる限り裏切りを通知して即撃沈なんて真似はさせない。機関部の故障と偽って艦隊から離脱させる。まぁ駆逐艦「ヴィーザフ」か「ジラーニ」あたりが来るだろうがそいつらもこっちの仲間だ。」
手回しのいい艦長だとベルンハルトは感心する。すでに計画を立てて万一の保険まで考えているという。
その計画ならクーナも危険にさらす心配は無い。主戦派のための戦争も嫌になっていたベルンハルトはうなずくと手を差し出す。
「あんたに任せるぜ?この計画。」
「私もだ・・・任せよう。」
カプチェンコもうなずいてくれたのを見て艦長はあぁ、とうなずくと握手を交わす。先日からニカノール首相がラジオ放送に出て「もう十分オーシアは追い返した。手を取り合って講和するべきだ」という放送をラジオで流していたが呼びかけに応じる部隊は少ないようだ。
それでもこの艦長のように本気で応じる人物もいる。ベルンハルトはクーナと一緒に聞いて完全に信じているわけではないがつじつまが合うためそれなりに信用し、同調者が出てきたら賛同する予定だった。
「では、出撃時刻まで待ってもらう。友軍にも同調者が出る可能性もある。もし連中を攻撃したら国家元首の命令に対する反逆として同調しない艦隊の撃沈を命令する。」
「冗談だろ?仮にも味方・・・」
「本当だ。躊躇無く友軍を撃沈してくる連中を仲間としてみていられるか?戦線を離脱していない艦艇以外に攻撃を加えるのが任務だ。」
難しいな、とカプチェンコも言うがやるしかない。この戦争を終局に導くきっかけになるだろうから。
「・・・それで聞くが、敵艦隊の詳細は?これから戦う相手だ。」
「CVケストレル旗艦のオーシア第3艦隊。俺達はそっち側につく・・・もっとも連中に寝返ったりした連中を撃沈しなかったら傍観を決め込むが。」
カプチェンコはああ、とうなずく。ニカノール首相のラジオの発信源がヒューバードでありおそらくその艦隊にニカノール首相が保護されているとみていい。
もっともまだ信用は出来ない。なにか決め手になるものがあれば・・・カプチェンコはそう願わずにはいられなかった。

1720時 ケストレル飛行甲板
「スクランブル体制を整えろ、急げ!」
整備員がひっきりなしに走り回り、対艦魚雷を積み込んでいく。EFタイフーンやF-15F/25に4本ずつ、F-25Aには2本搭載し短射程AAMも積み込む。
ユーク艦隊が接近していると聞き、直ちに航空機の準備に取り掛かっていたようだ。機銃の弾薬や対戦車バルカンなども搭載され、対艦攻撃用の武装を整える。
「凄く多いです。死に掛けのユークには不釣合いな海軍なのです。どこから?」
「海軍は比較的温存されていたほうだ。シンファクシ、リムファクシを撃沈したが通常艦艇は揚陸艦と駆逐艦を撃沈した程度、戦艦を含む主力艦隊はまだ撃沈された報告もないし俺達も撃沈していない。」
オーシア、ユークともども艦隊の数は拮抗していたが、海を挟んだ国家にもかかわらず不気味なほど海戦は起きていなかった。小規模な海戦こそあれ、主力艦隊の集う艦隊決戦は一度も無かったのだ。
ウェインが機体に乗り込み、リズが機体に同化すると無線機でグリムが通信を入れてくる。
『大丈夫なんすか?今オーシアの通信を聞いたら第1艦隊、第2艦隊も向かってきてるって。ISAFの艦隊も合流に少し時間がかかるみたいで・・・』
「安心しろ。いくらなんでも首相に問答無用でぶっ放す連中はいない。仮にいたら俺達がユーク艦隊を撃沈すればいい。」
軍人は最高司令官に従わなければならない。そんな原則まで無視するのは軍人でもなんでもない・・・おそらく大丈夫だろうとウェインは楽観的に応える。
『けどさ、連中本気でぶっ放すかもよ。そーいう艦隊司令とか、自分が一番偉いと思ってるところもあるし。』
『そのためのスクランブルだ・・・違うか?』
リュートの言うとおりだとウェインもうなずく。いつでも発進できる準備を整えておけば万一のことも無いはず。いざとなればケストレルだけ後方に逃がせばいい。
すると、艦外スピーカーと同時にユーク軍の無線周波数で交信が行われる。ニカノール首相直々にユーク艦隊への説得を試みるようだ。
『ユーク艦隊の諸君、私は君たちの政府を代表する・・・国家首相ニカノールだ!この・・・ケストレル?』
『イエス、ケストレル。』
ニカノールは咳払いをすると、そのまま艦隊への説得を続ける。
『空母ケストレルの艦内にいる!我がユークトバニアとオーシアの間に友情を取り戻すためだ、我々は再び・・・』
『第1艦隊旗艦「アドミラル・ライコフ」より各艦へ。ユークトバニアとオーシアの間には憎悪しか存在しない!元首ニカノールは敵についた。これを敵と認め、敵艦もろとも海中へ没セシメヨ。』
やはりか、とウェインが愚痴る。そうたやすく行くような相手でもない。相手は主戦派、すぐ攻撃しなければならないだろう。
「艦長、スクランブル許可を!敵の対艦ミサイルを喰らえばケストレルとてひとたまりも無い、先鋒の艦艇を撃沈する!」
『許可する。ラーズグリーズ、およびガルムは発艦せよ!』
アンダーセン艦長が許可を出し、ラーズグリーズ隊とマールのF-15F/25が発進する。


『まずい・・・?』
「あぁ。」
カプチェンコがウリヤノフスク甲板で出撃準備を整えている。現在ウリヤノフスクはユーク主力艦隊を離れ駆逐艦「ジラーニ」、「ヴィーザフ」の2隻に護衛されている。
艦隊の通信を聞き、まずいとも思ってしまう。このままではケストレル艦隊も無傷ではすまない。一応戦艦を有しているとは言えこちらのソビエツキー・ソユーズ級が新鋭、数もありただではすまない。
すると、意外な通信が飛び込んでくる。中央に展開する駆逐艦「ピトムニク」からだ。
『司令、仮にも首相の言葉を無視するのですか!?我々だって理不尽な戦いは望みません!』
『ピトムニクが陣形を崩した?まずいぞ、コースを・・・!?』
駆逐艦「カローク」が「ピトムニク」を回避しようとしたがコースを誤り、空母「アドミラル・ツァネフ」に衝突してしまう。幸いにも損傷は軽微だが司令を怒らせるには十分だったようだ。
『我に従う艦は駆逐艦「ピトムニク」を撃沈せよ!撃ち方始め!』
砲撃音が鳴り響き、周囲の駆逐艦が「ピトムニク」めがけ砲撃を開始する。それが艦長にとっての合図でもあり他のユーク艦隊も同調するきっかけでもあった。
『空母「ウリヤノフスク」より第1艦隊へ。旗艦は反乱軍についたとみなし攻撃を開始する。』
『何だと!?貴様、どういうことだ!?』
『国家元首の言葉にそむくのは重大な反逆罪だ。首相につくものはユークの国旗を掲げ反逆者達を撃沈せよ!ゴルト隊、グリューン隊。発艦許可を出す。反乱軍の艦隊を殲滅せよ!』
「了解。」
大型空母から次々にSu-47が発進、続いてF/A-18Cyとユーク海軍のSu-25、Su-33が発艦し艦隊へと突撃する。ピトムニクに猛攻が加えられているが、何とか致命傷だけは避けている。
至近距離のためミサイルも聞かず、友軍艦への被弾を避けるため砲撃も散発的になってしまう。すると3隻の駆逐艦が離反を始める。
『こちらグムラク、僚艦の撃沈を命ずる指揮官には従うことは出来ない。ニカノール首相を守る、俺に続け!』
『チゥーダ了解・・・ラーズグリーズだ!よし、反乱軍を殲滅してくれ!』
するとYak-44Eがウリヤノフスクから発艦、そのままIFFを直接入力し反乱軍と友軍をHUDに表示する。これでロックオンも可能だ。
『ウリヤノフスク所属AEWスヴィーニッツよりラーズグリーズ、およびウリヤノフスク機に告ぐ。識別データを転送した、味方に犠牲を出すことなく反乱軍を殲滅せよ。』
「了解。ゴルト1より各機、対艦攻撃のタイミングは任せる。2機編成を基本としろ。」
その途端にケストレルからレコードの音楽が聞こえてくる。The Journey Homeだがカプチェンコはケストレルからの通信を途絶させる。音楽をかける心意気はいいが、無線通信の邪魔になる可能性もある。
『マスター、かけないの?』
「部隊の把握が第一だ。心意気はいいがそれと部下の命や戦況と引き換えに出来ん。」
『ストイックね、相変わらず・・・』
「いつもこうだ。」
前進翼の得意な機体が2機。外付けのパイロンに魚雷2本と52kg爆弾4個を搭載。AA-11を8本搭載する重武装でカプチェンコは輪形陣の外側から崩そうと試みる。
『爆弾、ロックオン!』
「ゴルト1、リリース。ゴルト2へ、魚雷は大型艦にとっておけ。」
『了解。対艦攻撃を開始する。』
小型爆弾が2発、マストと左舷ミサイルランチャーに向かって落下するとそのまま直撃、爆発を引き起こす。ミサイルに引火し左舷側が爆発を起こす。
『ザーフトラ、ミサイルに引火!』
『対空炸裂弾を撃て!』
『ダメです、味方まで巻き込みます!アドミラル・ツァネフの艦載機が・・・』
『あんな奴ら邪魔だ!撃て!』
味方まで邪魔だというのか。アドミラル・ライコフが40.6cm砲を仰角を上げて発射するが目標が近く当たる気配を見せない。
カプチェンコは軽く回避すると、アドミラル・ライコフ左舷に旋回しゴルト2の随伴を確認する。十分だ。敵機もいない。
「ゴルト1、リリース。」
『ゴルト2、リリース。』
航空魚雷が2本ずつ投下され、アドミラル・ライコフへと向かっていく。雷跡が見えない高速酸素魚雷がCIWSなどの弾幕を突っ切り、左舷に向かうと高く水中を吹き上げ、爆発する。
『艦内に魚雷直撃、爆発・・・酷い数の残留思念だね・・・』
「被害状況は?」
『隔壁が吹っ飛ばされてる。まだ沈みそうに無いけど・・・』
すると、オーシア海軍機が大量の爆弾を投下していく。ヒューバード所属のF/A-18Eが水平飛行しつつ1t爆弾を正確に主砲部へと直撃させ、そのまま飛び去っていく。
主砲天蓋を突き破り、弾薬庫に引火する可能性もある。すぐにゴルト隊のSu-47が回避するとアドミラル・ライコフの主砲が高く吹っ飛ばされる。
『あ・・・敵艦大破!いける!』
ルカがアドミラル・ライコフの状況を報告する。主砲弾薬庫が爆発。総員対艦の命令が発せられたようだ。
「次だ。ゴルト2、残りの爆弾を小型艦艦橋にばら撒け。レーダーが使えなければCIWSもそれほど脅威ではない。
『了解。』
東側艦艇のCIWSはマストに設置されたレーダーにより一括管制を行う。故にここに損傷を与えれば他の艦艇、航空機の攻撃がやりやすくなる。
レーダーは精密機器の塊だ。SOBクラスの爆弾でも損傷を与えられれば甚大な被害になる。カプチェンコはロックオンを仕掛けると爆弾を投下。
爆弾はマストやレーダーを直撃し、被害を与えていく。ケストレルの艦隊やユーク反乱艦隊の対艦ミサイルをぶち込めば勝敗は決するだろう。
『ラーズグリーズめ、また1隻を・・・!』
『ゴルト隊によって戦闘機がやられてるぞ!カバーすらできんのか!』
2機のSu-47に追い詰められ、次々にユークのSu-33が撃墜されていく。降伏した機体はスヴィーニッツからIFFを迅速に与えられるため誤射の心配も無く、作戦に参加していく。
小型艦艇は旗艦の統制を失い、ケストレル艦隊に合流したり離脱する艦も出始めたがまだ完全とは言い切れない。キーロフ級を中心とした第2戦隊が頑強な抵抗を続けている。
『オーシア艦隊到来、第1艦隊です。』
『連中に殊勝な心意気があるとは思えないけどな。クーナ、接近するぞ。』
『了解!』
ベルンハルトのF/A-18Cyが部下を引き連れてオーシア艦隊へと接近する。一斉にハープーンやサンバーンが第3艦隊から発射されようとした途端に第1艦隊から無線が入る。
『こちらユーク第1艦隊臨時旗艦クラースナヤ。ケストレルの艦隊に合流することを望む。提督は反戦派クルーの手によって拘束された。第1戦隊は降伏する。』
空母アドミラル・ツァネフを含む第1戦隊が降伏。第2艦隊は孤軍奮闘し第1戦隊の行動に同意できない艦艇も合流したようだ。
まだ優勢とはいえない。オーシア艦隊に迎撃要請を送っておいたほうがいいだろうと思ったのかアンダーセン艦長が通信を入れる。

『オーシア第1艦隊に告ぐ。ユークの敵対艦隊をつぶすのに協力してもらいたい。』
上手くいく。ユークトバニアは共通の敵だ。ウェインははっきりとそう感じていたがオーシア艦隊からの返事は予想外、それも彼らのおろかさを示す通信だった。
『第1艦隊から第3艦隊へ。貴官はユークと手を結んだ裏切り者だ。これを攻撃し大統領への手むけとする。通信以上。』
「裏切っただと!?何をやってやがる!」
いきなり第1艦隊所属戦艦ブルーリッジが射撃、拡散弾が第3艦隊の艦艇へと降り注ぐ。かなり甚大な被害らしい。
『コーモラントより旗艦!まずい、被害が甚大だ!』
『第2戦隊よりユーク艦隊へ。敵主力艦を確認。これを撃沈せよ。空母数隻の艦隊は後回しだ!』
いきなり第2戦隊の目標が変わり、旗艦であるキーロフ級とアドミラル・ヴォルギンがサンバーンを発射と同時に主砲も連射。艦隊決戦をオーシア海軍に挑むつもりだ。
『何を血迷った!?ケストレルの艦隊を・・・』
『貴様等には恨み言がたっぷりあるのでな!ぶっ飛ばせ!それとケストレル艦隊、オーシアの腑抜けをぶっ飛ばすのに協力してくれ!俺達はあんな連中なんかと同類じゃねぇ!』
『了解だ。』
どうやら味方艦隊を裏切った第1艦隊が逆に集中砲火を浴びる羽目になったらしい。今まで抵抗していた第2戦隊が唐突にオーシア第1艦隊へと砲口を向ける。
友軍艦隊を裏切りこの艦隊決戦を嘲笑し漁夫の利を狙う真似が癪に障ったらしい。ウェインは思わず笑ってしまう。
『所詮裏切り者はこうなる運命です。』
「そうだな、空気の読めない連中には退場願おう。」
第1艦隊は圧倒的兵力の40隻で攻め込んできた。その中にはヒューバード級4番艦バーベットを含む空母が4隻も混ざっている。
が、第1艦隊に悪いことに南の海域から援軍が到来する。空母シャルル・ド・ゴールやスフィルナを要するISAF第2艦隊が到来したのだ。
『遅れて悪いね、皆。メビウス1、加勢するよ!』
『フルボッコにしてやるから!』
『同盟国まで裏切るのか!くそっ、撃て!連中を抹殺しろ!』
第1艦隊は図らずも北にケストレル艦隊、北西にユーク艦隊、南にISAF艦隊という挟み撃ちを喰らってしまう。ISAF艦隊は一旦護衛艦を率いて合流するのに手間取ったようだ。
『これだけの艦艇が集うなんて・・・信じられない。私たちの味方がこんなにもよ・・・』
『すみません。新艦隊の姿に涙がにじんできちゃいました。』
グリムとナガセも感激しているらしい。涙を流すほどかとウェインは思ってしまうがこれだけの艦艇が集まると壮観としかいえない。
各国の艦艇が1つの目的を持って行動している。相変わらずオーシア艦隊が数で勝っているが士気では負けていない。
『空母から戦闘機多数!』
『ゴルト隊、3機編成に変更しろ。誘い込んで撃墜だ。』
『空気の読めない連中には退場してもらうぞ。』
メビウス隊、ゴルト隊が戦闘機へと向かっていく。F/A-18Eが主力だが数だけはやけに多い。だがアドミラル・ツァネフのSu-33なども加勢しているためそう向かってくる数は多くない。
「ラーズグリーズは制空戦闘を中心に行え!艦隊はISAFの攻撃部隊に任せろ!」
『了解!』
『メビウス隊、敵戦闘機を押さえ込んで!』
F/A-18EとF-35E、時々F-15F/25やFX-10が紛れ込んで一斉に襲い掛かる。特にF-15F/25はISAFのF-15Irと同等の性能、最優先で撃破しなければならない。
メビウス隊は分散してまずF-15F/25からつぶしにかかる。ウェインもそれに続いていく。他の戦闘機は性能からいってSu-33やヒューバードのF-15F/25やF/A-18Iより劣っているのだから後回しでもいい。
EFタイフーンがユーク海軍駆逐艦ソブレメンヌイ級の上を駆け抜けると、通信が入る。
『上空の戦闘機はもしかしてラーズグリーズか?』
「そうだが?」
『やはりそうか!こちらユークトバニア駆逐艦チゥーダ。共に戦うことが出来て光栄だ!』
感激したのかチゥーダの艦長が嬉しそうに応答すると、いきなり大量のS-300対空ミサイルをぶっ放す。セミアクティブのミサイルが次々に敵機へと向かう。
ミサイルを回避して隙が出来たF-15F/25めがけウェインがトリガーを引き対戦車バルカンを連射。主翼を吹っ飛ばされF-15F/25が爆発する。
『ナイスキル、です。搭乗員は脱出したです。』
「次だ!」
すると、オーシア艦隊周辺からいきなり艦船が出現し対空ミサイルを発射してくる。レーダーに映ったのも唐突だが本当にいきなり出現したのだ。
『敵艦出現・・・無人コルベット!?』
『撃て!裏切り者を全員ぶっ飛ばせ!』
光学迷彩を仕掛けたコルベットがいきなり対艦ミサイル、対空ミサイルを同時に連射。オーシア海軍が建造した無人護衛艦らしくエルジア軍が使っていたミサイル・ボックスにも似た形状を取っている。
それを改造し、旗艦からの命令で自由に攻撃可能な艦船に仕立て上げられている。CIWSなどは格納式ではなくステルス形状をとることで艦隊の数を少なく見せかけた不意打ちや防空に役立てようとしたらしい。
潜水艦や航空機をおびき寄せて殲滅する。相手の通商破壊部隊を殲滅するために作られた艦艇を艦隊に随伴させてきたようだ。
対空ミサイルがSu-33へと命中し葬り去る。ヒューバードの航空隊も2機撃墜され艦艇にも被害が出ている。イージス艦アロンダイトが被弾、コルブラントは艦橋を抉り取られただ浮かんでいるだけの状況だ。
『いきなり撃たれた!?』
『艦艇が大幅に増えやがった!』
『何あれ。無粋なものね。』
マリエルが苛ついた様子でコルベットをにらみつける。だがミサイル発射時にロックオンをかけているためレーダー照射をしてくる。その一瞬の隙を狙うほか無い。
無論、データリンクで大体の位置は掴んでいる。ISAF海軍の戦艦リシュリューがコルベットが一瞬だけレーダーに映った地点へと砲撃を叩き込む。対小型艦艇、航空機用の散弾が空中でばらけコルベットに直撃する。
豪雨にも似たような音を立てて小型砲弾がコルベットを直撃、一撃食らえばステルス性が悪化するのがステルスの弱点でもある。
『拡散弾装填。ISAF海軍は小型艦艇を掃討する。』
『了解だ。こちらユーク第1艦隊、大型艦に的を絞る!』
戦艦クラースナヤが徹甲弾を装填、そのままオーシア海軍の戦艦オーレッドに砲撃を加える。徹甲弾が高く水柱を上げるがその中に爆発炎が見える。命中したようだ。
『40.6cm砲被弾!右舷高射砲破損!!』
『ええい、速く復旧させろ!』
『空母を狙え。魚雷をぶち込んでやれば終わる!』
F-4Aがオーシア空母へと突撃を敢行する。目標はニミッツ級空母、ヒューバード級バーベッドも目標に入っているが突然バーベッドが護衛艦を引き連れて方向転換する。
「何?」
『こちらオーシア空母バーベッド。姉妹艦であるケストレルを撃沈することを私は許可した覚えは無い。全機着艦し敵連合艦隊への攻撃を停止せよ。繰り返す、攻撃を停止せよ。』
艦隊最後尾に配置された空母バーベッドはそのまま戦線を離脱しようとする。が、オーシア第1艦隊はそちらへも砲撃を集中させる。
『この裏切り者が!ぶっ放せ!奴を撃沈しろ!』
『戦線離脱するだけだ、なのに敵軍と見なすつもりか!?』
「バーベッドを支援するぞ。敵機を近づけるな!」
裏切ったと見ると、直ちに敵のF/A-18Eが対艦ミサイルを満載して向かってくる。だが真上にラーズグリーズが展開、ミサイルを発射する前に撃墜しようと突撃する。
『ラーズグリーズか?バーベッドよりラーズグリーズ、支援を頼む。終わったら黒幕を倒すのに協力させてもらいたい。』
「了解だ。行くぞ!」
ヘッドオンでEFタイフーンがF/A-18Eへと接近する。ヒューバードのF-35Cが随伴するとロックオンを仕掛ける。敵はAIM-120を装備していない。
ならば先制攻撃も出来るしハープーンは重く動きを制約する。先制攻撃を仕掛けるのが一番いい。
『ロックオンです、一気につぶしてやるです。』
「フォックス・スリー!」
ミーティアが2本放たれF-35CからもAIM-120が発射される。計6本のミサイルが夕焼けの空を白煙で切り裂き、そのままチャフを無視して向かっていく。
ブレイクしたが挙動の遅さが災いし1機撃墜、残り3機がブレイクするとそこにF-25Aが喰らいつく。挙動の遅いF/A-18Eなら僚機任せで十分。ウェインは制空隊のF-15F/25にAIM-132を発射する。
フレアーをばら撒いて急激に機首をこちらへ向けると、F-15F/25がAIM-9Xを発射。フレアーをばら撒き、ロールしながらEFタイフーンが回避するとマウザー27mmを発射。
ヘッドオンで機銃を喰らい、F-15F/25が爆発。残留思念が響かなかったところを見ると直前で脱出したらしい。
『エッジ、敵機を撃墜。』
「よし、次だ。」
『あっけないです。やはり腕前が落ちてるです。』
ユークとの戦争で技量の落ちたパイロットが多い。リズが言ってからウェインが悲しげにしていることに気づく。やはり自分の国ゆえにやはり辛いのだろう。
「戦争で失ったからな。まったく、いい奴ほど真っ先に落ちて残るのは間抜けばかりだ。」
『その理論で行くとマスターも間抜けです。』
「違うな、俺は愚か者だ。祖国の連中を躊躇無く目的のために撃墜できる、な。」
自嘲気味にウェインが笑うと、リズが首を振ってみせる。少なくとも意識の中ではそうしていた。
『いうこと聞かない連中が悪いです。大統領命令に背いて艦隊が出撃して友軍相手に艦隊決戦を挑むふざけた連中が悪いです。』
「そうだな。」
それだけではすまないかもしれないが、戦線離脱しケストレルやヒューバードに着艦している機体もいる。戦線離脱するという選択肢もあるのだ。
ウェインは戦線離脱しないなら撃墜するまでだと決心し、バーベッドに攻撃態勢をとるF-35Eに攻撃態勢をとる。

「ゴルト1より各機、犠牲は?」
『ありませんよ、隊長。』
そうかとカプチェンコがうなずく。あれだけの乱戦で誰も撃墜されていないのは上出来だと改めて実感すると新たな指示を出す。
一旦補給に戻り爆弾や対艦ミサイルを補充してきた。これでオーシア艦隊を叩きのめすことが可能だろう。オーシア艦隊は4割を損耗している。撃沈もあるが大半は戦線離脱だ。
栄光あるケストレルに砲撃を加えることが出来ないのもあるが、やはりハーリング大統領の声が届きこの戦争の無意味さに気づいているのだろう。
「よし、残存オーシア艦隊を叩く。イージス艦は最優先目標。一斉にサンバーンを放ち混乱の隙に大型爆弾を投下しろ。」
『ゴルト2、了解。』
『ゴルト3からゴルト5、了解。』
『ゴルト6よりゴルト1へ、了解だ。』
Su-47の編隊がゴルト1を先頭にオーシア艦隊へと向かう。遠距離の対空砲火はない。戦艦オーレッドは無茶苦茶な方向に主砲を向けて対空拡散弾をぶっ放している。
だがあんなことをしても無駄だ。戦艦の主砲はロングレンジ用、ショートレンジにある航空機に狙って命中させるなど無理だ。せいぜい攻撃直後の敵機を吹き飛ばすしか出来ない。
『ロックオン、Kh-41セーフティ解除。』
「ゴルト1、ランチ。」
『ゴルト2了解、続け。』
Su-47の搭載量では2本が限界だが、その2本でも十分だった。大型の対艦ミサイルが16本まとめて発射され低空を飛翔、弾幕をすり抜けイージス艦を狙う。
高速かつ強力、飽和攻撃でイージス艦ですらたやすく撃沈できるミサイルはイージス艦ハルシオンを直撃、左舷に深く食い込ませ一撃で撃沈する。他のミサイルは大型艦やイージス艦を狙いまっすぐに向かう。
迎撃されるミサイルも多いが何発かが確実にイージス艦を葬る。
『イージス艦が!?』
『対艦ミサイルをぶち込め、今だ!』
間をおかずにユーク海軍のキーロフ級が一斉に対艦ミサイルをVLSからまとめて発射する。他の艦艇も次々にミサイルを発射。
かつてベルカ海軍を葬ったユーク海軍の得意技、飽和攻撃が今度はオーシア艦隊へと向けられる。ミサイルは傾いた戦艦オーレッドを軽くオーバーキルするほどに直撃。艦橋を吹き飛ばしてしまう。
『旗艦がやられた・・・うわあっ!?』
『友軍がやられていく・・・そんな・・・!』
『空母バルケード・ベイ撃沈・・・撤退だ!降伏する奴はケストレルに着艦しろ!俺達も合流する!』
航空部隊はそのまま撤退、ケストレルへと着艦する機体も出始める。ケストレルへ向かう機体の大半は降伏するつもりらしい。
残存艦艇は旗艦が撃沈されたことを受けて撤収、あるいは連合艦隊へと合流し始める。それをみてカプチェンコは微笑する。
これほどの大艦隊は見たことが無い。3カ国連合艦隊は合同演習でも滅多に見られない貴重なものだ。だが、それよりもこれほど戦争を反対する仲間がいたことに驚きだった。
第2戦隊も戦う意思は無いらしく空母ウリヤノフスクの周囲を取り囲むように艦隊を再編成しなおす。何隻いるか後で数えてみないとわからないが相当な数だ。
『カプチェンコ?どうしたんだ?帰還するぞ。』
「ああ。」
ベルンハルトにいわれ、カプチェンコは了解と応答する。これだけの仲間がいれば何でも出来そうな気がしてきた。それこそ、戦争を終わらせることも不可能ではないだろう。
『こちらは空母ケストレル艦長。無事に生き残った同志たちへ、おめでとう。旅の終わりは近い。だが決してたゆまず、両国の融和のために最後まで戦い抜こう!』

CVケストレル休憩室 2100時
「恐い事件ね。」
「本当ですこと。どうしてかしら・・・」
フェメナとエイリ、そこにマールも居て3人でニュースを見ている。オーシア本土で連続殺傷事件が起こっているというのだ。
何でもかつてベルカ戦争に関わっていた大企業の幹部、軍の上層部でも強硬路線を主張した者。南部ベルカや五大湖周辺地域の割譲に協力したものが大多数だ。
そしてその中には現職の議員や強行路線を主張する幹部まで含まれていた。マールは何故と疑問符を浮かべる・・・この事件を一切闇に葬るつもりだろうか。
「ね、こいつら闇に事件を葬るつもりかな?やばくなったと見て。」
「It is foolish!何年も憎悪を抱いてたのよ。この好機を最後まで使おうとするはずね。」
フェメナにいわれ、マールも頭をかいてみせる。そうなると別の要因だろう。もう用済みとなった、あとはベルカの戦力でやると言うのだろうか。
「まずいことになりそうですわね。ベルカが全戦力をオーシアに投入する前兆ではないかしら?もう利用価値がなくなったから殺したのでしょう?」
「同感。ってことはさ・・・今年中に決着をつけるつもりだよ、ベルカ。何使ってくるかわかんないから恐いけど。」
マールの言葉に2人がうなずいてみせる。利用価値が無くなったから殺したということはベルカ側の戦闘準備が整ったということだ。
新兵器、無人機。グランダー社はエルジアや旧ベルカの技術者を取り込み最先端の技術を突き進んでいる。最後の抵抗といっても馬鹿に出来るものではない。
「ま、私が関わった戦争だから最後まで責任は取るよ。あんた達もどんな兵器が来てもマスターを死なせちゃだめよ?」
「Tedious、当たり前よ。誰が死なせると?」
「愚問ですわね。」
それなら大丈夫だとマールが微笑すると、清涼飲料水であるインフィニティの缶を開けて飲む。作戦後の一杯は絶対に止められないものだ。

同時刻 飛行甲板
「で、行ってしまうわけか。まぁ今回は事前通告があったからいいようなものだ。」
「まぁな。俺は大統領を護衛するぜ。そんで・・・てめぇは操縦をミスしないだろうな?」
『ああ。首相はちゃんと護衛する。俺を信じてくれ。』
ギャラクシー4が操縦席から無線で応答する。バートレット大尉はF/A-18Eで首相の護衛をするためケストレルを離れることになったのだ。
「バートレット大尉。一応・・・」
「いらねぇよ、ウェイン。次また出会うんだぜ?」
む、とウェインが言って敬礼を止める。確かに、死に別れでもないだろうしいずれこの大尉だ、撃墜されたとしても出会うに決まっている。
「隊長・・・御武運を。」
「ああ、ナガセ。お前こそ二度目の撃墜はなしにしろよ?」
そういうとバートレット大尉は梯子を上がってF/A-18Eへと乗り込む。そして4人が離れるとそのままカタパルトが射出され、F/A-18Eが離陸。遅れてYak-44も続く。
軽く敬礼し、ウェインはそれをずっと見送る。今ひとつ気に入らない隊長ではあったが懐かしさだけはずっと感じていた。
「遠くなってくです。」
「すっきりしないがな。ベルカンエースでも相手取ってすっきりさせるか。」
ニカノール首相は2日後あたりにハーリング大統領と会談を行い、停戦宣言を行うという。それに従わない部隊とベルカ空軍の一部部隊もどこかに集結する兆しを見せている。
その位置を特定できればそこにベルカの司令部があるということだ。今現在情報局が必死に位置を探り出しているがまだ解かる気配がない。
だがあせっても仕方ないことだ。ウェインはリズをつれてそのまま休憩室へと向かう。

続く

あとがき
艦隊決戦万歳。東側艦艇は結構西側より強いと信じてやまない。
そんなロマンを詰め込んでみました。私が書いた故にロマンが出てるかどうかは不安なところなんですけど。
ラストですが、2つの戦場で戦わせようと画策。円卓とSOLG破壊の2つを同時進行で。
それでは。



 2009/09/29:スフィルナ(あくてぃぶF-15)さんから頂きました。
秋元 「艦隊決戦はいいものだ! 現実世界のみんな、ミサイルなんか捨てて、艦砲で殴り合おうぜ!」
「メリットあんの?」
アリス 「……マスター大喜び」
「成る程」

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