ACE COMBAT04 Shatterd skies〜メビウスの記憶〜




ACE COMBAT04 Shatterd skies〜メビウスの記憶〜
第11章 記憶と共に

5/7 0400時 ブレクフォート基地
「メビウス3、着陸許可を求める。」
『了解、着陸態勢に入ってください。』
早朝とも言える時間帯、F-12Dの黒い機影が空に映るとそのまま機体は滑走路へと滑り込むように着陸する。
他の戦闘機から見ても細長い独特のデザインではあるが、この基地に来るとそれもかすんで見える。F-12Dを大型化した、いや・・・原型ともいえるSR-71が駐機していた。
『マスター、ここは久しぶり?』
「あぁ・・・妹が・・・」
ブレクフォート基地、ISAF空軍第11航空団の管轄であり規模こそ小さい。だが機能的に作られ戦闘機も4機ほど配備されている。
が、戦闘を行うわけでもなく偵察機にくっついてきた戦闘機を追い払うための戦闘機。故にコンフォーマルタンクを搭載しステルス性を高めたISAF空軍の新鋭機、F-15SEが配備されている。
『妹?』
「・・・ここで殺されたからな。データを取りに行った間に・・・」
悲しげに語るヴィクセンを見て、レンも同じように思ってしまう。彼の脳内に浮かんだ光景がはっきりと感じてしまうのだから。
『データ?』
「ストーンヘンジの射撃データだ。俺達はあの時高高度からストーンヘンジの射撃データなどを観測していた。」
『ふぅん、データねぇ。でも巻き込まれるんじゃない?』
「巻き込まれないために高高度をとって敵軍機の動きや情報収集に徹した。で・・・無線を何とか1つ傍受した。エルジア軍が友軍機に出した避難命令だった。幸運にも暗号なしで出していた通信だから、ボイスレコーダーにとって大事に保管したんだが・・・」
ヴィクセンは嫌そうな顔をしているが、実体化したレンが聞きたいようなそぶりも見せていたのでそのまま続ける。すでに着陸し、整備員がタラップをつけて2人とも機体から降りている。
「不幸にも後ろについてきた機体がいた。それがこの基地の情報を教え即攻撃が始まった。」
「どれくらいだったの?」
「着陸して10分も立たない間にグリペンやらEFタイフーンの混成部隊が到着、精密爆撃を加えていった。妹はそのときデータを取り出し忘れたことに気づいて、何とかSR-71からレコーダーなどを取り出して投げてよこしたが・・・」
「そこに・・・誘導爆弾が?」
「滑走路に出ていた機体は絶好の獲物だからな。思いっきりやられた。」
ため息をヴィクセンがつく。レンも彼にとっての妹がかなり大事な存在だったことを改めて実感しているようだ。
「・・・あいつの行動は正しかった。お陰でISAF空軍はストーンヘンジの危険高度を知ることが出来たし、被害も劇的に抑えることが出来た・・・が。あの時とめてるべきだったんじゃないか、ふとそう思う事もある。」
「・・・」
「妹のことを相談しても「よくやったんだ」とか「感謝している」とか、そういうことばかり言われてしまう。だから誰に相談したらいいかわからなかった・・・レン、どう思う?」
「・・・私は・・・・」
レンが答えに悩んでいると、1人の女性が駆け寄ってくる。ISAF空軍の軍服に茶髪のロングヘーアといういでたち。彼女が明るい声を上げて向かってくる。
「おーい、ヴィクセーン!」
「・・・久しぶりだな、リーリャ。」
リーリャと呼ばれた20代前半くらいの女性がヴィクセンに向かってくる。そして飛びつくとヴィクセンも危ないと思って受け止めてしまう。
「積極的過ぎるぞ、いつもいつも。」
「だ、誰?」
「あ、噂のレンちゃん?あたし、第11航空団長のリーリャ。一応階級は大尉。」
ヴィクセンは複雑そうな表情をして何とかリーリャを振りほどく。こんな明るさでも一応自分より階級は上であるがリーリャが「敬語禁止」と部下に命令を出している。
第11航空団でも多くのメンバーが犠牲になり、リーリャは残存メンバーの中で腕前もよく判断力にも優れているため隊長に抜擢、成り行きで大尉に昇格したが同僚を部下と見ることに抵抗があり、敬語禁止と命令を出していたのだ。
「よろしく。で、何か用?」
「特に何にも。ま、昔なじみが活躍してるから見たかっただけなんだけど。」
あぁそうかとヴィクセンがため息をつく。どこかリーリャの無神経さは変わっていないようで安心したのか複雑な気分だ。
「へぇ、それでマスターと知り合い?」
「ん、同僚って程度。でさ、ストーンヘンジのこと聞いたよ?あんたたちが頑張ったって?」
「・・・あぁ、頑張ったのはフィンだが。」
確かにレンと一緒に頑張ったのだが、殆どF-15Irとフィン、レナのコンビが有名になっているところもある。他2機としか見られていないのもあるがヴィクセンは別に不満など言うつもりも無い。
有名か無名かじゃない、戦争は生き残れるだけで勝ち。名誉などただの副産物でありある意味うっとうしいだけだ。
「そんなことないって、あんたも随分と頑張ってる。1番機がまっとうに戦えるのは2番機と3番機が頑張って敵を引き寄せられるから。エースなんて1人でなれるものじゃないよ。」
「・・・嬉しいな、全く相変わらずストレートだ。」
ヴィクセンが損なことをつぶやき、格納庫に3人が移動する。格納庫は以前4つあったが人員削減もあり現在は1つのみ、そこにSR-71が2機格納されている。
「懐かしいな。こいつらは。」
「え?」
「俺の同僚だ・・・こうしてみると結構残ってるな。」
目立たない場所にエンブレムやサインなどが描かれている機体が多いが、ヴィクセンはそれをみてかつての同僚たちの顔を思い浮かべている。
もっとも開戦後、殆どのメンバーは戦闘機や爆撃機の搭乗員として転属させられたらしい。それでもリーリャ率いる部隊の大半は残っているようだ。
「レパードもじきに戻ってくるから待ってて。今日は歓迎会だから。」
「戦時中にいいのか?」
「1日くらい羽目はずしてもいいでしょ。特に敵軍に怪しい動きはないし。」
エルジア軍はストーンヘンジを落とされてから積極的に攻勢をかけず守勢に回っている。空軍力の差で攻勢を望めなくなってしまっているようだ。
リーリャが嬉しげに基地司令の元に向かっていくのを見て、レンはそっとつぶやく。
「明るい人ね。」
「確かに、あのテンションは少々疲れるが。」
「同感、つき合わされるのも辛いね。」
レンもそっとうなずいてみせると、先ほど言っていた人物が気になりたずねてみる。
「レパードって誰?」
「レパードか・・・ん、あぁ。部隊では結構なベテランだ。ベルカ戦争にも居たという話らしい。」
「結構なベテランね。10年も前の戦争で・・・」
「あぁ。」
それだけうなずくと、ヴィクセンも基地内部へと入っていく。標高もあるため5月といっても寒く、2人は暖かい基地で一休みすることにしたようだ。


1100時 ノーム幽谷
「エンジンはどうだ?」
「手ひどくやられてますが火災だけは何とか・・・いけます。」
「・・・よし。」
SR-71が低空飛行で何とか敵機を切り抜け、ノーム幽谷に差し掛かっている・・・霧が深く戦闘機ですら飛ばないこの強国をレパードは何事も無いように飛んでいる。
「何とかやりましたね。」
「あぁ。あの情報だけは何としても持ち帰るぞ。」
「了解・・・隊長、長距離レーダーにノイズです。」
「・・・何!?」
レパードがレーダーを見ると、一定区域にノイズがかかっている・・・まだ遠いが、このルートを通る以外に空軍基地に帰るルートもない。
敵機が捜索しているため高度を上げるわけにもいかない。が、レーダーが利きにくい幽谷を突破するのは至難の業だ。レパードでも出来る自信が無い。
「・・・敵のジャミングか?」
「いえ、ジャミング源が複数・・・設置型の気球ジャマーです。エルジア軍が軍事輸送に使っていたルートですから・・・」
幽谷に川があり、駆逐艦ですら往来できるほどの広さがある。この流域に輸送拠点があり川から運ばれた物資を列車に積み替える施設があるらしい。
エルジア軍は撤収したものの、ジャマーだけは電力を供給させたまま撤退した。それこそ進撃してくるISAFへの嫌がらせに使ったのだろう。
「ちっ・・・司令部に連絡は?」
「30分前敵機接近と言って呼び出し、今も護衛要請を送り続けています。到達するかと・・・」
「よし、状況を的確に知らせておけ。」
「了解。」
レパードの命令に副操縦士がうなずき、無線で的確に状況を説明する。ここからスクランブルすればすぐに到達できるだろう。
間に合わなければどうしようもない。敵機が来るまでにジャマーを破壊してくれればいいのだが、それも難しいところだろう。


ブレクフォート基地 1100時
「ヴィクセン、大至急来て!」
「何?」
リーリャが休憩室でくつろいでいるヴィクセンとレンを呼び出し、すぐに手を退いてブリーフィングルームへと連れて行く・・・そこに第11航空団の戦闘機パイロットもそろっている。
すぐにリーリャがプロジェクターを起動させ、すぐに状況を説明する。
「30分前、SR-71A偵察機が緊急コールを出しました。現在SR-71Aはこの空域からノーム幽谷に差し掛かっていますが、この空域は補給基地を隠すためのジャマーが設置されていて、レーダーが使えず正確な地形が解らない状況にあります。」
「つまりジャマーの撤去が私達の仕事?」
レンが率直な疑問をぶつけると、えぇとリーリャがうなずいて状況を説明する。
「このジャマーを機銃で破壊すれば、レパードの能力からもそのままブレクフォートに着陸できます。ジャマーは気球型をしており、自爆コードを使えば一度に爆発する仕掛けです。おそらく爆薬が入っているため機銃1発でも破壊は可能でしょう。無論レーダーは一定間隔置きにしか表示されないので目視か一瞬レーダーに映ったところを確認してください。質問は?」
リーリャが質問するが誰も異論を唱える様子が無く、彼女はブリーフィングを終える。
「これで作戦会議を終了します。私が空中管制を行いますので宜しくお願いします。必ず、仲間を救い出しましょう。」
「了解。」
全員がブリーフィングルームからでて、大至急ヴィクセンも格納庫のF-12Dへと乗り込む。レパードは古馴染みでもあり、その危機を見過ごすわけにもいかない。
「レン、行けるか?」
『機体はばっちりね。行くよ。』
タキシングした機体が管制塔からの報告を受けて順次離陸していく。この任務は難しいものになるだろうが、逆にMLSの能力を十分に発揮できる。
ジャミング環境下でこそMLS機の能力が発揮される。ヴィクセンは武装である増加の機銃ポッドとAAM-4、AAM-5を確認するとそのまま離陸させる。


1115時 ノーム幽谷
『こちらフレクライド、状況を報告してください。』
「メビウス3、よく聴こえる。他は大丈夫か?」
はっきりとジャマーの位置は感じ取れるが視界がそれほどでもない。200m程度しか取れていないのは戦闘機にとってはかなり痛いものだ。
上空にいるE-2Cホークアイ・・・リーリャ機のフレクライドが状況を報告している。
『標的が見えない。大丈夫なのか?』
『何とかしろ。機銃1発でぶっ飛ぶ・・・散開!』
F-15SEが左右両翼に散開、ジャマーを破壊するために散らばるが墜落の危険性も高い。ヴィクセンは慎重に操縦桿を握りジャマーを探す。
簡単に見つかり、機銃をぶち込み一撃で破壊。数は圧倒的に多いが機銃の弾も多めに搭載している。F-15SEもガンポッドなどを搭載しているのでそれなりの弾はある。
『レパードよりフレクライド、友軍機がいるのか?』
『こちらフレクライド、友軍機が到着し現在ジャマーを破壊しています。戦闘機が来たら優先的に排除するのでそのまま飛行を続けてください。』
『解った・・・大丈夫なのか?』
不安げに話しているリーリャにレパードが問い詰めるが、彼女は自身ありげに言い直す。
『大丈夫です、メビウス3もいます。』
『そうか。こちらはお前たちが頼りだ・・・頼むぞ。』
レパードに頼りにされてはやるしかない。ヴィクセンは決意を固めるとジャマーを次々に破壊していく。
レーダーは利かないがレンが変わりに位置を教えてくれる。今までとさほど変わることが無く機銃をぶち込んで破壊していく。
『結構多いけど何とかなりそう。機銃の弾数が持つかどうか解らないけど。』
「そのための追加機銃だ。弾数は?」
『75%・・・1000発入れてるのに結構使ってる。まぁ使い切ってもいいけど。』
本来はハリアーやF-35に搭載する予定のガンポッドを機体中央のハードポイントに搭載している。基地が近くにあるためさほど燃料は気にしなくてもいい。
何故こんなものがあるのかというと、以前戦略空軍部隊でハリアーを使っていた経歴があるためだ。もっとも今は海軍にVFAハリアーがあり、機銃を標準搭載しているため必要なくなったのだが。
『現在ジャミング濃度が低下中、あと少し・・・敵機!?』
「こちらでも確認した・・・間が悪いがどうする。」
『メビウス3、敵機殲滅をお願いします。ジャミングは部下が排除します。』
『間の悪い・・・!』
レンがむっとした様子でぼやくと、すぐにウェインが敵機の情報を読み取る。送信されてきたのはタイフーンの新鋭型だ。
アビオニクスやエンジンを大幅に改造したタイプであり、性能は殆ど未知数。何を仕掛けてくるかも解らない。
『ジャマーは任せろ。メビウス3、お前は敵機を頼む!』
「レパードが死ぬような目にあったら承知しないぞ、お前たち。」
『無論だ!お前ら、ジャマーを徹底的に破壊しろ!』
あの様子なら頼り切って大丈夫だろう。ヴィクセンが4機いる敵機へと集中する。数では負けているが、レンがいれば何とかなりえるはずだ。
『敵機確認、ブラックバードだ・・・例のリボン1機だ。』
『黄4の敵を取る。攻撃しろ。偵察機と他の敵機は後回しだ。』
ご丁寧に護衛機を破壊してからじっくりと他の友軍機を料理するつもりらしい。もっともそれが過信だとヴィクセンは微笑するとミサイルをAAM-4にセットする。
『レーダーロック、距離8000。』
「まずは土産だ。受け取れ。」
AAM-4が白煙をなびかせ、霧のかかった空を切り裂くように飛んでいく。タイフーンはたいそうなことを言っていたわりに回避行動が遅れている。
1機に直撃、爆発。残留思念も響いてきたためおそらくベイルアウトは出来なかったのだろう。しかし鈍い腕前だ。
『何、もうやられただと!?』
「遅いぞ、お前たち。止まっているのも同然だ。」
『な、何だって・・・!?』
タイフーンが散開するがF-12Dも急激に旋回、1機の後背に喰らいつき一気に距離を縮めていく。
『く・・・何だこいつ!ダメだ、速すぎる!』
「遅いな。自分の腕前を呪え、エルジアの・・・!」
M61A3バルカンを発射。20mm銃弾が敵機に吸い込まれるように向かい何度も直撃、火花を散らして爆発する。
パラシュートが開きパイロットは脱出。ヴィクセンはそれに目もくれず次の敵機を狙うが後ろに1機いる。おそらく味方を囮にして回り込んだのだろう。
『後ろに敵!』
「解っている。さて・・・」
どう振り切るか。だがヴィクセンは考えるより先にエアブレーキをかけつつ急激に旋回しタイフーンをオーバーシュートさせる。敵機の動きは格段に悪い。
あの時のコモナ諸島航空戦より格段に腕前が悪く、素人も同然だ。おそらくISAFにいいように痛めつけられ、エースが撃墜されてばかりなのだろう。
『な・・・!?』
「もらうぞ。フォックス・ツー。」
機首を無理に引き起こし、目標を捕らえAAM-5を発射。が、上からもタイフーンが迫ってくる。ちょうど背面にあたる場所だ。
『もらった。』
「そうか?だから素人だ・・・!」
フレアーをばら撒きロール、すぐに高度を上げてアフターバーナーを吹かせる。ちょうどタイフーンがミサイルをはずし悔しがっているところに機首を下ろし、目標を捉える。
「レン、ガンポッドとバルカンを同調できるか?」
『えぇ・・・でも何のつもり?』
「濃密な弾幕を味わってもらう。」
すぐにHUDの画面に機銃2基がリンクしたと言う情報が出るとヴィクセンは直ちにトリガーを引きバルカンを連射。タイフーンは回避しようとしたが弾幕に突っ込みエンジンから煙を噴出す。
通常だったらかすり傷だっただろうが、投射火力が倍増していたため中破したらしい。
『蒼4より司令部、損傷甚大だ・・・部下もやられた。任務継続不可能、帰還する。』
『やむを得まい、退け。パイロットは1人でも必要だ。』
あっさりとタイフーンは撤退していく。攻撃意思も無いらしいのでヴィクセンは放置するとリーリャが無線連絡をしている。
『ジャミング濃度、大幅に低下。レーダーも多少は利きます・・・レパード、状況は?』
『レーダーが効く。この程度のノイズなら行けるぞ・・・助かったぞ、皆!』
護衛機のパイロットが歓声を上げるが、リーリャは落ち着かせるように無線を入れる。
『レパードが帰還するまでが仕事ですよ。各機、レパード機を護衛して。』
了解、と各機から無線が入りヴィクセンも一応応答する。特に問題も無く、この後も敵機が襲撃してくることは全く無かったのだ。


1315時 ブレクフォート基地休憩室
「あ、さっきの!?」
「よう。」
休憩室でくつろいでいたヴィクセンとレンの元に髭を生やした、頑強なベテランの兵士が歩いてくる。歩き方の不自然さからして義足であろう事は容易につく。
「レパード、久しいな。」
「一緒に飛んだだろうが、さっきは。全く、あの時のガキがいまやエースか?」
「いい加減やめろ・・・俺は気に入らない。」
いつもどおりじゃねぇかとレパードが豪快に笑い飛ばす。レンはかすかに微笑すると、率直に疑問をぶつける。
「何しに来たの?昔馴染みの顔を見たい、というだけでもなさそうね。」
「あぁ、助けてくれた礼だ。さっきリーリャと護衛機の連中にも話してやったんだが、俺のつかんだ情報だ。」
「情報?」
珍しいなとレンがレパードを見つめる。仕事一筋で情報は絶対に漏らさないという彼がここまで話すのは珍しい。
ヴィクセンから数度昔話を聞かされ、レンも戦略空軍のメンバーは何人か覚えているのだ。
「そうだ。イントレランスって知ってるか?あのノースポイントの司令部。」
「あれがどうした?」
「そっくりなのが偵察空域に作られてやがった。見た感じ巡航ミサイルだがな。」
「巡航ミサイル?だがそんなものか?」
イントレランスは1992年のクーデターで占拠されたノースポイントにある軍事基地で巡航ミサイルの発射能力を備えた総司令部の役割を果たしていた。
が、いくら長距離弾道ミサイルでも大抵は迎撃されてしまう。当時は迎撃手段が無く恐れられていたがそれを教訓にISAFで大陸間弾道ミサイルですら打ち落とせるように迎撃システムも開発されてきた。
「そうじゃない。目標はユリシーズの欠片だ。あれを落とせばかなりの被害になる。」
「何?」
ストーンヘンジで打ち砕いた小惑星ユリシーズは現在でもこの惑星の周囲を飛んでいる・・・巨大なものでは500m〜1kmほどあるという噂まで2人は聞いたことがある。
それを地表に落下させて兵器にしようという魂胆らしい。
「・・・そんなことをしたら何万人も死ぬよ!」
「その通りだ。まぁ、狂信的な連中が使わないように祈るしかないだろうな・・・」
レパードはタバコの火をつけ、そのまま一服する。が、ヴィクセンは複雑そうな表情を浮かべてたずねる。
「そんな兵器を見て、なんとも思わないのか?」
「俺の領分ではないんでな?この手のものは陸軍がやることだ。それに・・・」
タバコの煙を吹くと、レパードは2人を見て微笑しながら言う。
「いざとなったら、お前達が何とかできるだろうな。絶対。」
「な、ちょっと待て・・・」
「期待してるぜ?リボンつき。妹の死も乗り越えたお前なら、あんな要塞戦闘機で突っ込んで一撃だろう?」
そういってレパードは灰皿に灰を捨てると、そのまま部屋を出て行く。が、途中で何か声が聞こえてきた。
「休憩室や廊下は禁煙だって何度言ったらわかるの、レパード!」
「格納庫じゃないなら何処でもいいだろう?携帯灰皿も使っている。」
「だからそうじゃなくて・・・!」
リーリャに徹底的に注意されているのを見て、レンがおかしい人、と笑ってしまう。レパードは相変わらず変人らしくヴィクセンも安心した様子だ。
「レン、笑うと可愛いな。」
「・・・あ。」
「何?」
「何か、今気づいたけどすんなりと妹じゃなくてレンって呼んでくれた。」
気づいて、ヴィクセンはふぅと一息つく。自分でもいつの間にか乗り越えられていたのかなと思ってしまう。
「・・・そういえば、妹に言わなくていいの?私のこととかいろいろと。」
「戦争が終わったら報告する。まずは・・・終わらせる。」


6/18 0138時 クルヴェート空軍基地
「あー・・・寒ぃー・・・」
「本当にもう。何なのここ・・・」
レナとミラが普段とは違い防寒着を着こんで格納庫で待っている。ISAF陸軍が夜襲を仕掛け航空支援のために格納庫で待機しているのだが、一向に来る気配が無い。
この日のために朝と昼はずっと寝込み、夜になって待機しているが陸軍が予想以上の快進撃を見せ航空支援なしにどんどん突き進んでいる。
「6月だよな、レナ・・・」
「当然よ。ところでフィン達何やってんの?」
「ストーブのある休憩室にこもったきり出てこねぇ。ったく、軟弱だろ・・・」
身を寄せ合って2人は暇そうに待機している。無論ここにいる意味は無いのだがいつでも出撃できるようにという配慮だ。
ラジオからは戦況が聴こえ、そのどれもが快進撃を続けている様子だ。ISAF新型の10式戦車、以前から大陸で活躍する90式戦車がエルジアのチャレンジャー2を軽く吹き飛ばしていく様子がはっきりとラジオから聴こえる。
「楽勝みたいね。陸軍。」
「そうだろうよ。」
40式は中央の精鋭部隊に多く配備されているが、やはりコストが高くいまだにルクレール、90式や10式戦車がメインのISAF軍でもある。
すると、ラジオからまた気になる報告が飛び込んでくる。
『おい、敵のチャレンジャーは無人だぞ?』
『無人機、無人艦艇とくれば無人戦車がいて当然だろう?』
それは2人とも全く同感といいたい様子だ。エルジアは兵員も少なくなり無人戦車に防衛を任せているところがあるらしい。無人兵器同士の戦闘まで起こっているくらいだ。
ISAFは減衰した戦力を補うために無人機を拠点防衛などに利用し侵攻に最大限の兵力を割いている。一方のエルジアは無人機でも交えて反抗を仕掛けたりして押し返したいらしい。
「スクランブル、急ぐよ!」
「あ、フィン!」
早速フィンがF-15Irに乗り込み、レナも後部座席から同化する。ミラもミラージュに同化するとそこにルウが乗り込みキャノピーを閉める。
『それで、何か?』
「巡航ミサイルが飛んできたからそいつの撃墜。どうも怪しいと言ってる。」
『了解!』
そのまま2機がタキシングし、滑走路から離陸・・・星が瞬く夜空へと飛び立っていく。

作戦空域 0215時
『こちら空中管制機ゴーストリコン、今回は私が指揮を務める。』
上空にいるアンバー共和国の空中管制機が今回の指揮を担当するらしい。フィンとルウは気を引き締めて作戦空域へと入る。
ヴィクセンは第11航空団から呼び出しがかかり当分2機だけでメビウスを担当しなくてはならない・・・もっとも、2人とも重荷とは全く思っていない。
『スクランブルで悪いが状況を説明する。今巡航ミサイルがエルジア軍の艦艇から発射され陸上部隊に向かっている。数は大多数。上陸部隊の防空火器程度ではミサイルの直撃を受けて被害を受けるはずだ。何としても巡航ミサイルを全て撃墜して欲しい。』
『任せとけよ、おっさん。』
ミラがルウが言い終わる前に返事をする。さすがにおっさんはまずいんじゃないかと思ったがゴーストリコンからは笑い声が聞こえてくる。
『お前、おっさん声だとよ。』
『黙れ!まったく・・・メビウスの2番機は口が悪いと言ってたが。ミサイルに気をつけろよ?』
『そんなこと・・・マスター、来やがった!数12・・・おい、分散だと!?』
いきなり巡航ミサイルが2手に分かれている。6本ずつ、綺麗に分かれている。こんな挙動をするミサイルなど初めてだ。
『フィン、あのミサイル・・・先頭のに何か感じる!ブルーレイン・・・?』
「嘘。あんなのが何故入ってるの・・・!?」
先頭のミサイルにブルーレインが搭載され、他のミサイルはそれに追随するようにプログラムされている。
MLM-1の破壊力は4人とも知っている。これが直撃すればただではすまないということくらい容易に想像がついた。
「ルウ、ミサイルを出し惜しみしないで。こいつらは機銃で破壊するのは無理。」
『だろうな。ミラ、右側をやるぞ!フィンは左を頼むぜ!』
「解った。レナ・・・行くよ。」
F-15Irとミラージュ2000-5が両翼に展開、ミサイルとすれ違うと直ちに追尾行動に入る。所詮巡航ミサイル、プログラムどおりに飛んでいくしか能が無い。
あっさりと後ろにつくと、距離を詰めてミサイルをロックオンする。
『AAM-4、全部使うけどいい?』
「構わない・・・発射!」
AAM-4が白煙をたなびかせ、そのまま巡航ミサイルへと向かっていく。真直ぐ進む巡航ミサイルだが、対空ミサイルより大柄でスピードもなくそのまま直撃。爆発する。
よけるという思考は全く無い相手、軽いものだと思っているとゴーストリコンから通信が入る。
『ゴーストリコンよりメビウス隊、巡航ミサイルを確認した。1本だけだ。』
「1本だけ?」
『通常弾頭だろうが・・・嫌な予感がする。撃墜せよ。』
「了解、まぁこんなミサイルの1本や2本・・・」
フィンは軽く巡航ミサイルの背後へとつく。が・・・いきなりのように巡航ミサイルが戦闘機動を取りそのままHUDの画面から消える。
「嘘!?」
『こっちでも確認したぞ、フィン・・・何だあれ、戦闘機の間違いじゃねぇのか!?』
「確かに巡航ミサイルだよ、これ!でも・・・!」
巡航ミサイル特有の推力の高さを生かし、F-15Irを振り切りつつ南下していく。明らかにおかしい挙動にミラがあぁとわかったような声を上げる。
『ブルーレイン入りじゃねぇか、あれ!?』
『そ、そうだ!誰かの意志でこれを操ってる!』
理論は簡単。ブルーレインの技術はベルカやウスティオから各国に流出している。ISAFで出来たMLM-1のようなミサイルをエルジアが持っていてもおかしくは無いのだ。
そうなると威力も桁外れ。フィンはすぐにルウへと指示を出す。
「発射した機体がまだ隠し持ってる可能性もある、すぐに撃墜して!」
『あぁ、任せろ!』
ミラージュ2000-5が巡航ミサイルが発射された方角へと向かい、フィンは操縦桿を握り締め巡航ミサイルと格闘戦を繰り広げる。
前代未聞の光景だが何とかしなくてはならない。ブルーレイン搭載ミサイルなら破壊力は生半可なものではなく戦術核以上の破壊力をたたき出すものすらある。
敵機はただ南下して突っ込めばいい上にスピードもそれなりにある。格闘戦は逃げ切ろうと思えばそれなりに逃げ切れるもの、逃げに徹せられるとフィンも少々辛いものがある。
『誰の意思、これ・・・っ!?』
「レナ、何!?」
レナが思わず耳をふさいで聴こえなくさせた意思、そこには機械のように抑揚も無く言葉を繰り返しただ向かっていくだけの意思が垣間見えたのだ。
おそらくそこそこのパイロットだろうが、薬物投与やVR訓練といったもので養成された臨時のブルーレイン要員。だから意思などいらないのだろう。心は壊れている。
『な、なんでもない・・・フィン、追撃して!』
「解ってる!」
フィンにこのことを伝えさせるわけには行かない。レナはそう判断し嫌な思念を全て自分だけで受け止める。ここで集中を途切れさせたらISAF上陸部隊数千人が死ぬ。
そんな真似はさせたくない。あの時MLM-1をぶっ放したフィンの気持ちがレナには少しわかった気もした。
『残り20マイル、まずいぞ!』
「解ってる!レナ・・・ごめん、いちかばちかやってもいい?」
フィンがゴーストリコンの報告を聞くと、いきなりレーダーをシャットアウトし電子機器をHUDのみに変更する。
『何のつもり?』
「多分あのミサイルには戦闘機と同じレーダーロックの警報とIRシーカー警報があるはず。下手をしたら巻き添えになるけど、機銃で破壊する。レナ、誘導をお願い。」
『了解、やってみる。』
いちかばちかの賭けでもある。ブルーレインの爆風に巻き込まれたら命は無い。推進部を破壊したらすぐに離脱しないと爆発に巻き込まれる。
アフターバーナーをかけて一気に巡航ミサイルに接近する・・・ガンレンジに来てようやくミサイルが動くそぶりを見せるが、もう遅い。
「もらうよ!」
トリガーを引き絞り、M61A3バルカンが20mm銃弾をミサイルへと送り込む・・・銃弾がミサイル後部に直撃すると同時にフィンはすぐ操縦桿を引き絞り、爆風から少しでも離れようとする。
とたんに衝撃が走り、HUDの画面が一時的に揺れる・・・が、すぐに収まるとレナが自動的にレーダーなどを回復させる。もうブルーレインのミサイルは爆発したようだ。
『よくやった、メビウス1!しかし、とんでもない爆発だったな。』
「確かに。それで発射母機は?」
『そちらはメビウス2が片付けた。Tu-160の改造型だったらしいがなんてことは無かったらしい。』
そう、とフィンがうなずくとレナは無線でゴーストリコンへとたずねる。
『パイロット達は脱出したの?』
『搭乗員2名のみしか脱出できなかったらしい。いずれも操縦士と副操縦士だ。』
レナも了解と言うと、ルウが無線を入れてくる。
『これで随分と楽になりそうだな?』
「そうだね、帰還しよう。」
巡航ミサイルはそれ以上確認できず、メビウス隊はクルヴェート空軍基地へと帰還する。
改めてブルーレインについて奇妙に思うしか出来なかったが、レナは心無い兵器と化した人物の声がいつまでも耳に残っていた。


6/19 2241時 サンサルパシオン領内酒場「スカイ・キッド」
「見ろ、称えるに値する。」
ISAF空軍を汚い手段でしか勝てないとののしっている新入り隊員を前に、黄色の13が記事を叩いて説明する。だいぶ実戦経験もつき、入れ替わったメンバーもそれなりの技量をつけている。
「敵にもこういう奴が居る。姑息な破壊活動をする反吐の出る奴ばかりではないのだ。」
記事に描かれていたのはISAFの紺色のイーグル。各地を転戦し目覚しい戦果を挙げ、あの黄色の4も撃墜した機体だった。
決戦が近いことで皆ぴりぴりしているが、その気を引き締めようとしている。が、彼自身も静かに怒りを燃やしていたのだ。
病院やビルといた高い場所に無節操に設置された高射砲。民間人を巻き込んでもいいという態度にむっときているのは誰もが良く知っている。
「ベルナード、見張っててくれ。外に出る。」
「隊長?」
「夜風に当たりたい気分だ。」
彼は外に出て行く。嫌な気分を払拭したいかのようでもあった・・・私も出ようとするが、セイルがそれに気づく。
「ついていきたいのか?」
「・・・うん。」
「俺も一緒に行く。エルジアのMPに見つかると厄介だ。」
彼のいうことも一理あったが、本当はあの少女を探しに行きたかった。今日は何故か帰りが遅く酒場のレジスタンスも緊張した様子が伝わってくる。
私はハンドガン・・・以前エルジア兵からくすねた、後でUSPとわかった銃をポケットに忍ばせセイルと一緒に彼の後を追う。
途中、騒がしくMPが周囲を探していたため彼らと逆方向に向かうと、彼女と一緒に13が居た。
「・・・」
動く気配が無い。一対何だと思い私は銃を構える。その手は自然と少女のほうへとむいていた。
にくいのは本当に黄色の13なのだろうか。確かに両親は巻き込まれた、だがその少女は・・・
「お前だったのか・・・滑走路を壊したのは。」
「えぇ、そう・・・私達の町から出て行って、侵略者!」
そんなやり取りが聴こえ、私は銃を構えたまま震えていた。一対誰がにくいのだろう。騙し討ちをした彼女?それとも黄色の13?
すると、彼が私のほうを振り向いきため息をつくとそっと口を開く。
「そんなに・・・俺達が憎いか?」
私は引き金を引くことも、銃をしまう事も出来なかった。
「・・・もう、何が何だかわからない。君達は確かにエルジアの軍人だけど・・・でも、僕は・・・!」
「続きは後だ。セイル・・・連れて行け。」
了解、とうなずきセイルが娘と私を連れて行こうとする。MPが笛の音を鳴らして近づいてくるのがはっきりと解ったからだ。
まだ行かない私を見て、促すように13が大声で言う。
「行け!」
はじかれたように娘は酒場へと戻っていき、私はセイルに連れられて酒場へと戻っていく。
だが、帰る途中にも複雑な思いは止められなかった。こんなことになったのは誰が悪いのかと。黄色中隊と仲良くした自分が間違っていたのか、あの娘が全て悪いのか・・・そんな言葉ばかり頭に浮かんでは消えていった。

続く

あとがき
久しぶりにエースコンバット小説を完成。
かなり文体が変わっていると思いますが、これからも宜しくお願いします。
個人的に、この少年は侵略者と黄色の13を思えなくなったと思い侵略者というシーンは省きました。というより言わせたら救いようが無くて。
では。サンサルパシオン解放戦が次回予定です。



 2009/06/10:スフィルナ(あくてぃぶF-15)さんから頂きました。
秋元 「バルーンファイトですな(違) 久々にAC04がやりたくなりました」
アリス 「……風船闘争」

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