ACE COMBAT The Belkan war 円卓の騎士たちへのレクイエム




――優しさとプライドを併せ持つ空戦のプロフェッショナル。
鬼神とはよく言ったものだ。戦いの女神がついていたのかもな。

〜2003 4/17 「Mobius」レイシス・リタルダントのインタビューより〜


第13章 消えた「片羽」〜ラヴェージ作戦〜

6/6 ヴァレー空軍基地

「新鋭機の使い心地はどう?」
一通り実際に飛んで、マールは大体の感覚を掴んだ。
このF-15F/25は相当な旋回性能を備えた、イーグルの最終進化系だろう。
F-15S/MTDよりも洗練された外観を持ち、コブラくらいの機動ならできる戦闘機だ。
「いい感じ。フランカーでもこいつには勝てないと思う。」
「その心意気ね。さ、ブリーフィングが始まるよ。」
「はいはい。」
マールはマルセラにつれられ、ブリーフィングルームに向かった。
いつもの面々が勢ぞろいし、イスに座っている。
「工業都市スーデントール周辺には、未だ頑強な抵抗を続けるベルカの残存部隊が留まっている。
敗走しながらも抵抗を続ける敵軍はバルトライヒ山脈を北ベルカへの最終防衛線と位置づけ、我が軍の侵攻阻止を続けている。
今作戦では、諸君らに連合軍地上部隊援護を目的とした敵航空勢力排除を願いたい。
スーデントールは、南ベルカ国営兵器産業廠が居を構える都市でもあるため敵残存部隊といえども配備されている兵力と共に強力なはずだ。
作戦合流地点であるポイント203に向かえ。以上。」
「了解!」
メンバーそれぞれが、格納庫に向かい機体をチェックする。
マールは新しい機体、F-15F/25に乗り込んだ。
「相棒、いい機体だな。」
「上げないよ?シルヴィアがかわいそうじゃない。」
「わかってる・・・行こうか。」
F-15F/25は滑走路から離陸、他の部隊も追随していく。
スーデントール上空の制空権確保のため、全部隊が対空装備を搭載しての出撃だ。



1450時 シュティーア城上空

「PJ、任務中に彼女と連絡するなよ?」
「そ・・・そんなことはしません!」
レイシスがふざけて念を入れると、PJが向きになって反論した。
「ねぇ、フォルク。どうかした?そんなに遅れて。」
マールが後を見ると、フォルクだけがかなり遅れている。
「こちらエスパーダ2。機器に不備でも?」
「・・・いや、悲しいだけだ。」
ため息混じりにフォルクが答えた途端、イーグルアイから通信が入った。
「連合軍作戦本部より入電、A-5の編隊が核爆弾を搭載してウスティオに飛び立った。当空域に爆撃機が接近中、至急迎撃せよ!」
「何だって!?」
PJが驚くと、マールが指示を出した。
「全機迎撃!急いで!」
「メビウス、了解!核爆弾など使わせるか!」
「エスパーダ2、了解。」
マールの後にレイシスとマルセラの機がしっかりと編隊を組んだ。
「核で全部吹き飛べば、戦争などなくていいんだけどな。」
エスパーダ1がそんなことをぼやいたが、PJははっきりと言い返す。
「絶対に核は使わせない。落とす!」
全機が全速で敵編隊へと突入していく。
A-5ビジランティを護衛するようにF-15EとSu-27が編隊を組んでいる。
「なんとしても阻止せよ!」
「了解。ガルム1、エンゲージ!」
トリガーに手をかけ、AAM-4をロックオンする。
狙いはA-5ビジランティを中心とした編隊だ。
「フォックス・スリー!」
「行けぇっ!!」
レイシスも同時にAIM-120を発射、AAM-4がA-5とSu-27を撃墜した。
AIM-120の後からマルセラが突撃し、MICAを発射した。
F-15E編隊に突撃、2機を撃破した。
「突破されてるぞ!」
「相棒、俺がやる!」
AAM-5をフォルクは発射、A-5ビジランティを捕捉した。
A-5は四散、撃墜された。
『マスター・・・』
「どうした?ルシア。」
『シルヴィアの意識が感じられない。フォルクの機体は・・・MLSじゃない。』
「何!?」
右翼の赤いイーグルだが、ルシアはシルヴィアの意識を感じないというのだ。
ということは、あのイーグルはマールの乗っていた通常のF-15C?
「何のためにそんなことを!?」
『わからない。ただ・・・もしかすると、捨てたのかも。』
「捨てた?いい相棒だったのに、どうして?」
『・・・マスター、真上にフランカーB。』
上を見ると、Su-27が機首をこちらに向けている。
レイシスはコブラをきめてAIM-9を発射、アーチャーAAMを回避する。
AIM-9もかわされたが、レイシスはそれを追撃して20mmバルカンを発射、撃破した。
「スプラッシュ!で・・・なんでフォルクがシルヴィアを捨てるまねをするんだ!?」
『・・・国境無き世界が見える。ウィザードリーダーが・・・まさか、あいつは・・・』
「メビウス、こっちは大丈夫だ。早く爆撃機を撃破しろ。」
都合悪く、フォルクの通信が聴こえてきた。
レイシスは何がなんだかわからないが、とにかくF-15Eを追撃する。


「・・・敵機の増援!?」
「こちらベルカ空軍第24航空師団。ベルカ空軍機は直ちに撤退せよ。繰り返す、ベルカ空軍機は直ちに撤退せよ。撤退しない場合は撃墜も辞さない。」
6機編隊のFX-10Bが、A-5や護衛戦闘機を目標にロックオンしている。
「作戦の妨げになるものは排除せよ!」
「やむをえない。撃破せよ。」
FX-10Bは散開すると、いきなりSu-27を攻撃して撃墜してしまった。
「な・・・何をする!?」
「撃墜は辞さないといったはずだ。ウスティオのAWACS、FX-10Bに敵意はない。撃墜を控えるように伝えてくれ。」
「了解。FX-10Bへの攻撃を中止せよ。」
ベルカ空軍内部でも、仲間割れを引き起こしているようだ。
「ガルム1、了解!」
レーダー上のFX-10Bが緑から黄色の表示に変わった。
敵意無し、攻撃を控えろとのサインだ。
マールは進撃を続けるA-5に狙いを定め、20mmバルカンを乱射した。
「メイデイメイデイメイデイ!機体損傷、脱出する!」
風防が吹き飛び、パイロットが射出された。
が・・・マールが撃墜したA-5には核爆弾は搭載されていないようだ。
「こちらガルム1.核爆弾を確認できず。」
「こちらメビウス!核爆弾を搭載した機なんて1機もいないぞ、どういうことだ!?爆撃機は全機撃墜したが・・・」
FX-10Bの支援もあり、あっさりと爆撃機全てが撃墜されてしまった。
が・・・その途端、遠くで何かが光り、編隊を包み込んだ。
「な、何!?」
「え・・・!?」
突然のように光につつまれ、遠くで大爆発が発生した。
同時に強い衝撃が襲いかかり、大きな爆発音が聞こえた!
「か・・・核爆発!?」
『自国領内での核爆発!?ベルカ、連合軍を木っ端微塵に・・・っ!!」
「大丈夫か!?」
余りの残留思念の多さに、ルシアは気絶しそうになってしまった。
ここにシルヴィアを呼ばなかったのは幸いというしかないだろう。
HUDの画像に乱れが見えるが、使えないほどではない。
「・・・ラリー、聴こえるか?シンデレラをお出迎えに来た。」
「そんな言葉が良くほざけるものだ。が・・・この戦いにあいつは巻き込みたくないからおいてきた。」
「安心しろ。新しいMLSを用意している。今日がお前の誕生日みたいなものだろ?」
「・・・貴様に案内されるのは地獄だな。きっと。」
フォルクのF-15Cは、戦闘空域より離脱していく。
「・・・相棒、俺は戦う理由を見つけた。」
「ちょっ・・・ど、どこに行くの!?」
「とめないでくれ。相棒・・・俺の部屋にある手紙を見ればわかる。」
最大出力でF-15Cは戦闘空域から離脱していく。
マールが追撃しようとした途端、イーグルアイから通信がはいった。
「警告、敵増援を確認した!機種は不明だが、高速で接近中だ!」
「え・・・!?急いで撃墜しないと!」
すると、マルセラがマールに通信を入れてきた。
「エスパーダ1からの通信途絶!戦闘空域を核爆発の間に脱出したみたい!」
「・・・了解。でも、今は敵の増援を!」
「こちらクロウ1!レーダー使用不能!離脱する!」
クロウ隊の2機は、そのまま戦闘空域を離脱して言った。
レイピア隊も電子機器の故障で撤退、残りはガルム隊などの主なメンバーのみだ。
「不明機の機種確認完了!デルフィナスMk1!南ベルカ兵器工廠で製作された新鋭機だ!」
「厄介な相手みたいね・・・!」
流線型で構成された戦闘機が、まっすぐに向かってくる。
8機編隊なので、2機に1機ずつ当たる。
「ガルム1、フォックス・スリー!」
AAM-4がパイロンよりはなれ、白煙を上げて敵機へとむかっていく。
機銃をセットして敵の攻撃に備えたが、すれ違った瞬間にレーダーから機影が消えた。
「機体損傷!高度が保てない!」
「こいつら、なかなか早いぞ!」
『灰色のエース達みたい。試作機で戦ってるところを見ると、第一線級の戦闘機は繰り出せないはず・・・』
「わかった。行くぞ!」
レイシスは後方に着いたデルフィナスMk1を引き離そうとするが、かなり機動性能がいいため振り切れない。
急旋回させて何とか振り切ろうとするが、敵機も急旋回で追いついてくる。
その途端、レイシスの機体がいきなり減速した。
『バルカンをセット。』
「よし、喰らって貰おう!」
前に出たデルフィナスMk1に、容赦なくレイシスは銃弾を浴びせた。
薄い主翼が一瞬で吹き飛び、きりもみを起こしながら落ちていく。
『マスター、後!』
「ちっ!」
また後に・・・と思った瞬間、AIM-9の直撃を受けてデルフィナスMk1が爆発した。
「PJ、やるじゃないか。ま、そこそこだな。」
「やるときはやりますよ!」
「この調子で頼む・・・行くぞ!」
最後の1機にマルセラは張り付き、27mm機銃でしとめた。
「敵戦闘機の撃墜を確認・・・皆狂ってるのか?任務完了、帰還せよ。」
「了解。」
制空任務を負え、とりあえずはヴァレー空軍基地へと全機帰還した。
「・・・悪いな、ここでお別れだ。相棒。それにメビウス、PJ,エスパーダ2・・・」
フォルクからの無線を最後に、誰もが無言になってしまった。



1750時 ヴァレー空軍基地

「・・・もう、いないのかな。」
マールはフォルクの部屋に入り、そのベッドに座っていた。
ガルム2は行方不明になり、おそらくは死んだ・・・そういわれている。
すると、テーブルの上に手紙が置かれていた。
「何、これ・・・?」
そっと便箋をあけて中身を見ると、マールにあてた手紙のようだ。

――この手紙を見る頃には、俺はこの基地にはいないはずだ。
相棒、あんたは優しい・・・けど俺はもう優しくあることをやめた。
この戦いの最大の原因を潰す。そのときは・・・相棒、あんたとも戦う。
そうまでしてでも、ぜひやりたいことがあるからだ。
3年前の紛争で俺はベルカ空軍に雇われたんだが、そのときに1人のシスターとであった。
が、そいつは当時友軍だったオーシア軍の誤爆で死んでしまったわけだ。しかもその部隊は謝罪すらしない。
ホフヌングであの時と同じ部隊だ。エンブレムもそっくりそのままだ。
俺は悲しくなった。結局戦争は汚いことの上塗りだって。
もうわかるな?俺の残留思念がシスターになった意味が。
だから、俺はその仕組みを変える。邪魔するなら、相棒。あんたでも落とす。

「・・・そんなことが。でも・・・」
その途端、扉を空けて誰かが入ってきた。
後にいるには、紛れも無くシルヴィアのようだ。
「・・・な、何で!?マスターは・・・」
「知っています。けど・・・貴方たちの残留思念をかき集めて、何とか実体化しています。」
「そっか・・・何でも残留思念は吸収できるんだっけ・・・」
今さらのようにMLSの基本を思い出したかのようにマールがつぶやく。
「・・・マールさん、特に貴方の思念が強かったから実体化できました。」
マールは無言でうなずいた途端、レイシスとマルセラが部屋にはいって来た。
レイシスの後には、ルシアがしっかりとついている。
「な、何でシルヴィアが?MLSは確か・・・」
「私達の残留思念をかき集めて実体化してる。不安定だから気をつけて。」
マールがレイシスの言葉をさえぎって答える。
「でも、何故・・・フォルクはシルヴィアを邪魔に思ったことはない。ならば・・・」
「国境無き世界に行ったけど、撃墜されることを恐れていたんじゃないの?」
「片羽が相手で勝てる奴なんているか?」
「ウスティオの蒼い鳥には劣るじゃない。マールにシルヴィアを撃墜させるような真似はさせたくなかったんだと思う。」
マルセラがそんなことを言うと、どうするか考えた。
「こんなケース、ケラーマン教官も教えてくれなかったしどうしよう・・・?」
すると、後からブリンクマン大佐が声をかけた。
「実体化しただけで飛ぶことは・・・できないかな。もしできれば、飛んでもらいたい。」
「ちょっ・・・司令、何を言ってるんですか!?」
マールは驚いたが、ブリンクマンは首を振って答える。
「片羽と蒼い鳥のコンビは、士気を高める上でかなり役に立っている。ベルカも、それを見るだけで怖気つくパイロットすら出始めたらしい。何、出撃などあと少しだ。終戦は間近だよ。」
そう、連合軍は破竹の勢いでベルカの首都ディンズマルクへと迫っている。
ガルム隊の出番も、かなり少なくなるはずだ。
「・・・わかりました。私ができることなら・・・やってみます。」
「え・・・?」
「マスターには及ばないかもしれませんが・・・何とか、できるはずです。マールさん、迷惑はかけません。ですから・・・」
やれやれと思いながらも、マールはうなずいた。
「いいよ。2番機は任せたから。」
どうせ、戦争が終わるまでなら・・・マールはそう考えていた。
が、その間に一度はフォルクと出会うかもしれない。
そのときはどうしようと考えながら、彼女は格納庫へと向かっていった。


続く

あとがき
外洋機動部隊32話〜33話あたりを参考にしつつ後編を書きました。
・・・実際ではミサイルまで発射してこちらを撃墜しかねない勢いでした。
難易度を上げて撃墜されて、ようやくピクシーの攻撃と気づきました・・・
次回でベルカ戦争はとりあえず終了です。けど・・・
まぁ、まだ続きがありますよ。国境無き世界が思う存分に暴れてくれます。
では。



 2006/07/05:あくてぃぶF-15さんから頂きました。
秋元 「F-15F/25、F-15FFG/25のクロス版ですね。確か、この作品にはFGシステムの概念がないとかで、FGを抜いたんでしたかな」
アリス 「……ついに核爆弾を使いましたね。しかも自国内で」
秋元 「AC5への基礎とも言える部分だな」

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