外洋機動艦隊外伝 蒼の翼




沖縄、この地がまた地上戦に巻き込まれた。この地が108年前と同様に地獄に陥るのか、そしてどうなってしまうのか、この地、この空、この海にどれだけの屍(死体)が生まれるのだろうか
ある陸軍大尉の手記より


外洋機動艦隊外伝 蒼の翼    第二話
岐阜基地
アメリカでのクーデター発生後、テスト項目が増えた。システム機用の装備や通常機用の新型装備なども含まれていた。
「増えたな、テスト」
「そうですね、しかし、なぜクーデター軍は、考える時間をくれたんですかね」
「わからん、考える時間なのか、それとも向こうの準備時間なのか」
そんな会話がなされ機上でなされている間にテスト空域に着いた。
朝、ブリーフィングルームにて
「今回のテストは、MLSリンク兵器のリンクテストだ」
近藤中佐が説明をしている。
「これはシステム機用の装備で、片方は蒼晶石を使った巡航ミサイルで、もう片方は、同じく蒼晶石を使った偵察ポットだ」
スクリーンに表示された。設計図で片方は巡航ミサイルのそれで、もう片方は、偵察ポットではあるが、ミサイルに似ていて車輪がついている。
「質問、どっちでやるの?」
「まだ、試作段階だけど,YM−1Aでやる」
そのあとのことについて聞いてみた。
「で、リンク成功後どうするのだ。発射するのか、それともリンク切断して基地に戻るのか?」
「帰還してくれ、それで昼食を取った後、もう一回テストに上がってもらう。その時に発射、回収してもらう。その前にシステムの調節をする。」
「どういうことだ、」
「ドライバ、インストールするのを忘れていた」
「おい、おい」と片山が突っ込んだ。
「冗談だ、リンク時の感覚についてデータが少し足りないからな、必要になるかどうかわからないけど、データは多くあった方がいい」
「なるほど」
「何か質問はないか」
と、近藤大尉が確認を取る。質問をする者はいなかった。
「よし、各自行動に移れ」
ブリーフィングルームを出て、俺達は格納庫に向かった。途中でアテナが段差の無い所で3回ほど転んだが。格納庫で今回テストを行う実物が状態のチェックをされていた。
「これが、そうか」
「普通の巡航ミサイルと変わらないですね、ただ蒼晶石が入っている以外は、」
「あ、少尉きましたか、」と整備の人が来た、俺達が来た通路から近藤大尉がこっちに向かっていた。
「和馬、悪いテスト内容の変更だ」
「なんか問題が発生したのか」
「いや、今回の内容を午前中にやってしまう」
「どうゆうことだ?」
「悪い、時間配分を失敗した」
「どうしてだ」
「子供の宿題の手伝いと、別の実験の計画を考えていて、ミスった」
「は〜、そうなんだ」
「悪いが、午後は休みだ」
「わかった」
「とりあえず、もう一回これについて説明するから」
もう一回説明を受け、YM−1Aを装備して空に上がった、一応軽装備を施して。
テスト空域
「オーマ、YM−1Aを準備せよ」
データ収集用のAEWから通信で
「了解、モーニング」
ズキッ、そんな形容詞が合いそうな感覚が頭にきた。
「オーマ、どんな感覚だ」
「頭痛の一撃が強いような気分だ」
(マスター、大丈夫?)
「なんとか」
「それじゃ、発射してみろ、さっきも言ったがイメージすればどのようにも動くから」
「了解、エクザムフォックス」
機体から、YM−1Aが切り離され、頭にミサイルの先端に付いているCCDからの映像が流れ込んできた。軽くミサイルを動かして、感覚を確かめてみた。ミサイル側の燃料が有るうちに、回収を実行するよう、近藤大尉の指示がきた。
「オーマ、ミサイルを回収してくれ、ドライバに回収シークエンスが入っているから」
「了解、回収する」
回収をおこなうところにカーソルを合わせ実行した。思考でも回収をイメージして、回収成功。
「ミサイルを撃っていて、回収、変な気分だ。」
ちょいと複雑な気分になった。
「はは、確かにな」
「けど、こいつは、試作型だから、打って終わりじゃあ蒼晶石がもったいないし、データがとれない」
「そうだな、飛行実験団のモットーは、使えるものは、使え、無駄なく使えだからな」
「そろそろ戻ろうか」
「そうだな、コントロール、こちらオーマRTB」
機首を基地に向け、終始無言に近かった、アテナを心配して、話しかけた。
「アテナ、平気か、」
(なにが、)
「なんか無言だったから」
(ちょっと、話についていけなかったから、平気よ)
「なら、いいんだが・・・そうだ、午後休みだから、フォミュラーカーに乗りに行こう」
(フォミュラーカーって、マスターが法律違反でやっている仕事のマシーンだよね)
「いや、法律には違反しているが、軍の許可はもらってあるし」
(その、乗るマシーンってF1のマシーン?)
「いや、JGP2のイベント用の2シーターだよ、俺がマシーンの上で見ている世界の近くを見せてやるよ」
(いつもの通勤より速くなるの)
「そりゃそうだ、それにGもかなり懸かる、戦闘機動には劣るが」
その後、基地に戻り医師から簡単な問診を受け、テストの報告書を書き、昼食を取って、鈴鹿サーキットに向かった。事前に連絡をしていて、イベント用の2シーターのマシーンを出しておいてもらった。もろもろの費用は(コース使用料、燃料、マシーンの整備費、タイヤなど)、レーサーとしての給料(本来、軍人として生活している中では使えない)を後払いで。
鈴鹿サーキットパドック
二人はレーシングスーツに着替えた。和馬は昔使っていたのを、アテナはレンタル。
「これが、2シーターのマシーン?」
「そうだ、一人用のお二人用に改造したものだ」
濃いブルーに塗られていて、スポンサーのステッカーも少ない。
「とにかく乗るぞ」
「わかったわ、和馬」
シートは調整済みで、アテナは後ろで、俺は前に乗った。ちょうど合同テスト日に重なっていて、多くのマシーンがコース上を走っていた。それらに迷惑をかけぬようコースインした。ピットレーンから出たその週はタイヤに熱を入れグリップを出せるようにして、2週目から全開にするのである。慎重にタイヤに熱を入れ、ホームストレートに戻ってきた時点で、
「じゃ、アテナ行くよ」
「わかったわ」
イベント用だから気を抜くわけでもなく、いつもどうりに突っ込んだ。第一コーナーから第二にかけこの車で曲がれるぎりぎりのスピードで駆け抜け、S字からダンロップまでをリズミカルに攻略し、デグナー、スプーンを抜けバックストレートをエンジン全開で、ギリギリのラインでコースを駆けて、ミスったらやばい130Rを抜け、シケインを気持ちよく通過し、ホームストレートに戻った。無線で
「どうだ、アテナこれがおれの見ている世界に近いところだ。」
「すごいですねマスター、空なら簡単に音速を超えられるけど、地上だとあのスピードがとても速くみられたわ」
「ああ、俺はこれよりも少し早いところをみているんだけどな」
「へえ〜、そうなんだ」
その後、10週近く走りピットに戻ってきた。
「ふう〜、いい走りができた」
「マスター、・・・・・最後の辺怖かった」
テスト中のほかの車に抜かれ、レーサーとしての和馬の魂に火が入り、なかば全開にしてコースを走ったのである。もちろんオーバーテイクは予定していた周回数では不可能だった、後で聞いたのだが前にいた、テスト中のチームが面白半分で何週あったらぬかせるかを計算したところ、あと5週有ったなら抜かせたかもしれないという計算が算出されたのである。
「悪い、帰りなんか美味しいものでも食いに行くか」
「賛成」
時間もそれなりに有ったので、パドックを邪魔にならないようにぶらぶらした。着替え済み。戦闘機とは違うエンジンの爆音、焦げたオイルの匂い。
「やはり、ここは良い」
「え、」
「ここが俺のもう一つの戦場ということさ」
「確か、和馬は小さい頃からレースをしているんだよね」
「ああ、あの頃はもっと速くと、走っていたのに今じゃ血のにおいが手からするけどな、直接戦闘に関わっていないのに」
「ごめん、マスターのいやなこと思い出させちゃって」
「いや、アテナが悪いんじゃないよ、俺自身が選んだ道だ、後悔はない」
「和馬・・・」
話すことに集中していて、関係者達の往来を邪魔する位置にいることに気ずかないでいると、
「あれっ、和馬じゃないか、なにしてんの?」
すごい怒気を含めた高い声で、しんみりした空気を壊した。
「わわ、なんだ、結香さんか驚かさないで下さいよ。」
「驚かしたのは悪いが、あんたが家のパドック前でラブコメしていたから邪魔だったのよ、ささどいた、どいた」
俺達は言われたとうりにどいた。彼女のチームのマシーンが大慌てで、コースインしていく。彼女は、押井結香、フォーミュラー3のチームのオーナー兼監督である。ついでに加えれば、フォミュラースッテプの時のライバルでもある。
「しかし、久しぶりね、あなたがここに来るのも、なんで今まで来なかったの?」
「仕事が忙しかった、それじゃ理由にならないか」
「ならないわね」
「テストドライバーとしての仕事は、常にヨーロッパで行われているし、軍の仕事と重なるし、ドライバーの時はいつも富士で行われていたからな」
「ふ〜ん、そういえばとなりの彼女とはどういう関係」
「相棒」
「あっそ、あなた名前は」
「アテナです」
「あなたもしかして外国の方」
「いや、彼女は日系ですでに帰化している」
「嘘臭いわね」
「とりあえず、それで我慢していてくれ、後で話すから」(話せるときがあったらだけど)
「ま、いいわ、それよりお金ある?」
「少しは、」
いやな予感がしてきた。
「じゃ、みんな今夜は片山君のおごりで焼肉よ」
ゴチになります、と周りのパドックからも声が聞こえた。
「なんでそうなる、ミーティングはいいのか」
「情報料、よ、それにそこでやっちゃえばいいし、現役F1ドライバーのアドバイス聞きたい子もいるだろうし」
「ああ、わかったよ、ほどほどに頼む」
その後、最終セッションまで残り、無線を使い逐次アドバイスをしてやり、さらに近場の焼肉屋に結香のチームとは別にもうふたチームが加わり、そのチームのドライバー達のデータを見てアドバイスをしてやった。領収書が恐ろしい額になっていた。
三日後
クーデター軍が宣戦布告した。けど、飛行実験団は相変わらず、実験にいそしんでいた。沖縄が占領されているのに。
翌日
いつもどおりに実験を終えて、レポートを出しに行った。部屋に入るといつもと空気が違った。
「片山、悪いが死に行ってもらう」
開口が一番それである。
「はい、・・・どういうことですか」
俺は意味が理解できなかった。
「上が手早く、実戦のデータが欲しいんだとよ」
「え、どうしてですか実戦力のシステム機がいるのに」
「そっちは、正規戦力の方に回されているし、担当者はいるがたぶんある程度まとめてから送ると思われる。だから上は逐次的に生の改ざんの余地のないデータが欲しいみたいだ。それに実戦力になっているパイロットはなによりも、称号付きとともに切り札でもある」
「では、なぜ」
「言い方が悪かったな、お前、実戦の経験あるか、」
「いや有りませんが、有るといえるとしたら、アグレッサーと現エースとの二十番勝負くらいですね」
「空軍学校から出た者は、何等かしらの実戦を経験する。スクランブルだったり、本当の遭遇戦であったり」
「それで、」
俺は確認するように聞いた。
「それで、お前の実戦の経験を積ませるのと同時にデータ収集もだ、いろいろな」
「はあ〜、わかりました。ここでNOと言ったら首切られ、アテナとは離れ離れになってしまいそうだし」
「一応、護衛も付ける、ただし、ギリギリの所まで手は出さないから」
「了解」
そ言って俺は部屋をでた。残った近藤は
「悪いな」と呟いた。
机に戻ると、アテナが過去のF1のレースのビデオを見ていた。戻ってきた俺に気づきアテナが声をかけてきた。
「これ、マスターが始めて出たレースだよね、よくこんな中走れたよね」
「ああ、第二ドライバーが急に下痢と頭痛でちょうど第三ドライバーだった俺が出たんだ。ハッキリ言って地獄に近かった。母国グランプリだったのだけど雨の富士と言われる富士スピードウェイで、その時強い雨が降った後に霧で前が見にくい状態だった。セーフティーカーが先導してレースが始まったのだけどまた雨でそれも土砂降りで・・・・・・・・・・
で慎重かつ大胆に走っていたら、優勝していたんだ。狙っていたわけではないのに」
昔話を少しして、実戦参加の事を話した。
「そうよね、私はシステム機であるし、ただ戦うために生まれてきた存在でもあるし」
「そんなこと言うな!もともと俺が実戦を経験する機会がなったただそれだけのことだけだ、アテナ君に責任はない。悪いのは俺一人で十分だ」
「和馬」
「とにかく、生き残るそれだけだ」
「そうね、和馬」



あとがき
本来ここで沖縄戦を書こうとしたのですが、和馬のレーサーとしての一面を書こうと思い、コース走行シーンを入れたのですが、実際に行ったことがなく公式ホームページを見て書いたのですが、ちぐはぐでモータースポーツの小説を書いている人ならもっと詳しくかけると思いますが、ここが私の限界です。この後、沖縄、ハワイ、南米でいくつもりです。
追加、JGP2について、F1の下にGP2というカテゴリーがありF1の登竜門と言われ、2007年現在ヨーロッパラウンドしかないのですが、外機の時代にはF1と同時開催という設定で、そのGP2の独立リーグとしています。もともと行われていたフォーミュラー日本がF1への直接的なスカラシップがなく、人気が低迷したためGP2の独立シリーズにしたのである。基本的にGP2と共通のレギュレーションにしてあり、直接的なF1へのスカラシップもある程度有り、ここを使いF1ドライバーになった人もいる。



 2007/10/02:アイギスさんから頂きました。
秋元 「我々実戦軍人と異なり、前線に出ない裏方達は後方軍人と呼ばれてますが、彼らのお陰で実戦軍人は戦って生き残れるのです」
アリス 「……後ろあっての前、前あっての後ろ」

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