外洋機動艦隊外伝 蒼の翼




戦場、それは時も人も場所も選ばない。2つの勢力もしくは二人の人間が争えば、そこは戦場だ。過程や方法も関係ない、そこに争いが生まれれば、戦場になってしまう。そして、それを伝えるのが私の仕事だ。
内戦取材中の新聞記者のコラムより


外洋機動艦隊外伝 蒼の翼    第三話
沖縄 USAJ艦隊監視空域内
それは、低レーダー感度時にやってくる。沖縄を占領してアジアへ進行する前に、日本が行おうとしている奪回作戦に、備えている最中だった。防空のために哨戒機を飛ばし、それが低レーダー感度時になると、哨戒任務機との通信が断たれ救援機が到着した時には、海に残骸が浮かんでいるのである。生存者の報告によると、ゼロと遭遇し、目視以外何も映らず(IR、レーダーなどに無反応)気がついた時には、自分が落とされていた。艦隊内では、そのゼロに対して「ファントム」というコードネームを付けた。そして、それは今日も来た。例によって低レーダー感度時に。
「今日も来るのかな」
相棒が心配そうな声を出して呟いた。
「なにが」
「例のゼロ」
「わからん、あいつは低レーダー感度時に来るからな」
相棒に心配をかけないように言ったつもりだが、こっちの気持ちも入ってしまった。
「けれど、哨戒ラインを厚くしたからな、虫一匹さえ入れられないくらいに」
「そうだけど・・・」
言葉を続けようとしたけど、上が光ったような気がした。その次の瞬間、機体に衝撃が走り、コントロール不能になっていた。
「メイディメイディ、機体をやられた、脱出する」
相棒が堕ちた。機体を敵が向かった方に向けてみたが、いない。
「ジャック!くそっゼロめっ、どこに行った」
俺は目をこらし周辺を視認しようとした、レーダーもIRもなんにも反応がない。防空指揮のAEWにも連絡がつかない。焦りと恐怖に支配され無作為にバレルロール機動をして敵を探そうとしたがいない。急に後方レーダーに反応が出た、そしてガンキルされた。
「くそっ、そんな」
脱出できたのが奇跡だった、俺を落としたゼロは、青い沖縄の空に雲を描き去っていった。敬意なのか嘲りなのか分からない。
USAJ旗艦ブリッチ内
「救援機より連絡、逃げられたそうです」
通信士の報告は、いつもと同じものだった。
「Siht!これで何機目だ」
地団駄を踏み、歯ぎしりした。
「約十機です」
「ちくしょう、十機も落とされたのか」
ブリッジ内を、ぐるぐると徘徊しながらわめいた。
「提督、落ち着いてください」
こうなった提督をなだめるのは艦長の役目で、他のクルー達には、見慣れた光景であった。「落ち着けるか!」
「まあまあ、とりあえずパイロットは無事です」
苦労人の艦長が最近痛みの一層酷くなった胃に手を当てながら、健気に提督をなだめに入る。
「それはそうだが、」
「部隊内にまだ、予備機はありますから」
「ちくしょ〜、ファントムめ、今度現れたらこの俺様が正義の鉄拳を叩き込んでやる〜」
艦長の胃痛が治るのは、いつの日か。
九州近海上空
警戒態勢で編隊を組んでいたゼロに、上空から別のゼロが降りてきた。
「御苦労、オーマ」
(お疲れ様)
そう声をかけてきたのは、ゼロRの土屋圭輔とその相棒であるミリィだ。
「そういうのは基地に帰ってからにしてくれないか、まだ味方の防空圏についてないんだぞ」
俺は戦闘からの緊張を維持していたので、そう返答した。俺が今乗っているエクスゼロは、エンジンを通常のAJ−24からテスト中のYAJ−28に変更してあり、新型のステルス塗料を使っている。色は紫がかった蒼で、テスト機使用の配色になっている。警戒編隊で待機していた部隊はR使用のゼロ、ゼロRである。
ゼロRは偵察隊が大幅に撃墜された時の事を前提に、手持ちのゼロにRゼロと同じ装備を施して、同様の任務をする部隊のことである。とりあえずのところ、想定された事態は起きてなく、通常防空体制の枠組みに収まっている。制空戦闘機のゼロとして。彼らはその中のシステム機として活躍している。
(そうね、マスターの言うとうりよ、ミリィちゃん)
アテナが注意した。
(そうでしたね、まだ味方の防空圏に入っていませんし)
「ロイグ、敵の状況はどうなっている」
一番気になる情報を聞いてみた。
「とりあえず、敵増援がお前が落としたところに向かっている、オーマ、お前もシステム機探索できるだろ、なんで使わないんだ?」
「アテナはエクスだ、負の思念に対して敏感だから、ここ沖縄の空は百年以上たったとはいえ、未だ第二次大戦の思念などが漂っている。だからあんまり無理をさせたくないんだ。それに沖縄上空でプロトタイプのシステム機が消えてしまったっという話を聞いたことはないか」
「いや、聞いたことはない。他人のならいいのか」
「いや違うけど」
俺は即座に否定した。
「まあ、確かにここの辺は未だに百年も前の戦争の思念が漂っている。悲しみ、苦しみが今もそれらを縛っているのかもしれない」
同意するように、ロイグが答えてきた。
「とりあえず、低レーダー感度帯を通って帰還しよう」
「そうだな」
日本空軍新田原基地
基地に帰還した。駐機場からブリーフィングルームに向かう間、基地の周りで抗議活動を行う2つの集団が見えた。武装解除主義反戦団体「ピースバード」が騒音を鳴らすのに対して、環境保護団体「アースディフェンダー」は静かに座り込みの抗議をしていた。
「あいつら、何時までするんだろ」
「戦争が無くなるまでじゃないかな」
あきれるように土屋圭輔が答えた。
「アースディフェンダー」はまだましだが、「ピースバード」は夜間も抗議行動を行うし、チーム(F1)内で飲み会に行ったとき、「ピースバード」が集会を行っている店に入ってしまい、飲んでいる最中に叩き出されてしまったのである。一方、「アースディフェンダー」は一見無害そうに見えるが、軍の作戦による環境破壊が行われると修復活動を当てつけみたいにする。さらに軍の作戦に環境をできるだけ破壊しないよう訂正を求めてくる。どこから情報を知りえたのか分からないが、背広組も頭を抱える問題である。今回も沖縄の美しい海を守るため、破壊ではなく制圧を求めてきたと近藤中佐が知り合いからの話だと教えてくれた。
「戦争が無くなるまでね、どのぐらいの時間が掛かるのやら」
「さてね」
男二人先に進む中、女性二人は血なまぐさい話に参加せず、
「あれ、アテナさん少し顔色悪いですよ」
「そう?そういえばちょっと寒いわね」
「少し疲れたんじゃないですか。ここ最近出撃回数が増えたから。駄目ですよぉ、健康に気をつけなきゃ。なんなら滋養に効くお茶あげましょうか?」
「ありがとう。後で一緒にお茶しましょうね」
のんびりお茶の約束をしているのだった。

ブリーフィングルームに向かう途中でアテナが倒れた。
「んっ、アテナまた転んだのか・・・、っておい」
振り向き、アテナを見たら震えていた。
「大丈夫か、アテナ」
「マスター、寒い」
急いでアテナの体を起すと手が冷たく、額に手を当てたら熱かった。
「うわっ、熱が有るじゃないか、どうしたんだ」
「わからない、実体化したら急に寒気がしたの」
答える声は弱々しい。
「とにかく、医務室に行こう」
アテナにフライトジャケットを着せ、お姫様抱っこの状態で向かった。
医務室
「ただの風邪だね。」
若い軍医にあっさりとそう言われた。
スクランブルで医務室に突入して、軍医に上手くアテナの状況を伝えることができなく、とりあえず、「落ち着け」と言われ、もう一回説明をやり直した。
「一応ひどくならないうちに、点滴しとくから」
俺はひどく混乱した。
「なんで、点滴をするんだ?風邪薬だけで十分じゃないの?」
「とりあえず、熱を上げるだけ上げといて、その後、風邪薬を飲ませて後は自然治癒に任すのがいいんだよ」
「でも、解熱剤を使えば、」
「あれは、あれで結構危ないもんだからねぇ、栄養と休養による自然治癒が一番利口だ」
「なるほど」
「てか、デブリーフィングに早く行った方がいいんじゃないか、それと見舞いに来るときは、マスク着用」
軍医が言い切る前に片山の姿は消えていた。
「やれやれ、忙しい人だ」
ブリーフィングルーム
大急ぎでフリーフィングルームに向かい、なんとか近藤中佐が入室する前に、
「おっ、和馬間に合ったか」
「ぎりぎりでしたね」
圭輔とミリィの隣に座り、近藤中佐が入ってきた。
「これよりデブリーフィングを始める」
これまでの戦果、データー収集状況に始まり、装備の問題点などが取り上げられた。
「今後の方針だけど・・・・・和馬、アテナの姿が見えないのだがどうかしたのか?」
「風邪をひいたみたいだ」
「そうなのか」
「ああ」
近藤中佐が聞き返すようにたずねてきたので、軽く返した。
「和馬、後で治療関連のデーター貰ってきてくれ」
「・・・はい?」
脳がフリーズして、とっさにそれしか返答できなかった。
「だから、データーを貰ってきてほしいんだ」
理由が分からない。
「なんでそうなるんだ」
「一応人間とはいえ、無機物から生み出された有機物だ。変な病気が発症しても困る、それにデーターは多い方がいいから」
「了解」
「よし、ではあらためてデブリーフィングに入る」
今迄に取った戦闘データーから敵の消耗具合を計算し、低レーダー感度時の高速強襲戦術の継続をするかどうかの話し合いに進んだ。
「とりあえずの所、俺はそろそろこの強襲戦術を終了させてもいいと思うんだが」
そう、提案を出した。
「理由は?」
「15回もやれば、敵だって馬鹿ではない。今回は、薄めの所を狙ったがそれがいつまでも続くは分からない。次にどうなるか開けてみないと分からんが」
「それに、アテナが風邪ひいたしね」
「和馬、もしかして飽きたからというのが本音じゃないだろうな」
土屋の一言で、どて、と俺は崩れた。立ちなおしつつ
「いや飽きはしていないが」
「なら、継続だな。戦果とデーターともに申し分のない収集場所だ」
近藤の容赦ない一言で継続が決まりそうになったが、
「まっ、お前の奇襲で敵さんの戦力を消耗させたし、敵の注意を本土側に向けさせることもできたし、第2外洋機動艦隊も展開完了した。」
「それじゃあ」
答えの見当は付いていたが、やっぱり確認はしておきたかった。
「本日を持って通常テスト任務に復帰、ただし、テストは築城で行う」
喜びがわきあがってきそうだったが、疑問が先に上がった。
「どうしてだ?」
「テストする装備の内容はすぐ実戦に使えるかどうかを調べるのが中心だからな。ここで、良い結果が出たら即投入という方式でいるみたいだ、上は」
「なるほどね」
「というわけだ、以上解散」
各々が席を立ち、部屋から出ていく。俺もアテナに通常任務になることを伝えるべく医務室に向かった。
医務室に入る前に、マスクを買い装着した。軍医にアテナの容態を聞き、近藤中佐がアテナの医療データーが欲しい事を伝える。
「プライベートはないみたいですね」
「しかたないさ、上からの命令は絶対的みたいなものだし、ほぼ人間と同じとはいえ・・・いや、人間だけど、無機物から生まれたから、変な病気を発症されても困るしね」
「なるほど、わかったデーターをまとめておくから後で持って帰ってくれ」
「ありがとう」
「ん、ん〜」
どうやら俺達が会話している最中にアテナが起きたようだ。
「調子はどうだ、アテナ」
「あっ、和馬、おはよう」
「お早うという時間でもないけど、調子はどうだ?」
「すこし、楽になったかな、まだちょっと辛いけど」
と言いアテナが起き上がろうとした。
「良いよそのままで」
俺は、アテナを手で制した。
「わかったわ」
ミーティングの内容をアテナに簡潔に伝えた。
「久しぶりの通常テストメニューになるんだね」
「そうだな、ただアテナは風が治ってから復帰だよ。無理しなくていいからな」
「それは仕方ないのは、分っているから」
少し、がっかりした風にうつむいた。
「クッシュン」
アテナが小さくくしゃみをした。
「とりあえず、早く風を治して、また飛ぼう」
「そうね、和馬」






あとがき
すみません、沖縄での戦闘書けませんでした。このまま、沖縄戦を書いてもいいのですが、自分で決めている、ラインを越えてしまいそうなので2話構成にすることにしました。
YAJ−28について
 AJ−26の価格を下げ、扱いやすさの向上を目指したエンジンである。鋭敏であるAJ−26は、一部のエース、もしくはシステム機用の装備である。精度の高い部品を多く使い、それによる価格の向上と扱いにくさが目立った。けれどもAJ−26の持っている燃料消費効率は魅力的なものであり、AJ−26の消費効率並にして、AJ−24程度の価格と操作性になるようにしたのが、YAJ−28である。



 2007/12/12:アイギスさんから頂きました。
秋元 「沖縄周辺はやばいくらい残留思念が漂っていますからな。そのほかに硫黄島や東京、広島、長崎などなど、大被害が出たとこは大抵強い残留思念が残っています」
アリス 「……制御が未熟だと、影響も大きいです」

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