外洋機動艦隊外伝 蒼の翼




外洋機動艦隊外伝 蒼の翼 第4話


警戒を行っていたAEWのレーダー管制員はレーダーの光跡を見て驚いた。ディスプレーの半分を覆う程の大きさを持った機体が接近していた。現在のレーダー感度が80パーセントとかなり高く信用できる情報として、艦隊に危険を伝えよとしたがジャミングが掛かっているらしく通信ができなくなり、警戒を一緒にしていたFX−10が敵を発見したらしく迎撃に向かう。機長の判断で味方に連絡をするべく空域をエンジン全開で逃げた。こちらの武器は電子戦装備、実体を持つ兵器ではない。それにこちらはレシプロ機だ、戦闘機が来たらひとたまりもない。ミサイルアラートが鳴る、たぶん対高価目標ミサイルだ。無駄ではあるが機のジャミングを使い、チャフやフレアをばらまいたが意味をなさなかった。
 この攻撃により日本軍による沖縄奪回作戦「宵の明星」が開始された。はじめにアサルトの大編隊による爆撃機演出、フェイズドアレイレーダーとはいえ、複数機を重ね合わすように編隊を組み、敵航空戦力を誘引、空軍ゼロ部隊による殲滅狙う。その後、朝顔による背面攻撃、特殊部隊による制圧が行われる予定だ。
 目の前の画面に生のデーターが流れる、もっとも、今行われている戦場の情報がダイレクトに伝わるよう設定されているのだから。
「データーとはいえ、生を見るのは自分が人を殺す道具を作っている事を改めて実感する」
と誰かが呟いた。
「それをしないと、俺達の給料は出ないからな」
別のだれかがそう言い返して軽い失笑が機内を満たした。JE−6トリニティ、敵性国家のレーダー周波数や、通信周波数を取得・解析するのが本来の任務だが今回はTA上層部の意向により、大規模な戦場近いのと己の所業を理解するために電子戦士の代わりに開発者達が乗っている。息抜きの意味も含まれている。ついでに加えれば、今回の戦闘から見てJFXをより良くすべきなにかを見つけて来いというのも。
「しかし、JFXに必要なものを見つけて来いというのは何とも」
「完成度を高めるには必要なことだ」
近藤中佐が答えた。
「しかし中佐、現場側の意見を取り入れて開発は行われているのに、何故私たちも現場に出向かないといけないのですか?」
「自己理解」
「えっ、」
若い研究者は一回では理解できなかった。
「自分たちが行っている事を理解して、我々も人を殺しているのだと理解するためだ」
「はあ、そうですか」
彼は、まだ理解に至るほど経験を積んでいない。彼がこの言葉を理解するのはまだ先のことになる。
日本空軍筑城基地
「了解、これより護衛の交代に行きます」
僕の小隊と飛実のオーマに、TAの観客護衛任務が下された。
「オーマ、これより護衛任務に向かいます」
「了解」
滑走路へタキシング、ファイナルチェック。部隊全体に確認を取る。全機に準備よしのハンドサインが出ていた。
僕がアフターバーナーを焚き加速する。それに合わせ、全機が編隊をそのまま空に上げようと加速する。
 編隊離陸はいつも恐い。練習不足というのもあるが、ただ大きい機体がこれほど近づいて上がるのは怖い。まだ、サイドバイサイドでコーナーに突っ込む方がましである。空に上がり観客のもとに向かう。観客の護衛は2つの小隊で行っている。本当だったら1飛行隊を付けても良いのだが、沖縄奪回作戦の戦力を割くわけにはいかないから、猛者な部隊による少数ガードで実行している。
「編隊離陸は、やっぱ怖い」
(和馬どうかしたの)
「いや、いつもの事だ」
(そう)
USAJ艦隊空母内
「ぬお〜」
胃痛持ちの艦長は悶えていた。いつもの胃薬が切れた上に、日本軍による攻撃が重なって指揮を取りに艦橋へ向かおとしたが、胃の痛みがひどく、途中で力尽きた。
「くっ、指揮をせねば」
額に汗を浮かべ、壁にもたれつつも頑張るが、
「ぬお〜」
と足が止まる。艦内用の通信機を取り出し、医務室に救援を求めようともしたがやめた。
「何としても行かねば」
と頑張るのである。
電子情報収集空域(観客空域)
護衛をしていた部隊から引き継ぎをして、部隊を前衛と後衛に分けて護衛を開始した。敵が来た場合、前衛が防衛ラインを敷き時間を稼ぎ、後衛は漏れた敵を迎え撃つ。
「そういえば、敵の補給ラインは、どうなっているのかな」
(和馬、どうかしたの)
「いや、敵の補給ラインがどうなっているか気になったんだ」
「僕も同感だね」
回線を開けっ放しにしていた、ハッドから土屋の顔の映像が出てきた。
「USAJがどういう作戦を立てているのか分からないが、手薄とはいえ沖縄にいた部隊を戦略的撤退にまで追い込んだんだ、艦隊だって生半可なものではないし、それを支えるには相当な補給ラインが必要だ。グアム・サイパンから補給を出すとしても、潜水艦隊による補給ラインの破壊されるのは分かっているはずだ。どうやって確保しているのだか」
どんな軍隊でも補給は切っても切れぬ問題である。大規模な部隊となれば、それに見合う補給ラインを確保しとかなければ、ただの船になってしまう。
「たぶん、航空輸送か随伴で来たのだろう」
「近藤中佐」
通信の窓がいきなり開き話しかけられたのでびっくりした。
「海上輸送だけでなく航空輸送も手段の一つだ。ロイグ、お前空軍だろ、なんでそこに気がつかなかったんだ」
土屋は困るようにして、
「あ、ええと、すみませんいたりませんでした」
と謝る。(本当は検討していたんだけど)と心の中で思う。
「けれど中佐、航空輸送だって着陸時を狙って、陸軍の部隊がゲリラ的に攻撃をしかけると思うのだが、あとマンモス輸送機できたとしても絶対量は決まってくるし」
俺は、助け舟と疑問をいっしょにだした。
「数とピストンでやっているんじゃないかな、たぶんC−5輸送機で。アメリカの企業がハヤブサと同様の機体を開発したという話は聞いたことないし」
「なるほど」
と男たちが敵の戦略について話している中、
(この前のお茶、美味しかった)
(よかった、あれ、マスターが買っておいたものだったんです)
(そうなの?悪いことしちゃったわね)
(いいえ、誰かと飲もうと思っていて、ちょうど良かったもんで)
平和にこの前の茶の話に花を咲かせていた。
第2外洋機動艦隊 空母朝顔
「艦長、第一段階成功の連絡きました」
「そう、では全航空部隊に攻撃開始命令を」
「了解」
通信担当の士官が各部隊に連絡していく。
(この作戦、必ず成功させてみせるわ)
艦長の付島冨美子は決意を固くする。彼女にとって攻撃型空母朝顔での初めての実戦である。
「艦長、そんなに気張らない方がいいですよ」
と、初老の副長が紅茶の入ったカップを差し出した。
「ありがとう」
カップを受け取り一口すする。ミルクティーと思ったら、レモンの香りと酸味とが一緒にした。
(不思議な味ね)
「艦長は、駆逐艦時代にも実戦経験はありますから平気ですよ」
「そう、だけどなんか気が張るのよね、分らないんだけど」
「ふむ」
艦長は実戦経験者だが、それはあくまでも駆逐艦での、実力があったからこそこの攻撃型空母朝顔の艦長になれたのだ。
「私がしっかりサポートせねば」
ディスプレイを見ながら副長が小さく呟いた。
USAJ艦隊周辺空域
艦隊に随伴していたコンテナ船からFX−10を組み立て、防空に充てたが、焼け石に水で次々と食われていき、艦隊全体によるジャミングも、Eゼロなどの大量の電子戦機により穴あきにされている。
「提督、敵ジャミングによりレーダーが真っ白です、迎撃用のミサイルの大半が無力化されています」
「こんちきしょう!テレビとIRで何とかしろ」
「了解」
提督は周りを見て、艦長の姿が見えない。
「艦長はどこにいる、この忙しい時に」
電子戦展開空域
「よし、そろそろかな」
(そうですわね、ウイルスの効果が発揮するタイミングですわね)
Eゼロによるジャミングに並行して、ウイルス攻撃も実行されていた。このウイルスは、遅行性タイプで、敵の無線、IFF波などに乗せて敵リンクシステムを使い通信相手、通信者に小さく乗せ、ある程度の量、人間で言えば致死量に達するとウイルス本体が完成する。彼はこのウイルスの作者であり、この攻撃での中心的存在で山下一貴と相棒のフェイミンである。
(しかし、主殿の作るウイルスソフトは一癖も二癖もありますわね)
「癖があった方が作りやすいし、面白い」
(それはそうですけど、準フィールドタイプのウイルスを作っておいて、それを生かす場がないのは残念ですね)
「いや、給料システムの所に忍ばせて他の軍人の給料から100円ずつ別口座に流している」
(主殿・・・・、それは犯罪じゃないですか)
「ばれなければ、問題はない、それに流しているのは孤児院だ」
彼は半ば遊びでウイルスを作ったのはいいが、使うところがなく、ほったらかしにしておいた。しかしある日の新聞で、彼の知っている孤児院が危機らしい事を知る。小さい頃そこの孤児院の子供たちと遊び、院長にはお世話になった。そこでウイルスを使い経済支援を蔭ながら行ってきたのである。しかし、実際のところは、ばれているが上層部も問題なしとして片付けている。
「たぶん、ばれてはいると思う、けれど何も言ってこないということは、問題ないこということだ」
(なら、いいのですが)
後ろの電子戦士から、ウイルスの効果が発揮されたとの報告が入ってきた。
USAJ艦隊は混乱に陥っていた。艦が急速に加速した。
「どうなっている」
「舵がききません」
平行に保っていた、味方の艦との距離がつまり、三角形の頂点のように激突した。
「うわー!」
巨大な鉄の塊がぶつかり悲鳴を上げる。艦内にいた者は皆飛ばされる。特に飛行甲板で作業をしていた者は、酷くぶつかった衝撃で海へ投げ出された。
これは艦隊全体で発生して、各艦が、行動不能、さらに、
ドン、ドン、ブオー、CIWS、火砲などが、勝手に動きだした。しかも、モールス信号で降伏せよと言っているのである。
「あいたた、いったい何がどうなっている、砲塔兵器類が勝手に攻撃をしているではないか、CDC一体どうなっている」
提督は、痛む体で急いでCDCに繋いだ。
「こちらCDC、こちらでも状況が分かりません。ただ、コントロール機能が完全に乗っ取られている事以外は」
「リセットはしたのか」
「いえ、できません」
「あいたた、」
壊れた艦橋に艦長が胃をさすりながら入ってきた。
「艦長、君は今までどこに行っていたのだ」
鬼の形相で提督が艦長に詰め寄った。
「そんなことより、日本側に降伏を申し出た方が良いのでは」
「なぜだ!」
艦長は胃の痛みを我慢しつつ、鬼のような迫力で。
「兵を無駄死にしないために」
「やむなしか」
提督は苦虫をつぶしたような顔で、決断を下した。
敵、USAJ艦隊から降伏信号が発せられ俺たちの戦いは終了した。そして基地へ帰還した。
後処理は、上層部の仕事。俺達は、デブリフィーングを行い、近藤中佐からあることを聞かされた。
「朝顔に行けってどういうことですか」
俺は、すっとんきょうな声を出した。
「声がでかいよ、上層部が第1と第3でのシステム機の活躍により、日本最強の攻撃型空母朝顔にも、必要と判断したんだ」
「それで俺かよ、飛実のシステム機用装備の実験はどうするんだ」
「そっちは問題ない、それと他の部隊からも派遣されるみたいだ」
そのまま顔の向きを変え、
「それと、土屋お前も含まれている」
「僕もですか」
「そうだ、それと俺も行くことになった、しばらく娘に会えないのが残念だが」
そのあと、朝顔に行く準備をし、チームに電話でしばらくテストには参加できない事を伝えた。
「というわけで、しばらく、テストには参加できないから」
「わかった、お前が抜けるのはつらいな」
「悪い」
「けれど、シュミレーターは持って行ってもらう」
「どうゆうこと?」
「レース感覚を麻痺させないためと、シュミレーターでのテストはおこなってもらうから」
「了解」
シュミレーターでのテストは、FIAでも認められていて、シュミレーターでの場合2倍走ると、その半分を年間距離に入れてくれる。性能が高く、実車並みのデーターを取れるから、多くのチームで使われている。
「小牧基地までは持って行ってやるから」
「助かる」
翌日、圭輔と共に海軍のトラッカーに引き連られ、小牧基地に向った。シュミレーターが梱包されている箱が二つあり、一台はチームにあったのと、もう一台は、俺の個人スポンサーが用意してくれたもので、FIA公認のもので、民間、F1のチーム、どちらでも使えるとのことだ。朝顔で民間向けの製品の試験をやってくれと頼まれた。どちらもリンク可能で、対戦ができると説明を受け、トラッカーに積み込み、朝顔が待っている海域に向かった。
第2外洋機動艦隊上空
ゼロの出迎えを受け、朝顔に向かった。非常に大切な事を思い出した。
「あっ、俺空母に降りるのが苦手だったんだ」
(ど、どどうするのマスター)
アテナが慌てる、ゼロは水上機ではない、空母に降りないとまた空に上がれないからである。
「いいや、3回やってだめだったら、朝顔の着艦システムを使っておろしてもらおう」
(それが、妥当だと思うわ)
ロイグには、先に降りてもらい、なんとか、3回目で着艦に成功した、一回目は一番ワイヤーに引っ掛からず、2回目はワイヤーに掛からずスルー、とりあえずなんとか朝顔に降りられたのである。その後、艦長にあいさつに行き、続けて整備長にも挨拶をした。それらが終わり、空軍から派遣された他のパイロット達が待っているブリーフィングルームに向かった。
自己紹介等の事を済ませ、解散になるところで、艦長が入ってきた。
「これから、ささやかだけど貴方達の歓迎会を開くから」
といいつつ、隊長である山下達也大尉の飼い猫をちゃっかりと抱いていて、そのままお持ち帰りをしていた。
「艦長、ちょっと〜」
歓迎会を受け、F1での話をしたとたん、多くの人に質問攻めにあった。アテナと共に部屋に戻ったのは深夜を過ぎていた。なお、部屋は隣同士である。
「疲れたね」
「そうだな」
俺の部屋で軽く、休息を取り、明日に備えた。



あとがき
超遅延性のウイルスで、沖縄戦(海上のみ)を終了しました。本当は、もっと戦闘描写を入れてもよかったのですが、環境保護団体アースディフェンダーの圧力と言うとこで。
次はハワイでのXM迎撃戦を書きます。あと、閑話も。



 2008/03/29:アイギスさんから頂きました。
秋元 「2053年の戦闘は、電子戦のウェイトが非常に高いです。それはジャミングよりも、もっと直接的に行う電子戦、ハッキングやウイルス攻撃です。スタンドアローンにされるとどうしようもありませんが、それはそれで、相手は孤立するので成功」
アリス 「……そこで重要なアイテムとして進化し続けてきたのが、レーザー通信装置ですね。……範囲が限定されてしまいますし、天候にも左右されますが」

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