外洋機動艦隊外伝 蒼の翼 | ||||
メキシコ駐留USAJ司令部は、ハワイが攻撃を受け占領された(日本と正規アメリカ軍から言わせれば解放)との情報が入り、戦力の大半をパナマ防衛に回すよう指示が上から来た。 「どうするつもりだ、命令を実行するつもりかエドワーズ司令」 「それしか無いだろう、軍人として」 「この地は戦略的価値を失ったのか?それとも補給のためだけに必要だったのか?」 「さあ、どちらだか」 いま、私の目の前で話している彼は、元傭兵で非公式ではあるが数少ない実践を経験し、海外の特殊部隊での経験も積んでいる私の友人だ。彼は以前、教官職を打診されたが蹴っている。 「この戦争が終わって、中国で内戦が起きればアメリカも立て直しに景気がつくだろうな、俺らの仕事もつながる」 「おい、USAJが負けると思っているのか、諜報の耳がどこにあるかわからんぞ」 あたりを警戒して、彼を睨む。彼は気にした風もなく、おどけるように言う 「おいおい、そんなに怒るなよ」 「怒ってなどいない」 フン、と鼻をならして見せると彼も悪かった、と言い姿勢を正した。 「空に関しては、FX―10を大量生産して消耗戦に持ち込めばこちらに分があるだろう、ただ陸軍戦力で特に歩兵はどんなにしたって限界はあるし、それに現代戦はランチェスターの法則だ、これを打ち破る手段を聞いたことはあるか」 「ないな・・・」 自分でも分かっていたことだが、他者から指摘されると改めて現状の不利を思い知らされる。そんな私を見て、彼は幾分明るい声を出す 「そうがっかりすんな、給料分は働くよ、」 「ああ、頼む」 彼は部屋を出て行こうとして止まった。 「でも敵が上陸したら早目に降伏しろよ、家族が待っているんだろ、本国で」 そう言って彼は立ち去った。 人の気配が無くなった部屋で彼の言葉を反復し、思わずつぶやいた 「降伏か、考えておこうかな」 外洋機動艦隊外伝 蒼の翼 第6話 オワフ島飛行場 いきなりではあるが、スクランブルコールがなった。そこかしこで寝ていたものは飛び起き、パイロットはどたばたと格納庫に向かい、他の者もそれぞれの位置に就こうとするなか、スクランブルのサイレンが止まり司令官の声が流れてくる。冷静だが、明らかに怒気が込まれていた。 「諸君、昨日はこのハワイの巡航ミサイルの防衛に成功したのは見事だった。しかし昨日の宴会は明らかに羽目を外しすぎている。二日酔いでは緊急時に満足に対応することもできないだろう。以後注意するように」 放送を聞いたものは緊張で固まっていたが、司令の放送が終わると表情を苦笑いに変えた。 昨晩は司令官がわざわざスクランブルコールを使って「おしおき」をするほどひどい醜態をさらしたということだ。 各自の部屋に戻って行く。羽目を外したが理性を保っていた片山は、同じく朝顔に帰る明の肩を担ぎ一緒に歩いていた。 「うう、頭痛い」 「だいじょうぶか?」 明は司令官の放送どうり、完璧に二日酔いのようだ。死体のような顔色で呻いている。 「早く戻って、頭痛薬飲まないと」 「そうだな、早く戻ろう・・・あ、」 ドックと飛行場を繋ぐボート乗り場のところに二人のパートナーがいた。二人の姿を見つけると、小走りで近づいていた 「やっぱり、二日酔いになっていましたね、隊長の言うとおり」 なにやら、納得した表情でラフィールがうなずいた。 「そうですね、用意しておいて正解でしたね、頭痛薬と水」 やっと、ボート乗り場についた。 「いったい何の話だ?」 「頭に響くからあまり大きい声で喋らないでくれ」 肩に担がれたまま明が呟くように言う。そんな明に見かねてラフィールが持っていたものを差し出す。 「はい、マスター、頭痛薬と水」 「おお、助かる」 辛い状態の中、なんとか薬を受け取り、水で一気に流し込む明。 「あと、おかゆ買っておきましたよ」 アテナも持っていた袋の中身を出してくれた。弁当箱の容器に朝粥と書かれていた。 「おお、夜勤明け隊員専用の食堂特製お粥じゃないか。これってタイミング合わないと中々食べられないんだよな」 和馬のいうとうり、このお粥はシフトが交代する時間、つまり昼のシフトだと仕事直前に販売され、夜勤明けでないと買えないということである。なお、和馬は一度隊長と夜間シフトでの警戒任務をした時に食べたことがある。 「とりあえず、部屋に戻って食べるか」 「そうだな・・・ぐうっ」 ズキ、明の頭に思いっきり激痛が走った。薬が効いたかなと思ったら、まだ効果がでてなかったようだ。 「大丈夫か?」 「あんまり、大丈、夫じゃ、ない」 とぎれとぎれに答える明は本当に苦しそうだったが、ラフィールはあきれ顔だ。 「自業自得ですよ、マスター」 激痛と戦いつつ明は、ラフィールと共に部屋に着くまでついて行き、その後自分の部屋でアテナと一緒にお粥を食べた。中身は、基本(?)の塩とねり梅の他にたくあんになぜか長野県の特産品、野沢菜漬けが入っていた。 「なんで野沢菜漬けが?」 「厨房に長野県出身の人がいるんじゃないかしら」 朝食の粥を食べ終え、ミーティングルームに向かいこれからの予定を聞いた。それによると、明日、第4艦隊がハワイに到着してから出港とのことだ。本日の訓練は休暇になった、二日酔いのやつが他にも大勢いるらしい、しばらく地面を踏めなくなるから町を楽しんでこいとの館長の配慮だ。 「いるんですか、明の他に二日酔いの人」 「ああ、かなりいるそうだ」 午後は非番という形になり二日酔いで寝ている明を除く部隊全員で買い物に出かけた。艦内でも十分な買い物はできるが、変わった物もいいのではとのレクシュからの提案だ。しかし、男性陣にとっては地獄の始まりだった。艦内でも日用品や服等も売ってはいるが、数は少なく、種類もそうは多く無い。結果、町に繰り出した女性陣は多くの服を買い求めることになる。それはもうブランドから安いものまで幅広く買い、特に隊長の達也はパートナーと二日酔いで寝ている明のパートナーのラフィール、仕事を終わらせ自分の買い物に来ていた艦長の冨美子大佐の分まで出す羽目になった。冨美子大佐曰く 「レディにお金出させるつもり?」 とのことでしぶしぶ出すことになった。女性陣は大量の買い物をすると満足気に、船に帰り、男性陣は円をドルに換えてはいたが足りる額には程遠く、翌月のカードの使用明細に恐怖を感じながらそれぞれのクレジットカードを使い乗り切った。 翌日、朝顔嬢の鋼の心臓は鼓動を強くし、ドックに注水が始り、所定の水位に達してゲートが開かれた。 「微速前進」 「了解、微速前進」 身を守るために増やされた、対空兵器の重みに動じることなくドックを後にし、湾内の外側で待機中の艦隊に合流した。 同時刻、オワフ島に降ろされた一部搭載機部隊も合流すべく、滑走路のエンドに向かっていた。 「レイブン、二日酔いは治ったか?」 「なんとか、治った」 「そうか、それは良かった」 その時、イーグルの編隊が上空をアフターバーナ全開にして通過していった。まるで、本土に迎えない自分たちに変わりに託したぞという意気込みで。エンドに着き、ファイナルチェックを済ます。その胸を管制に伝え、発信許可をもらう。時間を惜しいため、編隊で離陸を行う。離陸開始、機体同士がかなり接近し、慣れてないものはスロットルを戻そうとするが、リーダー機にハッパを掛けられる。無事離陸を済ませれば編隊を整え終わるまで待機となる。 「礼を言っとくか」 (そうね) 通信ではなく、打電にした。 「思イハ受ケ取タ、自ラヲ正義トイウ愚カモノヲ、倒シマタ酒ヲ飲モウ」 原文を書き、ソフトを使い英語に変換し(下手なミスを避けるため)米軍の周波数に合わせ送信した。 すぐに返信が来たが、仕事が終わってから読むことにした。 「隊長、全機上がりました」 「了解した、これより艦隊の哨戒任務に就く、雛菊の長女と三女には敵さんのお出迎えがあったみたいだ、気を抜くな」 「「了解」」 各機から返答が来る。進路を艦隊がいる方に向け、経済巡行で向かった。その後、何事もなく、哨戒任務が終わり報告書と打電した中身とその返信をだして、本日の仕事終了。 メキシコへ向かう途中に何度かシーレーン防衛を目的とした、ミサイルボックスへの索敵撃破のための作戦を何度か行った。 メキシコ駐留司令部でも、敵艦隊に対しての作戦及びその準備を開始していたが、航空戦力の要FX―10が上の命令によりオートでパナマに向かい、補給と戦力補充もパナマが優先されて、エドワーズ司令は作戦の建て直しと無人機に対しては懲罰覚悟でシステムを書き換え戦力の流失を防ぐ手段にした。 「いいのか、こんなことして」 「仕方ないだろ、これ以上防衛戦力を削減されたくないし」 しかし、のちにジェイン司令がFX−11で視察に来た時にはさすがにばれて、泣く泣く戦力をパナマに回した。それでも、FX−11を恩情で10機も回してくれたが、パーツやナイフエッジAAMの量が足りなく可能性があり、個人的にはパーツの共用、整備効率等などの理由からFX−10を30機回してほしかった。 「よかったな、FX−11が回されて」 「良くないよ!整備や作戦等をまた考え直す必要が出てきじゃないか、それでもFX−11は強力だけど使い方が難しいぞ」 結局エドワーズ司令は、今までのレーダー感度のデーターを基に低レーダー感度時間帯での奇襲、燃料限界まで戦闘させ、最後は大型艦に対して自爆させるように考えていた。 「ずいぶんと気前がいいな、実に豪華な作戦だ」 「パーツが足りなくなって飛ばなくなるよりはましだ、航空戦力を割き敵空母の戦略的価値を奪えれば十分だ」 しかし、結果的にこの作戦をする前に連合軍によるロサンゼルスへの攻撃、陥落に伴い太平洋にいる有人艦脱出のためパナマ防衛に比重が置かれFX−11全機とFX−10はさらに数を減らされた。 「はあ〜、結局こうなったか」 「仕方ないさ、上の決定だからな」 旅立っていく無人機を見てため息をつき、また作戦の練り直し、撤退時の行動に関する過去の文献を読み直し、当面はガーディアンシップでの奇襲で対応しようということになった。のちにメキシコから持って行ったFX−11と10は、第1外洋機動艦隊の巡航ミサイルで大半が消え、一部は回収されるという結果になった。戦後生き残った彼はこの結果を聞き、ぼやいたそうである。 一方、第2外洋機動艦隊でも上陸作戦への打ち合わせ、高高度での偵察、空襲と見せた敵航空機に対する攻撃作戦が行われ、これは足の長さと空中給油を利用し、ロサンゼルスを奪還した時点でレジスタンスの動きが活性化と、さらに連合軍が展開している航空機による鉄道設備への攻撃が本格化し、アメリカ北部に向かう路線への攻撃は奪還後の補給と進軍のことを考えて控えられたが、南西部特にメキシコに向かう路線は徹底的に攻撃され、低レーダー感度下の大型輸送機による集中護衛方式と護衛船団方式で補給線の確保はしているが、後者はヨーロッパの各国の艦隊が連合して攻撃を繰り返し、船団に対して護衛は付けているが、海上と海中が見事に連携しているため無人艦を使ったとしても経験という面でUSAJは劣り、いたずらに被害を増やしている。 「補給と退路が段々細くなっているな」 「ああ、こうなると早期降伏か形だけの防衛戦を行い逃げまくるかだな」 この会話をしているうちにも第2外洋機動艦隊はアメリカE2艦隊と合流し準備を整え、巡航ミサイルと上陸援護担当長門以下軽空母百合と桔梗を含めた艦艇による艦砲で上陸地点及び近隣の敵陣地への航空攻撃を行ったが、のちの戦果確認でダミー陣地大半ということがわかった。この隙を突き無人機たちが爆弾を抱えジャミングを行い、待機していた艦隊側に突っ込んできた。こちらの方が強いジャミングを展開して無効化したが、大型ミサイルの如く突っ込んできたのである。 朝顔艦橋 「無人機が特攻をするなんて」 「敵も必死なのか、それとも部品確保のためか」 「直援隊、コンタクト迎撃に移行しました」 「突破してきた敵機を朝顔に近づけさせないように、対空戦闘用意」 各艦艇からミサイル、対空法による攻撃が始まり、無人機はだんだんと数を減らしたが、それでも迎撃能力の低い駆逐艦等はかなり被害にあい潮風と旗風が大破した。ここまでの状況から言えばこちら側の有利が続いている。 「よし、気づいていないみたいだな」 「このまま、プレゼントを渡したら一気に逃げるぞ」 メキシコ駐留の有人機部隊が対艦ミサイルをぶら下げ迫っていた、しかも超低空で 「俺達に正義はあるのかな」 攻撃部隊の一人が呟いた。 「バカ野郎、俺達はUSAJだぞ。正義は我らにある。今は負けているが必ず世界は我々を正義だと認める」 「残念、自ら正義を名乗るやつはいつでも悪役側さ、投下」 混線による通信が聞こえ、彼らにはなにが起きたか分からずこの地球上から消えた。 (対地用クラスター爆弾で敵を撃墜とは並の人間が考えることではないですよ、マスター) 「いや、昔実際に爆弾で爆撃機を落としたという話を聞いたことがあるからおれもやってみたいと思ってな」 (はあ〜) ラフィールがため息をつき (隊長にいつも言われているはずです。・・・・) 「結果オーライに頼るな、だろ」 (そうです、あなたの場合それが多すぎますよ) 上陸部隊の直援に向かおうとしていたこのコンビはシステム機の感により、敵を察知するとこうして、クラスター爆弾による攻撃を成功させたのである。もっとも明は提案をしてラフィールが冷静に計算を行い、感と計算の精密さが混じり合いこの結果に繋がったのである。 この後、倒しきれなかった残敵を大急ぎで合流した圭介ことシルフと共に掃討し、上陸作戦は成功に終わった。 USAJ駐留司令部 「国土の中央部に上陸とは、面白いな」 「面白くない、想定していたとはいえこのまま北か南かどちらかに行くかが分からないと対応が難しくなる」 敵上陸の一方を受け、事前に迎撃のパターンを各部隊に流しておいたがそれでも敵がどのように動くかで対応の形も変わってくる。 「このまま北上してロサンゼルスの部隊と合流するか」 「案外、南下し連合軍と合流を目指すのかもな」 ここで結論を出すのも手ではあるが、実際に敵が動かないと分からない。そのため、敵の動向を探る威力偵察の行い、現在展開している部隊を敵が攻勢に出る前に戻し、脱出経路の確保と徹底抗戦を考えているものとそうでない考えを持っているものとに分け、部隊の再編成を実地した。他人の理由で無駄死にを避けるために。 数日後、空軍上層部から朝顔にいる空軍派遣部隊に対して帰還命令が出た。理由は、部隊の大規模展開の準備と岐阜のテスト担当のもう一つのコンビがシステム機用新装備の試験中に倒れたというとのことだ。 持ってきた荷物をトラベルポットに入れ、入りきれない荷物等はトラッカーで運ぶことになった。増槽3本にCFTを装備して空中給油を繰り返し、ハワイに向かう。 朝顔を発つ日、艦長の冨美子大佐に隊を代表して、達也隊長とレクシュがあいさつに向かった。艦長の仕事は多忙を極めていたが、時間を取ってくれた。 「寂しくなるわね、でも命令だからしょうがないわね」 「ええまあ」 達也ははにかみつつも 「それでも、我々空軍にいるパイロットにとっては訓練で、着艦の練習をしているとはいえ、実際にやってみないと分からないものが多く有り今回は本当に良い経験をさせてもらいました」 「それは良かったわ」 「戦争が終わったら一度飲みに行きませんか艦長、私のマスターの行く穴場のバーにでも」 「それは楽しみね」 「ええ、それではこれで」 2人で空軍式敬礼を行い、冨美子大佐も海軍式で答礼をする。二人が、部屋を出ようとした時、冨美子大佐に呼び止められた。今度もし朝顔に着任することがあればもうちょっとかわいいシステム機のコンビと一緒に来なさいと言われた。とりあえず考えておきますと答え、隊のメンツがいる上段格納庫に向かう。 さあ、長い旅の始まりだ。 戦後、あっさりといかないが順調にアメリカを解放し、本土に戻った和馬とアテナ以外は飛来した空軍の部隊と合流して、抵抗が激しい地域へ他の部隊と共に戦い抜いた。和馬達は、本土でのテストを引き継ぎ今回の実践で得られた経験を具現化させる開発に専念させられ、元々一部で問題になっていたF1でのテストは給料を受け取らないという条件と有給でやれとのことだ。 富士スピードウェイ 戦争の影響で次の開催地に行けなかったF1サーカスは日本にとどまり、戦争が終わるまで待たされた。その間、レース感を維持するためにJGP2やツーリングカーレースに参加し国内を沸かせ、そして今日は普段表に出ない3rdドライバーやテストドライバーの為のレースが行われる。本来は金曜日に行われるショートレースでも出ているが、今回は100%コースを走る。 「11番グリット、微妙な位置だわ」 「普段なら、裏ポールと呼ばれる好位置なんだけどね」 今回は、コンストラクター順位でのリバースグリット本来は予選を行うが、下位のチームにもチャンスを与えることに加え、非公式なものであるから、裏方がレースに出られる。 フォーメーションラップの時間が迫り、タイヤウオーマーが外されスタッフ達がピットに引き上げていく。フォーメーションラップの合図のシグナルが点灯する。コースの確認とタイヤに熱を入れる。グリットに着く直前、 「和馬、がんばって」 「ああ」 全車がグリットに着く。シグナルの一番下、横一線に赤い灯が一つづ灯り、 「ブラックアウト!」 あとがき すみません、1月の時点で3月までに書こと掲示板で書いたのですが、結局なんだかんだで4月になってしまいました。今回の小説が私にとって初めて完結させた、作品であり試行錯誤で主人公の出番が少なくなったり、作ったキャラや他方から借りたキャラの出番や差別化等ができなかったりと色々と問題を抱えていたと思います。結局題名に名前負けした節がありますが、それでも完結させられたことができてよかったと思います。 |
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2009/04/09:アイギスさんから頂きました。
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