戦場のフェンリスヴォルフ




2850年、人類は科学の頂点に立った。地球を1時間で一周する速さの飛行機に衛星軌道上には、居住用コロニーが3つ浮かんでいる。
だが、その時代も早くに過ぎた。ある科学者が地球の地下深くにウランを上回るエネルギー物質があるのを発見し、掘削機械に人工知能を与え、各自で採掘させていた・・・が、とある国が資源欲しさに戦争を起こした。機械同士の消耗戦だった・・・・・
最終的に某国が最終兵器を使った・・・・・その兵器は地球上を炎に包み、地球上から人類は死滅した。その年が2860年だ。
その後、軌道上に残された人類はその事を知り、地表に降り立った。だが、地球上を支配していたのは採掘機械と武装した戦闘機械に謎の人工知能生命体だった。その生命体に人々は「エルモア」と名づけた。
そして・・・・・3000年・・・・・・・人々はエルモアに対抗するために武器を持った。そして、その時代に最も優れていた遺伝子操作で猫耳や犬耳を有した人種、「獣人種」を生み出した・・・・・・・・


3012年、7月12日、首都イーリンブルグ郊外フリア平原、時刻、午前10時30分
草原をエルモアの戦車が通る。エルモアの使用している主力戦車のディーンだ。
「くそっ!ディーンが5!このままじゃ・・・・・」
指揮官が弱音を言い出した。その時、無線から声がした。
≪こちら、第104戦車中隊。聞こえるか?こちら・・・・≫
「聞こえている!援軍か!?こっちは猫の手も借りたい位に戦力が乏しい。急いでくれ」
≪にゃん。わかってるにゃ≫
「ふざけている場合か!早く支援を・・・・・・」
話し終わる前に無線機を切ってすぐに部隊内の無線に変える。
≪さぁて、お決まりのセリフも言ったしね。行きますか≫
≪もうちょっとインパクトのあるセリフにした方がいいかな?≫
≪ワンコのセリフも作ってくれないか?≫
「別にこのままでいいでしょ。全小隊、前進!」
≪ダール小隊がけん制する。そのうちに左右に回れ!≫
≪メイル小隊、了解≫
「ミノー小隊、了解した・・・・車体に荷物くくり付けたままだった・・・・」
ミノー小隊の車両には日用品を包んだ積荷が乗っている。
≪降ろしている暇なんてないかも。このまま突っ切る≫
全車両が前進し、ダール小隊は正面を突っ切る。メイル小隊、ミノー小隊は左右に別れて停車する。
「よぉし!砲撃開始!」
「あいあいさ~」
垂れ耳の少年がスコープを覗き、揺れを想定して砲撃を開始する。
移動中の砲撃は、命中率が著しく低下するが、その少年は難なくやってみせる。
左右に分かれたメイル、ミノー小隊の戦車が砲撃を開始。ディーンの逃げ場は後方だけ。
「1つ撃破!残りは後退!」
≪おわりぃ~。皆お疲れさ~ん≫
≪さて、帰りますか≫

3012年、7月12日、首都イーリンブルグ内サイデル基地、時刻、午後2時11分
全員、遅い昼食を取っている。
「あ~。ハルトマン中尉がまた肉料理だ」
「ほんと。魚も食べないとだめよ?」
猫耳の少女達から攻撃を受ける犬耳の少年達。
「え~い!俺らは狼の血が流れてるから体が肉を要求するんだよ」
「そうそう。狼の知恵が戦闘に役立ってるんだからこれ位で文句言わないでよね」
ロイディ・アイマン少尉が垂れ耳を動かして言う
「魚もいいけどやっぱり、この筋があるところの方が噛み応えあって美味しい」
ミディア・ルイン軍曹が頬を染めて肉を頬張る。
周りの少女達のテーブルには魚料理が並ぶ
「まあ、健康に問題がない限り強制も出来ないわね」
テレミス・ローク大尉が鯖の塩焼きを食べる。
「でも、3週間連続よ?」
ミルティ・ホワイト少尉が呆れ顔で言う
「別に構わなくても・・・・私達だって魚をよく食べるんですし・・・ですよね?ハルトマン中尉?」
ミント・アドバード軍曹が覗き込む。両耳がぴんと立っていて寄り添うように生えている。
この第104戦車中隊は獣人種で編成された部隊だ。
それぞれ、頭の上には獣の耳を有している。
獣人種を研究しているのは、なにもマニアックな趣味ではない。軍が発注している戦車などは大抵はドウラン社の工場で作られている。
開発も行っていて今の主力戦車はタルエンMk-Ⅱ改だが改良型と言えどエルモアの新型戦車の前には無力だった。
装甲は2発で撃ち抜かれていて搭乗者の生存率も低い。そこで開発されたのがティティンE型だ。
E型は主砲を105mm砲に載せ換えて装甲を最新技術の傾斜装甲で固めて装甲を3.5%増量させた。その上、エンジンまで性能が上がった。
だが、主砲が大きくなりその上、装甲まで厚くなったせいで普通の人間が入るには狭くなってしまったのだ・・・・・
そこで、遺伝子操作で獣人種が誕生した。
身長基準は158.2cm以下だ。
「そんな意地汚い狼になんて色気使うんじゃないよ、ミント」
「そうですか?・・・・・私は好きですけどね。ハルトマン中尉の事っ」
そう言い、腕に抱きついてくる。
「あら、もっといい男がいるのにそんなのにするの?」
テレミスが白米を食べながら言う
「ハル中尉の悪口は言わないで下さいよ。中隊長」
「ま、そこまで言う必要はないけど色気は使わなくてもハルさんはミントさんの事が・・・・」
「うがぁぁ!!!!!ミディ!轢くぞ?本気で轢くぞ?」
真顔でミディアの顔を見る。
「ま、まあ。なんだ、ハルさんの行動を見れば一目瞭然」
もう無視して肉を頬張る。

3012年、7月12日、首都イーリンブルグ内サイデル基地、時刻、午後4時24分
さっき買ってきた新聞と雑誌を自室で読んでいる。
部屋にはベッドなど日常で使うもの意外は少ない。机にはタイプライターにペン、レポート紙が置かれていてその隣に資料が束ねてある。
それにしても暑い。部屋の温度計は29.2℃を指している・・・通りで暑いわけだ。
その時、ノックが三回。軽やかに叩かれる。
「どちらさん?」
ソファーに座りながらドアの向こうの人物に問いかける。
「えと・・・ミントですけど・・・」
以外な客だ。いつもはミディアかロイディが部屋に来て数少ない扇風機を堪能するのだが・・・その関係だろうか?
とりあえずドアを開ける。
「えと・・・少し、お話してもいいですか?」
夏期軍服を着ていたが上半身は裸だった。
「あ、今服きるわ」
急いで椅子に掛けてある半袖に腕を通す。
「どうぞ」
ソファーに座ってもらい、冷えた麦茶を出す。
「中尉はよく新聞を読むんですか?」
「まあ、知らない情報とか載ってるから軽く目を通すぐらいだけどね」
麦茶を一口飲むミントだがどこかそわそわしている。
「どうした?落ち着かない?」
「いえっ・・・そう言う訳では・・・」
よく服を見ると胸のネクタイの辺りに黒い物が見える。
「ごめん、少ししじっとしてて」
そう言い、胸の辺りの黒い物体を取る。
「やっぱり・・・マイクか・・・おい!腹黒猫ども!盗聴なんかするな!以上!」
そう叫ぶと床に落として踏み潰す。
「あ、ありがとうございます。どうも中尉を騙すのは気が進まなくて・・・」
「いいよ。実際、君の事が好きなのは事実だから」
「ほんとですか!?」
顔が輝く。
「ああ、素直なところと何事にも精一杯取り掛かるところが良いと思う」
「そういえば、中尉っていつも部屋で雑誌とかしか読んでないんですか?」
確かに、部屋には本と言える物は多くない。
「ん~・・・・いつもそうだな・・・・・あ、そう言えば買出し当番だっけ?俺」
「あ、そうそう。皆の買い物メモを預かって来ました」
メモを見るとやはり猫缶の文字が多い。しかも店の指名付きで・・・・


3012年、7月12日、首都イーリンブルグ、時刻、午後4時58分
「ふぃ~・・・注文の品はこれぐらいかな?」
車の荷台に結構な荷物が積んである。基本的に猫缶が多い・・・・・
街中を軍用車で走っているとなにやら屋台でいい匂いがする。
「うおっほ、牛肉の胡椒焼きだ~い♪自分の分にあいつらの分~」
ご機嫌で車から飛び降りて注文する。
「おまたせ~い」
「そう言えば、中尉とかはとても仲間意識が強いんですね」
「犬社会は何処もそうだ」
「はあ・・・・」
「軍みたいにボスがいて木の根のようにそれぞれに別れて行く」
雑談していると腰に下げてある無線機が鳴る。
「あ、ごめんこれ持ってて・・・・・はい、ハルトマンです」
胡椒焼きをミントに渡し、無線に出る。
≪ローグ大尉だ。至急、基地ににもどれ≫
「はッ、直ちに戻ります」
無線を切り、肉を受け取ってエンジンをかける。
「何か急用ですか?」
「隊長が御呼びだ。急ぐから掴まって」
基地まで急いで戻る。

3012年、7月12日、首都イーリンブルグ内サイデル基地、時刻、午後5時12分
「ただ今、戻りました」
荷物を机の上に置いて敬礼する。
「早かったわねぇ。意外と近くだったのかしら?」
無線の声とは全く違う雰囲気だ。
「あ・・・あの?もの凄く緊張感が張り詰める声でしたけど?」
「ああ~・・・・演技」
その言葉と同時に机に突っ伏した。
「あぁ・・・・親衛隊のハーフトラックに突っ込んだ・・・・・当て逃げだ・・・・」
「うわ~・・・・やっちゃたね。ハルさん」
ミディが慰めてくれる。
「大丈夫よ。かなり重要な任務で元帥から命じられたね」
「じゃあ、免除に?」
「当たり前よ。それより内容を言うからよく聞いてね」
任務内容は軍最高司令部からのものでこのイーリンブリア王国から一つ山を越えたところにあるゲリアリア皇国までの護衛だった。
ゲリアリアの王子と我が国の女王陛下は恋人同士で結婚するらしいのだが、北のところにロールイス共和国とフリタリア帝国があるのでなかなか挙式の話が進行しないらしい
10年ほど昔に一度だけロールイスとフリタリアの連合軍が二つの国に攻めてきた。
イーリンブリアとゲリアリアの圧勝だったが、まだ諦めてはいないようで移動中の女王陛下を襲うらしいのだ。
「今日、ちょっとしたパレードがあるの、ハルが当たったのもそのトラックね。そのために都市を行進した後、ゲリアリアまで進軍。簡単な任務でしょ?」
「確かに」
「帽子だけしっかりと被っておいてね。では搭乗!一度城まで向かう!」
「「アイサー!」」


3012年、7月12日、首都イーリンブルグ内イーリンブリア王宮、時刻、午後5時40分
「姫様、パレードに遅れます。お支度を」
長い青色の髪を揺らしながら着替えを済ませる。
左右に二人のお世話係が荷物を持っている。窓の外には豪華な親衛隊専用のティティンA型が5両とハーフトラックが4両に女王陛下専用の黒いドウラン社製の高級車が止っている。ハーフトラックの中に側面に損傷が見える・・・・
親衛隊の隊員が腕時計を見ながらイライラしている。
「いつになったら護衛が来るんだ!」
「まだ時間はある。それにしても俺達でも護衛は出来るのにな」
隊長が近づき、注意する。
「私語は慎め。実戦経験の長い部隊が護衛に当たるのだから心配は無い」
そうしているうちに城の敷地内に第104戦車中隊の戦車とハーフトラックが止る。
テレミスが戦車から降りて全員を整列させて敬礼する。
「第104戦車中隊、ただ今到着しました」
「第3親衛隊隊長のユーギリ・フェイス大佐だ。どうやら、猫耳戦車隊とは事実のようだな」
ユーギリが戦車の側面に描かれてある部隊マークに目をやる。
黒い子猫の後ろに牙を向いた狼が描かれている。それに比べて親衛隊は黒いチューリップと言う可愛らしいマークだ。
「女王陛下は?時間がありません」
「もう少しだ・・・・おい、そこのお前」
ユーギリが指差したのはハルトマンだ。
「お前・・・・さっき会わなかったか?」
ハルトマンがユーギリの顔をよく見て少しすると額から汗が出てきた。
「いいいい、いえ!今会うのが初めてです!サー!」
「?・・・・まあいい、パレードが終わるまでは我々も護衛に当たる」
ハルトマンが帽子を取って戦車の裏で汗を拭いていると女王陛下が城から出てきた。
「やっとだ。ミディ!エンジン回しとけ!」
「ほいさ」
そのやり取りにテレミスは自分の戦車に戻ってハッチを硬く閉めたい気分になった。
なぜか、女王陛下がハルトマンをじっと見ている。そして近寄っていく・・・・
「し、失礼します」
その言葉と同時に陛下の手が耳に触れる。
「!?・・・・・あ、あの陛下・・・・この耳がどうかしたのでしょうか?」
「本当に居たのですね。獣の耳を有した兵士さんたちが」
不思議そうに何度も触る。
「はい・・・・・本当ですが・・・・」
テレミスが急いで近寄る。
「陛下、第104戦車中隊の隊長、テレミス・ロークです。陛下の護衛を担当いたしますので何かありましたら遠慮せずにお申し付けください」
テレミスが陛下をハルトマンから離れさせる。するとすかさずにユーギリが近寄ってくる。
「陛下はお前達のような耳を持った兵士と会うのは初めてだ。少し世間知らずだかよろしく頼む」
「はッ、了解しました」
しっかりと帽子を被り、戦車に乗る。
その後のパレードも問題なく進行し、首都の出口である城壁まで来た。
「後は頼んだぞ!104戦車隊!」
ユーギリの声に敬礼で答える。


3012年、7月12日、首都イーリンブルグ郊外フリア平原、時刻、午後6時15分
前方をハルトマン率いるダール小隊が進み、両側をミノーが囲んで後方をメイルが続く・・・・
女王であるサフィア・セルティが運転手に話しかける。
「獣の耳を有した兵士さんたちが本当に居たのですね。兵士にしておくには勿体無いほど可愛いですね」
「ええ、ハルトマン中尉はこの隊でも一番の男前です。彼女が居るとか居ないとかでよく討論になります」
ちなみに運転手も猫耳を有した兵士だ。
「男前・・・・」
そう呟き、警戒の為にキューポラから身を乗り出しているハルトマンを見つめる。
だが、そのひと時もすぐに終わった。そのハルトマンが腕を上げてガッツポーズのように降ろす。
その指示でダール小隊の残りの2両が左右に分かれて攻撃準備に入る。
「何事ですか!?」
「あの辺りで戦いがあるみたいですね」
林の影から炎が見える。
「早く助けに!命令です!」
やれやれと運転手は無線を取ってダール1に繋ぐ
「こちらメイル小隊のリックです。女王陛下直接の命で戦闘を支援せよとのこと。繰り返す・・・・」
[バカいってんじゃねぇ・・・・・と言えるわけないか・・・了解した。メイル小隊はこの場で防御体制を]
「了解」
ダール小隊とミノー小隊が前進する。
「敵を確認。これまた厄介な・・・・フリタリアのマリアン級だ!数4・・・交戦中の友軍は偵察に出た第1親衛隊だ」
[了解]
フリタリア軍のマリアン級は装甲が薄い代わりに機動性とスピードが恐ろしい
「まだばれてない。今のうちに叩くぞ」
敵は親衛隊を徹底的に叩いているのでこちらの接近が分かっていない
「攻撃開始!」
一斉に砲撃を開始する。砲撃音が耳に突き刺さる。
こちらの攻撃に敵は混乱し、見方同士で衝突している。
数分後、敵戦車は沈黙。行動不可能になった戦車から敵兵が武装解除して出てきて頭に手を組んで跪く
「よし!負傷した者をハーフトラックに乗せろ!」
隊長のメイル小隊にあるハーフトラックに兵士を乗せる。
「基地まで戻ってくれ。今日はここでキャンプを張る」
「了解しました。直ちに戻ります」
ミディが履帯の吹き飛ばされたマリアン級を見ている。
「ハルさん、コイツはまだ使えますよ」
ブーツで吹き飛ばされた部分を蹴る。
「予備の履帯がある筈だから貴重な鹵獲車両だ。こんなところで評価が上がるとは・・・」
話をやめて、ティティンを一列に並べる。
数分後、ロイの姿を探す。
「ロイ・・・おい!ロイ!」
ハーフトラックで食糧を漁っているロイを呼ぶ
「自動装填装置に弾入れとけよ。4発ほど減ってるから」
「へいへい・・・・たっく・・・・自分でやればいいのに・・・」
その言葉が耳に入る。
「さっさと・・・・やれ!!」
ロイが食べた後の空き缶を投げつける。
「うわっ!暴力反対!」
そう叫びながらティティンへ向かう
行くついでにロイがテレミスたちと喋っているミディを呼ぶ
「ミディ!ハルさんの仕打ちを一緒に受けよう!」
「イヤだね」
自動装填装置は発射と同時に大量の煤を出す。装置のハッチを開けて中に入るとそれだけで体中煤塗れなのだ。
「うぅ~・・・・なら、砲弾だけでも運べ!」
「はいはい。では、隊長。失礼します」
「頑張ってね~」
ティティンに近寄り、ハッチを開けるとやっぱり煤が宙を舞う
「うっわ~・・・・・服脱いだ方がいいかな?」
「その方がいいと思うよ」
ロイが野戦服を脱いでシャツと短パンだけになり、防塵マスクをつけてもぐる。
「ゴホッゴホッ・・・・弾を3つ用意して」
濡らした布で溜まった煤を取り除いて駆動部分にオイルを差す。
「はい。弾薬ケース」
弾を慎重に入れていく・・・・・その時、外から女性の声がした。
「あの!ハルトマン中尉はどこですか?」
「はい?・・・・し、失礼しました!ハルトマン中尉でしたらハーフトラックの方に居られます」
マスクをつけたロイが顔を出す。
「お姫さん?」
「早くしてシャワー浴びようよ」
「おう」
ハッチを閉めて弾薬ケースを車体の側面に戻して簡易シャワーの設置してある小型テントに向かう
ハルトマンは食料品を漁ってロイとミディの為に軽食を作っている。
「中尉?」
「んあ?」
てっきり、ミントだと思って普段の返事で返すが・・・・
「し、失礼しました!お食事ですか?それでしたら中隊長に・・・・」
「いえ!・・・・・さっきのお礼を言いに参りました」
「お礼・・・・なんでしょうか?」
ハルトマンにはお礼を言われる事は何もしていない
「さっきの戦いの事です」
「それでしたら、礼はいりません。私達兵士は戦う為に居るのですから」
「ですが!」
「失礼します」
後ろからメイル小隊のハーフトラックに混ざって厄介な虫がついてきた。
「ルイセン・ディッカート大佐であります。女王陛下の護衛を命じられました」
メイル小隊のハーフトラックに近づく
「何であんな虫着けて来た?イリス」
アメリカンショートヘアのような耳を有した少女が怒る。
「そりゃ私だってあんなオヤジ連れて来たくないよ。けど「損害が出たはずだ」とか何とか言って無理矢理ついてきたんだよ」
ため息をついてディッカートのほうに歩く。要らない憲兵を連れたオヤジ大佐のところに・・・・
「失礼ですが、書類はあるのでしょうか」
「お前は」
突き刺さるかのような冷たい声と目を向けられる。
「第104戦車中隊、ダール小隊小隊長のエイリッヒ・ハルトマン中尉です」
「ふむ、その中尉とやらが何の用だ」
「書類は、とお聞きしています」
ディッカートの無能さに苛立ちながら敬語で喋る。
「そんなものはない。支援に来てやったのだ、喜べ」
後ろを見ると旧型の通称、パグノーズと言われるサティンMk-Ⅳ型突撃戦車とこれまた旧式のタルエンMk-Ⅱだ。
それぞれ、4両連れて来た様だがこの方の戦車だと戦いにもならずに全滅するので、そのところを警告する。
「失礼ですが、サティンMk-ⅣとタルエンMk-Ⅱでは歯が立ちません。せめてティティン型でお越しください」
「何を言うか!我々、第3機甲師団の戦車を侮辱するのか!」
どうやら、警告の意味を取り違えて侮辱に聞こえてしまったようで、顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら凄い顔で怒っている。
「侮辱などしておりません。大佐のお命の心配をしております」
「くッ!この若造がぁ!!」
堪忍袋が切れたのか、掴みかかって来て帽子とネクタイが外れる。
「!?・・・・・そうか、貴様は獣人種なのだな。犬の分際で人間に命令するな!」
右ストレートが頬にめり込み、吹っ飛ばされる。
サフィアはこの喧嘩に怯えてオロオロしているばっかりだ。
「くっそ・・・・やりやがったな!このクソオヤジが!」
ハルトマンは牙を剥いてディッカートと憲兵達を睨む
「お、お前が悪いのだ!身分を弁えずに指図した罰だ」
騒ぎを聞きつけて隊長たちが来る。
「大佐殿、部下が失礼しました。ですが、部下が言う通りです。あの型の戦車では危険ですのでお戻り・・・・」
「五月蝿い!獣人種共め!」
止めに入ったテレミスを乱暴に払いのける。
「きゃっ!!!」
「!?・・・・・てめぇ・・・・何してやがる!」
「ふん!動物は大人しく人間従えばいいのだ」
ミディとロイを振り解き、殴りかかる。
「ぐほぁ!!」
脂肪で膨らんだ腹に拳をめり込ませる。
ディッカートは腹を抱えてのた打ち回る。
「動くな!上官への暴力は重罪だ!」
周りに居た憲兵が拳銃を一斉にハルトマンに向ける。
「銃を降ろしなさい。早く」
第3機甲師団のハーフトラックからもう一人、誰かが降りてくる。
「ディッカートが失礼した。怪我は無いか?」
血を吐いて顔を睨む
「はぁ・・・・警戒するのは確かだが、あいにく私は見方だ。第1機甲師団、師団長のヒュッケルト・ローク少将だ」
その言葉に膝と手を擦り剥いているテレミスがよろよろと立ち上がり、敬礼する。
「あぁ、無理しなくてもいいの。テレミス、おいで」
優しい声でテレミスに近寄る。
「母さん・・・・ご無事で・・・・」
「そうよ、あなたを悲しませる事なんてしないわ」
しっかりと抱き合い、テレミスの頭を優しく撫でる。
「ローク・・・・・ローク・・・・母さん・・・・そうか!隊長のお母さん!?」
ミディが驚いた表情で言う
「そうよ。私はテレミスの育ての親、ヒュッケルト・ロークよ」
そうこうしている内にディッカートが起き上がる。
「くそぅ・・・・!?・・・ヒュッケルト少将!その薄汚い獣人種から離れてください!」
その言葉に眉が少し動いたのをテレミスは見逃さなかった。
「私の可愛い娘に薄汚いだと?いい度胸をしているな。おい!コイツを連れ戻せ!」
「うそでしょう!こんな獣人種が子供なんて!何をする!おい、離せ!」
トラックの荷台に括り付けられて走り去った。
「あなたは大丈夫?酷く殴られたようだけど」
「いえ、大丈夫です」
テレミスの顔はすっかり、憧れの眼差しに変わった。
「女王陛下殿、醜いところをお見せしてすいませんでした。私ども第1機甲師団はティティンA型を5両、補充にテスト型のタルエンMk-Ⅲを2両連れて来ました。この戦力で護衛に参加いたします」
改めて敬礼する。
「はい、とても頼もしいです。よろしくお願いしますね」
もうすっかりと夜が更けて今は真夜中の2時だ。
サフィアは食事を取らずにテントに戻った。
「陛下、お休みになられてください」
「すいません。兵士の皆さんに苦労をかけて」
そうサフィアは言い、パジャマに着替える。

3012年、7月12日、首都イーリンブルグ郊外フリア平原、時刻、午前3時32分
「北方、異常無し」
[南方、異常無し]
[西方、異常無し]
[東方、異常無し]
「全方位異常無し。引き続き警戒を怠るな」
[了解]
ハルトマンがダール小隊とメイル2を指揮する。
キューポラから顔を出して双眼鏡でよく見渡す。
夏とは言え、今日は少し冷える。よく冷えた水が入った水筒を探す。
「ミディ?水筒どこやった?」
「今ロイが使用中」
「ふい~・・・ほい」
「サンキュー」
キャップを外して水を流し込む。口の中に出来た傷が水のせいでひりひりする。
「散々でしたね~。あのおっさんは何がしたかったのか」
「単なる自殺志願者だろ?あんなオンボロ戦車なんか役立たずだよ」
その時、右からダール2が接近してきた。
「警戒行動はどうした?」
「いや・・・・その・・・・ハルトマンは大丈夫かなと思ってさ・・・・・」
ダール2の戦車長のミスティア・ローゼ少尉がキューポラから体を出す。暗くてよく見えないが頬が染まっているように見える。
ミスティアとは士官学校で同期だったので上下関係が無い。息もピッタリで連携がとても良い
「もう何か食べた?」
「いや、何も食べてない」
そう言うと中に戻って何かごそごそしている。
「はい。こ、これ」
「俺に?くれるのか?」
可愛らしい布に包まれた弁当だ。
「あ、あんた以外に誰が居るのよ」
「ありがとう、助かる」
そう言うとまた頬が赤く染まった。
その頃、メイル小隊の2号車の操縦士のミントは双眼鏡とペリスコープを合わせて使い、ハルトマンを見ていた。
「あぁ!ミスティア少尉が!」
その声に戦車長のアイゼン・ホルス中尉はミントの側に近寄る。
「どれどれ・・・・これは・・・・目標、護衛対象に食糧を渡した模様」
「えっ!?・・・・あ・・・・ほんとだ。何か食べてる・・・・くそ~」
二人がスコープを覗きながら騒いでいる中でユリアス・ミンク少尉は愛用のラジオを片手に小説を読んでいる。
ラジオからは深夜放送のユリアスお気に入りの名曲の館という番組をやっている。
ワーグナーやシューベルト、ヴェートベンなどの名曲を放送する番組だ。今日の曲は、ユリアスのお気に入りであるワーグナーのピアノ曲でピアノ独奏曲「チューリヒの恋人」だ。
小説は最近売れ出した作家で、とある犬が恋に落ちたが恋の相手である犬が引っ越してそれを探す旅に出るという作品だ。
[ダール1からメイル小隊へ、交代の時間だ。すぐに来てくれ]
ああ、この曲も後2分で一番良いところに入るというのに・・・・しょうがなく、電源を切って小説と共に鞄に入れる。
「今度、ラジオ局にリクエストの手紙を出そう・・・・」
そう呟きながらエンジンを回す。
「中尉!何ですか?あのお弁当は!?」
[繰り返す、メイル小隊へ、交代の時間なので至急、向かわれたし・・・以上。通信終わる]
「ちょ!中尉!」
無理矢理無線を切られる。
「酷いね~。そう思うでしょ?ユリも」
「人のプライベートを詮索する気はないけど?」
秘かにユリアスもハルトマン中尉が受け取った弁当の内容が気になっていた。
エンジンが唸り、重い金属音を響かせながらポイントまで向かう。途中、ダール小隊とすれ違ったがハッチを全て閉めていた。
数分後、所定のポイントまで到着した。
「ふにぁ~あ・・・・・眠い」
アイゼンが大あくびをする。
「ん?あそこ、何か動きました!」
急いで双眼鏡で確認する。人影・・・・・車のような影・・・・よく見るとそれはロールイス共和国の陸軍使用の戦車とハーフトラックだ。
「メイル2、3は左右でハルダウン。砲弾を再装填。弾種、形成炸薬、仰角6度、砲塔旋回30度」
指示通り、ミントが砲塔を旋回させて砲身を6度まで上げる。
「こちら、メイル小隊。敵を発見した。これより攻撃を開始する」
[ミノー1。了解した]
「ミント、外すんじゃないぞ」
「分かってますよ」
「今だ。撃て!」
フットペダルを踏み込み、砲身から形成炸薬弾が打ち出される。
空になった薬莢が床に落ちる音がする頃には、敵戦車からは炎が見える。攻撃を避けるために敵は撤退した。
「残りは撤退。偵察任務を終了し、帰投する」
[了解]
長い夜は終わり、地平線からは太陽が昇り始めている。


3012年、7月14日、首都イーリンブルグ郊外フリア平原、時刻、午前10時20分
「これは・・・・深刻な問題だ」
そういってテレミスはハーフトラックに残っている食料の残りを確認する。
何とか切り詰めても何も食べない日が2日間続く
「この近くに都市があったよね」
「あそこには我が軍の基地は無い。代わりに貴族が統治している」
ヒュッケルトがネクタイを締めながらテントに入ってくる。
「分けて貰うことは出来ないのですか?」
「出来る事は可能だ」
「気は進まないが、立ち寄るか・・・・陛下はそれでよろしいでしょうか」
「はい、あなた達が護衛なさっているのですからよい策があれば実行してください」
「はっ。全員、移動の準備をしろ」
各自の戦車に予備弾を積んでいる。
ハーフトラックから形成炸薬弾と徹甲弾を運ぼうとしたが重過ぎて持ち上がらない。そこに第1機甲師団の兵士たちが近寄ってくる。
「猫耳のお嬢ちゃんには重すぎるだろう・・・・うお、なかなか重いぞ・・・・本当にティティンの85mmか?新型タルエンと間違ってないだろうな」
「馬鹿野郎アイツは金属の質が違うだけで、ティティンE型のは105mmだろうが。20キロほど重いぜ」
隣で傍観している若い兵士が言う
「くぅ~・・・・手が~」
「見栄張って持つからだよ。ほら、手伝ってやるから」
若い兵士がミントに聞こえないように同僚に言う
「あの子、結構胸あるな」
そう言いながらメイル小隊1番車に砲弾を乗せる。
その時、ミノー1が近くで停車した。キューポラから身を出しているテレミスはバストが96センチもあるので夏季用制服の上からでも目立っている。
「うお、こっちのほうが胸あるぞ」
「すげぇ」
「ふ~ん、隊長に興味があるんだ」
アイゼンがキューポラから顔を出す。
「そりゃもう、あんな巨乳はそんなに・・・・・うわ!」
「胸あんなり無いな」
アイゼンはその言葉にむっと来た。
「ユリ!轢いてやりな!」
「うわぁ!!や、やめてくれ!」
若い兵士達を追い掛け回す。
テレミスは呆れて怒る気もしない
「出発も近いから車列を組め」
近くにある都市リーンブルグまで進む


3012年、7月14日、都市リーンブルグ、時刻、午前11時14分
待ちの周りにある防壁の門で止められた。
「止れ!見たところ、イーリンブリア王国の戦車のようだが」
「はい。ゲリアリア皇国まで女王陛下を護衛しております」
その言葉に門衛達がきりっとした。
「どのような件でしょうか」
「食糧を分けてもらいたい。これから山越えしなくてはならない」
「主に聞いてみます」
隣にある詰め所に入って数分後、門衛が出てきた。
「是非、陛下にお会いしたいとのことです」
いちいち無線で連絡を取る。
重い金属の門が開き、町並みが見えてくる。道の両側には人だかりが出来ている。
「なんか、こうして見られていると落ち着きませんね」
「何も悪い事してないから大丈夫だ」
ミントが少し不安になっている。
子でもたちが戦車に指を指して喜んでいる。
少し街道を走ると目の前に大きな館が見えてきた。正面玄関前には銃を手にした警備兵が居る。
「全車、停止!」
テレミスの指示通り、全車両が止る。
全員が車両から降りてサフィアも降りる。
「主がお待ちです。こちらへ」
タキシード姿の執事が案内する。館の中は白と深紅を基調として絵画や鎧が飾ってある。
ふと右に目をやるとそこにはイーリンブリア王国の陸軍が使用しているライフル銃のM2ガランドが左右、交差して飾ってある。
木製の部分には彫刻が施されており、家紋のようなものが彫られていた。
「こちらです」
執事がドアをノックし、開ける。
中に入ると窓際に老人が立っていた。
「イリノア枢機卿では?」
サフィアが驚いて近寄る。
「いかにも、イリノア・ルドルフ・アリアール・ラ・ドリオルです」
挨拶が済み、みんな席に座る。
「済まないが、帽子を取ってもらえるかね?どうも落ち着かなくてな」
渋々、全員帽子を取る。相手にどう見られるかは、もう分かっている。
「さて、食糧でしたな。姫、何日分お渡ししましょう?」
イリノア卿はハルトマンたちの"耳"を見ても動じない
「少し、よろしいでしょうか」
「何だね?」
「この・・・・耳を見てもどうも思われないのでしょうか?」
「私はね、獣人種と言う呼び方が嫌いでね。人種と言っているのだから人間と変わりない」
流石は枢機卿、簡単な文でも説得力がある。
「チャム、保存の利く食糧を彼らに」
「ただいま」
チャムと呼ばれた執事は部屋をでる。
「私どもはすぐにでも出発致します」
「では、トラックの方に積ませよう」
トラックに食糧を積み込み、出発する。
この先は敵の偵察機がよく飛来するアルヴィン渓谷だ・・・・

次回へと続く・・・・・



 2008/02/23:アルトマンさんから頂きました。
秋元 「どう見てもマニアックな趣味です、本当にありがとうございました(笑)。そんなに居るなら、一人くらいさらっても分からないよね、戦場だし──って冗談だよ
アリス 「……(ジーっ」

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