戦場のフェンリスヴォルフ




【過去】

3012年、7月14日、アルヴィン渓谷、時刻、午後5時20分
上空を見方のFS-13スナッチャーが飛んでいる。後ろには護衛のFA-22マルチがついている。
Fとは社名でフライファクトリー社で製造されている機体に与えられる記号だ。
「お、スナッチャーか。無線繋げられるか?」
「やってみます」
ミディが片手で無線機を弄る・・・・熱い・・・・鋼鉄の上でしかもエンジン排気口の近くで暑さに耐える。
「すみません、貴方の場所を取ってしまって」
サフィアが狭いキューポラに収まっている。
こんな羽目になったのは、作戦成功のためだ。
ここは唯でさえ、敵に発見されやすい上に大勢で行動すれば発見される可能性も高いので単独での行動になった。
「名誉あるこの任務を遂行するのは・・・」とヒュッケルトが言うと全員がこちらを見て多数決で決定した。
「繋がったよ」
「こちら、104戦車隊所属のダール小隊一番車。姫の護衛にあたっている」
≪こっちは第22飛行隊!この先、敵発見出来ず!随時報告する!≫
プロペラ音に負けないように大声でパイロットが喋る。
無線をミディに返して少しでも冷たい部分へ移る。
よく使われている山岳道路は陽動の別働隊が進んでいるので無理矢理山の中を進んでいるのだがヴァルロード山は、火山の関係で石や岩がゴロゴロしているので戦車が大きく揺れる。
「用があるのでしたら御呼び下さい」
地図とコンパスを見比べて方角を確認する。
「あ、今後の天候が気になるからさっきのスナッチャーに繋げて」
「ほい」
水を飲んでいたのか手が少し濡れている。
「こちら104、今後の天候はどうか」
≪天候か?特に怪しい雲は無い。多分雨は降らないだろうから・・・・・くそっ!ロールイスのA-12だ!どっかに身を隠せ!≫
「了解!」
ティティンのエンジンが唸る。
近くの倒木の陰に身を隠して上からグリーンネットをかけて全ハッチを閉める。
ハルトマンは中に入れないので倒木の枝の隙間に身を隠す。
上空でマルチの20mm機関銃の音が鳴り響く。数分後、何かが落ちる音がする。
≪撃墜した。攻撃機を偵察に出すとは・・・攻撃が目的か≫
「警戒しながら進む。地上部隊が居たら厄介だ」
≪マルチには投下型爆弾が2つもついているから安心しろ≫
それから数分間は会話も無く、スナッチャーの定期連絡だけだった。
「そろそろここらで夕食とって寝よう」
ついたのは滝のある小川だ。釣り人の多い川で知られている。
実際にいまも12人ほど夜釣りに来た釣り人が居るが、この釣り人たちは釣り人であって釣り人ではない
「現状は」
親衛隊のユーギリが釣り人姿で話しかけてくる。
「あんたは軍服じゃなくてそっちの方が似合うぜ」
「・・・・・」
周りの親衛隊員が笑っている。
「まあ・・・・自分でもそんなに嫌ではないが・・・・ではなく、敵に見つかったかと聞いている」
「いや、上空のスナッチャーとマルチのお陰で今だ見つかっていない」
「それは良かった。今から飯か?」
ユーギリたちのバケツにはイワナが数匹入っている。
「自分たちの食糧でよければありますけど・・・」
「どれだ・・・・・これは・・・・・」
言葉を失ってもおかしくない。なんせ、支給のレーションと水だけなのだから・・・・
「釣った魚を分けるからそんなものばかり食うんじゃない」
「そんなものって・・・・自分たちは一応、前線配備されているんですけど・・・・」
「まあ、魚は多く釣ってあるから全員分あるだろう」
ミディが大きなバケツを覗く
「これ、夏鮭?」
「偶然釣れたんだ。もっとも、毒性が強いから食べられないがな」
夏鮭は昔の戦争で使われた核兵器の放射線によって突然変異した鮭だ。
夏に川を溯上して卵を産むのだが、昔は放射能がまだ残っていて食べれなかった。
「食べれますよ?2年前に読んだ生態学の本に載ってました」
「・・・・その本はどうせ、民間から出版された物だろう」
「確か、国立研究所が作成した物だったはず・・・」
そう言いながらも上手な手さばきで鮭を魚をさばく
そして一枚の切れ端を食べた。
「ほら、大丈夫ですよ」
恐る恐るユーギリも口にする。
「美味いな、帰ったら報告しないと」
今日の夕食はイワナの塩焼きと夏鮭の刺身にイクラと言う豪華な食事になった。
レーションは車内に置いておく事にした。
「本当に美味しいですね」
サフィアが驚く
「確かに美味い」
酒は無いが、みんな盛り上がっていた。
どうも、親衛隊の隊員達は休暇を取り上げられての任務だったらしい
一段落して皿を洗い終わってみんな寝袋に入った。
それから数分後、サフィアが目を覚まして川で水を飲んでいるとハルトマンの近くで小さな明かりが灯っている事に気がついた。
見つからないように様子を窺うとロイとミディがハルトマンの膝に頭をおいて寝ている。まるで父親に甘えるように・・・・
そっと着た道を戻ろうとする・・・・が、足元にあった石につまづいてしまう。派手にこけてしまった。
「だれだ!」
ハルトマンは動けないので拳銃を構えて音のする方向に銃口を向ける。
「わ、私です・・・」
「し、失礼しました」
急いで拳銃をしまう
サフィアが近くに座る。
「この子達、小さいのに親元を離れて戦っているなんて・・・・そんなことが無くなればいいのに」
「こいつらの親は・・・・エルモアの空爆で死にました・・・」
「!?・・・・ごめんなさい、知らず知らずに・・・」
「私達、獣人種は親はいません。けれども生まれてすぐに軍の関係者か研究者の家庭に貰われて行きます。養子に近い存在です」
「それでは、この子たちの親も?」
「そうです。二人の親は科学者で火薬系の研究者でした。覚えてますか?5年前のセリンデル大空爆を」
セリンデルとはゲリアリア皇国の第二の首都でヴァルロード山を越えると最初に着く都市だ。
5年前にロールイスとフリタリアの連合軍が行った大空爆によって町全体が大量の爆弾で焼かれ、その上に化学兵器まで使用されて死者が12万人、負傷者と化学兵器による被害者は合計30万人だ。
化学兵器は首都まで風で流れてさらに被害者を出した。
都市は一時、死の都市となった。
「そのときの生き残りがこの二人と自分です」
「生き残り・・・・と言う事はあなたも?」
「はい。父が空軍パイロットでその日、哨戒に向かって敵爆撃機編隊と遭遇して死にました。母も化学兵器の後遺症で3年前に死にました」
「私・・・・・何も知らないで生きて来たんですね・・・・戦争と言う恐怖も知らずに・・・・」
「逃げている時にこの子たちの親が苦しみながら頼んできたんです。「どうかこの子だけでも」と・・・・自分も必死に火から逃げていましたがこの子達の親は体中にやけどを負っており、死んでもおかしくない状態でした」
サフィアはその光景を想像して涙が出てきた。
「今でもこの子たちの親が足にしがみついた時の爪の後が消えないんです・・・・ほら」
右足のふくらはぎに爪のあとが残っている。
それを見て涙があふれて来た。
「ひっく・・・・わたし・・・・何も知らないで・・・・聞いてごめんなさい・・・・」
泣き声に気がついてユーギリが近くに来る。
「お前、何かしたか?」
冷たくハルトマンを睨む
「いや、自分とこの二人の親の事を聞かれたから答えただけで・・・・」
「親?泣く必要も無いだろう。生きているんだろ?」
「・・・・5年前のセリンデル大空爆で死んだ」
「す、すまん・・・・軽率な事を言った。もう夜も深いから早く寝たほうがいい」
そう言い残してユーギリとサフィアが去っていく
ハルトマンは二人の頭を撫でながら眠りに着いた。


3012年、7月14日、アルヴィン渓谷山岳道路、時刻、午後9時10分
「あ~あ、暇だな~」
アイゼンがキューポラでだれている。
車内ではユリアスがラジオをつけていつもの名曲の館を聴いている。
今日は交響曲第41番だ。ジュピターのニックネームを持つ。
ミントは暇そうに星空を見ている。
全員、食事が終わって自由行動をしている。
「明日の昼頃には鋼鉄の馬車と合流してセリンデルでしょ?」
「そうだけど?」
アイゼンは突然、ねこじゃらしをちらつかせて興奮した猫のように飛び起きて嬉しそうな顔をした。
視線の先にはランプを囲みながら酒を飲んでいる第1師団の戦車兵達が居た。
「やっぱり酒?」
「いいじゃない、酒は気分を良くするんだから♪」
一目散に兵士達の輪に入って酒を飲み始める。
酒の席に女性、しかも猫耳の美人が入ったことでより一層騒がしくなった。
ユリアスは、五月蝿くて音楽が聞こえないのでハッチを閉めて車内へ戻る。
「いいですよねぇ。お酒が飲める人は」
「そうでもないわよ。あそこをよく観察してなさい。その内、酷い光景になるから」
「???」
ユリアスの言う通り、観察していると数分後・・・深酔いしたアイゼンはおもむろに野戦服を脱ぎ捨てた。
夏季用制服なので服の下は下着だけだ。
ブラとフリルのついた可愛らしいパンツを晒したまま、高笑いしながらまたビールを飲んでいる。
「わわわ!アイゼン中尉!早く服を着てください!」
急いで駆け寄って服を着せようとする・・・が、ミントまで酒に酔ったアイゼンのおもちゃになる。
「あ~ら、貴方も呑みたいのぉ~?」
「わ!私は・・・ン!」
アイゼンが口移しでビールを呑ませようとする。
「言わんこっちゃない」
「止めないの?」
ミルティがキューポラに顔を突っ込んで話しかける。
「私まで巻き込まれるのは御免被る」
「とことん冷たいわね。隊長呼んで来る」
「そうして」
野戦テントにいるテレミスを呼びに行く。
「中隊長、失礼します」
「失礼するなら入らないで?」
いつもの冗談が飛ぶ
「失礼しないので入ります」
「で?何の用?」
テレミスも折りたたみテーブルの上にウィスキーを乗せて水割りで飲んでいる。
そう酔いは回っておらず、ほろ酔いだ。
「緊急事態です。アイゼン・ホルス中尉が第1師団の兵士達に醜態を晒しております」
「どうせ、また下着姿で酒をバカ飲みしているのでしょう?」
「ご名答」
やれやれと立ち上がり、軍刀を片手に向かう
「お!中隊長!こっちで一緒に呑みましょうよ~」
「あひぃ~・・・助けてください~」
ミントは地面にぶっ倒れている。
「アイゼン・ホルス中尉!!そこに直れ!!」
大声で名前を呼んでアイゼンの足元に軍刀を杖のようにドンと地面を垂直に突く
「は、はいぃ!!」
その号令で急いで服を身につけ、ピシッとする・・・が、酒のせいで足元がふらつく
「貴様らもだ!立て!」
テレミスの声にヒュッケルトも駆けつけた。
「貴様らは私の戦友だ。幾つもの戦場を駆け抜け、多少の軍機違反も見逃してきた。だが!この有様は何だ?」
ビール瓶は数本、空になってミントの近くに転がっている。そのミントもビールを無理矢理呑まされたせいでぶっ倒れている。
「酒の飲めない者に無理矢理飲ませたのは貴様か!アイゼン・ホルス!!」
「は、はいぃ!」
ふらつきながらも背筋を伸ばす。
「軍機違反どころか国法にも反する行為だ!貴様らもついて来い!」
そう言って川までやってきた。
行き成り、アイゼンを蹴り落とした。
「うわっ!」
豪快に川にはまる。
次々と酒に酔った兵士達を蹴り落としていく
「少しは酔いがさめたか!?ああ!?」
やっとの思いで岸にしがみついた。
「まだ冷めていないようだな」
「いえ!もう冷めました!」
全員が叫び、川から這い上がった。
「よし、溺れるほど呑んだ奴は居ないようだ。今度やらかした時は手足に石を括り付けて川に沈めてやる」
「1020時までに各車両の点検を済まして各自のテントにて就寝。明日、6000時に起床し7030時に出発だ」


3012年、7月15日、ヴァルロード山警備基地、時刻、午前8時00分
「予定合流時刻より1時間20分早く到着」
「ま、ここに居れば安全だ」
セリンデルを守るために大規模な対空陣地が築かれている。
戦闘機は勿論、爆撃機も離着陸できる滑走路があるのだ。
空軍基地なのだが、地上戦にも対応できるように陸軍も駐屯している。
「これはこれは。お待ちしておりました」
サフィアを待っていたのだろう、基地司令だろう士官一同が近づいてくる。
「104戦車隊所属のダール小隊隊長、エイリッヒ・ハルトマン中尉であります」
「同じく、104戦車隊所属のダール小隊、ロイディ・アイマン少尉であります」
「同じく、104戦車隊所属のダール小隊、ミディア・ルイン軍曹であります」
キリッと敬礼し、戦車の横に立つ
「君達かね、噂に聞く戦場の狼は」
「狼と言われるほどの戦果はありません」
制服の階級を見る限り、空軍の大佐であることが分かる。
「君たちを犬だの呼ぶ輩がいるが、私は君たちのことを一般の兵士と同じ目で見ている」
「はい、とてもありがたいです」
「事実、ここの兵士は殆ど君たちと同じさ。無論、私もな」
制帽を取り、ヒョコッと垂れ耳が出てくる。
「仲間が到着するまで、ゆっくりしてくれて構わないよ」
「はっ」
改めて敬礼し、戦車に乗り込む
「ああ、言い忘れたが、私の名前はセルブム・ホルン大佐だ」
60過ぎの優しい顔をした老人風の大佐だ。
その後、戦車を開いている格納庫へ誘導してもらって降りる。
「すごーい!最新式の車両ばかり!」
「凄いだろ?最前線でしかも、重要拠点だから一番良い装備が配備されるのさ」
後ろから声がする。振り向くと犬耳の気の強そうな女性が立っていた。
「久しぶり、ハルトマン」
「う!フリア・ノル中佐殿!ごぶさてしております!」
「ごぶさてって・・・そんなに慌て無くても良いだろう」
愛車のティティンE型に触れてキューポラに収まる。
「ふむ、少々狭いな。良くお前みたいなデカブツが納まるな」
「だれ?」
「おや、好奇心が犬を殺すって言うことわざを知らないかい?」
「犬ではなく、猫です」
「まあ、どっちでもいい。簡単に話すとこいつの元教官」
訓練時代にみっちりと雑用を押し付けられた経験がある。
「どうだった?卒業課題の雑用は」
「鬼ですか・・・なんで司令官の部屋に女装して入らないといけないのですか・・・」
「んで?どうだった?ん?ん?」
「一発でばれましたよ。誰の仕業かと聞かれたので正直に答えました」
「それでか~。最近、給料が安くなったと思ったら」
「禁酒、禁煙に丁度、良いのでは?」
嫌味の一つや二つ、あの悪戯紛いの雑用に比べれば軽いものだ。
「なあ、もう堅苦しい敬語は止めにして普段の休暇みたいに話そうよ」
「付き合ってるの?!」
ミディが驚く
「違う」
即座に否定する。
「違わないって。一緒に住んでたら」
「す・ん・で・な・い」
ハルトマンの家は首都のイーリンブルグにあるモルセン通り12番街の家賃の安いマンションに住んでいる。
家を知っているのは隊長と陸軍情報部中央管理局だけだ。
「じゃあ、住んでいるところを言ってやろうか?イーリンブルグのモルセン通り12番街にあるマースマンションの304号室」
「はぅ!・・・・なぜだ!3年前に引っ越してもとのアパートから20キロ離れたところだぞ!」
マンションの場所だけではなく、部屋番まで知られているとは・・・
「はっはっは~、部下の使い方に慣れているのだよ!」
「まさか、陸軍の秘密警察を動かしたんじゃ・・・・」
「お、正解」
イーリンブリア陸軍の中でも三大エリートとされている陸軍情報部、ブリッツ、秘密警察のうちの一つだ。
ブリッツとは夜間などに敵地に侵入し、破壊工作や情報収集等を行う超エリート部隊である。
隊員はすべて大尉以上で成績優秀な兵士だけだ。
「覚えてるか?ホーエンを」
「覚えてる。唯一人最後の雑用を拒否した奴」
「そいつを動かしたんだよ~。こんな情報もあるぞ。最近のお気に入りの店は、隣のトール通りの3番地にあるボルドールとか言うバーだな」
全て手の内だろう・・・多分、深夜聞いているラジオの番組まで言われそうだ。
フリアが胸を張って勝ち誇っていると、警報が鳴った。
≪フリタリア空軍の軽爆撃機が5機!護衛の戦闘機が多数!重爆撃機も居る模様、迎撃隊は直ちに離陸せよ。対空、対爆戦闘用意!≫
放送の指示通りに軽戦闘機のFF-101アフェン4機編隊が次々と離陸する。
4つの編隊が離陸した後に重戦闘機のFBF-2トルセアが3機だけ飛び立つ
フリタリアの重爆撃機は装甲が厚く、アフェンの20mmでは歯が立たないのでトルセアの40mm機関砲で蜂の巣にするのだ。
毎分120発撃ち出し、弾は通常弾と散弾がある。
念のために全ての格納庫の対爆扉が閉められる。
防弾ガラスから外を見ると対空機銃や高射砲が次々と弾幕を張っている。
「なんだ?爆弾が落ちてこないぞ」
「目的はこの先?でも方向的には山脈を沿っているからセリンデル付近の町かな」
窓の外を覗きながらハルトマンとフリアが話し合う
「あ、そうか。物資投下だ。だから爆撃機が爆発しないんだ」
トルセアの強力な40mmを食らい、火を吹きながら粉々に散っていくだけだ。
本来、爆薬を積んでいたら数発で大爆発し周りの護衛機も巻き込むのだが、火を吹くだけで爆発はしない
数分後、敵機は去ってやっと対爆扉が開く・・・滑走路には粉々になった敵の爆撃機が散乱している。
「お前、姉さん元気か?」
「・・・不明ですね。第一親衛隊に配属になった事しか聞いてない」
「私の情報網によると、次のヴァース作戦に参加するらしいぞ」
ハーフトラックの荷台に腰掛けてタバコを咥えていたが、その情報に思わず落としてしまった。
「冗談だろ。何で親衛隊がそんな作戦に・・・というか、この基地に居るという事になるんだが」
「ああ。今朝あった・・・ノエル・ハルトマンだっけ?」
「そう」
ハルトマンの姉はセリンデル大空爆の1週間前に家を出て首都に居た。
当時の階級は自分と同じ中尉だった。今はどの階級になっているのか全く知らない
空爆の二日後に無事を知らせる手紙を出して以来、手紙を出した事もないし届いた事もない
「会ってみないか?」
「んあ?まあ・・・久しぶりだし・・・別に構わないけど」
「だって、ノエル大佐」
隣のハーフトラックから黒髪のピンと誇らしげに立った犬耳の美しい女性が居た。
「久しぶりだな、エイル」
「また気取った登場の仕方するじゃないか」
「104戦車中隊に居るんだって?」
「見ての通り」
黒い子猫の後ろに牙を向いた狼のマークの入ったティティンE型を指差す。
「その・・・話したいことは一杯あるんだけどそっちも忙しいだろ?」
「いや、姉さんと話す時間ぐらいはあるさ・・・いや、あってほしい」
「では、お邪魔な中佐は退くとします」
軽い敬礼をしてハーフトラックを降りる。
「昔の手紙にあったが、良い家を見つけたんだって?」
「ああ、首都のモルセン通り12番街にあるマースマンションの304号室」
「良いところじゃないか。立地条件も良いし何より私の家の近くだ」
「え?そんな近くだった?」
「と言うか同じマンションだ」
一人ため息をつき、顔を隠す。
「気がついてなかったのか?」
軽く笑いながら肩を叩く・・・がハルトマンの異変に気がつく
「・・・泣いてるのか?」
「っく・・・泣いてなんか無いよ。泣いてなんか・・・」
泣いている弟を抱きしめて背中をさする。
「寂しかったのか・・・あの空爆の中、一人助けを求めて走り回ったから」
「探してた・・・ずっと。軍に入ってすぐに陸軍情報部に進入してデータも探した・・・」
「私が悪かった・・・大丈夫、もう私は何処にも行かない。ずっとお前のそばに居るからな」
涙を拭いて座り直す。滑走路の掃除も終わって被害状況の見回りをしているようだ。
「コーヒー入れてくる」
「ああ」
ノエルが荷台から降りて休憩室に向かう
「大分、変わってたな・・・・・」
懐を探り、タバコの箱を探すが取り出した箱には一本も入っておらず、ため息混じりに握りつぶして放り投げる。
「あら?ポイ捨てはいけないわよ?そこの貴方」
「はっ、失礼しまし・・・・・隊長?」
「あ、ハルトマン。無事?耳焦げてない?」
「大丈夫ですよ。予定より遅い到着ですね」
「あ~、途中であの爆撃機編隊に鉢合わせしてね~。脇に逸れて隠れてたから」
丁度、ノエルが戻ってきた。
「あ、紹介します。姉のノエルです」
「王宮第一親衛隊隊長、ノエル・ハルトマン大佐だ。よろしく」
「第104戦車中隊隊長のテレミス・ローク大尉です」
ノエルからコーヒーを手渡されたが上官より先に飲むのはあまりよくないのでテレミスに渡す。
「あ、ありがと」
小走りで自分のコーヒーをいれに行こうとするとノエルが呼び止めた。
「エイル、私のを少し飲め」
「はっ、大佐殿のご命令どおり・・・なんて」
ふざけて敬礼をする。
「仲がよろしいのですね」
「ああ、ずっと離れていたからな。5年前とあまり成長していない気がする」
ノエルの飲んでいたコーヒーを受け取り飲む。無糖の挽きたてコーヒーだ。
コーヒー豆の本来の味が味覚に伝わる。少し苦い気がするが自分には丁度良かった。
だが、物思いに耽っているのもつかの間、後ろから大声がした。
「あー!ハルトマン中尉が知らない女性のコーヒーを回し飲みしてる!なんで!?」
ミントだった。顔を真っ赤にして怒っているのか混乱しているのか全く分からない
「ミント・アドバード軍曹!大佐の前だ!静かにしろ!」
テレミスが声を張る。
ハルトマンはというと大声にびっくりして溢して服についたコーヒーを拭いている。
「あ、エイル。溢したのか」
ポケットからハンカチを出して一緒に拭いている。
「いいよ。自分で出来る」
「まだお前が5年前のままだと思ってしまってな。後で私の部屋に来い。着替えぐらいはあるだろう」
着替えと言う言葉にミントはさらに真っ赤になり、倒れてしまう
すかさず、後ろに居たミルティが支える。
「失礼しました。大佐殿。自分は第104戦車中隊のミルティ・ホワイト少尉です」
「王宮第一親衛隊隊長ノエル・ハルトマン大佐だ。よろしくな」

3012年、7月15日、ヴァルロード山警備基地、時刻、午前8時05分
ノエルの部屋に入って代わりの服を渡された。
だが、それは親衛隊用のものだった。
親衛隊の制服は男女関係なくロングスカートだ。
男はその下にズボンを着用するのだが余り差はない
「なんか、違和感がある」
「しょうがないだろう、一般兵の制服はないと言われたし野戦服もつなぎもない」
腰には軍刀があるので少し重い
「流石に階級章は取り替えておいた」
肩の刺繍部分に襟首と胸にあるピンを変えておかないと身分詐称で憲兵に取り押さえられる。
「提案なんだが・・・」
「何?」
「一緒に住まないか?」
軽く恥らいながらノエルは切り出した。
「まあ・・・こっちは迷惑じゃないけど」
「本当か?」
「うん、姉さんが良いのであれば」
「私は構わない、それどころか大歓迎だ」
話が一段楽したところで放送が入った。
≪第104戦車中隊、全隊員は作戦考案室へ集合してください≫
よりによってこの服の時に・・・・
「じゃあ、行って来る」
「ああ、行ってらっしゃい」
廊下に出て通路を歩くがやはり人の目を集めてしまう
道が分からないので近くに居た兵士に道を聞くと「ご案内いたします」といわれて本来してもらえないような待遇を受けた。
通路を歩いている最中も敬礼されて道を譲られてしまう
「親衛隊中尉殿、こちらです」
そろそろ本当の事を話したくなる。
案内をしてくれた二等兵もどうやら、ヴァース作戦に参加する新米のようだ。
イーリンブリア陸軍にはある決まりがある。
新米は野戦服に若葉を模した小さなピンを階級章の横につける決まりだ。
それは基地に配属されて1年が経つか、階級が上がることでピンを外せる。
だが、特例もある。大規模な作戦に参加して戦果を上げれば外す権利を得るのだ。
空挺師団に配属されているようで、胸に鷲の翼をバックにパラシュートのレリーフが施された部隊章をつけている。
「二等兵。ありがとう」
礼を言い、部屋に入る。
作戦考案室の中はとても広く、中央には世界地図が置かれていて小さな駒が置かれている。
構造は二階建てで中央は吹き抜け、一階は情報処理担当で様々な通信機器がある。
その情報により、部屋の中央の地図上の駒が動かされている。
先ほどの敵爆撃機編隊の移動がリアルタイムで入ってきているようだ。
二階は指揮担当でレーダーや基地周辺の地図がある。
部屋の隅には会議室兼用のブリーフィングルームがある。
そこに行かなければならないようだ。
「ハルトマン、入ります」
「おお~」
「中尉?」
一斉に視線を受ける。
「新鮮味があってその制服も良いじゃない」
「腰の軍刀が重いのですが」
「私達は外してるけど親衛隊が外すのはねぇ~。ミルティ?」
「ええ、他の兵士達に示しがつきません」
隊長は根本的に人を弄りたいだけの様である。
数分後、作戦司令とか言う役職のおっさんが入ってきた。
「貴官ら、104戦車隊は姫の護衛任務から外す」
「何故でしょうか」
「明後日に予定されているヴァース作戦の目的地であるハウゼンの戦況が変わってしまった」
あそこは大規模な攻防戦が繰り広げられていて防衛戦線を維持するのがやっとだ。
それが渡された航空写真や資料を見ると敵の大隊や師団が集合しているらしい
「104戦車隊はヴァース作戦に参加してもらう。空挺と地上に分かれて進攻する」
詳細の記された書類が配られて解散になった。
どうやら、ここに宿泊するようで部屋割り表も渡された。
偶然なのかセルブム大佐の気配りなのかは不明だが姉であるノエルと同じ部屋だった。
「また、中尉があの大佐と同じ部屋だ・・・」
「あらぁ?気になるのかしら?」
「い、いえ!特に」
急いでミントが会議室から出る。
「素直じゃないわねぇ~」
一人笑いながらテレミスがミルティを連れて出て行く
どうやら同室のようだ。
まだ午前9時だ。やることもないので愛車が納車してあるハンガーへ向かう

3012年、7月15日、ヴァルロード山警備基地、第4ハンガー、時刻、午前9時05分
フリアの姿は無く、整備士達が忙しく作業をしていた。
砲塔と車体は切り離されて砲塔はクレーンに持ち上げられて二階の作業部屋にある。
見ていると煤を取り除き、駆動部分に潤滑剤やオイルを刺しているようにも見える。
休憩室に入り、先ほど飲み損ねたコーヒーを入れる。
すっかり、親衛隊の制服に慣れてしまった。腰の軍刀も気にならなくなった。
ただ、他の兵士達が親衛隊と同じ扱いをしてくれるのが気持ちが悪い
姉もこのような気分なのだろうと思うと姉の苦労が身に染みる。
改めて書類を見ると明日の早朝に出発するようだ・・・
何もする事がないので自室に戻って寝ることにする。

3012年、7月15日、ヴァルロード山警備基地、第4ハンガー、時刻、午前2時00分
予定時刻にハンガーに入るとティティンE型の重々しいエンジン音が響いている。
広場にはハーフトラックや兵員輸送車が並んでいた。
第1親衛隊と地上部隊で昨日の夕方に到着したタルエンMk-Ⅱ改など他の部隊も来ている。
中でも目を引いたのはサティンMk-Ⅳに大量の追加装甲を貼り付けたサティンMk-Ⅵだ。
北の方で配備されている局地対応型でその装甲はティティンE型の105mmでも貫通せず、210mmで車内に損傷が出来るぐらいでそこらへんの戦車や兵器ではびくともしない・・・だが、弱点もある。装甲が重いためとても移動速度が遅く、通常のタルエン各型の4分の2のスピードなので携帯型ランチャーでエンジン部分を狙われるとお仕舞いだ。
どうやら別働隊らしく、格納庫に収容されているものもあった。
「104中隊!出発!」
≪101空挺師団各中隊から連絡。ハウゼン郊外に無事降下、敵の攻撃は予想を上回る。との報告≫
基地からハウゼンまで約半日だ。
急げば数時間で到着する距離に位置する町なのだが基地までの途中の橋は全て落とされていて前進できないのだ。
今回は新兵器の12式水上フロートを使用するらしい。約30トンの重さに耐えられる強度を持ち、いざとなれば輸送車としても使える。
のどかな田園風景を眺めながら走る。
乗り切れない兵士達が戦車の周りに乗っているお陰であまり居心地は良くない
「おい、タバコないか?」
「さっき切らしたんだ。だからない」
「いつ到着なんだ?」
「あと2時間ぐらいだそうだ」
暇つぶしに後ろを見るとはるか後方にお世話にはなりたくない損傷戦車回収班の大型牽引トレーラーが見える。
「あ~もう!窓の前に座るな!」
ミディが怒って車体にある操縦士専用のハッチから顔を出す。
その剣幕に負けて渋々、退いている。
かと思えば、メイル小隊のミントは野蛮な犬どもに囲まれている。
「ねぇねぇ。彼居る?」
「この作戦が終わったら食事でも・・・」
「いや!俺とお願いします!」
ユリアスは車体ハッチから手を出して視界を確保している。
一方、アイゼンは五月蝿いので無線が全く聞こえないことに苛立っていた。
「五月蝿い!黙れ貴様ら!」
キューポラのハッチを閉めても聞こえる声を止めようと怒鳴る・・・がきつい一言が待っていた。
「なんだよ。おばさんは引っ込んでろよ」
「おばっ!?・・・もう許さん!」
全ハッチを締め切ってその行動にユリアスもこの後とらなければならない行動を察した。
「ミント!砲塔旋回180!」
砲塔が一気に真後ろに向いた。
「なにするんだよ!」
「ざまぁみろ~」
テレミスはため息をつきながらキューポラに腰掛ける。
第一親衛隊の戦車とハーフトラック、第一機甲師団のα中隊、β中隊、γ中隊、δ中隊が同行している。
第一装甲師団は各隊にティティンA型を5両、タルエンMk-Ⅲを2両配置している。
第一親衛隊はティティンA、B、C型全て持ってきたようだ。
BはAと比べて装甲が分厚く、主砲が85mmだ。
BとCは85mmで装甲は共に同じで違いは設計にある。
AはE型と同じく傾斜装甲を採用し、耐久性を上げている。
Cは初期型なので傾斜装甲は採用されておらず、側面に追加装甲板が取り付けられていだけで実際のところ、5%から10%しか防御率は上がっていない
前線の兵士達からは弾除けと言う何とも最悪な愛称で呼ばれている。
のどかな田園風景の中にボロボロのテントが幾つか立ててあった。
戦車の音に気がついたのか人が出てくるのが見える。
同じ獣人種だが、右耳の先端が切り取られている。
これは追放者を意味している。両国間に戦争が起こる前、獣人種は大切な労働力として大規模な企業などに勤めていた。
だが戦争が起こり、獣人種追放運動が強まって町を追放され、首都イーリンブルグ目指して移動を繰り返すうちに難民キャンプが多数出来ている。
このテントも難民キャンプの一部のようだ。
道の端まで寄って来てじっとこちらを見ている。
ショルダーバッグに砂糖塗りパンと水など3週間分の食糧が入っていたのに気がつき、急いで取り出して黒髪の犬耳の女性に渡す。
彼女は涙を流しながらお礼を言ってくれた。どうもその姿が見捨てられずに戦車を止めて地図を取り出して最寄のヴァルロード山警備基地への道を教えて地図も渡しておいた。
各基地では難民の受け入れを行っていて毎日見回りを行って難民キャンプが無いか探している。
「ありがとうございます。兵士さん」
髪もボサボサでまともな食事も取れていなかったせいか少し痩せていた。
この現状に怒りを覚えつつもハウゼンを目指して隊列に戻る。

次回へと続く・・・・・




 2008/07/24:アルトマンさんから頂きました。
秋元 「酒は飲んでも飲まれるな、敵はいつやってくるかわからん! お猪口程度にしておくよーに!」
アリス 「……あ、伊瀬さんがラッパ飲みしてる」

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