戦場のフェンリスヴォルフ




【防衛戦線】


3012年、7月15日、ハウゼン市内、時刻、午前3時06分
飛翔音が鳴り響く・・・轟音。粉塵と瓦礫が宙を舞う
銃声が鳴り、悲鳴が聞こえる。
激戦区のハウゼンは都市を1本の大河が陸地を3つに分けている。そのうちの一つを制圧している。
だが、それ以上は進めない。なぜなら敵のマリアン級とロールイス共和国のタートルシェルが橋を封鎖していてるのだ。
タートルシェル戦車は100mm以上の徹甲弾でないと装甲が貫けないほど硬く、対戦車機銃や対戦車ランチャーでも装甲の表面に傷が出来るぐらいで通用しない
タートルシェルが居座っているので身動きが出来ない101空挺師団各中隊は必死に持ち応えていた。
「こちら、101空挺師団。誰か聞こえるか!?どうぞ!」
≪ザザッ・・・ちら・・・ザッ・・・4戦車・・・隊・・・どう・・・ザザザッ≫
ノイズが酷く、とても会話にはならない
通信兵が迷惑そうに銃を握りながら待機している。
苛立ちながらも再度点検する・・・と、足元を見るとその兵士がコードを踏んでいた。
「お前!コードを踏むな!」
怒鳴りつけながら再度問いかける。
「こちら101空挺師団。聞こえるか!?どうぞ!」
≪こちら、104戦車中隊。増援だ、武器などもある。現在地を知らせよ≫
地図と町並み、地形を確かめて現在地を知らせる。
≪了解した。退却しながらこちらと合流せよ≫
受話器を戻して塹壕に深く座り、深呼吸をする。
その間にも敵の機銃座から機銃の乱射を受けてバリケードに当たっている。
深い深呼吸の後、決心をして大声で全員に伝える。
「増援の戦車隊が来た!!町の中心まで退却するぞ!援護射撃用意!」
負傷者たちを先に逃がすためにこちらも重機関銃を用意する。
「援護射撃開始!」
アーカンス重機関銃が火を噴き、12.7mm焼夷弾を吐き出す。
敵の土嚢に火が燃え移り、一時的に銃声が止む
「よし!負傷者と衛生兵は後退!護衛にはB中隊が行け!」
塹壕から一斉に負傷者達が出て走る。
「こちら101空挺師団。今何処だ」
≪すぐ後ろだ。伏せて決して塹壕から出るな≫
後ろを振り向き、少しだけ顔を出して確認した。
ティティンE型が6両、前進して来るのが見える。
先頭の一両がタートルシェルに一発お見舞いした。あれほど総攻撃を仕掛けて破れなかった装甲を簡単に打ち抜き、中から火だるまになった敵兵士が出てくる。
その後も主砲の攻撃は止まず、数分で制圧した。
「助かった。通ってきたと思うが都市の入り口に前線基地がある。俺達はそこまで戻りたい」
「空きのトラックがあるから乗り込め。残りは戦車にしがみつけ」
ミノー小隊とメイル小隊の戦車が一斉に超信地旋回。金属製の履帯が砂地の道路に少しだけ埋まる。
「全車、前線基地まで後退。警戒怠るな」
≪メイル小隊、了解≫


3012年、7月15日、ハウゼン市内前線基地、時刻、午前3時24分
「酷いな」
「全くです。この状況なので侵攻も出来ないのです」
看護所には負傷兵が大勢集まっており、今にも死にそうな者も居た。
「よし。緊急な処置が必要な者だけトラックに載せろ」
そうノエルが言う。トラックに運ばれる兵士の殆どが歩ける事ができない状態だ。
「運転手、山岳基地まで戻って武器弾薬と医薬品を満載で帰ってきてくれ」
「了解」
基地を見回すと忙しく通信機器が鳴っている。
「隊長、少しよろしいですか?」
「ああ。では大佐殿、失礼します」
聞き耳を立てるとどうやら明日の朝、0900時に物資の投下があるらしい
瓦礫に腰を下ろす。すると隣にハルトマンが座る。
そして懐からタバコを取り出し、火をつける。
「エイル、タバコは体に悪いぞ」
「一番軽いのを吸ってる」
ノエルがコーヒーを取りに行こうと立った時、遠くでボンッと鳴った。
「全員どこかの建物の地下室に入れ!!」
急いで置いてあった鉄製のヘルメットをノエルに被せて自分の戦車の中に入る。
「早く屋内に入らないと!」
「相手の狙いは建物内に居る兵士!まとめてやるつもりだ!」
ハルトマンの予測は当たった。近くの建物が砲撃に遭って跡形も無く崩れた。
その後も次々に建物が攻撃された。
砲撃が収まり、静かになったのでハッチを開けて外を見回す。
負傷兵が運び出されて処置を受けているようだ。
幸い、部隊の皆は各自の戦車の近くに居たので無事だった。
「何と言う事だ・・・」
「今のは列車砲です。大きさは大型爆撃機並みで260mmです」
瓦礫の影から見知らぬ男が出てきた。
「あぁ、申し送れました。ここの臨時司令のソロネ・スローンズです」
埃を被った野戦服には少佐の肩章と襟にピンがついていた。
「あの列車砲で多くの仲間がやられています。情報では2基あるそうですが・・・」
「空爆は?それかブリッツは呼べないのか」
列車砲は線路上しか動けないので空からの攻撃には弱い上に展開中ならば格納に時間がかかるので確実に破壊できるはずなのだが・・・
「空爆は無理です。相手はトンネルを上手く利用して一発撃ったら次の発射までトンネルに隠れるんです」
「ふむ・・・・・この状況だとブリッツも無理か」
鉄橋ではまた小競り合いが起こっているようで銃声が聞こえている。
フィールドキッチンでは早い朝食の準備が始められているようだ。
司令部である教会に入ると忙しく通信士が走り回り、書類を各自の上官に運んでいた。
「次の増援は?」
暇そうな通信士に話しかける。
「え~と?本日0900時に空爆・・・これだ。1300時に弾薬等の投下」
「ありがとう」
どうやら、朝聞いた物資投下の噂は空爆の間違いのようだ。
特にやることも無く、敷地内をうろうろしている。
その時、河川沿いで大声がした。
「生存者だ!!仲間が脱走してきたぞ!」
「全車!支援砲撃用意!!」
「早くボートを出せ!」
その声に急いで車両に乗り込む。
「ロイ!エンジン回せ!ミディは!?」
「いま、入ってきますよ!」
ミディが砲座に滑り込み、ペリスコープを調整する。
「全弾、装填キャンセル。再装填開始!」
自動装填装置に装填されている榴弾が徹甲弾と交換されていく
「再装填完了」
「全車!仰角3.4、絶対に誤射するなよ!」
[ダール2、了解]
[ダール3、了解です]
6人ぐらいだろうか、走って必死に逃げている。
その後ろから妙に速度が遅いマリアン級と敵歩兵が追って来ている。
「相手のマリエン級が妙に遅い。今のうちに仕留めるぞ。各自で応戦」
ダール2が初弾を発射。敵のハーフトラックに命中してバラバラに砕け散る。
そして、相手の反撃に備えて周りが土嚢に隠れる・・・が、聞こえてきたのは銃声と悲鳴だ。
急いでハッチを開けて状況を確認する。
敵はこちらを撃たずに逃げていた仲間を撃ったのだ。
6人のうち、2人が倒れた。後の4人は川に飛び込み、必死に泳ぐ。
「まだ生存者がいる!攻撃再開!」
こちらも初弾を発射する。敵のマリエン級を破壊して急いで次を装填する。
土嚢の影でも迫撃砲がポンッと軽い音と共に榴弾を打ち出して敵の機銃座を潰す。
ようやく、土嚢上にアーカンス重機関銃がセットされる。
川では救出に出たボートが生存者の回収に当たっている。
「川沿いの機銃座と砲座を潰せ!」
無線に怒鳴り、スコープで再確認する。
ダール3が発射、ボートに向かって銃撃していた機銃座とトーチかを破壊する。
全員が必死に弾を打ち込んだ。
拳銃で撃つ者もいた。
数分後、銃撃は止んで負傷者と救出された者は救護所に運ばれた。
「負傷者は?」
「教会横の建物で処置を受けてます」
建物に入って軽傷の兵士に列車砲の正確な位置と大きさを聞く

3012年、7月15日、ハウゼン市内前線基地、時刻、午前6時30分
104戦車中隊、全員集合して朝食を摂りながら会議を始める。
「・・・・であって、この路線を走る・・・」
「ちょっと!そのクラッカー私のよ!?」
「いいや、あんたは2枚目。私はこれで1枚目」
「良いから返しなさいよ」
あちこちで談話や痴話喧嘩が聞こえる。
「あー・・・注目注目。会議中」
テレミスが指揮棒でボードを軽く叩く
その声でやっと静かになる。
「で?さっきまでの話をまとめて簡単に話すと?ハルトマン」
「路線は都市と都市を結ぶ遠距離鉄道を使用していて、トンネルは一番長い東にあるトンネルです。列車砲は装填次第、出てきて目標を捕らえるまで2分を要して発射。格納に1分半を必要として10発を撃つと一度、砲身内部を掃除しないといけないので深夜に出てくる」
「そう。貴方たち聞いてた?」
「最初の会議を始めると言う号令だけなら」
「私は鉄道の路線だけ」
ため息を漏らしながら副隊長のミルティを横目で確認する。
一切食事には手を付けずに会議の内容をメモしている。
とても頼れる副隊長だと関心していると、突然視界からミルティが消える。辺りを見回すと鰯の缶詰を持った女性兵士に嬉しそうな顔で交渉していた。
またため息が出てしまう。一方の各小隊の面々は食事をする者、寝ている者など様々だ。
ハルトマンは食事をしているが、配られた書類と前のボードにある資料と見比べてメモに簡易な地図や必要事項を書き込んでいる。
副隊長はやっぱりハルトマンにするべきだったと後悔するテレミスだった。
「隊長?続きを」
唯一人、話をまともに聞いているハルトマンに説明をする。
「・・・・である。会議終了」
「全員、起立。敬礼」
いつの間にか、隣には鰯の缶詰を持ったミルティが立っている。
フラフラしながらも全員が起立。敬礼をして解散する。
「各小隊の戦車長は残ってくれ」
ハルトマンが立ち上がって発言する。
「さっきの話を説明し直す」
その言葉にテレミスは感動した。
「あぁ、こんなところに味方が」
「あの?隊長?離してもらえます?」
腕にしがみついて喜んでいるテレミスを剥がす。
「いいじゃんかー・・・戦場でいちいちそんな紙切れ見る暇無いんだから」
「文句を言わない」
問答無用で会議は続行された。


3012年、7月15日、ハウゼン市内前線基地、時刻、午前8時00分
作戦はとても簡単だ。本日0900時の爆撃コースを西に逸らして敵の列車砲の交歓部品庫や弾薬庫を破壊、その護衛機たちがトンネル付近の施設を空爆してすぐに戦車隊で列車砲を鹵獲又は破壊するというスピードを要する作戦だ。
「本部との連絡は?」
極秘作戦なので秘匿回線で極秘暗号文としてモールス信号による交信中だ。
普通なら5分もいらない通信が極秘暗号となると20分ほど必要とする。
この極秘暗号は通称”エニグス”と呼ばれていて解読コードを持っていても解読できないように特殊な音を混ぜてあるらしい
「回答が来ました。解読します・・・コウド ヒトフタマルマル デ ミナミ カラ シンニュウ ス.B 6.RB 2.FAM 10.・・・・ナオ モクシデノ コウゲキ トナル.ゴバク ヲ フセグタメ 0930 マデ タイキセヨ.コウシン オワリ.・・・とのことです」
橋から空爆を開始して、そのまま絨毯爆撃で西へ抜ける爆撃機編隊と途中でトンネルへと向かう対地攻撃部隊と分かれる。
「そうだな・・・時間を考えて今発進しておこう」
104戦車隊のほかに生き残りの第11機甲中隊と101空挺師団D、E中隊が着いて来てくれることになった。
「全車!発進!」
重々しい金属音を鳴らしながら橋付近の防衛戦にある大型塹壕に隠れる。
そのまま、爆撃があるまで待機する。


3012年、7月15日、ハウゼン市内第一防衛戦、時刻、午前9時00分
轟音と共に遥か上空に爆撃機編隊が見える。黒い点が無数に見えて数秒後には敵が木っ端に砕け散る。
「よし!全速前進!」
爆撃コースを避けてトンネルを目指す。
[右!敵戦車3!]
「ダール小隊、交戦!」
走行したまま、105mm砲が吼える。車体正面に命中して敵は大破する。
その後も小規模な戦闘があったが無傷でトンネルまで到着した。
「全車。停止・・・時間まで待機」
川に隠れてD、E中隊は土手に隠れて時間まで待つ。
10分後、マルチの編隊が飛来する。兵力はあまり無いのでたった10分である程度の掃除は終了した。
「全車、警戒しつつ前進」
緊張したテレミスの声が聞こえる。
目の前のトンネル内に超大型の列車砲が隠されていると思うと、出てきて零距離砲撃をされるかもしれないと思ってしまう。
[こちら、E中隊!列車砲を確認!中に装甲列車が!逃げるつもりです!]
バリケードを破って装甲列車が飛び出してくる。
「砲撃開始!全車攻撃!」
ティティンの一斉射が線路や装甲列車に当たり、脱線して停止する。
「こうなったら完全に破壊する」
爆薬をあるだけ巻き付けて榴弾も転がしておいた。
[爆破します]
ミノー小隊の1号車の砲撃が命中。凄い爆音と共に再起不能にばらばらになった。
砲身は潰れて肝心の調整ギアは原形を留めていない
「前線基地に連絡。作戦終了と」
「了解」
ハウゼンの長い防衛線もこれで早期に終結しそうだ。
だが、104戦車中隊の面々は終結までここに居られない。首都に戻って次の作戦を待つことになる。
前線基地まで戻ってノエルや他の兵士達を拾って山岳基地まで戻る・・・・首都には二日間後に着きそうだ。



3012年、7月17日、首都イーリンブルグ内フォービル基地、時刻、午前7時10分
この基地は104戦車中隊の所属している機甲師団の駐屯地だ。
テレミスたち、104中隊はごく稀にあるデスクワークの真っ最中である。
自分のデスクに座って書類を見ながらタイプライターを打つ・・・・212機甲師団は大隊が6つあり、そこから18の中隊に分かれる。
とても広い部屋に全員集合して黙々と空調の整った空間でデスクワークをする。
ハルトマンはアイゼンの隣にデスクがある・・・・だが、肝心のアイゼンは安らかに夢の世界に旅立ったようだ。
ため息をついて立ち上がり、師団長のデスクまで歩く。広いといえど徒歩数秒だ。
「師団長。104中隊所属、ダール小隊のエイリッヒ・ハルトマンで・・・・」
「よ。久しぶり」
「・・・同僚・・・いえ、師団長の奥様が夢の世界へと旅立たれておりますが?」
「・・・・」
無言で立ち上がってアイゼンの隣へ向かう。
「起きろ!」
フルスイングで厚紙を丸めた棒で後頭部を打ち抜く
「いたっ!ハルトマン!?」
「生憎、俺だ」
「う~・・・ヴァイス~・・・ふぁ~」
伸びをして仕方なく、手を動かし始める。
「今日は家に帰るのか?」
「分かんな~い・・・・呑みにいくかも~」
「連れて帰る」
それ以来、また静かになってタイプライターを打つ音しか聞こえなくなる。
時間が時計を見るたびに早く進んでいるように感じてしまうのは人間・・・いや、人類の思い込みなのかもしれない
今、まとめているのはティティンE型の実戦による性能評価と欠点だ。
書類も半ば仕上がったときに基地内放送でチャイムが鳴る。
デスク横の時計は12時を指していた。昼休みのチャイムが鳴ると部屋中から伸びをする声や席を立つ音がする。
自分も伸びをしながら財布の中身を確認する。
最近、使う用も無かったので結構溜まっている気がした。
「さぁ~て、昼だ昼」
「中尉?お昼一緒にどうですか?」
ミスティアが近寄ってくる。
「んあ?一緒に行くか」
「はい」
その会話をミントは悔しそうにデスクに座りながら見ている。
彼女には昼休みはない。なぜなら戦車長のアイゼンが仕事を押し付けてさっさと出かけてしまったからである。
「くそぉ~!!あの酒乱女ぁ~!」
叫びながらデスクに突っ伏す。
「忙しそうね?」
近くのカフェの紙コップを持ったユリアスが後ろから声をかける。
「あの酒乱戦車長が仕事を押し付けてさっさと食事に行ったんですよ!お陰で計画はだめに・・・」
「まあ。あの人なら今、その事がバレて隊長と師団長が懲罰房に打ち込んだらしいわ」
「ざま見ろです!」
ガッツポーズをしてアイゼンの分の書類を除けて席を立つ
「良かったわね。仕事だけでもなくなって」
「はぁ・・・ハルトマン中尉・・・・今何処ですかぁ~!!」
「ここだけど」
真横から声がする。
「ああ、良い忘れた。中尉が隣に居たんだ」
「ひゃん!な、ななな何にもありません!?ホントですよ?あははは~」
「計画とは?」
「あ、あああああアイゼン中尉の事ですよ!?」
焦って身振り手振りで急いで表現する。
(まったく・・・折角、中尉を待たせて連れてきたのにこれじゃ意味が無いじゃない)
内心、ユリアスはこういう時に焦ってしまうミントが愛らしくて仕方ないのだ。
「ユリアス。もう行っても良いかな?」
「失礼しました。ご無理を言って」
キリッとした表情で敬礼をする。
「ご無理?」
ハルトマンが出て行った後にユリアスに聞く
「そうよ。呼び止めてわざわざ連れて来てあげたのよ」
「うわぁ~ん!ユリアス少尉のご厚意も無駄にしてしまってすいません~」
ぺこぺこ頭を下げて謝る。
そこにヴァイスとテレミスが近くに来る。
「災難ね~。アイゼンなんかに仕事を押し付けられて。ハルトマンと食事に行く計画がオジャン」
「すまないな。私からも謝る。昼休み中はあのまま懲罰房に入れておいておくつもりだ。仕事が終わっても俺が責任を持って家まで連れ戻す」
「とても苦労なさってるんですね~。少将」
「君のような大人しくて思いやりのある人と結婚すればよかった」
「私、今独身ですよ~?」
誘うように上目使いをする。
「師団長。不倫は良くないです」
ミルティがビシッとヴァイスに注意する。
「んな!だれが付き合うと言った!?」
「そのように聞こえましたが?」
そのまま、小競り合いとなってしまった。

3012年、7月17日、首都イーリンブルグ都内、時刻、午後12時21分
行きつけの食堂は昼時で満員だった。
「くそう、あそこなら常連で裏メニューが食べれたのに」
「私の行きつけで良ければ空いてますよ?」
「何料理?扶桑?ゲリアリア?」
扶桑とは南に位置する島国だ。
未だに戦争を経験していない国でエルモアの侵略も進んでいない穏やかな国だ。
天候も良く、四季折々の景色が楽しめるらしい
「パスタです。この国では家庭料理でしたね」
ミスティアは助手席で笑う。ミスティアはゲリアリア出身なのでこの国の家庭料理が外国の料理となるのは可笑しくない
「そこにするか」
「はい。案内します」
都市の中心から逸れて細い裏道を通って庶民が暮らす住宅街まで来た。
「この辺?」
「そこです」
指差した建物は看板も無く、普通の民家だった。
「普通の民家じゃないのか?」
「知る人ぞ知る隠れ家ですよ♪」
車を降りてドアを開ける。
中は普通の食堂となっていて近所のおばさんやおじさん達がテーブルを囲んで笑っていた。
「ロールイスから逃げてきた女性が経営してるんですよ」
店主らしき女性が出てきた。
「あら、ミスティア。男連れなんて珍しい」
「彼氏かい?」
「はっはっ。大事にせぇよ」
「ちっ、違いますよ~」
ミスティアは頬を染めて否定する。
席に座ったら若い女性のウェイトレスが水を出してくれる。
メニューには不慣れな英語で書かれていた。
イーリンブリア王国とゲリアリア皇国の公用語は英語だが、敵国のロールイス共和国はロマンシュ語でフリタリア帝国ではオイル語が使用されている。
この国に逃げてから近所の人々に教えてもらったのだろう
「じゃあ、俺は・・・・」

3012年、7月17日、首都イーリンブルグ内フォービル基地、時刻、午後12時30分
ミントは夕食こそはハルトマンと一緒に食べたいので昼休み返上で階級が下の者に食事の調達を頼んでせっせと書類を作る。
「それ程、ハルトマン中尉の事が良いのですか?」
訓練時代の後輩であるノッシュ・バーン伍長が頼んでおいた食事を運んで来てくれた。
「そりゃ、あのキリッとした横顔と凛々しくピンッと誇らしげに立っている耳といい・・・・」
「はいはい。食事、ここに置いておきますよ」
呆れた顔でノッシュが去って行く
ハルトマンとミントの出会いは特別演習で教官隊と共に参加した23機甲師団のなかにハルトマンが居たのだ。
23師団は山岳基地所属だ。ミントはハルトマンの傍に居たいがために転属した・・・・だが、卒業した頃には他の部隊に転属になっていたのだった。
その後、必死に行方を探してやっとこの師団に居る事が分かって再転属した。
「まったく、酒乱が上司じゃ・・・ディナーのお誘いも無理かな・・・」
「誰が酒乱だって?」
後ろにはアイゼンが立っている。
「は、ははは・・・・」
「私の仕事、やっておいた?」
「師団長がしなくて良いとの指示を出されましたのでしておりません」
急いでアイゼンがデスクを見る。デスクには山積みの書類がある。
「くっそぉ!!!」
「当然です。私に仕事を押し付けた罰です」
ミントは仕事に戻る。
そうしているうちにハルトマンや他の人が戻ってきて昼休みが終了した。


3012年、7月17日、首都イーリンブルグ内フォービル基地、時刻、午後5時00分
一通りの勤務が終わって皆、帰る用意をしている。
「5時だー!帰るー!酒飲むー!今夜は徹夜の飲み放題コース~!」
アイゼンは叫んでリュックを掴んでダッシュする・・・が当然、テレミスとヴァイスに捕まって自宅に強制送還された。
「ハルトマン中尉!」
そそくさと荷物をまとめて出ようとしていたハルトマンをミントが呼び止める。
「何?」
腕時計を見ながらハルトマンが振り向く
「ゆ、夕食を食べに行きませんか?」
ユリアスは革鞄に荷物を入れながら話を聞いていた。
(よし、よく言った・・・・返答はどうだろうぁ・・・)
「すまん、姉を待たせているんでね。また今度でいいかな」
「はい!いつでも!」
「じゃあ」
そのまま、駐車場にハルトマンは消えた。
上機嫌で自分のデスクに戻って書類を整理する。
「ハルトマン中尉と何か良いことでもあったのですか?」
ノッシュが尋ねる。
「ん~♪なんでもないよ」
日は決まっていないが、食事の約束を交わしたのでとても気分が良い
その時、室内にある赤い電話が鳴る。
緊急用の直通電話だ。
「はい。こちら212機甲師団」
[陸軍総司令部より入電。明日0500時に212師団全隊はハウゼンへ出発せよ]
「全隊ですか!?」
[変更は無い。以上]
「ちきしょう!!ノッシュ!!今すぐ通信室行ってこい!」
「はい!」
ノッシュは全力疾走で5階にある通信室へ走る。
対爆ドアの前に警備の兵が立っているが、無視してドアを開ける。
「おい!貴様!」
肩を掴まれて止められる。
身分証を投げ渡して部屋へ入る。
「長距離通信は!?」
「こっちだ」
若い男性に呼ばれる。
「どうした?何用だ」
「今すぐ、ハウゼンの前線基地の状況を知らせて」
機材を操作して周波数を合わせる。
「こちら、フォービル基地通信室。応答せよ」
[くそっ!何処のどいつだ!今いそが・・・対戦車ランチャー持って来い!・・・・]
砲撃の音と銃撃音が聞こえる。
「そちらの状況は」
[聞いてて分からないのか!?集中砲火のど真ん中だ!今すぐ援軍を!]
「了解」
無線を切る。
「こんな状況だそうだ。どうするつもりだ?」
「212機甲師団です。明日0500時にハウゼンへ出発せよと今、本部から指示がありました」
「あー、フォービル基地通信室。応答せよ」
再び、無線を繋げる。
[また貴様か!!いい加減にしろ!]
「明日、212機甲師団が援軍に向かう。夕方には到着するだろう」
[それまで耐えられない!!]
その言葉を最後に切られてしまった。
「急いだ方が良いみたいだ」
ノッシュはまた走って部屋を出る。
警備兵から身分証を引ったくって戻る。
「ハウゼンは今、敵の集中砲火に晒されています!」
「テレミス、今から出発して最短で何時間だ?」
資料を出してきて頭で計算を始める。
「約半日です」
「空輸だと?」
最近導入された超大型輸送機で山岳基地まで移動すると時間が短縮される。
「空輸時間が1時間・・・・2時間半です」
「よし!全員を呼び戻せ!寝てようが叩き起こせ!」

3012年、7月17日、首都イーリンブルグ、時刻、午後6時30分
基地のパトロール用のジープで帰宅する途中、無線が鳴る。
「ハルトマン。どうぞ」
[ハルトマンか!?急いで戻れ!]
「は、はい」
サイレンを鳴らして基地まで戻る。
その途中に路肩でミディが手を振って車を止めようとしているのが見えた。
「ミディ、乗れ!」
「はいさ!」
ミディが飛び乗って急加速する。
基地までは数分のところだ。
基地では全車が引っ張り出されてエンジンを始動している。
正門からジープで乗り込んでハンガーに入る。
「遅くなりました!」
「出撃だ!」
野戦服に着替えて郊外の大型航空基地に向かう

3012年、7月17日、首都イーリンブルグ郊外、第3航空基地、時刻、午後6時35分
この基地は正式稼働していないので未だに仮名称だ。
「212機甲師団だ!開けろ!」
大型輸送機が7機、アイドリング状態で待機している。
「第1大隊は一機目に!後は各自で判断を!」
大隊全てが収納されて最後の一機には弾薬等の補給物資が積まれた。

3012年、7月17日、ハウゼン市内、時刻、午後6時40分
「ちくしょうめ!マリアン級がそこまで来てるぞ!」
「右の二階!窓に機銃!」
「避けろー!!!」
町のあちこちで部隊が寸断されて混戦状態だ。
「うぁあああああ!!!!腕がぁああ!」
「衛生兵!!」
機銃掃射によって腕を撃ち抜かれて切れてしまっている。
「くそっ!隣もだ!」
小隊長の隣の奴は腹を撃たれて内臓が出てきてしまっていた。
「衛生兵!早く来てくれ!」
ヘルメットに赤い十字のマークの入った兵が塹壕に滑り込んで来る。
「そいつはもう無理です!コイツなら何とかなりますがね!」
腹をやられている奴は瀕死の状態で大量に血を出している。
「おい!聞いたか!?お・・・」
頬を強く叩くが、目を開けたまま死んでいる。
「死人を弾除けに使うのは気が進まんが、すまん」
一言、戦友に謝って土嚢の穴の部分に寄せる。
「くッ!」
腕を包帯で強く縛られて苦痛に声を出す。
「も、モルヒネを打ってくれ。痛くてしょうがない」
言われた通りにモルヒネを足に打つ
小隊長は銃を握りなおして撃ち返す。
「基地へ連絡!防衛線維持出来ず!支援求む!」
隣の塹壕の通信兵へと叫ぶ
「弾が足りない、どこかで調達しないと」
「一っ走り言ってきます!」
「よせ!」
若い奴が塹壕から飛び出て近くの建物へと走るが、機銃の的となってしまった。
「うぁああああ!!足がぁ!!」
必死で建物へと転がり込む
「無茶な奴だ!機銃のこと忘れたのかよ!」
中に居た衛生兵がヘルメット越しに頭を殴る。
「母さーん!!!」
「情けねぇこと言うんじゃねぇ!足をかすっただけだろが!」
止血剤のパックを食い破って足の傷に振り掛ける。
その上から包帯を巻いて処置を終える。
「そら!終わったぞ。弾持って行けよ。俺達が援護してやる」
物陰に隠れて様子を窺う
「今だ!撃ちまくれ!」
一斉に機銃座に弾を叩き込んで黙らせる。
「走れ走れ!」
撃ちながらさっきの衛生兵がケツを蹴る。
それに答えるようにもとの塹壕まで駆け抜けるのを確認した。
「撃ち方やめ!撃ち方やめ!」
「支援はいつ来るんだ」
「聞いてみます」
機材を操作して本部と交信する。
「はい。了解しました。持ち応えて見せます」
「で?いつだ」
「今、山岳基地に212装甲師団と第31旅団が向かってるそうだ」
「到着は」
「あと数十分だそうで」
地図を広げて寸断されている部隊の再集結を図る。
「全部隊に連絡、町の南西にある大きなビルに集合。そこで支援を待つ」
「伝えます」
ため息をついて土嚢の隙間から様子を窺う
銃声は止んで戦車砲がこちらを向いたまま微動だにしない
歩兵はゆっくりと進んでいる。
ハンドシグナルで建物の二階部分に居るガンナーに方角と人数、装備を教える。
指でスリーカウントをする・・・・ゼロになったと同時に機銃の一斉射が始まって敵が倒れる。
機銃座を発見したのかマリエン級が砲塔を旋回し始めた。
「おい!若造!そこのパンツァーファウスト持って来い!」
木箱に入っているランチャーを3本抱えて塹壕に飛び込んだ。
「よしよし!よくやったぞ。それはお前が撃て。俺は機銃座の相手してるから忙しい」
「自分は!一度も撃ったことがありません!」
青年は泣きそうな顔をして訴える。
「んなモン!ばあさんだって撃てる!肩に担いで引き金を引け!」
言われた通りに体制をとる。
「撃ちます!」
ボンッと音共に弾頭がマリエン級に命中して吹っ飛ぶ
衝撃に驚いて青年は塹壕に腰から落ちる。
「や、やった!?」
「やるじゃねぇか!若造!俺達も負けてられねぇな」
小隊長もランチャーも担いで後方の戦車を狙う
「うおぉりゃあ!!」
見事、砲塔に命中して弾薬に引火して周りの建物ごと吹き飛ばす。
「これで敵の侵攻も遅らせることが出来るだろう」
「近くで第4小隊が交戦中!」
「助けに行くぞ。いつまで塹壕に挟まってるつもりだ」
青年を引っ張り出して走る。

次回へと続く・・・・・




 2008/07/24:アルトマンさんから頂きました。
秋元 「ふぅむ、撃ったらトンネルに逃げる。殲滅力には欠けますが、ちくちくと攻撃する事によって相手を消耗させる、嫌がらせ作戦ですな。地味に痛いんですよね」
アリス 「……確実に削られますから」

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