空が、青い

IHI製のエンジンを搭載した、Su‐33J改が轟音を残して飛んでいく。

F/A-18の欠陥が公にならなかったら、フランカーが日の丸を付ける事は無かったな。

蒼穹の空と交わる様に飛んでいくフランカーを見送りながら、そう思った。

「佐々木二尉。何しているんですか?」
海上自衛隊綾瀬駐屯地の詰め所の壁に身を預けながら。
僕こと、佐々木信也二等海尉は、現実逃避をしていた。

日常
佐々木二尉の受難


飛龍瑞鶴
「佐々木二尉?大丈夫ですか」
 詰め所の隊員が心配そうに中性的な顔立ちをした、佐々木に声をかけた。
 「大丈夫。これから起こる事を考えると、気が進まなくて」
 佐々木は無理に作った笑顔で当番の隊員に笑いかかける。隊員はしばし考えた後。
 「志野塚一尉と、デートですか?それとも、ベッドの上での戦闘訓練ですか?」
 と、言い。いやらしい笑顔を見せた。
 佐々木は"志野塚一尉"と言う単語が出た瞬間に、顔を赤く染め。
 「違いますよ。今回は志野塚一尉と加賀一尉のお供ですよ」
 慌てながら、佐々木は言った。
 説明するのを忘れていたが。志野塚一尉こと、志野塚智美一等海尉は佐々木機後席のRIO(レーダー士官)で佐々木信也、個人にとっても。"この世で最も大切な人"で、防衛大学校での先輩である。
加賀一尉こと、加賀歩美一等海尉は志野塚の防衛大学校での同期生で、第24警戒飛行隊の管制官である。ちなみに、第124警戒飛行隊と佐々木達の所属する。第108戦術飛行隊は航空護衛艦『ずいかく』に所属している。
佐々木は志野塚と加賀の買い物に、荷物持ちとして付いていく事になっている。
「よう、佐々木。3Pとは随分頑張っている様じゃないか」
詰め所の隊員たちに茶化され、小突かれ、しどろもどろとなっている佐々木に追い討ちをかける様な、野太い声が響いた。
 「山本三佐。誤解を招く発言は止めて下さい」
 佐々木は涙目になりながら。第108戦術飛行隊の隊長で佐々木の直属の上官である。
山本茂三佐に詰め寄った。
 山本は豪快に笑いながら、佐々木の肩を叩き。
 「冗談だ、冗談。それより、待ち人は来たぞ」
そう言い。佐々木を強引に官舎の方に向けた。見ると、青い英国車がゆっくりと、近づいてくる。ジャガー社が命運を賭けて造った。ジャガーTYPE4を綾瀬駐屯地で保有しているのは一人しか居ない。
「お前さんのご主人様の御出ましだ。そぉら」
「さ・・三佐、うわぁ」
山本に押し出され、佐々木はジャガーの横に立った。それと同時に、軽い機械音がして、窓が開き。志野塚が顔を出す。
「信也くん。乗って」
と笑顔で微笑む。それと同時に、野次馬で集まっていた隊員から、冷かしの声が上がる。佐々木は悲惨な顔と、照れた顔の両方を浮かべつつも。
「はい」
と、綺麗に作った笑顔で答えた。同時に、精気が無く機械的な動きでジャガーの助手席に収まる。
「しっかり、ヤってこい」
「グッドラック」
「ゴッドスピード」
「エッチなのはいけないと思います」
佐々木を冷やかす声と先程の動作を見て、何か有ると感じた隊員からは遊び半分の慰めが送られる。
青のジャガーが駐屯地の超え、街頭の車両の中に交わるまで、隊員たちの野次は終らなかった。

「信也くん」
「は、はい!」
都心へ向かう国道にジャガーをいれた。志野塚は弾むような声で言う。それに対して、佐々木は面白いほど狼狽し、上擦った声を上げた。後席に座っている加賀はそれを見て、我慢せずに笑っていた。
「この前の、約束。憶えているよね?」
そう言い。ジャガーを人目に付かない、工場裏に停めた。
「憶えています」
佐々木は脅えながら言う。
志野塚の言った。約束とは先日の戦闘訓練時に志野塚が持ちかけた事である。
「今日のミッションを完了できたら。信也くんの勝ちで、それ意外は私の勝ち。負けた方は日曜日に勝った方の言う事を聞くで、OK?」
佐々木は大した事は無いと予想し、軽い気持ちでOKをだした。
その日の訓練で佐々木は強行偵察を命じられた。飛行前のブリーフィングによると、浅瀬を離陸後。佐々木機を含む攻撃側は、訓練海に待機中の標的艦を攻撃する予定である。佐々木機は先陣を務める事になっている。この演習では、攻撃側は標的艦を撃沈すれば勝ち。防御側は標的艦を守りきれば勝ちである。
結局、演習は防御側の勝利で終った。
 佐々木機はCAP8機に迎撃されて、撃墜判定。この、CAP8機が曲者だった。
 CAP8機は、第108戦術飛行隊(ナイト)、第113戦術飛行隊(アリス)から選りすぐりを選んだ8機で、内訳は両飛行隊の隊長(山本三佐と秋本三佐)を含む腕利きばかりだった。(どうやら、志野塚が両飛行隊長に頼んだらしい)
 佐々木は持てる限りの戦闘技術を駆使し、必死の戦術機動を行った。愛機のRF‐14JSも佐々木が要求する機動を完璧にこなした。Su‐33J改とF‐14J改の連携プレーの一瞬の隙に切り込み、攻撃を刹那の操縦でかわす。だが、所詮は多勢に無勢。ジリジリと追いつめられ、結局は秋本機のGUNを浴び、撃墜判定。(後の判定では、パイロットのみが死亡とのこと)
この時から、佐々木は直感的に危機を感じていた。
 佐々木の本能が危機を告げていた。逃げろと。
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
ニゲロニゲロニゲロニゲロニゲロ
 だが、佐々木は逃げる事は出来なかった。後席の加賀が、佐々木を羽交い絞めにしていた。
「佐々木くん」
「信也くん」
「「覚悟!」」
「いやだ〜〜〜!」
人目の無い路地に、佐々木のもぐった声が響いた。

数時間後、高速道路上
 「おい!後ろの車に美人と、可愛い娘が乗ってるぞ!」
 その声と共に73式大型トラックの後方に、寿司詰めになっていた。無数の陸自の隊員が一斉に車体後部に詰め寄り、歓声を上げる。演習帰りの唯一の娯楽である。車両後部からの後続車の観察で、しかも、美人とくれば否応でも盛り上がる。悲しい男の性である。
「俺は、助手席の娘の方がいい」
「黙れ、女子高生フェチ。運転席に座っておられる、美人の方に決まっているではないか」
「青いジャガーか、いい趣味しているな」
「車マニアは後ろに下がれ!」
早速、品評会が始まる。
ジャガーTYPE4
「信也くん。手振ってあげて」
志野塚が弾んだ声を上げる。
「そうよ、佐々木くん。陸自の方々は演習で疲れてるんだから、労ってあげなきゃ」
後席の加賀も笑顔で言う。心なしか、二人の肌に艶が増している。
「で、でも」
佐々木は真っ赤になって俯く。それを見た志野塚は、デジタルカメラを掲げ。
「いいわ。でも、この中の映像を基地のメンバーに見せるから」
「やります。だから、それだけは・・・」
目を潤め、顔を真っ赤に染めた。佐々木は明らかに作った笑顔で、前方のトラックに向け、手を振った。
73式大型トラック
「うおおぉぉぉぉ!助手席の娘が手を振っているぞ。同志!」
「あぁぁ、俺は今、猛烈に感動している」
「あの娘、真っ赤で涙目だぞ?」
「あれは照れていると言うより、何かを堪えてる目だな」
「何か、って何だよ」
「決まっているじゃないか。前か後ろの穴に、ピンク色の玩具が入っているんだよ」
「「おぁぉぉ」」
「つまり、あの美人はあの娘を調教中ってことか」
独身野朗どもの、妄想はさらに加速していく。
ジャガーTYPE4
「いいわよ。信也くん。続けて」
志野塚は笑顔で言う。対する佐々木は、涙をぽろぽろと落としながら手を振る。
佐々木の見に何が起こったか、説明しなければなるまい。現在、彼の見た目は女子高生に見える。これは、先程の路地裏で佐々木に着せたものである。頭には肩まで伸びた髪の鬘を被り。白のセーラー服を着込み、膝上4サンチのスカートを履かされ、黒のニーソで足を隠している。後、パット入りのブラジャーも付けられていて、ささやかな胸が在る様に見える。
つまり、女装である。佐々木の中性的な顔だからこそ、女性に見えるのだが・・・・
「佐々木くん。そんな顔していると、襲っちゃうぞ♪」
そう言って加賀は、佐々木の体に手を這わせた。その手つきが、なんともいやらしい。
「加賀先輩、そんな所触らないで下さい」
股間に伸ばされた手を押さえつつ、佐々木は言う。

「羞恥プレイか!」
「くぅぅぅ!イイ、イイ!」
隊員達は喜びトラックから、身を乗りだす。佐々木は絶望的な表情でそれを見つめた。そんな佐々木に志野塚が悪魔の囁きの様に、呟いた。
「次のパーキングで一緒にトイレに行こうね。もちろん、女子トイレに(はぁと)」

佐々木二尉の受難は続きそうである。

佐々木二尉の受難(終)



後書き(ショートコント??)

飛龍「ど〜も、飛龍瑞鶴です。『佐々木二尉の受難』楽しんで戴けたでしょうか?」
信也「楽しめる訳、ないでしょぉぉぉぉぉ!」
ジャキ!
PAN!
PAN!
PAN!
PAN!
PAN!
PAN!
PAN!
飛龍「ガバメントを撃って来るとは、ナニが有ったのだね?」
信也「まだ言うか、この口は!」
どげし(ドロップキック)
飛龍「ぐはぁ」
信也「まだまだ!」
どす(DDT)
飛龍「うわぁ」
信也「こんな事、もうさせるな!」
ギシギシ(コブラツイスト)
飛龍「ギブギブ!」


飛龍「さて、説明に入りますか・・・」
信也「説明する事ありますか?」
飛龍「ありますよ」
信也「ありますか?」(怒)
飛龍「ないです」

飛龍&信也「「読んで下さって、ありがとうございます」」

2004/11/23 飛龍瑞鶴さんから、当HP移転記念に頂きました。

 おお、受難ですな_| ̄|○
 何気に「113隊」がアリスだったり、そのなかのパイロットに「秋本」がいたり(“もと”が違うが)と、( ̄ー ̄)ニヤリッとさせていただきましたw
 てか陸自の方々! 妄想しすぎw

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