ひなぎくさんとやまとたん 第X話 おしょうがつ。(NO SIDE) もぐもぐ。 もぐもぐ。 「……はぁ、おいしそうに食べますね」 お正月、どこにでもある風景。 おせち料理が列ぶこたつ、垂れ流されるテレビからの正月特番。 良くあるスペシャル番組といわれるものは、どうせ毎年定番なんだから手抜き何じゃないかと思ったり。 朝も早くから箱根に向けて走るのは何故かと小一時間ほど考えてみたり。 「そうか」 もぐもぐ。 そのこたつを取り囲むように座るのは、端から雛菊、大和、氷山の三人である。 処理の都合上三人しかでていないと思って欲しい。 何の処理なのかはあえてスルーする。 「……大和は」 手が止まらない勢いでぱくぱくと食べ続ける雛菊の向こう側に座る氷山も、勢いこそないものの手を止めない。 どこかぽやんとした雰囲気で彼女は大和に言う。 「はい?」 それに引き替え、大和はさっきからおせちに手を付けていない。 ちなみにこのおせちは寮母さんの手作りである。 正月をこの寮で過ごすという奇特さんのために、いつも年末に仕込んでおくのである。 ちなみにオススメはこってりとした栗きんとん。甘く過ぎず、しっかり煮えて柔らかい栗きんとんは不思議と他のおせちと同じようにおかずとして食べられる。 イメージは栗ご飯の栗か。 「何故食べないの?」 「おいしいぞ」 もぐもぐ。 しかし何故この三人が一つのこたつを巡って怠惰な正月なのか! 第一雛菊、お前彼氏いただろう、という突っ込みは不許可の方向で。 だって年齢しっかり設定してないし、これから出かけるかも知れないじゃないか。 「ええ、判るんですけど」 大和はどこか哀しそうな、いや寂しそうな顔でおせちを一瞥し、はあとため息を付く。 「実は年末で体重が増えて」 「私など少し体が筋張ってきたぞ」 もう擬音がもぐもぐからがつがつにしたくなる勢いだが、おんなのこなのでもぐもぐ。 「雛菊さん。……」 「その冷たい目はやめろ」 雛菊さんは決して体を鍛えるのをおこたらない。 がんばる乙女なのだ。 「……第一、大和が……太るのを気にする理由が判りません」 不思議そうに首を傾げて。 氷山は再びおせちにとりかかる。二番目にオススメのいもの煮染めである。巧い煮込み方で、決して型くずれせず、噛めば歯ごたえを失う前ぐらいの柔らかさ。 是非食べていただきたい。 「昔ながらのおせちは保存食。いくら食べても、というのはありませんが」 じろり。 もぐもぐ。 「えー、でも……」 この中で一番からだが小さい大和。 氷山に比べればぽちゃ系だろうが、それはちびの宿命である。 第一それで細ければ少し可愛さに欠けないだろうか? ちなみにそれがすべてではないことは確かだ。 「私なんか2kg程欲しい」 「雛菊さんは筋肉の話をしてるんでしょう」 全く。 「……では」 「だったら食後、初詣に行こう。部屋でぼーっとしていても仕方がないんだから」 雛菊、どうやら予定変更らしい。 彼氏より仲間というか友人。そのうちまた一人になるぞ。 「え?!」 「私の指定する装備をバックパックに詰めて、ここから伊豆の東照宮まで強行軍すれば否応なしに痩せる」 「痩せたいわけじゃないです!あ、でも」 大和は二人をきょろきょろと見ると、小さくこくりと頷く。 そしてお箸をとると、両手をあわせる。 「判りました。無理せず食べて、一緒に出かけましょう」 いただきます。 余談になるが。 「ううぅ〜」 正月明け、体重計の上で身を捩る大和の姿が見られたという。 |
||||||||
2006/01/21:日々野 英次さんから頂きました。
戻る トップ |