ひなぎくさんとやまとたん 第3話 突撃!隣の今日のツンデレキャラ(NO SIDE) 既にアポ無し突撃取材で有名な「突撃!隣の今日のツンデレキャラ」という番組がある。 この番組、取りあえず強引な取材で有名である。 何が強引かというと、その取材方針が『アポが取れるなら一日早く行け。取材時間は迅速かつ確実に』なのだ。 彼らにかかっては、いかなツンデレキャラであろうともその『ツンツン』を目の当たりにせざるを得ないという、まさにマニアックな集団であった。 というか。 犯罪であるそれは。 「さあ今日の隣のツンデレキャラの時間がやって参りました」 キャスターがカメラマンに向かって、マイクを握ってにこやかに話す。 バラエティというと色んなジャンルをひっくるめてしまい、ジャンルが曖昧になりがちなので勘違いされやすい。 そのため、この番組はバイオレンスコメディ番組というジャンルを勝手に捏造している。 一発屋にありがちな内容ではある。 「本日のキャスターは私、サンヨー亭九仁乎(SAN-YO-TEI KUNIKA)でお送りいたします」 キャスターは日替わり、ツンデレを理解できるコメディアンが担当している。 「今日は『ツンデレ』の宝庫、知られざるツンデレの天国へと私やってまいりました」 どこだよそこは。 そんな突っ込みのテロップを入れながら、くにかのにこやかな顔がアップになる。 「それでは、お伺いしてみましょう」 そんなとんでもない突撃取材が敢行されようとしているのは、ここ。 擬人化外洋機動艦隊艦隊母校くれである。誤字ではなく母校である。念のため。 言うまでもないが音の響きだけで選択している。 さて、キャスターがそんな風に話していた頃、くれのロビーにくつろいでいるのは二人。 雛菊と大和である。 二人の前にはテレビがあり、バラエティ番組が流れている。 「誰かに電話ですか?」 大和が両手でココアのカップを抱えながら、隣に座る雛菊に声をかける。 ちょっともこもこしたセーターに、下はフレアスカートである。 背丈のせいもあるだろうが、ちょこんと座っているようにみえる。 「あー……んん、ちょっと、な」 歯切れの悪い返答を返すと、雛菊は携帯をかちかちやりながらしかめ面を浮かべる。 雛菊の方はジーンズにフライトジャケットという出で立ち。 ちなみに公式のイラストは普段着ではなく戦闘用の衣装。擬人化第1段階はまだ兵器に近いが、第2段階のこの段階にくると兵器らしさはなくなる。 一応、何時でも戻れるらしい。 「電話してくる」 ややあって、彼女はしかめ面のままで携帯を耳に当て、そのまま自分の部屋へと向かう。 大和はそれを見送って、ココアを一口飲んだところで――異変が起きた。 「突撃っ!隣のぉっ!きょーのぉおっ!」 くれの入口をどかどかと不作法に飛び込んでくる男。 その後ろからレフ板やら照明やらマイクやらカメラやらもった人間が続く。 「ツンデレキャラ〜っっ!」 どかどかどかどか。 「おや」 くにかの前には、ソファの前で小さくなっている大和が一人。 彼女も何があったのか何が起こっているのか、助けてと言う言葉を忘れて目を丸くする。 「お嬢さんはここのヒトかな?」 「え、あの。……ええ、そうですけど」 そして残念なことに、彼女はツンデレではなかった。 「おやー、取りあえず一発目は可愛らしいお嬢さんのようですっ!」 止めても止まらない程ハイテンションで、マイクに向かって興奮して叫ぶ。 「インタビューしていいですか?ここの事をお聞きしたいんですが」 「え、あ、あの、その」 わたわた。 「少しだけですよ。他もお聞きしたいヒトがいますからね」 そしてずい、とマイクを彼女に突きつける。 「あ、あの、よろしくお願いします」 ごん。 ぺこりと頭を下げて、思わずマイクに頭突きしてしまう。 「はっぁーっ!これは可愛らしいっっ!」 どうやら、別にツンデレでなくてもいいようだが……。 雛菊は何度も帰ってくる発信音を聞いて、ため息を付くと携帯を畳んだ。 今でてくれないのなら別に構わない。今すぐ声が聞きたいのに。 テレビを見ていても落ち着かなくて、結局苛々に任せて電話したがますます苛々が募ってしまった。 「あの馬鹿」 別に悪い訳じゃないのに思わず呟き、携帯を上着のポケットに片付けてようやく騒ぎに気が付いた。 妙に人の気配がする。 部屋から出て、気配の方向に進むと……あった。 テレビの取材のような感じで、ロビーにいる大和の周りに男が取り囲んでいる。 「え?私ですか?えーっ……ちょっと、そんな」 かろうじて聞こえた大和の声に、ぴくんと彼女の目がつり上がる。 「も、もう、やめてください」 少なくとも見覚えのない連中ばかり。 大和も困った貌をしている。 と言うことはお客ではないかも知れない。テレビの取材があるなら、広報担当から必ず連絡があるはずだ。 そう思った雛菊は、迷うことなくロビーへと足を進める。 「おっとぉ、初なお嬢さんだっ」 レポーターの声。 「……何をしているお前ら」 照明が一瞬雛菊に気づく。 同時に数人が近づく彼女に気づいて、レポーターもそちらに視線を向けて。 「えーっ。え、や……待ってください雛菊さん、駄目です、いじめめられてるわけじゃないですからっ!」 「問答無用だ、大和。敵を前にして何をぼぉっとしとるか!」 「わーっ!は、速く逃げてください!はやくー!」 この日の突撃!隣の今日のツンデレキャラは異常な視聴率を誇ったというが、負傷者2名、逮捕者2名を出したこの番組は、大人の事情により今回で打ち切りとなってしまった。 「……残念でした」 『突撃!隣の今日のツンデレキャラ』最終回をロビーで眺めながら、氷山はそう呟いたという。 |
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2005/11/08:日々野 英次さんから頂きました。
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