ひなぎくさんとやまとたん 第4話 雛菊さんの休日(SIDE:HINAGIKU) 本日は休日。予定されていたとおりに休めるのは久々だ。 だから、予定通りに声をかけることにした。 彼女の部屋まで行って、軽く二回、右拳でノックする。 「大和、予定通りだから約束した通り、街に出よう」 ちなみに空母とかそう言う話は取りあえず置いて置け。 どこか遠く彼方にぽぉんとな。 この物語ではその辺の事を勘ぐられては困る。 忘れたか?では続けよう。 「はい」 僅かにくぐもったドア越しの声が聞こえた。 大和は本人が気にしているぐらい、実は背が低い。 私からしてみれば、丁度胸の辺りに頭があるので丁度良いサイズなのだが。 一応は艦隊旗艦、フラグシップと言えば親に等しい。 ……のではあるが。 並んで歩くと多分、そうでもない。 やっぱり私の方が若干背が高い。 「すぐ近くに新しい喫茶店があるんですよ」 どこから仕入れてくるのか、色んな情報を持ってる事がある。 歩いていると言うよりスキップしているような、テンポのいい歩き方をしている。 結構子供っぽく見えるが、しかし殴られたら痛いんだろう。 実はこう見えても簡単にはへこまない丈夫な娘だ。泣かせたらただじゃすまない。 「じゃあそこで、取りあえずお茶にしよう」 にっこり笑って小首を傾げる彼女に、少しだけ笑って見せた。 喫茶店、と言うよりは小さな料理屋さんといった雰囲気だった。 ドリンクのメニューも豊富で、紅茶・コーヒーは私の知らない銘柄がずらりと並んでいる。 詳しくないのでよく判らない。 「マロンタルトのケーキセットで、ストロベリーティのティオレください」 さらりと頼む大和。 あー。正直な話、私はこういうのは余り得意な方ではない。 大和はなれた感じがするんだが。 「……お茶はないのか」 笑われた。 いや、しかし実際あったから驚きだ。抹茶にみたらし団子で注文することが出来たので好しとする。 ちなみに、お寿司屋などで出される、あの大きな湯飲みで飲むのが好きなのだが。 抹茶だから、多分、お椀のような横に広い、茶の湯用の湯飲みで出るような気がする。 「不思議な取り合わせですね」 まったくだ。 「何でも用意できるのは、店主の懐の深さだろう。紅茶が出せるなら普通の緑茶も出せて不思議では」 ……。 自分で言って不思議になって首を傾げてみた。 「緑茶はともかく、私が頼んだのは抹茶だな」 作法は、このような店ではどうしようもないとしても。 きちんとしたお茶が出せるのだろうか。 大和は理解していないのか、頭の上に?を幾つか飛ばしている。 「まあ良かろう」 多分。 「ねぇねえ」 注文が届いてすぐだっただろうか。 他愛のない話をしていたが、その辺は少し曖昧だ。 なにせ唐突に背後からの声だったから、驚いたのだ。 御陰で何を話していたのか――ついでに言えば小さな怒りのせいで思い出せない。 下卑た男共の媚びた科など、私の望むものではない。 「二人?良かったら話しない?」 じろり。 大和が怯え気味に下がるのが見えて、私は振り向きざまに声の主に睨み付ける。 軽薄そうな男が二人、後ろの席にいる。 「断る」 「えー、そんな事言わずにさあ」 ほう。 今の睨みで引き下がらないとは良い度胸だ。 そんな軽薄な男連中と話す口はない。交渉決裂という事だな。 勿論、そんな事はおくびにも出さない。見敵必殺、無駄口を叩く暇はない。 敵の偵察機が強行偵察に来たので有れば、喩え高々度であろうと逃さず叩く。 圏内で発見したならば即座に。 「だ、駄目ですっ」 がし。 「何が駄目だ、口で言って判らない奴らは叩きのめして蹴散らすしか無かろう」 立ち上がった私の背後から、慌てて組み付いてくる大和。 こうして組み付かれると、実は意外に抵抗出来ない。 「ええい離せ大和、全砲門開くぞ」 仕方ないので強引に戦闘態勢に移ることにする。 「は、早く逃げてー!」 がしゃり。 あ。逃げた。 ちょっと団子は惜しかったが、店員が怯えるので仕方なくお金を払って出ることにした。 一応大和のマロンタルトは空になっていたので、いいだろう。 「何故止めた。あんな輩は徹底的に叩いておかないと後で困る」 「駄目です」 大和も意外と頑固なところがあるようだった。 ……おびえてたくせに。 「雛菊さんは好戦的過ぎです」 ぷん、と彼女は頬を膨らませて顔を背ける。 「……致し方有るまい」 攻撃型空母として前線で戦うのが私の役目だ。喩え同じ外機、旗艦といえ聞くことは出来ない話だ。 好戦的に生まれついたと言うべき何だろうが……護るためには多少なり痛い目をみせなければいけないと思っている。 「あんな軟弱な男子、叩いて叩いて叩きのめして根性を入れ替えてやる」 本当ならこう、びしりとした男であるべきであろう。 しかし思うのだが、大和はもう少し性格を改めればきっと守って貰う必要はない気もするが。 「叩きのめしたら多分根性なくなっちゃうんじゃないですか」 そのとおりだろう。意外に的を射た話に私は頷いた。 よくよく考えてみると、実は私よりもかなり酷いことを言っているような気がしてきたが。 何にしても少し気を遣わせてしまったし、私はまだあまり食べていない。 「後味の悪い事になってしまった。詫びに団子でもどうだ」 折角だから今度は私の知ってるお茶屋にしよう。 「あ、あの。……戴きます」 ……うむ? 何故おどおどしているのだろうか。 ともかく、今日はもうあんな連中とは会いたくないと願って、次の茶屋に向かうことにした。 休日ぐらいはゆっくり過ごしたいと思うのは、誰だって同じだろう? |
||||||||||
2005/11/02(2005/11/08加筆修正版):日々野 英次さんから頂きました。
第3話へ 第5話へ 戻る トップ |