ドッグファイト 蒼空の戦士達


第2話〔魔鳥〕


隼は機体を牽引するためのトラクターに乗って二式大艇を格納庫まで引っ張る途中、隼は鷲が無線で言っていたことを思い出していた。いい土産とは一体何なんだろう?今までに鷲がもって来た土産を思い出してみた、が・・・どれもろくなものではなかった。
「・・・不安だなぁ。」
だがそんな言葉とは裏腹にどこかでわくわくしている自分がいてそれが可笑しかった。
そうこうしている内にようやく格納庫に着いた。
「・・・ふぅ、収容完了と、もう降りてきていいよ。」
その言葉待っていたといわんばかりに二式大艇のハッチが開き、そこから鷲がエディを引き連れて出てきた。
「久しぶりね、隼。」
「エドワードさん!?」
意外な客人に一瞬驚いたものの、幼いころからの知人に会えて、隼はうれしくなった。
「水くさいわね、エディでいいのよ?それにしても暫らく見ない間に大きくなったじゃない。最後に会ったのが二年前、あなたが九つ頃かしらね。」
そう言ってエディは隼の頭を撫でた。少々照れくさいが嫌ではなかった。彼にとってエディは母親のような存在だからだ。
「父さんもお帰り。」
「おう!」
ここで隼は気になっていた土産について訊いてみることにした。
「ねぇ、そういえば無線で言っていたお土産って何なの?」
「見たいか?だったら、それを降ろすのを手伝ってくれ、エディも手、貸してくれ。」
そういうと鷲は又飛行艇の中に入ていった。
「・・・ねぇ、エディ。そのお土産っていったい何なの?・・・そんなに量が多いの?」
少し不安になりエディに尋ねた。彼女のほうも引きつった笑みを浮かべている。
「私も中身は知らないの・・・大きな木箱が三十箱くらいってことしか・・・」
それを聴いて隼はげんなりした。またいやな予感がしてきた。今度はいったいなんだろう?
「聴かないほうが良かったかも・・・」
それにそんな多くの荷物、中にいったいなにが入っているんだろう?
新たな疑問が隼の胸中でおこった。

「ふぅ、やっと終ったよ・・・」
「ホント、お疲れ様。」
2時間かけて全ての木箱を運び出した。だが不思議なことにほとんどが見た目よりもはるかに軽かったのに驚いた。いったいなにが入っているんだろう?
「・・・」
好奇心が抑えられなくなった隼はとりあえず一番大きい箱からあけてみることにした。釘が打ち付けてあったが箱自体が古く、脆くなっていた為か少し力を入れたら簡単に開けられた。
「・・・これは、飛行機のフレーム・・・?」しかし、それはどこにでもある様な飛行機のものではなかった。限界ぎりぎりまで軽量化されたそれはそこにあるだけで異様なオーラを放っている。
「これはいったい・・・?」
その問いに答えたのは鷲だった。
「ZERO。それがそいつの名前だ。」
「ZERO?」
「そうだ。あの対戦の火蓋を切った高性能戦闘機、零式艦上戦闘機。略してゼロ戦だ。どうだ?すげーモンだろ。」
「これが・・・いったいどこで見つけたの?」
「・・・それはこいつが組みあがったらおいおい話すさ。」
「組みあがったらねぇ・・・てっ、まさか今から!?」
「父さん、本気で言っているの!」
「ほんき本気と書いてマジ本気と読む。まぁ、時間も時間だからまずは夕飯食ってからだ。」
そうだとしてもそんな無茶なと思ったが、どうせ言ったところで無駄だと分かりきっているので隼とエディはあえて言わないことにした。その言葉を言うだけカロリーの無駄だと思ったからだ。格納庫の隅に置かれた時計が鐘を鳴らし、7時を告げる。夜はまだ始まったばかりだ。

ZEROの復元作業を始めて5時間が経過した頃、深夜まで続いたその作業に疲れた隼はいつしか夢をみていた。
失われたはずの故郷へ向けての孤独なフライト・・・もうこの夢は何回見たことだろうか?隼はこの夢が嫌いだった、何故なら何時も後一歩というところで邪魔が入り故郷へたどりつけないからだ。どうやら今日の夢もそのようだ。だが今日の夢はいつもの悪夢ではないようだ。
後ろから何かがものすごい速度で迫ってくる。どうやら見たところそれは飛行機のようだがかなり奇怪な形をしている。まるで、ダーツの矢のような形をしており、プロペラをつけていないのに驚くべきスピードで肉薄してくる。
これは、いったい!?
その疑問に答えるかのように飛行機の機首が煌いた。間違いないどうやらあれは戦闘機のようだ。光の筋が真直ぐこっちに向かってくる。機銃を撃ってきたのだ。
だめだ、避けきれない・・・!!
隼は思わず身構えた、がいくら待っても着弾の衝撃は来ない不意に後ろを覗いてみた。隼をかばうように二機の戦闘機が機銃弾に貫かれ炎に包まれた。その機体にはどちらも見覚えがあった。荒鷲のレリーフを垂直尾翼にあしらったフォッケウルフTa152、それに真っ赤に染め上げられたムスタングP51・・・・まさか!?
「・・・そんなまさか」
隼は思わず心の中で叫んだ。
父さん!!エディ!!やめてくれ!!こんな光景なんてみたくないっ!!
「!!!っ」
最愛の家族が炎に包まれた瞬間ようやく隼は現実の世界へと帰還することができた。だがまだ心臓は激しく脈を打っている。無理もない。あんな悪夢を見たら誰だってそうなる。隼はとりあえずこの動悸を収めるためあたりを見渡すことにした。まだ夜明け前なのか薄暗い。気のせいか雲もすぐ近くに見える。その上奇妙なデジャブを覚えた。それが飛行機のエンジン発動機のエキゾーストノートだと気がつくのにそう時間はかからなかった。今までに聞いたことがないような軽快なその音はまるで子守唄を唄っているような感じがした。その心地よさにまぶたが重くなり次第にまた暗闇が広がってくる。また夢の世界へと足を踏み込みかけた隼だったが、すぐにまた現実の世界へと引き返した。
「・・・?」
なんで、エンジン発動機の音が聞こえてくるんだろう?いやな予感がしてきた。恐る恐る、もう一度目を開いて辺りを見渡してみる。おそらくハワイが近いのだろう眼下にはエメラルドグリーンに彩られた美しい海、太平洋の景色が広がっている。それだけだったら感嘆のため息を漏らしたかもしれない。だが次に目に飛び込んできたのはそんな穏やかな風景をぶち壊すのに十分だった。
・ ・・鮮やかなサファイアブルーに染め上げられた飛行機の主翼が見えた。それだけならばまだよかったのだが。主翼には失われた故郷の日の丸シンボルマークがはっきりと見て取れた。世界広しといえどもそんな機体は現時点でたった一機しかいない。
「まさかこれって・・・」
その言葉に答えるように聞きなれた声が聞こえてきた。
「やっと、起きたか隼。」
その声で我に返った隼は操縦席のほうに目をやった。そこには操縦桿を握っている鷲の姿があった。後姿なので表情は見れないがその声には隼のことを心配しているようだった。
「・・・父さん。」
「うなされていたようだが?」
そんな鷲の心遣いが今の隼にとってはありがたかった。
「うん、もう大丈夫だよ。」
その答えに満足したのか鷲はそれ以上追求しなかった。
「ん、そうか。」
いつもの調子を取り戻した隼はここで今自分がどういった状況にあるのか鷲に聞いてみた。
なんでも、今日の午前1時ごろになってようやくゼロの復元が完了したのだが、ここで鷲はあることに気がついた。
「・・・機関砲がない。」
戦闘機にとって機関砲がないのは実に由々しき事態だ。鷲曰く武装のない戦闘機は福神漬けのないカレー同然だそうだ。それはさておき、このままではいかんと思い、すぐさま機体内燃料タンクに燃料をフルに搭載。それだけではハワイにたどりつけないので、ドラム缶を憎槽代わりに機体につんでいるそうだ。
「大体状況は分かったよ。だけど何で僕まで連れてきたの?」
尤もな意見だ。
「簡単なことだ。言っただろ?こいつゼロは土産だって。これからこいつゼロはお前のものになるんだからな。こいつの性格を身体で覚えるんだ。そのためにお前を連れてきた。」
「なるほど。もうひとつ質問してもいい?」
「ああ。」
「ゼロに武装がないのは分かったけど。何でそれを取り付けるためにわざわざハワイまで行くの?」
「幼馴染がハワイで武器開発のお偉いさんになっている。そいつに事情を話して武装を貰うからだ。」
・・・事情を話したくらいで武器なんか譲ってもらえるのかしら?とふと思ったが鷲に言うのはあえて避けた。
「それにしても、いやな予感がするなぁ・・・」
そんな隼の独白はエンジン発動機のエキゾーストノート排気音にかき消された。

現在、午前六時三十分。ハワイ到着まであと五時間なり。

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あとがき

ようやく第二話ができました。
なかなか空戦のシーンへ入らなくてすいません。しかも第一話改訂版を送ったつもりが改定前を送っているし・・・
次回ではF4Uとの空線を繰り広げます。
アメリカ海軍最強の海賊相手に風見親子はどう立ち向かうのか!



 2007/07/31:裕之兵曹長さんから頂きました。
秋元 「アメリカの度肝を抜かした戦闘機、零式。しかし、大戦が終盤へと近付くごとに性能差が開いてゆき、最後には特攻機……」
アリス 「……マスターは晴嵐派だそうですが」

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