ドッグファイト 蒼空の戦士達


第3話〔トラトラトラ、第二次真珠湾攻撃成功せり?〕


 ・・・パールハーバーアリゾナ記念館。そこは、あの大戦の奇襲攻撃によって撃沈した。戦艦アリゾナの上に建設された記念館だ。今日も多くの遺族がその時、艦とともに命を落とした者達の冥福を祈っている。彼、ロバート・F・ハルゼーもその一人だった。ハルゼーもアリゾナに乗艦していたのだが、最初の雷撃(魚雷攻撃の事)を受けたときの衝撃で防空指揮所から投げ出され助かった。だが、彼の部下の多くは脱出する暇もなく。艦とともに、沈んでいったのだ。ハルゼーは航空戦艦モンタナの羅針艦橋でかつての自分の艦を静かに眺めていた。アリゾナ記念館に向かい十字を切る隊員もいる。しかしこの静寂は唐突に破られた。CICに通じる扉から新兵だろうか敬礼も忘れて慌てた様子で飛び出してきた。
「・・・いったいどうしたのだ?」
訝しげに、ハルゼーはその新兵に尋ねた。
「はっ!先ほど、本土より緊急入電!今朝未明、合衆国本土から正体不明機がパールハーバーに向かっている模様。目的、意図は不明のため注意されたしとのことです。」
「・・・馬鹿馬鹿しい。本土のやつらは相当注意深いのか、それとも臆病なのか・・・?」
そういえば最近の司令部の動きは何か変だ。あの男が最高司令官になったときからだろうか?まぁ、今はそんなことよりもその不明機の方だ。
「まぁよかろう。それで、その正体不明機とやらは本当にパールに向かっているのかね?」
「はっ!三十分ほど前からこちらのレーダー電探も反応があります。」
妙な胸騒ぎがハルゼーの中で起こったが、表情には出さなかった。
「・・・機種は判るか?」
「電探の反応から見て、今のところ小型機だということがわかりました。」
小型機が本土からここまで来ているだと?アメリカからハワイまで最短でも四〇〇〇キロはある。それは小型機がいくら頑張ったところで飛べる距離ではない。唯一の例外を除いて。
「・・・信じられん。何かの間違いではないのか?」
「何度も確認したのですが、間違いないかと。」
その時だった。艦橋にいた隊員の一人が東の空に何かが煌いたことに気が付いた。
「東の空に機影確認!!」
その言葉を聞き、周囲に緊張が走ったがほとんどのものはまだ幾分か余裕があった。ほとんどのものが遊覧飛行のためのセスナ民間機だと思ったからだ。だが、すぐにそれは間違いだということに気がついた。
「・・・なんてことだ。」
その光景は、十四年前の真珠湾の悲劇の再現だった。
「ZEKE!・・・いえ、未確認機本艦上空をフライパス!そのままアリゾナに向かって、突っ込んでいきます!」
その一言でわれに返ったハルゼーはすぐさま命令を下した。
「何をぼけっとしているんだ!5インチ砲発射準備!あの蚊トンボ撃ち落すんだ!!」こその、命令を聞いて副長は目をむいた。
「無茶です!いくら、モンタナの火器管制システムが優れているとはいえ一発で仕留めるのは無理です!それに万が一外れた場合アリゾナ記念館に直撃する恐れがあります。それにアレが民間機でないという保証はどこにもないんですよ!!」
「ならば迎撃機を発艦させろ!不明機に対してコンタクトを取るんだ。今すぐにでも動かせる機はあるか!?」
「ほとんどの機が整備中で稼動するのはリチャード飛曹のコルセアF4U一機だけです・・・」
「よし!あの忌々しい凶鳥にはもってこいじゃないか。すぐさま奴に出撃を伝えろ」
「イェッサー!」
奴らには二度とこの空を好きにはさせん。死んでいった部下達のためにも。そして何より俺自身の誇りの為にも!!忌々しいZEKE、貴様がここに舞い戻ってきたことを後悔させてやるぞ!!!
「KILL JAPS !KILL JAPS !KILL MORE JAPS !」

リチャードはこの日のフライトは、彼の人生の中で最悪なものだった。長い艦内での生活が終わり。最愛の妻に、子に、やっと会える。そう、思った矢先にこの出撃。
「神様って奴がいたとしたら恨むぜ、俺は・・・」
「・・・?こちらマイティ・モンティ、クラーケン・リーダ、何か言いましたか?」
どうやら自分の独り言を無線機が拾って管制塔に伝えてしまったらしい。
「いや・・・なんでもない。ただの独り言だ。」
それを聞いてオペレーターもそれ以上追求しないことにした。
「・・・そうですか。では改めてクラーケン・リーダ、カタパルト・コンプリート!」
さぁ、出撃準備は完了した。とっとと仕事を片付けてブルドックハルゼーの親父から給料ふんだくってやる。
「よし。こちらクラーケン・リーダやってくれ。」
「了解!クラーケン・リーダ、エジェクション!・・・御武運をお祈りします。」
蒸気カタパルトが作動。水蒸気がシリンダー内を駆け巡り一気にリチャードのF4U機体をハワイの真っ青な空へと放り投げた。コルセアF4Uの機首をアリゾナ記念館へと向ける。
「まずは、コンタクト接近だ。」
一方、第二次真珠湾攻撃(といっても、爆弾を落としたわけでもなく、ただ、アリゾナに向かってアクロバット飛行をしただけだが) を成功させた二人はコルセアからの脱出を敢行していた。
「アレくらいで迎撃機を出してくるとは・・・アメリカは何時からジョークが分からなくなったんだ?」
鷲は不思議でならないとしきりに首をかしげた。そんな様子の父に冷静に隼はつっこんだ。
「・・・いくらなんでも場所が悪いよ、父さん。」
何しろここはパールハーバー。日本とアメリカの戦争で一番初めに戦場になった場所。その上そのときに使用されて有名になったゼロ戦だ。アメリカ人の神経を逆撫でするどころか怒りの火山の中にダイナマイトを投げ込むようなものだ。
「やっぱり、そうか?しゃーない。とりあえず、迎撃機に無線で敵意がないことだけでも伝えるか。」
不承不承といった態で鷲は無線機のスイッチをいれた。おそらく超短波無線で語り掛けてくるだろうと思って、チャンネルを合わせる。すぐにでもコルセアのパイロットからの通信が入るはずだ。
「・・・?」
だがいくら待っても聞こえてくるのはノイズだけだった。鷲は無線機の周波数をいろいろと変更してみたがすべて全滅だった。
無線機の故障?そんなはずは無い現にハワイへ飛び立つ前にはいろいろな無線が聞こえてきた。
「・・・父さん?」
後ろから隼の不安げな声が聞こえてきた。どうやらあまりいい状況で無いということ察知したらしい。
突然の無線普通・・・鷲は軍にいた頃のある噂を思い出した。アメリカは電子兵装を使えなくする装備を開発しているらしい。そんな、戦場ではごくありふれた敵への恐れからくる噂話だ。
「どうやらあのうわさ本当だったらしいな・・・」
そう判断した集の行動は早かった。無線が使えずこちらが何者であるか相手にわからないものができる行動はただひとつ。
「・・・隼、しっかり捕まってろ!!」
「へっ?」
隼が返事を返す前に鷲はゼロの増層を投棄、スロットルレバーを全開まで押し込む。途端にゼロは蹴飛ばされたように加速する。

「こちら、クラーケン・リーダ。不明機が離脱をはかっている。追撃許可を・・・マイティ・モンティ、聞こえるか?」
反応が無い。どうやら、無線がいかれたらしい。
「ちっ!」
こうなったら、早くあの不明機には地上に降りてもらう必要がある。力尽くでも・・・な。
高度を落としたところでエンジンに2,3発当てて。水面に着水させよう。
「クラーケン・リーダ、エンゲージ交戦。」

コルセアが翼を真っ赤に染めながら鷲たちの乗るゼロへ迫ってきた。主翼の上を機銃弾が掠める。
「撃ってきたよ!!」
「蜂の巣にされたくなきゃ頭を下げていろ。いまのはまだ警告だ!」
次は本気でこちらを狙ってくる。だが今の射撃を見る限り、やはりこちらに対して殺意を持ってないことは分かる。おそらくこちらに与えるダメージを少なくするために、高度を落としたところでエンジンを撃ち抜くつもりだ。
「さて、どうする。」
こっちは武装が全然施されて無い上に、二人も乗っている。対して奴は速度、武装ともに優れている・・・まてよ。
「優れた速度・・・重武装・・・それに対してこちらは二人乗っているとはいえ非武装で軽い、その上改造もすんでいる・・・よし!!!隼、ちょっと俺に命預けてくれ。」
「分かった。だけど、父さんいったいなにを・・・」
鷲はZEROの操縦桿を目一杯前に倒した。それに伴って、ゼロが前側に傾いていく。そして急降下を始める。それにコルセアも続く。速度計と高度計の針が狂った時計のようにぐるぐる回る。速度は時速600キロを超えていた。普通のゼロ戦であれば、既に空中分解を起こしていたかもしれない。だが鷲達を乗せたゼロは辛くもそれに耐えた。復元作業の際に新たに造ったチタン合金製の翼が空気を切り裂き、溶接を施したフレームがパイロットの命を守り抜いた。海面がもうすぐ目の前に迫ってきている。だがまだ機首は起こさない。もっとぎりぎりまで近づかないと。高度計の針が百メートルを切った。
鷲は操縦桿を引き機首を起こした。機体が水平になり下降が止まる。次いで何かが水の上に叩きつけられた様な音がした。

「・・・ほう。」
リチャード飛曹は思った。少なからずゼロのパイロットは腕のたつ奴だ。下手な奴だったらさっきので、動揺して高度を上げようとするものだ。だがあいつはさっきの警告射撃にも全く動じなかった。
「よほど、賢い奴が乗っているんだな。」
となると下手にエンジンを狙うとこちらが危険だ。ならば・・・
リチャード飛曹の決断より早くゼロは動いた。突然機首を海面に向け急降下を始める。
慌ててリチャード飛曹もそれを追う。おそらくゼロのパイロットは射線を捉えにくくするために急降下をかけたのだろう。
「死ぬ気か・・・?」
ゼロはその機動能力を手に入れるために限界まで軽量化した機体だ。裏を返せばその分フレームの剛性は低い。時速620キロを超えると空中分解を起こす。これで奴もジ・エンドだ。だが、リチャードの予想に反してゼロは時速630キロを超えても分解を起こさなかった。
「なっ・・・!?」
そして次の瞬間ゼロが視界から消えた。目の前にハワイの青い海が見る見る広がってくる。考えるより先に操縦かんを握る手が動いた。F4Uの機体がゆっくりと水平に近づく。だが間に合わなかった。プロペラが水面をたたき一気に失速、着水した。その衝撃で頭をサイトに叩きつける。だがとっさの判断が功を奏したのか、リチャードはそれだけの怪我ですんだ。上を見上げると、あいつがみえた。まるで自分に寄り添うように俺の上を二、三回旋回して去っていった。
「どうやら奴は敵じゃなかったようだ。」
それだけは分かる。それだけでリチャードは、満足だった。
ハワイの空はどこまでも澄み渡っている。

第四話へ
あとがき

よっ、ようやく第3話が完成しました。かなり疲れました。今回の空戦を書くのにミニチュアの飛行機でもって何度もイメージしてようやくかっこいい(?)空戦を書けたと思います。次からはホント機銃を主人公機に撃たせなくては・・・



 2007/08/08:裕之兵曹長さんから頂きました。
秋元 「非武装じゃどうしようもありませんからね。かといって屈服するのも嫌(ぉ」
アリス 「……では逃げましょう」

第2話へ  
戻る  トップ