2053年10月20日、アメリカ合衆国は世界各国に突然宣戦布告をした。
合衆国軍司令官ジェインが、大統領不在を狙いクーデターを起こし、政権を奪取。
10月16日、「他国の武力をすべてを排除する」という演説をぶちかまし、ロシアを中心に徹底抗戦の構えをみせる国々(ほぼ世界すべての国)に20日付けで宣戦を布告したのであった。
アメリカは、ロシア、カムチャッカ半島や渤海州の弾道ミサイル潜水艦基地や軍施設、空港にミサイル攻撃を行った。
そして、B−1戦略爆撃機やB−2戦略爆撃機を使い、ヤクーツクやハバロフスク、ウラジオストクなどの都市に無差別爆撃をおこなう非道な行為を行ったのである。

ロシア元首、ゴルバノフ・プラフ大統領は直ちに戦争開始を国民に伝え、各軍管区からは兵力が逐次抽出され、極東軍管区に配置されていった。
太平洋艦隊には、敵戦略爆撃機基地になっているセントローレンス島攻略を命じた。
セントローレンス島攻略作戦は、ロシア太平洋艦隊の第2艦隊が出撃。
10月22日から27日までの激戦の末、敵空軍基地および軍港施設を陥落させた。

GRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)の情報を元に、ロシア連邦参謀本部はSTAVKA(軍最高総司令部)に旧ソ連時代から研究されていたアラスカ上陸作戦を提案。
司令部は、作戦を許可。
この指令はすぐさま極東軍管区に通達された。
「すべての兵力をもってアラスカを攻略せよ。作戦発動は11月1日。作戦名は・・・英雄」

こうして、ロシア陸海空三軍すべての戦力が極東に集められ、着々と準備がすすんでいった・・・


外洋機動艦隊
- machine with the heart -
外伝
第1話


2053年11月1日 0700時 

『諸君、唯一アメリカと対抗できた大国ソビエト連邦が崩壊し、63年がたった』

ウラディミール・トリブツ級強襲上陸艦2番艦「イワン・チェルニャホフスキー」号のうす暗い船内で、艦隊司令官の演説がスピーカーから流れ始めた。

『我々は、さまざまな苦難の道を進んできた。保守派によるクーデター、経済崩壊による軍縮、チェチェン独立紛争、2044年のテロリストたちの攻撃・・・・。我々は幾度も苦しく、辛い日々を耐え抜いてきた。そして我々の生活を脅かしてきたさまざまな障害を排除することに成功した。我々は平和を自らの手で勝ち取ったのだ。しかし、傲慢なるアメリカ軍最高司令官ジェインは、あの忌まわしきテロリストたちや、ナチのヒトラーと同じように世界を暗黒の時代に戻そうとしている!』

『我々は各国の同志たちとともに、アメリカを現代の独裁者ジェインから解放するのために奮闘してきた。正義は我々にある。この放送を聴いている勇敢なる我が艦隊の将兵諸君は、アメリカ本土上陸部隊というロシア史上最大の作戦に参加するのである。この南では、同志たちが同盟軍日本と合同でアリューシャンを解放するために奮闘している。彼らの負担を少しでも減らすためにも、この作戦は必ず成功させなければならない!我らの自由を、我らの平和を、世界の自由と平和をわれらの手で勝ち取るのだ!各員の奮励努力を、私は、そしてロシア国民は、世界中の人々は期待している!!神のご加護が諸君らにあらんことを!以上!』

演説の終了とほぼ同時に「ウラー!!!(万歳!)」と叫び声があがった。
それは、たちまち艦内の海軍兵たちに伝染し、艦隊全員の歓喜が爆発していた。
しかし、ニコライ・イワノヴィッチ・ヴォロシーロフ大尉は、そんな歓声の中これからはじまる上陸作戦について考えていた。
今回の作戦は、ホープ岬とトンプソン岬の同時上陸作戦であった。
アラスカにいるアメリカ軍は、ジェイン派に真っ先についたのでこの地区はかなりの戦力が割り振られていた。
ここにいるアメリカ軍を駆逐し、極東ロシアとベーリング海の安全を守るために、STAVKA(軍最高総司令部)は旧ソ連時代から研究していた、対米作戦の一環であったアラスカ強襲上陸作戦「英雄」を決行した。
海軍も乗り気らしく、艦隊もロシア太平洋艦隊所属の中でも最精鋭第2機動艦隊をこの作戦に参加させてのである。
旗艦のゲオルギー・K・ジューコフを中心に、ヴォルゴグラード級航空重巡洋艦ヴォルゴグラード、アルハンゲリスク、老齢なロジーナ級戦艦ロシア、キーロフ級巡洋艦アドミラル・ラザレフ、新型のオクチャブリスキー級原子力巡洋艦2、旧式のスラヴァ級巡洋艦2、クレスタ2級巡洋艦3、ソブレメンヌイ級駆逐艦5、ウダロイ級駆逐艦4、クリバック級フリゲート9、大型タンカー2、新型強襲揚陸艦ウラディミール・トリブツ級3、イワン・ロゴフ級強襲揚陸艦1、輸送艦22、揚陸艇200、攻撃型潜水艦10という大艦隊であった。
2040年の海軍再建増強計画による、軍備増強の成果がまさにここに集結していた。
しかも、この艦隊は開戦直後セントローレンス島攻撃の中心を担った精鋭中の精鋭である。
最高総司令部が、この作戦を重要視していることがニコライには、よくわかった。

『作戦開始まであと10分!総員乗船用意!!』

アナウンスが船内に響く。
各中隊の面々がチェルニャホフスキー号に格納されたエア・クッション型揚陸艇や小型兵員揚陸艇に乗り込んでいく。
ニコライは、一隻の小型兵員揚陸艇に入った。
狭い船内に兵隊たちが次々乗り込む。


それから数分後。
揚陸艇は動き始めた。
最適とはいえない天候だったが、雨が降っていないだけまだましである。
無数の船の群れが、波立つ海を掻き分け、海岸とは垂直の航跡を引いて砂浜へと向かっていた。
上空を見ると、空母艦載機が海岸へ爆撃に向かっていた。
他にも、空軍のフランカーやミグが頭上で敵機と同じように回り込みあい複雑な飛行機雲を浮かべていた。
くすんだ灰色の雲間から見える白い飛行機雲。
ニコライたちはしばし、その上空の決闘を見上げてた。
しかしその決闘観賞は、陸地を守っているクーデター軍から迫撃砲の耳障りな金切り声に邪魔をされた。
あたりに迫撃砲弾の弾着が生じる。一発一発が落ちるたびに海水が水柱を立てた。
やがて隣を走っていた兵員輸送艇が、迫撃砲弾の直撃を喰らって暗い海の中に沈んでいった。
ばらばらになった金属片や死体の一部が降り注ぎ、輸送艇に音を立てて当たった。
お返しだ!っと言わんばかりに、味方の援護砲撃が後方で始まる。
戦艦の16インチ砲、巡洋艦や駆逐艦の130mmや100mm砲、強襲上陸艦のロケット弾、輸送艇搭載機銃が海岸へむけて撃ち始めた。
やがて兵員輸送艇が砂州にのり上げた。戦場の入り口であるランプが降ろされ、ニコライたちはそこから飛び出していった。
上陸作戦「英雄」が今始まったのだ。


「突っ走れ!前進!」

海軍歩兵隊指揮官が、拳銃を振りかざして叫ぶ。
かなりの抵抗を予想していたが、米軍は何もしてこない。
そのとき、沈黙していたトンプソン岬にあるトーチカ郡が一斉に火を噴いた。
機関銃の射撃音が響き渡る。人間や金属に高速の弾丸が突き刺さり、海軍歩兵たちは悲鳴をあげてピンク色の肉片を撒き散らしながら倒れていく。
機関銃の曳光弾が、迫撃砲弾が、重砲弾が、海岸にいるロシア軍上陸部隊にむけて撃ち込まれる。
兵士たちは、手近の海岸障害物に身を隠すことを余儀なくされた。

「ちくしょうめ!!航空隊の連中、給料分の仕事くらいしろってんだ!」

ニコライが思わず悪態をついた。
最初におこなったはずの航空隊の爆撃はまったく効いていなかったらしく、ほとんどのトーチカがいまだに戦闘可能らしい。
その証拠に彼の目の前にあるトーチカは、いまだに銃撃を続けていた。
あちこちで、敵の圧倒的な銃声に混じって、聞きなれたカラシニコフやニコノフの銃声が散発的に聞こえる。
第一陣の海軍歩兵師団が海岸で釘付けにされているしているうちに、第二陣の陸軍第332海軍歩兵師団が、上陸を開始し始めた。
エアクッション型揚陸艇が、T−80H主力戦車、T−90H主力戦車、BMP−4歩兵戦闘車、BTR−120装甲兵員輸送車、完全武装の兵士たちを吐き出し始める。
アメリカ軍の対戦車ミサイルが、洋上にむかって撃ちだされはじめた。
揚陸作業をしていた一隻のエアクッション型揚陸艇が艦橋を吹き飛ばされた。
揚陸途中だったその船は、艦橋を失ったため思うように迎撃態勢がとれず、対戦車ミサイルの的になっていた。
四発目を喰らったとき、船は大爆発を起こした。
どうやら弾薬か何かが誘爆したらしい。地獄と化した船内から飛び出した兵隊たちが人間たいまつになり、悲鳴を上げながら敵の銃火の前に出て行って容赦なく撃ち殺された。

そのとき、揚陸に成功した1台のT−80Hがトーチカに攻撃を開始し始めた。
125mm滑空砲から飛び出したHEAT弾が、無防備な兵士たちを狙い撃ちしていたトーチカを破壊した。
さらに、そのT−80は、歩兵たちのために鉄条網に照準を合わせ、狂ったように撃ちまくった。
鉄条網は砲弾の着弾と同時に吹き飛ばされていった。
と、同時に勇敢なそのT−80に敵のミサイルが集中し始め、戦車に当たらなかったミサイルが、着弾と同時に砂を歩兵共々吹き飛ばした。
一発のミサイルが偶然命中したが、リアクティブアーマーのおかげでどうやら無事らしい。
しかし、そのときだった。突然T−80の砲塔が吹き飛ばされ宙にまった。
飛び上がった砲塔が海岸に落ちて、真下にいた何人かが押し潰された。

「警報!!敵戦車!!」

誰かが叫ぶ。丘の上にいつの間にか数両の敵戦車が現れていた。
目を凝らして見ると、特徴的な平面で構成された低い形姿が見える。エイブラムスS型戦車だ。アメリカ軍主力戦車M1エイブラムスの最終発展型である傑作戦車であり、現アメリカ陸軍の機甲部隊の主力を担っている戦車だ。
敵の120mm滑腔砲が、鼓膜を痛いくらいに刺激する轟音を轟かせる。
砂浜にいた揚陸したてのT−90やT−80が次々と撃破されるか各坐し始めた。
各坐した戦車から転がるようにして脱出した乗員に、トーチカにいる敵兵が7.62mm機銃で狙い撃ちする。
戦車兵たちが、全力で後方に走る。一人の戦車兵が脱出しようとハッチから頭を出したとたんに敵の銃弾に射抜かれ、戦車内に戻って二度と出てこなかった。
味方が、乗員を援護するために小銃をうち、RPG−7対戦車ロケットを撃った。白煙を引いてロケット弾が飛んでいく。
無抵抗な戦車兵を狙い撃ちしていたトーチカが何発ものロケット弾を喰らって煙に包まれ沈黙する。
しかし、丘の上のトーチカや敵戦車には効果がほとんどないらしく平気で発砲を続けている。
そのとき、海からヘリコプターのローター音が銃声や砲声に混じって聞こえてきた。
ニコライたちの真上を見慣れた2重反転ローターのKa−50が飛び越える。戦車やトーチカ群にロケット弾を斉射し、目につくものに片っ端から凶悪な30mm機銃弾のシャワーを浴びせた。
戦車とヘリの攻撃で敵火線が弱まった。

「ウラー!!!」

と誰かが、叫び声をあげ走り始めた。海軍歩兵大隊長のイワノフ少佐だ。
海軍支給の青と白の横縞のアンダーシャツと焼け焦げた軍用ズボン姿で、カラシニコフを高々と掲げて敵に突進した。
誰も彼もみなそれに続いて、手にした銃火器を撃ちまくりながら喚声を上げてトーチカ群に突撃した。
海岸が喚声で埋め尽くされる。
ニコライが数名の戦友とともに遮蔽物に隠れたそのとき、生き残ったトーチカが銃撃を再開し始めた。
物陰に入りそびれた戦友たちが、機銃弾の餌食になった。

「ちくしょう!!」

「少佐!動けません!!」

「ニコライ、死角に回ってあのトーチカを潰してくれ!私の合図で飛び出せ!」

「わかりました!!」

「ミハエル、レオニード、コズロフ、援護射撃準備!!用意はいいか!?援護射撃開始!!」

彼らの手にしたアサルトライフルや軽機関銃がトーチカに向かい銃弾を送り込む。

「行けー!!」

ニコライは遮蔽物から一気に飛び出した。
自分の耳元を機銃弾が掠め、地面に機銃弾があたって土ぼこりをあげた。
トーチカの左側の死角にたどり着いた彼は、トーチカの銃眼にピンを抜いて手榴弾を放り込んだ。
銃眼に吸い込まれるように手榴弾は消え、トーチカの中で悲鳴が聞こえたと思った次の瞬間、小爆発とともに黒い煙が流れ出した。

トーチカの沈黙を確認し、歩兵たち前進が再開される。
塹壕に向かい突進する海軍歩兵たちに、敵兵は攻撃してくる。
銃弾がうなりをあげて掠めていく。
何人かが銃弾に倒れていったが、鬼気迫る勢いでロシア兵たちは突進していく。
恐慌をきたした敵兵が逃げ出し始め、そこへ突入した。
壮絶な白兵戦が展開された。
全員が、拳銃や銃床、スコップで激しい攻撃を繰り広げた。
ニコライは銃床で一人の敵兵を殴り、倒れたと同時に何度も何度も銃床を振り下ろした。
他の兵士たちもスコップや銃床で敵兵を殴り倒していた。
その惨劇を目の当たりにした他の敵兵たちが塹壕を捨てて逃亡を始めた。

「くたばれ!!」

ニコライが銃を構えなおして、背中を見せた敵兵に容赦なく銃弾を撃ちまくる。
他の兵士たちもそれにならい撃ちまくった。
カラシニコフや、ニコノフが吠える。それに混じってマカロフやスチェッキンといった拳銃までもが使われ、銃弾を吐き出していく。

「撃ち方やめ!撃ち方やめ!やめろ!撃つんじゃない!!」

イワノフ大隊長がみなに叫んだ。
何人かが倒れているクーデター軍兵たちに駆け寄って、生きている敵兵にとどめの一発を振舞った。
兵士たちはやがて、あの壮絶な戦闘で生き残っていることを肌で感じ、力なく脱力しなにかをぶつぶついいだしたり、神に祈りだしたりした。
誰も彼もが、憤怒で目が血走っていた。
衛生兵たちが、負傷兵たちに走り回る。
しかし、戦闘はまだ続いていた。
火炎放射器を背負った兵士が、トーチカの銃眼に炎を振り撒いた。
焼き殺された敵兵の断末魔の悲鳴が聞こえ、その後人の肉体が焦げたいやな臭気が漂ってくる。
抵抗を続ける掩蔽壕やトーチカに爆薬や手榴弾が放り込まれ爆発音が響き渡り、立てこもっていたクーデター軍兵たちの生き残りが、徹底抗戦を主張する監視役を射殺し、両手を上げて出てくる。
ニコライは周りを見回した。
破壊され燻っている戦車、燃え尽きた車輌、跡形もなく吹き飛ばされたトーチカ、吹き飛ばされた上陸艇、海岸を埋め尽くす死体の山、硝煙のにおいと死体が焼かれる臭い、血のにおいが入り混じったおぞましい臭気が海岸を支配していた。
まさに地獄絵図であった。




数十分後、すさまじい血みどろの激戦の末、海岸線および機関銃陣地、敵戦車部隊を制圧し海岸の戦闘が終結した。


しかし、上陸部隊の試練はこれから始まるのであった。



2004/03/02 masakunさんから頂きました。

 頂きました、初の外伝投稿ですw やっぱロシアがイイのですよ!(ぉ 陸戦のドロドロした感じが出てて、イイです!w
 空では人の死が客観的に見える、陸では人の死が間近で見える。空戦にはないある種の緊張感が出ててイイ!と思いますw
 ありがとうございました〜。


      第2話へ
戻る  トップ