外洋機動艦隊
- machine with the heart -
外伝
第2話

2053年11月1日 1100時 

上陸開始から4時間が経過した。
海岸から500メートル離れたところにあるなだらかな丘陵地帯で、ニコライが配属されている海軍歩兵第2大隊が塹壕に篭っていた。
数時間以内に敵の反撃があることが予測されるために、丘の上に防御地点を設けた。
上陸中、又は上陸後に内陸から敵の反撃があることは十分予想されていた。
丘は海軍の艦砲射撃のためかそれとも、航空隊の爆撃のためかはわからないが、穴だらけだったため塹壕はそれを利用して作られた。
補強材が現地調達した分を足しても足りなかったために、あまり良い陣地とはいえないが、敵の機銃や迫撃砲程度からは身を守ってくれるだけの能力はある。
各所にある簡易露天砲座には、対戦車砲がすでに配備を終えていた。
砲内部には砲弾が込められ、照準が丘の斜面に合わせられていた。
偽造用ネットが足りなかったのか、どこからか調達してきた古い漁網を張り巡らしているところもあった。
塹壕内では、兵たちがつかの間の平和をタバコや雑談で堪能していた。
ニコライが、急ごしらえの指揮壕に入り奥へと進んだ。
十名の将校たちが薄暗い中せわしなく動いていた。
血で薄汚れ、硝煙のにおいをさせた軍服を着たニコライに気がつくと、全員が敬礼もしくは会釈をした。
イワノフも彼に気づいて、イス代わりに使っていた木箱から立ち上がり敬礼をした。
その後ろでは、通信士が野戦無線機に向かっていた。

「イワノフ大隊長、全員配置につきました」

「すまんな大尉。本来ならスペツナズの君に副官の真似事をさせるわけにはいかんのだが・・・」

「いえ、良い勉強になります」

「そういってくれると助かるよ、大尉」

「ところで、本隊の第3陣上陸はいつ頃になりそうですか?」

「それなんだが、海が荒れてきたらしいので上陸をもう1,2時間伸ばすそうだ」

「辛いところですね。補給も再編成もまだ完璧じゃない」

「しょうがないさ。とりあえず敵さんが攻撃してこないことを祈ろう」

「そうですね・・・・。でも、どうやら遅かった様です!全員伏せろ!!」

ニコライは少佐を押し倒して伏せた。砲弾の飛来する金切り声をニコライの耳が捉えたのだ。
砲弾が塹壕のすぐそばで炸裂した。
砲弾の着弾と同時にすさまじい振動が襲い掛かる。
数分の砲撃の後、突然砲撃が止んだ。

「ちくしょう!!」

「衛生兵!!」

「お母さん!!」

「やられた!!」

と、あたりを怒声と悲鳴が支配しだした。衛生兵が塹壕から出て負傷兵の元へ走る。
砲撃にやられた戦車が砲塔から煙を上げていた。

「東方面から敵機来襲!!」

ニコライたちは立ち上がって東方向を見る。
十機のFX−10小型無人戦闘機が高速で接近していた。

「くそ!!友軍機はどうした!?」

FX−10の機体から爆弾が一斉に離れた。

「伏せろ!!」

伏せるのとほぼ同時に凄まじい大音響と振動が塹壕にいるロシア兵たちに再び襲い掛かった。
爆発が一通り収まる。
ニコライが顔を上げると、先ほどの砲撃で壊れた壕が埃とともにさらに壊れていた。
壁が確認できるだけでも数箇所が崩れ落ち、補強材に使った木材がはじけ飛んでいた。
一人の将校が、材木の下敷きになっていた。
すぐに木材をどけてやったが、死んでいた。

「敵の装甲車部隊が前進してきます!」

クーデター軍が歩兵と装甲部隊を前進させてきた。
数はあちらが圧倒的に有利だ。こちらへ向けて進んでくる装甲車両が、25mm機関砲や7.62mm機銃を撃ってきた。
反撃可能な戦車と残る対戦車砲は最初の砲撃と、それに続く爆撃でやられてしまった。
砲撃と爆撃に生き残った最後の対戦車砲についていた砲兵が、25mmの餌食になり肉片と化した。
ニコライは指揮壕から出た。
姿勢を低くして滑るようにして塹壕に転がり込む。
立ち上がり、敵兵にむけて愛銃AKS−74uを連射する。
銃弾に当たった敵兵がつんのめるように倒れた。
上空から4機のFX−10が、編隊を組んで機銃掃射を開始してきた。
猛烈な掃射が丘を走り抜けていく。

「対空ミサイルを!!」

だれかが叫んだ瞬間に、携帯式対空ミサイルSA−16が発射される。
FX−10が一斉にチャフとフレアを放出する。
その後、有人機ではとてもできない角度をすさまじいスピードで曲がっていく。
しかし、完全にミサイルに捕らえられた2機はミサイルの直撃を受けてばらばらに吹き飛んだ。
残る2機が再び攻撃態勢に入ったが、今度は対空ミサイルではなく、生き残っていた対空自走砲の歓迎を受けた。
翼や尾翼が30mm機銃弾によってもぎ取られて、ふらふらしながら落ちていった。
ニコライは、ロケットの発射される轟音で、上空の戦いから地上の戦いへと意識が集中しなおされた。
味方が対戦車ロケットを使ったようである。
放たれたロケット弾が、オレンジの炎と煙を噴出しながら一気に加速し、敵車両に襲い掛かる。
敵の先頭を走っていた装甲車に弾着が生じたと同時に、爆発と衝撃波が敵兵を襲った。
そのとき、急に空気を切り裂くような轟音が聞こえ始めた。
海岸に布陣した強襲揚陸艦が122mmロケット弾を前進する敵に向けて発射しはじめたのだ。
空に上がったロケットから分離した小型爆弾が、無数の霰のように降り注いだ。
ほんの数秒の間に、丘のなだらかな上り坂に無数の爆発がおこり、着弾のすさまじい爆風で装甲車や戦車が横転、もしくは履帯を破壊し装甲車や戦車を砲塔が動くただの障害物にかえた。
歩兵はもっと悲惨であった。
着弾と同時に四方八方から飛んでくる無数の破片で切り刻まれ、ずたずたになぎ倒されたのだ。
英語の悲鳴と罵声が聞こえてくる。
動けなくなった戦車に、塹壕から味方の兵数名が這い出て、手榴弾を集めて作った収束手榴弾を投げつけた。
何個かは外れて戦車の脇に転がっていったが、誰かが投げたものが車体下に転がっていき、そこで爆発を起こし戦車が身震いした。
戦車を撃破した戦友たちが塹壕へ戻ろうと立ち上がった瞬間、どこからか、クーデター軍部隊の機関銃弾は発射され立ち上がった全員を蜂の巣にした。
黒煙を上げる戦車の横から、なぎ倒された兵士たちを踏み潰して、クーデター軍部隊の後続隊のエイブラムスS型が近づいてきた。
生き残った戦車や装甲車、移動することができなくなった車輌がその戦車の援護に回る。
先ほどFX−10を撃墜した2S6対空自走砲が、戦車砲弾に貫かれて爆発した。
塹壕にいたニコライたちは、すさまじい銃火に頭を上げることができなくなった。
ニコライの隣にいた若い兵士が敵に反撃しようと頭を塹壕から出した瞬間、弾かれたように吹っ飛んで塹壕の土壁に当たって倒れた。
頭の上半分がヘルメットごと消し飛んでいた。
その先にいた若い通信兵が、頭の無い死体を見て青い顔をしながら、それでも恐怖に負けないように無線に怒鳴っていた。
ニコライは死体をまたいでいき、通信兵の肩をたたく。

「もう一度砲撃支援を頼むんだ!!俺が全責任をとるから、この真上に落とせといえ!!」

通信兵はうなずくと、そのメッセージを伝えた。

「それと、航空支援を至急よこせと言え!!」

通信兵は再びうなずくと、無線機に怒鳴った。
敵戦車は塹壕のすぐそこまで迫っていた。
クーデター軍はこちらからの攻撃がほぼ途絶えたことで、塹壕を一気に抜こうと急いでいた。
ニコライは知らなかったが、この時点で大隊の兵員損耗率は、すでに50パーセントを越えていたのだ。これは部隊がほぼ壊滅しているを意味している。
それでも、大隊は戦い続けた。
クーデター軍の歩兵部隊も前進を開始し始める。
塹壕に侵入したクーデター軍の兵士たちと白兵戦に突入した。
銃剣と拳銃をはじめ、スコップやヘルメットが武器に変わった。
ニコライは死んだ若い兵の遺体からRPG−7をもぎ取ると、戦車が一番近くまで迫っている前進観測班用の塹壕まで走った。
彼が前進観測班用塹壕に向かっているそのとき、海上にいた戦艦ロシアが無線連絡を受け16インチ3連装砲を発射し始めた。
数千メートル先から巨大な16インチ砲弾が、陣地へ降り注ぐ。
降り注ぐ16インチ砲弾が、履帯を破壊され動けなくなった車両や増援として現れた車両や歩兵をまとめて吹き飛ばしていく。
着弾の衝撃は、まるで連続して大地震が起こったような感覚であった。
なんとか、ニコライが前進観測班用塹壕にたどり着いたときには、塹壕を突破したエイブラムスSは支援砲火をものともせず前進していたため、無防備な車体後方を彼に晒していた。
引き金を引き絞ると馬鹿みたいに大きい音が耳を駆け抜ける。
エイブラムスは、車体後方下部にロケットを喰らって黒い油煙をあげて停止した。
無人戦車は、動きが止まった瞬間空から降ってきた16インチ砲弾の直撃をくらって粉々になった。
そのとき、砲撃の中をかいくぐって来たクーデター軍兵が着剣したM16を持ってニコライに襲い掛かってきた。
ニコライは、弾頭がなくなった発射筒を相手に投げつけ、相手が怯んだすきに腰からマカロフ拳銃を取り出し引き金を引いた。
やがてスライドが後退して止まり、8発の9mm弾をすべて撃ち尽くしたのを知らせた。
8発全弾をまともに浴びたクーデター軍兵は、仰け反って倒れていた。
近寄って確認してみると、口から血の泡を吹いていた。
どうやら肺を貫通したらしい。

「ヘルプミー」

血の泡を吹きながら、涙を流して弱弱しくしゃべるアメリカ兵を尻目に、ニコライはそこを後にする。
支援砲撃がいつの間にか止んでいた。
かわりにジェット機の耳に劈く轟音と、爆発音が変わりに聞こえてきた。
しつこく機銃掃射をしていたFX−10の主翼にミサイルが命中し、大爆発を起こし墜落していく。
味方のSu−35制空戦闘機が、上空を我が物顔で飛んでいたFX−10を次々と撃墜していた。
さらに海軍のMIG−29艦載型戦闘機が、敵兵に爆弾を落としていった。
上空の制空権は、ロシア側が奪取したようである。
航空機隊が敵を撃破するたびに、塹壕から歓声が響く。
クーデター軍の兵士たちは、度重なるロシア陸海軍の砲撃と、悪魔のごとく戦うロシア兵、それに制空権の喪失で戦意を喪失した。
クーデター兵の誰もがみな、あたふたと退却していった。
塹壕に近づいていたエイブラムス戦車部隊が、味方の残骸を避けながら懸命に後退しようとしていた。
そこに、MIG−29が次々と対戦車ミサイルを撃ち込んでいった。
戦闘に疲弊した海軍歩兵たちの背後から、上陸部隊第3陣の第127狙撃師団所属の戦車や装甲車が歩兵を伴って現れた。
本隊は、大隊が敵の反撃を食い止めている間に無事上陸をはたしたのだ。
防衛線で消耗しつくした大隊に変わり、第127狙撃師団の兵士たちは敗走するクーデター軍を追撃し始めた。





クーデター軍の反撃は失敗し、ロシア軍はクーデター軍を駆逐しつつ前進を再開。
上陸作戦を敢行してから一夜明けた時には、ロシア軍は敵の反撃を撃退しほぼ完璧に橋頭堡を確保、アラスカ内陸部へと撤退した米軍を追撃するため補給と再編成を行っていた。
これは、ロシア連邦軍兵員約7万、戦車・自走砲350両などが上陸を完了したことを意味する。
作戦「英雄」の第一段階は成功に終ったのである。
11月3日、再編成と補給を完了したロシア軍は「英雄」作戦の第二段階へ移行。
ロシア軍北米方面軍司令官セルゲイ・G・モロゾフ上級大将は、作戦第二段、雷帝作戦の発動を全部隊に通達。
第二作戦の目標都市であるアラスカ最大の都市アンカレッジを目指し前進を開始した。


2004/03/08 masakunさんから頂きました。

 頂きました、外伝第2話ですw さすがのFX-10も、地上からの対空砲火には弱いですね。これは航空機全般に言えること……逆もまた然り。やられまくってるFX-10は蒼晶石費搭載型と推察しますw(ぉ
 最後の「ヘルプミー」で助けなかったのは(とても助からないが)、戦争と言う非常な世界を表現していてイイと思いますw
 ありがとうございました〜。


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