外洋機動艦隊
- machine with the heart -
外伝
第3話

「我々が戦争を終わらせねば、戦争が我々の人生を終わりにする」
ハーバート・ジョージ・ウェルズ

2053年11月3日から始まった「雷帝作戦」で、ロシア軍は1941年のドイツ軍もかくやという電撃戦をやってのけた。
ロシア軍が解放した内北アラスカおよび西南アラスカは、クーデター軍がすでに防衛を放棄し、その戦力を中南アラスカとカナダに振り分けていた。
しかし、ロシア軍の追撃速度はクーデター軍の撤退速度より速かった。
わずか10日でアラスカのほとんどがロシア軍により解放されたのだ。
中南アラスカのアラスカ山脈に張り巡らした防衛線は、あっというまに突破されてしまい、ロシア軍はアンカレッジの目と鼻の先にあるパーマー市とワシラ市を占領した。
しかし、目標のアンカレッジは偵察衛星の情報でかなりの防備が施されているのが確認されており、攻略は困難を極めることが予想された。
そのため露軍司令部は、補給と再編成のために11月16日まで攻撃を延期。
兵たちにつかの間の休息が与えられた。
時計の針は、刻一刻と迫っていった・・・



2053年11月16日05:00時、アンカレッジ国際空港

朝靄の中、クーデター軍が接収したアンカレッジ国際空港の格納庫や管制塔が突然爆発音に包まれた。
F−15FFG/25戦闘機やF−22戦闘機、E−767電子偵察機といった有人機やFX−10といった無人機が爆発をおこした格納庫の破片に押しつぶされ、ただのスクラップに姿を変える。
それと同時に激しい銃撃音が空港を支配する。
50mm軽迫撃砲が砲弾を掩蔽壕やクーデター兵の真上に落として制圧していく。
慌てて駆けつけたクーデター軍の装甲車が、突如飛来した対戦車ロケットの餌食になり沈黙する。
その70m先の比較的無傷の格納庫の影に、ロケットランチャーを構えた黒ずくめのウェットスーツに身を包んだ一人の男がいた。
兵舎の方から爆発音が聞こえてきた。
兵舎前に設置しておいたクレイモア地雷が炸裂したらしい。
彼はランチャーを捨てて、すぐさま肩に掛けていたカラシニコフAKS−74uを持って駆け出した。
兵舎の炎が、兵士の顔を照らし出した。
それは、顔にカモフラージュのための特殊塗料を塗ったニコライ大尉だった。

ニコライ大尉は、丘での戦闘の後海軍歩兵部隊から本来の部署であるスペツナズ部隊に戻され、戻ってすぐこの作戦に参加するよう命令を受けた。
この作戦は、まず最初に空軍がマッキンリー山のレーダーサイトを潰し敵の目を塞ぎ、その隙に彼ら特殊チームがアンカレッジ攻撃軍より先にアンカレッジ国際空港付近に高高度降下後、侵入し敵空軍を無力化し空挺部隊の到着まで死守することであった。
陽動作戦として、ジュノーに爆撃機連隊を送り敵空軍の目を欺く周到な用意までされていた。


「アゴーイ(撃て)!!!」

空港の爆発が確認されたのとほぼ同時に、アンカレッジに向かって無数の重砲弾、ロケット弾が夜の帳を破って発射された。
クーデター軍の砲兵陣地や防衛拠点を粉砕し、突入する機械化歩兵部隊を支援するため、152mm〜203mmの各種重砲が、アンカレッジに向かい立て続けに砲弾を吐き出す。

「全車、前進!」

部隊指揮官が命令を下す。
装甲偵察車を先頭に、戦車部隊が前進を始める。
彼らは、アンカレッジ攻略軍第一陣の威力偵察部隊だった。
クーデター軍も負けじと、巧みに擬装した砲兵陣地から砲撃が開始される。
双方の砲兵が潰し合いをしている最中、ロシア軍の威力偵察部隊がダウンタウンに侵入し、それを迎撃するためクーデター軍機甲部隊が攻撃を開始し、戦闘が開始された。
2053年11月16日05:00時 ここにアンカレッジ攻防戦の幕が切って落とされた。


砲撃が開始されたちょうどその頃、空港での戦闘は終わりを迎えようとしていた。
寝込みを奇襲された空港警備のクーデター軍は、ほとんど抵抗できぬまま殲滅されかけていた。
ニコライが数名のクーデター兵に弾倉の弾丸全部を使いきったそのとき、耳にはめられていた小型通信機が鼓膜を刺激した。

『大尉、作戦成功です!敵部隊の大部分を排除しました』

「よしわかった。ミシュキン少尉、空挺から連絡は?」

『すぐくるとのこと!』

「よし、このまま我々は降下した空挺と合流する。全員弾薬を調べろ。無い奴はある奴から分けてもらえ」

『了解!』

通信を切った刹那、上空を数多くのAn−26輸送機のエンジン音が通り過ぎ、機体後部から飛び降りた無数のものから白いパラシュートがいくつもパッと開き、夜空に白い華を咲かせながらゆっくりと空港へ降下してきた。
それに続いて、数十機のMi−24やKa−60がゆっくりと着陸し、そこから完全武装した兵士たちが飛び出していく。
無反動砲や機銃を搭載したジープや空挺戦車などが、それに一呼吸遅れて空から降りてきた。
ニコライを見た空挺の一人が駆け寄ってくる。

「第12空挺旅団のキーロフ少尉だ、そっちは!?」

「ロシア海軍スペツナズのニコライ・ヴォローノフ大尉だ!」

「し、失礼しました大尉殿!」

「敬礼はやめろ!なにか新情報はあるか?」

「いいニュースと悪いニュースがありますが、どっちを先に聴きたいですか?」

「いいニュースを先に!」

「はい、市街地に突入した第112狙撃師団がダウンタウンで戦闘を開始したとのことです!後続の第174狙撃師団が補給が済み次第攻略戦に参加するとのことです!」

「で、悪いニュースは!?」

「カナダ方面から敵の大部隊が接近中のため航空部隊の一部がそちらに割かれるとのことです!」

「ちくしょう!君らのこれからの行動は!?」

「は、空港警備に歩兵中隊1個を残し、残りの部隊は水上海洋基地ならびに地震公園に突入せよとの命令を受け取っております!」

「了解した!偵察隊の情報では、クーデター軍は地震公園に2個歩兵大隊、水上海洋基地には3個大隊を置いているらしい。戦車は確認できただけでも40両!注意しろ!」

「了解です!」

キーロフ少尉は、そう言ってまた敬礼をして去っていく。
空港の戦闘はようやく終焉を迎えたが、市街地から響く砲声と銃声はいまだに絶えず鳴り響いていた。



そのころアンカレッジ駅とダウンタウンでは、すさまじい戦闘が繰り拡げられていた。
最初の爆撃と砲撃により、街はほぼ廃墟同然であった。
街灯はひしゃげ、街路樹は焼け千切れ、道路が割れて大きな亀裂や大穴が空き、車が横転したり燃えている。
目抜き通りにいたロシア兵たちは前進できずにいた。
コンクリートやなにやらの瓦礫の山や破壊された戦車などが進撃路を塞いでしまう事態も発生し進撃は困難を極めているうえ、クーデター軍の狙撃兵がビルから地上のロシア兵たちを狙撃しているため歩兵部隊は動きが取れなくなっていた。
前方を双眼鏡で偵察していた将校が頭部を射抜かれて倒れた。
すぐに下士官の一人が危険を冒して彼の足を引きずって、遮蔽物にしていたバスの影に運んだ。
しかし、将校はすでに死亡していた。
自分が撃たれた事すらわからぬままに。


将校を射殺した狙撃兵はすばやくボルトを引き、照準器で次の標的を探していたが、誰もが警戒して遮蔽物から出てこない。
すると、バスの後ろから何も知らないロシア兵の団体がぞろぞろ現れた。
団体の先頭を走っていた400ヤード先のロシア兵に照準を合わせ撃った。
撃たれた瞬間、彼はその場に倒れて、空に呪詛と苦痛の悲鳴を喚き散らしていたが、周りのロシア兵は身近の遮蔽物に転がり込んだ。
狙撃兵は、遮蔽物にうまく隠れたロシア兵を仕留めるため、転がって喚いている兵士に弾丸を送り込んだ。
耐え切れなくなった4人目の標的を探そうと彼は照準をつけはじめる。
しかし、彼の照準器はとんでもないものを捉えた。
ロシア連邦軍主力戦車T−152が、瓦礫の山を無理やり突き進んできたのだ。
砲口がゆっくりと、確実に自分のいる建物に向けられた。
狙撃兵は照準器から目を離し急いでドアに向かって駆け出した。
間に合わないと悟りながら。
T−152の砲口から飛び出した152mm戦車砲弾が狙撃兵を部屋ごとこの世から消し去った。
ロシア兵たちは、戦車砲弾の着弾を確認すると、遮蔽物から飛び出して前進を再開した。


別の地点では、ロシア兵たちがクーデター軍の抵抗拠点にしているビルへ攻撃を開始していた。
鉄条網や土嚢、ソファやスチール机にロッカーで作ったバリケードで封鎖したビル入り口へ工兵の決死隊が爆薬を持ってビルに走る。
鉄条網をワイヤーカッターで切断し、バリケードの隙間へTNT爆薬を仕掛けようとする。
そうはさせじと、クーデター軍は窓という窓から工兵たちに攻撃する。
ロシア軍も工兵たちを援護するため制圧射撃を開始する。
ロケット砲がものすごい音を立ててビルに飛来し、弾着のたびに残った窓ガラスが割れていく。
やがて、工兵たちは物陰に寄り添い始める。
すさまじい爆発音とともに、バリケードに使われたものの破片や瓦礫が飛んできた。
ロシア兵たちは立ち上がり、工兵たちが切り開いたバリケードの隙間を走り抜けた。
ビルの受付に手榴弾を放り込む。
爆発の後、爆発の衝撃でフラフラしているクーデター軍兵たちに情け容赦の無い銃撃を浴びせて制圧した。
休む間もなく、ロシア兵たちは敵が潜んでいると思われる部屋を調べはじめた。
敵が潜んでいそうな部屋を見つけては、手榴弾を放り込んだのち部屋に銃弾をばら撒き、生き残った敵兵が降伏の証として、武器を捨てて両手を上げて視界に出てきた瞬間に射殺した。
極限状態に陥ると、誰もがジュネーブ条約を忘れてしまうのだ。



大型ショッピングセンター内では、ここを保持し続けようとするクーデター軍と攻略しようとするロシア軍の両軍が一進一退の肉弾戦に突入していた。

「「「「「ウラー!!」」」」」

「「「死ね、イワン!!」」」

銃剣をつけたM16、同じく銃剣をつけたAKやAN、銃床や拳銃、スコップ、ヘルメット、そこらに転がっている棒まで使った壮絶な戦いになっていた。
無数の銃弾が飛び交い、棚や陳列物に当たって跳ね返り、あっちこっちに火花を散らした。
誰かが投擲した手榴弾が、白兵戦をしていた双方の兵士たちの間に落っこちて爆発した。
破片は双方の兵たちを差別無く切り裂き、悲鳴と怒声、そして死を生み出していく。
勇敢なロシア兵も、クーデター軍の激しい抵抗によって一時撤退を余儀なくされた。
しかし、反撃はすぐに行われた。
手榴弾を使い果たした一人のロシア兵が、工兵の持っていたプラスチック爆薬に信管を差込み簡易で強力な手製爆弾を作り、クーデター兵の立てこもっている所へ導火線に火をつけて放り投げた。
爆発した瞬間建物が物凄い振動に襲われた。
再び突入したロシア兵たちが見たものは、何人ものクーデター兵が悲鳴とも絶叫とも似つかぬ奇声をあげて床を踊るように暴れもがき狂う者たちの姿だった。
真っ黒に焦げ、おぞましい臭いを立てる死体や、手や足を千切りとられ内臓や骨を腹からはみ出したまま悲鳴をあげる兵士たちに、何人ものロシア兵たちが顔をしかめ、その場に吐き始めた。
吐き始めた兵士を置いて、数名の古参兵が売り場の置くに立てこもっているクーデター兵に投降を勧告した。

「勇敢なるクーデター軍将兵に告げる、降伏しろ!生命の安全はジュネーブ条約に則り保障される!」

やがて、数発の銃声と共に奥にいたクーデター兵たちが武器を捨てて両手をあげて降伏してきた。
爆発によるあまりの大損害に、戦意が一気に消失した結果、徹底抗戦を主張したジェイン派の将校を射殺しての投降であった。



アンカレッジのはるか上空では、ロシア軍のSu−30やSu−35、MIG−29がクーデター軍のFX−10やFX−11と激しいドッグファイトを演じていた。
一機のSu−35に、クーデター軍のサイドワインダーが雲霞のごとくマッハ2のスピードで迫っていく。
フレアを放出し一気に急降下したSu−35に、サイドワインダーは騙されてフレアに当たって爆発した。
そして姿勢を安定にもどしたSu−35は、無防備な後方を晒したFX−10を捕捉追跡しはじめた。
そのわずか十秒後に、対空ミサイルが命中しFX−10がエンジンから火を出したまま墜落していく。
しかし、次の瞬間Su−35は別のFX−10が撃ったアムラームが命中、機体後部が爆発し、パイロットは咄嗟に脱出する。
技量と機体の性能では、ロシア軍も引けを取らなかったが、数はクーデター軍が多かった。
無人機は、有人機にはできないような機動をするために、失速、ブラックアウトするものが続出した。
クーデター軍は、ロシア機1機に対して3機で攻撃してきたため、損害は多くなるばかりであった。
地上からも、双方の対空ミサイルや対空機銃がどんどん撃たれる。
しかし、目標を見失ったSAMが爆発し、敵のFX−10と味方のSu−30が爆発に巻き込まれた。
対空機銃もそうであった。
一機のMIG−STがF−15FFGに追われているとき、味方の対空機銃が発射された。
F−15FFGはとっさに離脱したが、IFFが働いていないのかMIGにまで砲撃し始める始末である。
上空2000mでもまた戦闘は行われていた。
Mi−28ハボックやKa−50ホーカムが、AH−64アパッチやAH−1Sコブラと激しい戦闘を繰り広げていた。
その合間を旧式のSu−25攻撃機がかなりの低空でぬけていき、機体を投弾コースへ乗せていく。

『А1より上空の攻撃機!!赤の信号弾から200m先の建物に攻撃してくれ!!』

「了解!」

クーデター軍の対空機銃弾が空に向かって吠え立てる。
撃ちまくる対空機銃を無視し、爆弾を目標上空で投下する。
黒い物体がいくつも建物に落下していくと、爆発が連続しておこった。
再度投弾コースに入ろうとしたSu−25のコクピットでアラートが鳴り響く。
クーデター軍のスティンガーが発射されたのだ。
とっさにフレアをばら撒くが、すでにスティンガーはしっかりと獲物を捕らえていた。
エンジンにスティンガーが命中し、巨大な火の玉になって湾に落ちていく。
パイロットの中尉は、脱出レバーを引くまもなく空に消えていった。


「ちくしょう!!」

地上で一部始終を見ていたロシア兵たちが途端に見えない敵を罵りはじめた。
アンカレッジで今やあちこちに見られた風景であった。


アンカレッジは、陸と空の両方で死闘が繰り広げられていた。


2004/03/11 masakunさんから頂きました。

 やっぱ地上戦は熱いですなw
 そして死が渦巻く……死んだり殺したり。戦場と言う場所がどれだけ非常で非情かが分かります。
 アンカレッジ戦はどうなっていくのか!?
 ありがとうございました〜。


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