ACE COMBAT ZERO THE BELKAN WAR −全ての始まり−




1995年4月20日
出撃命令を受けたガルム、テュール両隊はある場所に向けて飛行していた

「まったく…よりにもよって円卓の強行偵察とはな…」

ユウイチが溜め息をつきながら言う
円卓とはベルカ絶対防衛戦略空域B7Rの通称であり、彼ら戦闘機乗りに与えられた舞台である
そこには上座も下座もない。条件は皆同じ
所属も階級も関係ない
制空権を巡って各国のエースが飛び交う場所…
『生き残れ』
――それが唯一の交戦規定だった


第3話 THE ROUND TABLE−円卓−


円卓は今までも多くのエースパイロットが挑んだ場所であるが、いずれも伝統のベルカ空軍によって返り討ちにされている
その根本的な原因はこの地を守るベルカ空軍エース部隊の存在があった

「さて、フクロウ、藍鷺、赤いツバメ、犬鷲、王者、シュネー…どれが来る?」

《ど、どの相手も勘弁です》

マルスが次々に円卓を守るベルカエースの通称を言うが、リルはどれの相手をするのも大変なので相変わらずおどおどしている
出撃前に事前情報を確認していたシュライクが告げる

「先程、東部戦線に進攻した部隊から藍鷺、南部戦線でもシュネーと交戦したとの連絡がありましたから…出てくるとすればフクロウかツバメでしょう…」

《それでも充分脅威です。とりあえず、ツバメが出てきたら殴りますです!!》

リズは同じEF−2000として赤いツバメ…ベルカ空軍第2航空師団第52戦闘飛行隊ロト隊にライバル意識を持っている
ヴァレーに転属する少し前にも円卓で交戦している
最悪、2つのベルカエース部隊を相手にしなくてはならないわけだ

「噂ではフクロウ、藍鷺、王者、シュネーはMLS機を使っているとのことです」

《それじゃ油断ならないわね…》

タクトの言葉にエルテアが合わせる
つまり、通常の戦闘機では相手にならない可能性が高いということだ
だが、普段からMLS機相手に模擬戦を行っているユウイチなら大丈夫だろう

「両隊へ、こちらイーグルアイ…B7Rに侵入し、周辺の状況を探れ」

「ガルム2、了解。ソフィア…俺達にお似合いの場所と任務だ」

《はい…ですが、あまり無茶はなさらずに》

ガルム隊とテュール隊あわせて7機が円卓に向けて加速する
同時にイーグルアイから再び通信が入る

「レーダーに敵性反応。警戒せよ」

「ちっ、やはり来たか…」

その声にバートレットが舌打ちする
間を置かずに敵の声が飛び込んでくる

「IFFの故障? 反応は7つだけだ」

「円卓を知らないのか?」

向かって来た敵機はエルテアのベースとなったMIG−21bisフィッシュベットである
中には前進翼機の試作機であるX−29AやF−16Cの試作攻撃機であるF−16XLストライクファルコンの姿もある
フィッシュベットに至っては10機以上居る

「ガルム隊。交戦を開始せよ」

「全機へ、生き残るぞ!!」

バートレットの言葉が飛び、各機が散開してそれぞれの敵機に当たっていく
ユウイチは相手のエースに一人であるX−29Aと交戦状態に入っている
しかも、後方からフィッシュベットが追いかけている中でだ

「試作機が囮になって俺を撃とうという考えか…だが、甘い!!」

急減速して後方のフィッシュベットをオーバーシュートさせると彼はアムラームのロックを2機に掛けて発射
フィッシュベットは直撃を受けて爆発するが、X−29Aはしつこく逃げ回っている

「悪いが、もらった!!」

その前方からバートレットのトムキャットが20mm機関砲を真正面から撃つ
X−29Aは僅かに旋回してそれを避けようとするが、左翼を食いちぎられ高度が落ちていく
同時に、コクピットからパイロットが脱出する


「こいつ…しつこいぞ!!」

《ミサイル、来ます》

ラリーはF−16XLを相手にしているが、どうやら追われている模様だ
サイドワインダーを避けるが、依然として追いかけてくる
さらに、前方からフィッシュベット3機が迫り挟撃してきた
彼はすかさずアムラームのロックを掛けて2発発射し、フィッシュベット2機を撃墜
残った一機にもバルカンの一斉射で風防を吹き飛ばした

「バ、バカな!!」

「よ、4対1だぞ!?」

撃墜した3機のパイロット中、2名が帰らぬ人となったようで残留思念が流れ込んできた
その声に構わずラリーは急上昇し、旋回してF−16XL目掛けて降下する
その途中でソフィアに尋ねる

「大丈夫だな?」

《は、はい…気にしないで下さい》

20mmバルカンを撃ちながら突っ込んできた敵機の射撃を避けてこちらも20mmバルカンを撃ち込む
すれ違う時にF−16XLの右翼と垂直尾翼が破壊されているが確認でき、パイロットも脱出した


「な、なんてことだ!!」

「タウゼントとアンセルが撃墜された!! 援軍はどうなっている!!」

ベルカ側は出撃していたエース2機を撃墜されたことから大焦りだ
このままでは全滅するのも時間の問題だろう

「今、司令部から連絡があった!! グリューン、ロト、グラオファルケを援軍として送ったとのことだ!! それまで持ちこたえろ!!」

その連絡にベルカ側の戦意が増す
残存機はフィッシュベットが8機だが、2機ずつでテュール小隊に挑んできた
明らかに意識が変わった敵兵を感じ取ったMCたちも呟く

《向こうの戦意が増しています…一体どういうことでしょう?》

「わからん…おそらく、援軍が来るから意気込んでいるのだろうが…」

エルテアの言葉にタクトは返しながらも向かって来たフィッシュベットの2発のアトールを立て続けに避けると逆に23mmGSh−23L機関砲を撃ち込んで1機の風防を吹き飛ばした
通り抜けていったもう1機も戻ってきたユウイチが撃墜した

「くそっ!! 脱出…」

「うわあああ!!」

片方のパイロットは脱出できたようだが、もう1機は駄目だったようだ
他方でも残りのフィッシュベットは撃墜されるか無力化されガルム、テュール小隊はいよいよ円卓に突入する

「全機、円卓に入る。慎重に行こう」

ラリーが全機にそう告げ、両隊は円卓の境目である山脈の上空を越えたときにイーグルアイが全機に通信を送る

「警告! エリアB7Rに高速で侵入する機影を新たに捕捉。その数、10機」

「ガルム2から全機へ。敵の増援はおそらく本隊だ」



ラリーの言葉は当たっていた
増援として現れたのはベルカが誇るエース部隊のうち2つ
グリューン隊とロト隊であり、他にも灰色の男たちといわれる部隊の1つであるグラオファルケ隊のトーネードF.Mk2も随伴している

「ロト1より各機。野犬狩りだ…全機落とすぞ」

「そう気張るなよ…フレイジャー…ま、楽しませてもらうとするか」

《油断しないで下さい。相手にMLS機が5機もいますよ!!》

ロト隊隊長デトロフ=フレイジャーの命令にグリューン隊隊長ベルンハルト=シュミットが声を掛け、その言葉に彼の機体F/A−18Cホーネット・イリスのMCであるイリスが警告を発する
同時にベルカ機10機は円卓に突入し、ガルム、テュール両隊に向かっていった



「両隊へ。撤退は許可できない。迎撃せよ!!」

「だろうな。報酬上乗せだ」

「ガルムはグリューンとトーネード2機を、テュールはロトの相手を頼む!!」

イーグルアイの命令にラリーがそう返し、ユウイチは指示を飛ばす
直後に両隊が散開し、それぞれの攻撃目標に向かっていく


ロト隊と交戦を開始したテュール小隊
一番やる気になっているのは同じEF−2000タイフーン乗りであるシュライクとリズだ

《来たですね!! ぶっ潰して差し上げます!!》

「赤いツバメ…相手にとって不足なし!!」

「B7Rから生きて戻れると思うな!!」

フレイジャーは向かって来たタイフーン・リズに言い返すと同時にAIM−120を撃ち込んできた
テュール隊の方もマルスが各機に告げる

「奴らタイフーン乗りか…あいつの機動を甘く見るなよ。遠距離からも狙ってくるぞ!! 全機、ブレイク!!」

《AIM−120中距離空対空ミサイル、来ます》

リルがそう言うと同時に回避行動を取ったJ−35J・リルの真横をミサイルが通り抜けていく
MIR−2000C・ミラはブレイクしつつ、反撃代わりにシュペル530DAAMを発射する
そのミサイルによってロト隊の編隊が乱れる
4機のタイフーンのうち、1機がこちらに目標を定めたのか向かって来た

「来るか…」

《マジックAAM準備よ〜し》

真正面からサイドワインダーを撃ってきたが、それを回避してタイフーンの後に回り込むとマジックAAMを発射し、撃墜する
いきなり1機が撃墜されたことにフレイジャーは指示を出す

「ロト1より各機…奴らを落さねば帰れぬと思え」

「帰す気なんてさらさらないけどな!!」

《行きます!!》

そのフレイジャー機と交戦中なのは同じJ−35J・リルだ
マルスの言葉に彼は言い返す

「ウスティオの傭兵風情がなぜそこまでやれる!!」

「ご生憎様、こちらはウスティオの正規空軍だ!!」

タイフーンのサイドワインダーを避けたドラケンが後ろを取ろうとするが向こうもそう簡単には取らせない
すると、フレイジャー機のレーダーからはまた1機ロト隊側タイフーンの反応が消える
撃墜したのはタイフーン・リズだ

《これで1機!! もう1機行くです!!》

「残りは2機か…隊長たちに任せて大丈夫だな…」

タイフーン・リズはそれまでフィッシュベット・エルテアを追い回していたタイフーンに狙いを定める
背後に回られたことに気づいたタイフーンは旋回してロックを外そうする

《いい加減に観念するです!! フォックス・ツー!!》

「こら!! 勝手に発射するな!!」

暴走状態に陥ったリズは形振り構わずサイドワインダーのロックを掛けると連続発射
どうにか敵機はそれを避けるが、さらに発射されたAIM−120が直撃して撃墜された

「く、くそっ…ウスティオ如きに!!」

残留思念が聞こえたが、それを無視して撃墜を確認したリズはエルテアに呼びかける

《エルテア〜大丈夫だった〜?》

《べ、別にあれくらいどうってことないわ。本当は私が仕留めるはずだったのに…》

残ったのはとうとう隊長機だけとなり、既に一騎打ち状態である
性能で劣るドラケンだが、MLS機という利点を生かして格上のタイフーン…それも赤いツバメ相手に善戦している

「キサマを撃墜すればこのB7Rでは7機目だ!!」

「抜かせ!! 落とさせるか!! リル、そろそろ決めるぞ!!」

《は、はい!!》

ドラケンは急降下を開始する
それを追うようにタイフーンも降下していくが、それが狙いだった
マルスは機体を急上昇させて垂直状態で減速し、タイフーンをオーバーシュートさせた

「な、何!?」

「もらった、フォックス・ツー!!」

態勢を立て直したドラケンがタイフーンにロックを書けファルコンAAMを発射する
突然のことで理解できていなかったフレイジャーは直撃を喰らうが、どうにか脱出した


ガルム隊とグリューン、グラオファルケ隊の戦闘の方は開始早々にグラオファルケの2機のトーネードF.Mk2が撃墜されグリューンとガルムの対決になっている

「ここは『円卓』、死人に口なしだ」

《敵隊長機、おそらくMLS機です》

グラオファルケを撃墜したラリーの言葉にソフィアが気配を感じ取って告げる
グリューンの機体を見たバートレットも言う

「ホーネットのお出ましか…ケツの一刺しに気を付けろ」

「グリューン各機へ、射出装置をグリーンにしろ」

ベルンハルトが指示を出し、4機のホーネットが散開し向かってくる
ラリーとバートレットには1機ずつだが、ユウイチには2機付いている
彼の後ろについている2機のうち、1機はベルンハルトのホーネット・イリスだ

《やはりオーシアの連中とは飛び方が違う》

「だろうな…奴はウスティオのエース『蒼穹の荒鷲』だ。そこんじょそこらのパイロットとは違うさ」

イリスの呟きにベルンハルトが答えると彼はAIM−7スパローを発射する
そう簡単に当たるはずも泣く、ユウイチはそれを回避しつつ反撃に移ろうとするが、もう1機の機体がバルカン砲を発射してきた
その弾丸が尾翼の一部に掠る

「ちっ…やってくれるな! さすがはベルカのエースだ!!」

彼は後方についてくるホーネットを旋回を繰り返して引き離そうとするが、なかなか離れない
隣ではバートレット機と交戦していた敵の2番機が爆発を起す
コクピットからはパイロットが射出されるのが確認される
どうやら彼が撃墜したらしく、トムキャットが追い回してくるホーネットの後に付いた

「もらう!!」

「そう簡単に落とされるか!!」

追い回していた4番機は旋回してトムキャットを迎撃しようとしたが、そこを真後ろからイーグルにバルカンの一斉射を浴びる
そのことを頭に入れていた4番機のパイロットは攻撃を避けようとしたが、お返しといわんばかりに尾翼に弾丸を撃ち込まれて右垂直尾翼が吹き飛ばされる
直後にアムラームまで撃たれ完全に撃破された

「ラリー!! そっちはまだか!?」

「もう終わる!!」

ユウイチはラリーに通信を送ると彼は3番機にとどめをさすところだった
エンジンにバルカンを撃ち込んでサイドワインダーまでお見舞いしてやった
それだけの攻撃を受けては持つはずもなく、3番機も撃墜された
4番機撃墜後にユウイチはベルンハルトのホーネット・イリスと交戦しているが、MLS機である敵機に苦戦している

「予想以上にやってくれる」

《マスター!! もう私たちだけのようです!!》

一方のベルンハルトもロト隊壊滅にグリューン隊も残りは自分だけとなりかなり焦っている
そこへラリーのイーグル・ソフィアが援護に入る
バートレットのトムキャットはミサイルを撃ち尽くしたためもう援護できない状態だ

「ピクシー、フォックス・スリー!!」

《無駄よ。フレア射出!! 私は負けられないの》

《こっちもです!!》

ラリー機が残りのアムラームを放つが、ホーネットから射出されたフレアにかく乱されて外れる
MLS機である性能も加わって普通のホーネットよりも機動性が良い

《マスター…ミサイルは無理です。向こうの子がフレアの担当をしていますからここはガンキルで!!》

「わかった」

ソフィアの指示に従い、ミサイルでの撃墜を諦め彼は一気に距離を詰めようとするが、ホーネットはそれを引き離す
その瞬間、ラリーの口元がにやりとなる

「くそ、2機ともやるじゃねえか」

《上空よりもう1機来ます!!》

どうやらユウイチとの作戦だったらしく、ホーネットの上から上昇したユウイチ機が突っ込んできた
確実にドンピシャのタイミングである
20mmバルカンを発射するが、さすがにMLS機だけあって間一髪で回避…いや、左主翼と左尾翼に穴を開けた

「ここまでか…イリス、後退するぞ」

《悔しいですが…認めざるを得ません》

ウスティオ側も損傷した機体を追うような真似をせず、ベルンハルトはそのまま円卓から離脱していった
これでベルカの増援も全て撃墜、あるいは離脱させたことになり、作戦は成功といっていいだろう
しばらくしてイーグルアイから通信が入った

「連合軍作戦司令部より入電。『連合軍海上部隊は進軍を開始、貴隊の活躍に感謝する』」

「なるほど…俺達はオーシアの捨て駒だったようだ」

「たくっ…軍上層部の奴ら……俺はそっちの正規軍所属だぞ」

どうやら劣りに使われたことにラリーとバートレットが不満を漏らす
オーシア正規軍所属のバートレットはなおさらだ
ラリーの方はユウイチに通信を繋ぐと尋ねる

「よう、相棒。まだ生きてるか?」

「なんとかな…そっちはソフィア共々、無事のようだな」

《心配してくれてありがとうございます》

彼に機を掛けてもらったことにソフィアは礼を言った
任務を終えた彼らは1機も損失を出すことなくヴァレー空軍基地への岐路に着いた




2005年11月23日
ラリー=フォルクにインタビューする2日前、トンプソンは元ベルカ空軍エース部隊グリューン隊隊長のベルンハルト=シュミットにインタビューすることが出来た
驚いたことに彼はISAF空軍として大陸戦争に参加していた

「元ベルカ空軍第10航空師団第8戦闘飛行隊『グリューン隊』隊長…各地の戦場で臨機応変な戦略で功績を上げエースにまで成り上がった…で合っていますか?」

「その成り上がったって言うのは気に入らないが…ま、いいだろう」

トンプソンの確認に彼はそう答えつつも笑っている
彼がインタビューを受けている場所はノースポイントのとあるバーだ
彼は一番疑問に思っていたことを最初に口にした

「まず、何故元ベルカ空軍の貴方がISAFに?」
「あの戦争の後、俺は傭兵に転職したんだ。俺の名前を出せば仕事が来ると思ったからな…案の定だったがな…」

苦笑を浮かべてベルンハルトが呟く
その隣ではイリスが彼を見ながらにこにこ顔で言う

「おかげでこっちは引っ張りだこで休む暇がなかったんだけど…」

「落ち着けって…な…」

どうやらイリスは今までろくに休む暇がなかった事に腹が立っているようだ
この後、しばらく彼女によるベルンハルト粛清大会が行われたため、インタビューが中断した






あとがき
初の円卓での戦い
グリューンとロトのダブルエース部隊の強襲です
ロトは機体の関係上からリズが暴走しました
しかし、敵エース部隊との交戦だというのになんか弱くなってしまった感じがします
うーん…次に登場するインディゴはそう簡単にはいかないようにするつもりです
では



 2006/11/04:メビウスさんから頂きました。
秋元 「エルテアのツンデレ、ちょっと発揮(笑」
アリス 「……いつでもツンデレ、何処でもツンデレ、デフォルトなツンデレ」

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