外洋機動艦隊×鋼鉄の咆哮
THE ENDLESS ANOTHER WAR -episode of the "DAISY"-




 第一話「運命の舵輪はまわる」

― 一九四一年一二月三日、東京時間二〇〇〇、アリューシャン列島南約四〇〇〇キロメートルの洋上―
 漆黒の海を、鋼鐵くろがねの彼女たちが進む。そこには名も光も無く、ただ戰場があった。
 彼女たちはく、己の主人が愛した世界を取り戻すため。そして、己の愛した主人との時を取り戻すために。

 これは、命を懸ける事でしか自分を表現できなかった不器用な男たちと、
 愛する主人を護らんがために命を懸ける少女たちの物語である……
 
 さあ出撃せよ
 
 今戰場に鋼鐵の咆哮が轟く!

 1

―皇紀二六〇一年(西暦一九四一年)現地時間一二月七日二〇時〇〇分(東京時間一二月八日一五時〇〇分)、ハワイオアフ島真珠港―
「か、艦長!」
 我々が母港を出港して数時間、訓練のために太平洋中部へと航行中であった。その時までは航海は順調であったが突然、計器に異常が生じたのだった。方位計はあらぬ方向を指し、速度は極端な低速からありえない高速までバラバラの数値を出し、GPSはまともな位置を示さず、レーダーにはノイズが走った。
「…………」
 光りに包まれ何も見えなくなり、どれだけ経ったろうか。自分が立っているのか、目は開けているのか、そもそもどこに居るのかすらもわからなくなりかけたとき――光が晴れた。
 光が晴れたその先は、謎の島だった。戦闘機が飛び交い、砲弾の雨が降り注ぎ、島のあちこちではまるで島そのものが噴火しているかのごとく爆発が起きている。
「これは一体……それにここは……」
「…………」
 副長の叫びに私――付島 将兵――は無言を以て答える。彼が慌てるのも無理はない、十分に理解できる。そんな彼を私は視線で制する。
「あっ……申し訳ありません!以後気を付けます!」
「うむ」
 私たちは指揮官である。上が動揺すればそれはすぐさま下にも伝播する。指揮官とは、何時如何なる時でも偉そうに威張っていなければならないのだ。
 とは言ったものの……。
(さて、どうしたものか……」
 正直なところこれからどう動いたものかさっぱり検討がつかない。突然の出来事に頭が混乱していることを除いても全く案が浮かばない。これだけ大規模な戦闘ならば誤爆も十分ありえる。それでなくとも、突然出現した(であろう)艦に対して、興奮した兵士が攻撃してこないことがないとも言い切れない。
 不幸中の幸いか炉は動いている。GPS等の衛星が必要なものを除けば計器は正常。レーダーもしっかり動き、前方の島を捉えている(何故か戦闘機等が映っていないが……)。私は先ず脱出を優先と考え、誤爆されないように白旗を掲げさせた。次に半分ほど役に立たないレーダーの補助として見張りの数を増やした。
「前進微速」
「前進微速、アイ」
 私の命令に対し副長が復唱する。船(艦)においては長の命令は絶対であるがそれだけではフネは動かない。長の命令を副長が復唱することによって副長が了承したことになる。それによって初めて、フネは動くのである。尤も、副長が反対することなど滅多に見れない光景ではあるが。
 最大速力三二ノットを叩き出す出力の原子炉四基から生み出された蒸気がタービンを回し、減速ギアを介してスクリューシャフトを回す。直径七メートル、四基のスクリューがゆっくりと回り始める。それにより全長三八七.八メートル、喫水幅六四.四メートル、満載排水量一六万八七〇〇トンの艦体がゆっくりと、しかし力強く歩み始める。
「面舷九〇度回頭、面舵一杯」
「面舷九〇度回頭、面舵一杯、アイ」
 私の命令により、私が艦長を勤める空母、"雛菊"の舵が傾く。舵が傾くことにより、船が動くことにより生まれた水流とスクリューの生み出す水流とが合わさり舵の表面に揚力を生み出す。雛菊それ自体は非常に巨大であるために回頭自体には時間がかかるがその大質量のため一度回りだすと速い。と言っても微速のため旋回半径自体は小さいが回頭は遅かった。艦首が段々と近づき、ある程度まで来たところで「取舵に当て」と命令する。そうすることによって、舵をとった方向に働く慣性を打ち消すのだ。付島は"雛菊"の艦長となって一五年となる。"雛菊"のことは自分の手足のように分かっている。見事、ピタリ九〇度。さすがは付島である。"雛菊"が完全に直進に入ったことを確認すると私は「両舷全速、宜候」と命じた。
 四基の原子炉と蒸気タービンがフル稼働を始め、スクリューが勢い良く回り始める。それと同時、軽い加速度を体に感じる。このまま行けば"雛菊"はこれといった障害なく脱出できるはずであった。
 順調に加速を感じているとき、見張り員が叫んだ
「直上より不明機降下!あ、爆弾4!」
「っ!迎撃ー!」
 私は反射的に命令を下した。
 知っての通り"雛菊"は単艦での行動が可能な能力を備えた空母だ。そのため―― 一部後付であるとは言え――多数の対空火器が搭載されている。無論それを扱えるだけの電子兵装もだ。
 だが、これは間に合わない――私は死を覚悟した。
 しかしその時は何時までも訪れなかった。代わりに、凄まじい轟音と衝撃、そして閃光が襲いかかってきた。
「!!」「うわっ!?」
 爆発の嵐が過ぎ去ると、艦橋の前を一機の飛行機が駆け抜けていった。その飛行機(戦闘機か?)には、見覚えのあるマークが描かれていた。一瞬ではあったが、確かに見た。
 前翼(カナード)のついた、ハブのような機首。前方に向かって角度のついた前進翼。間隔を開けて置かれた、三枚のパドルがついたノズル。
 そして、主翼翼端に描かれた、日の丸。
「日本軍?」
 そう呟いたあと、まさか。と思った。そもそも日本はもう戦争はしていないし、第一あんな機体は見たことがない。もし存在しているのならば安里あたりから情報が入ってくるはず。そもそも此処は日本ではない可能性自体のほうが高いのだが。その機体は高度をあげるとこちらに向けて翼を振り、"雛菊"の上空を旋回し始めた。こんなところで何を、と思ったがよく見ると同じような機体が幾つか、上空を回る機を守るように飛んでいる。おそらく敵ではない、ということをアピールしているのだろう。わざわざあんな事をするのだ、少なくとも敵対の意志はないであろう。
 その時、無線が入ったことを示すランプが点灯した。どこからだと思いつつも何も無いよりかは藁のほうがマシかと思い、マイクを手にとった。無論、艦内全てに聞こえるようにしてだ。
 そして相手はこう言ったのだった。
《そこの空母、通信は聞こえるな?我々は大日本帝国海軍第零遊撃艦隊だいれいゆうげきかんたい。これより貴艦を援護する》
 何……?
「こちらは日本海軍第一外洋機動艦隊所属、攻撃型空母雛菊艦長、付島将兵だ。貴官は今……なんと言った?」
 私は艦内の空気が静まり返ったのを感じた。当然だろう、援護するはまだいいとしても『大日本帝国海軍』というのが意味がわからない。第零遊撃艦隊なる艦隊は日本海軍には存在しないし、第一、大日本帝国海軍はこの世に存在していないはずだ。
《む、艦長でありましたか。失礼しました。自分は第零遊撃艦隊第一飛行団第一"黒鴉こくあ"小隊所属、石川いしかわ正太郎しょうたろう少尉であります。上官より貴艦の護衛を命ぜられました。今は何も聞かず、そのまま北へと脱出してもらえないでしょうか》
 何も聞かず、か……。正直護衛してくれるのは有難いがあまりにも胡散臭すぎる。こうして考えている間にも艦の周辺では爆発が起きている。艦体には未だ被害はないようではあるが。どちらかと言えばこのまま相手に護衛をしてもらいながら脱出してもらおうとは思っていたが決めかねている。副長を一瞥すると同じような感じの顔をしていた。まあ当然といえば当然であろうが。
「断る理由はない、か……副長?」
「私も同感であります。何も無いよりはましという考えではありますが……」
「いや、それでいい。私も同じ考えだ。さて、石川少尉?」
《はっ》
「貴艦隊の申し出を受け入れよう。当艦が離脱するまで護衛してくれ」
 私の声を聞いた瞬間、相手の顔色が明るくなったのがわかった。伊達に私も五〇年生きているわけではなく、人生経験もそれなりに積んでいる。相手の顔が見えずとも、相手がどのような顔をしているかくらいはわかる。
《では針路をそのままで、全速力で脱出してください。我々飛行隊と駆逐艦、そして巡洋艦が護衛に当たります。回避行動の類は一切必要ありません、ひたすらまっすぐ進んでください。蟻の小一匹触れさせませんよ》
「フッ、頼もしいな……。では、よろしく頼んだ」
 そして"雛菊"は水平線へ向かって驀進ばくしんを始めた……。



― 一三時間後、ハワイオアフ島より北北東へ七八キロメートル――
《よし、周囲に敵影なし。予定より早まったが離脱成功だ。御芽出度う》
「生きた心地がしないな」
 私がそう言うと通信相手は「生きてるよ」と返してきた。
 あの後――"敵"は我々を逃すまいと追撃を試みた。だが、我々を追撃したせいで島の防御が薄くなってしまった――よっぽど焦っていたのだろうが、守っているときに戦力の分散をするのは自殺行為だ――為に、"彼ら"の進攻を早めてしまった。当然敵は迎撃しようと島に戻るのだが、一度勢いのついた流れを止めることは叶わず、島は制圧された。島にいた敵は残らず駆逐され、我々を追撃してきたモノも蟻の子を散らすかのごとく殲滅された。つまり、我々が転移してきた事自体が、我々の脱出を助け、また侵攻を助けるという奇妙な事態になったのだった。
 今通信をしているのは、一時間四〇分ほど経った頃に合流した重巡洋艦"愛宕あたご"の艦長だ。
 彼からは様々な話を聴くことができた。
 彼曰く、この世界こちらがわ我々の世界むこうがわとは別の世界、いわゆるパラレルワールドであり、向こう側とは歴史はだいたい同じなものの、技術レベルが大きく違うそうだ。
 確かに、戦闘中には大変驚かされた。駆逐艦はまるでひと世代前のレシプロ機並みの速度で航行し、艦からはまるでフレアのごとくミサイルが発射された。武装は艦の一部が液体のごとく流動・変形し、出現。そのまま平然とレーザーや極超音速の砲弾による砲撃を行った。飛行機は音速を軽々と突破し、まるで重力や慣性が存在していないかの如く鋭角ターンや急上昇急降下、果ては機体各部に設置されたブースターで急激な起動も行った。機銃に当たるものはレーザーのようで、機体の上下からはまたもフレアのようなミサイルを放った。
 この異常な技術力を手にしたのは、意外にも二年前。二年前までは"まだ"、向こう側の延長上の技術(常温超電導、核融合炉、電磁推進)だったのだが、ある時から技術は急速に発達した。否、発達せざるを得なかった。
 始まりは一九三九年九月一日。向こう側で言えばドイツがポーランドに侵攻した日であるが、こちらでもドイツは着々と軍備を整えて進撃しようとしていた。ドイツが宣戦を布告しようとした正にその時、謎の軍団が南極より侵攻を開始した。
 彼らは"国際連合こくさいれんごう"と名乗り、全世界へ宣戦を布告、同時に進撃を開始した。その力は圧倒的で、南極に近い地域から次々と征服された。圧倒的兵力、尽きない資源、止むことのない攻撃に加え、超兵器と呼ばれる巨大兵器群が戦局を決定づけた。ドイツ、日本、イギリスは言わずもがな、アメリカでさえそれに逆らうことは叶わずあと一歩で世界が征服されようとしていた。
 だがそこで奇跡が起きた。北極より現れた軍団と、一隻の超兵器が戦局をひっくり返した。北極より現れた軍団は"解放軍"と名乗り、新たな戦力と、戦う術(すべ)を与えてくれたのだった。
 その術とは――技術。もともと向こう側より優れていた技術は、この一件でレベルが跳ね上がった。レーザー兵器、重力制御、電磁防壁……こちら側でさえ「未来の技術」と呼ばれていたものが次々と実用化、解放軍が資源をバックアップしてくれたことと帝国側の戦線が伸びきっていたこともあり、現在解放軍は快進撃を続けている。
 そして、先のハワイ攻撃により、北太平洋の制空海権を取り戻した解放軍は、安定のために南方・オーストラリアの攻略に当たっている。ハワイを取り戻したとは言え制空海権は一時的な物であり、オーストラリアを取り戻さない限りは未だ喉元にナイフを突きつけられているようなものだ。
 これからこの艦隊は、現在フィリピン攻略に当たっている部隊を支援するために一度海上港にて補給を受けた後、直ちにフィリピンに向かうのだそうだ。
「ところで、旗艦と合流してから補給に行くと言っていたが、旗艦とはいったいどのような艦なんだ?」
 私がそう言うと、相手からとんでもない一言が帰ってきた。
「超兵器だ」





 2011/03/26:櫻華一一型さんから頂きました。
秋元 「突然やってきた異世界で、援護すると言われてもちょっと疑っちゃいますよね。何せ相手がなんなのか分からないんだから」
アリス 「……もしかしたら、良くない方向へ進むかもしれませんし」
秋元 「そしてその逆かもしれない。判断力が問われる瞬間だな」

  
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