ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜
第三章




完全に日が昇り、新たな一日が始まろうとしていた。日本とは違い南半球に位置するオーレリアではかなり暑い。しかも今日は無風、海上なので蒸している。
そんな中、躑躅の甲板では一機の戦闘機の周りを男達が汗だくになり忙しそうに駆けまわっていた。
「グリーンリーダー、クリア・フォー・テイクオフ。ウインド・イズ・カーム。(グリーンリーダー、発艦許可。風は無風。)」
「ラジャー。グリーンリーダー、クリア・フォー・テイクオフ」
管制室から離陸指示が入る。既にカタパルト射出要員以外は安全な位置に退避している。
「グリーンリーダー、テイクオフ」
瞬間、ドッと後ろから突き飛ばされる様な力を感じた。そうして美しい流線型の機体は飛行可能速度に瞬時に到達、即座に機首を上げ離艦する。
やっぱり何度やっても離着艦は緊張するね・・・。グリーンリーダーこと市川守少尉はそう感じていた。彼自身躑躅に配属され、何度も離着艦を行っているが、未だそれに慣れることはない。言い知れぬ恐怖に縛り付けられる感覚が未だに抜けないのだ。
その恐怖が分かればしっかりとしたパイロットなんだろうな。そう彼は自分に毒づいた。
「グリーンリーダー、ヘディング132、エンジェル70バイゲイト、フォロー・データリンク(グリーンリーダー、機首方位132、高度7000フィートまでアフターバーナーで上昇せよ。以後はデータリンクに従え)」
「ラジャー。グリーンリーダー、フォロー・データリンク」
躑躅の管制から指示が入る。データリンクによればもうすぐ友軍を視認できるはずだ。
「リエナ、データリンクを開いてオーレリア第一艦隊の位置を。あと全偵察カメラを機動してくれるかい?」
「りょーかい!」
そう答えたのはリエナである。彼女は彼の愛機の精神生命体である。この精神生命体こそ躑躅が派遣された要因の一つの理由である。精神生命体とは日本がオーレリアと国家プロジェクトとして共同研究していた次世代の技術である。その技術はかなり難解であるため詳しいことは省略するが、簡単に言えば機体の魂と言っても過言ではないだろう。
そして彼の愛機はSu-37jkフランカー・ゼロ・リサーチャー。日本が正式採用している戦闘機Su-37フランカー・ゼロを偵察機として改造したものだ。機体のそこかしこに偵察カメラなどが搭載されており、高度7000フィートという高高度からの偵察を可能にしている。
その偵察ポッドに”あるもの”が映った。
「マスター、何か大きい船見みたいなのがいるよ・・・って!何か黒煙上げてるよ!」
「何だって!」
それは敵の猛攻を受けているオーレリア海軍第一機動艦隊のそれであった。
「グリーンリーダーよりアザレア・コントロール!目標視認!敵に攻撃されている模様。至急支援機を回されたし!」

「ターミナス轟沈!残存艦艇8!」
「敵航空隊第二波接近!」
オーレリア第一艦隊旗艦サンタマリアのCICは友軍の被害報告で飽和していた。
日本の増援に進路を向け、移動していた時、レーダーの効きが急激に低下。そこに突如敵航空隊が飛来、完全に奇襲を食らってしまった。最初の攻撃で駆逐艦2隻、巡洋艦1隻が大破。その後も被害が続出した。
すぐさま空母から艦載機を発艦させたが、数が違った。敵は第一艦隊に過剰ともいえる戦力を差し向けてきた。量というものは何にも変えられない圧倒的なものだった。だが、パイロットの質、機体の性能ならオーレリアが上回っただろう。しかし敵は内戦で実際の”殺し”を体感している。これは戦闘において決定的な差であった。その圧倒的な攻撃に艦隊は危機に瀕していた。
「閣下!日本の艦隊から入電です!”我、航空隊出撃セリ。増援到着マデ現状ヲ維持サレタシ“」
「よし!それまで何としても耐え抜くぞ!各艦態勢を立て直せ!援軍到着はもうすぐだ!」
しかし世の中そう上手くはできてはいない。
「水測よりCIC!敵艦隊を捕捉!・・・う、嘘だろおい!」
「どうした!しっかり報告しろ!」
副長が吠える。
「て、敵艦隊に戦艦がいますっ!」
「何ッ!」
CIC内は驚きに満ちていた。
「て、敵戦艦発砲!」
その声が聞こえた瞬間、隣にいた巡洋艦が派手に爆発した。
「日本艦隊に早急な支援を求むと打電しろ!敵は待ってはくれないぞ!」

グリーンリーダーから敵艦隊発見の知らせが入ると躑躅は第1級戦闘配置が取られ、甲板には離艦を待つ鋼鉄の鳥達が並べられていた。
一機また一機と発艦していく。その中に“彼”の機影もあった。
「ホーリー・ハウントフライト、クリア・フォー・テイクオフ」
「ラジャー。ホーリー・ハウント、クリア・フォー・テイクオフ」
ホーリー・ハウント・リーダーこと秋元健太中尉は馴れた手つきで機体をカタパルトに乗せる。随伴する二番機も第二カタパルトに入る。そうして空へ舞い上がる。救援を待つ友軍を救うために。
「ホーリー・ハウント・ワン、テイクオフ」
「ツー」
ドッという音とともに一気に躑躅から射出される、飛行可能速度で機首を上げ上昇。一瞬の間に様々な操作を同時に行い白い鶴は巨大な巣から飛び立った。そしてある程度の高度で、先に射出されていた3,4番機と合流、編隊を組み他の隊と合流。そして、鋼鉄の鳥の群れは一路オーレリア第一艦隊へ向け進んでいく――。


<<クラックスよりグリフィス隊、プナ基地まであと5マイル。各自攻撃態勢に入ってください>>
<<・・・・・・。>>
<<グリフィス5よりクラックス、了解。レサスめ見てろよ。てめぇらの喰い残しの底力を>>
二機のF-4Sが翼を翻して降下してゆく。
それを見届けると、僕を乗せたE-2Cはゆっくりと空域を離脱し始めた。

僕たちは今、歴史的大反攻作戦への第一歩を踏み出そうとしている。その思いが僕の体をいやがうえにも熱くさせた。

プナ平原では現在、レサスが急ピッチで大規模な補給基地を建設している。
先日の輸送隊の捕虜の情報だと、近日中にまた大規模な攻撃がこの基地を基点として行われる計画らしい。
そんなことを聞いて、大佐も判断せずにはいられなかったようだ。
また、そうでなくてもオーブリーの物資は底を尽こうとしている。
だから、この基地の戦力を撃破して抵抗できなくなったところを基地ごと頂こうというのだ。

<<クラックスよりグリフィス隊、倉庫と燃料タンクへの攻撃は極力控えてください。>>
<<分かってるわい。俺はまだしも隊長がんなことするわけねぇだろ>>
<<・・・・・・。>>
<<分かりました。お願いします>>
<<あっ、てめ・・・んのやろ、後で覚えとけよ>>

相変わらずグリフィス1は無口だったが、今ではその寡黙さが心強さになりつつある。
僕は無駄な考えを中断し、緑色に鈍く光るブラウン管モニタを注視することにした。

二機が基地へとどんどん近づいてゆく。
そろそろ敵に気づかれるだろう距離で聞きなれた怒鳴り声が耳朶を打った。
<<グリフィス5、エンゲージ!FOX2!!>>

青いマーカーから短い直線マーカーが放たれ、画面上を高速で移動して行く。
やがてそれは地上目標を表す丸いマーカーを正確に貫いた。
これで完全に敵も気づいた。傍受可能になった無線から慌てふためいているレサス軍の交信が聞こえてきた。

<<レーダーに反応!敵だ!敵襲!!>>
<<敵は陸か?空か?クソ!混乱していて良く分からん!>>
<<空だ!オーブリーの奴等が反撃してきやがった!!>>
<<なんだと!?あそこにはもうまともに飛べる機体なんか無かったんじゃなかったのか?>>
<<こないだの制圧部隊の件忘れたのかお前は!!>>
<<んなことどーだっていい!!自分の目で確かめろ!星のマークの機体なんてレサスにはいないぞ!>>
<<迎撃機を上げろ!あと本部に報告だ!急げ!!>>
<<迎撃機なんてもういねぇよ!みんな奴にやられちまった!!>>
<<アパッチを出せ!俺がやる!!>>
<<馬鹿野郎!!死ぬぞ!!>>
<<このB-52はもうだめだ!離れろ!!>>

無線から少し意識を離し、レーダーへと目をやる。
最初あれだけあった目標のマーカーは、猛烈な勢いで消滅してゆく。
この分だったらそうたたないうちに決着がつくだろう。

<<こちらパターソン司令部。何があった?状況を報告せよ>>
<<敵の攻撃を受けている!すぐに応援を寄越してくれ!>>
<<すぐには無理だ。出撃準備が整うまで持ちこたえろ>>
<<早くしてくれ!ぐずぐずしてるとこの基地が灰になっちまう!>>
<<また火だ!こっちもやられた!!>>

だが敵もそれほど甘くはないというところか。無線を切り替え、一応注意を促す。

<<クラックスよりグリフィス隊、敵増援が来る可能性があります。注意してください>>
<<心配するな!その前に終わらせてやるよ!!>>

そう言ったグリフィス5のF-4Sからミサイルが発射される。
超音速で飛ぶ鉄の槍は司令部棟の脇の宿泊棟を吹き飛ばした。
結果的にこれが引き金となったようで、敵の戦意はついに地に墜ちた。

<<ここはもう駄目だ!逃げろ!>>
<<逃げろだって?飛べる機体なんてもう無いぞ!!>>
<<だから走って逃げろって言ってんだよ!>>
<<司令部にはもう連絡を入れた!撤退だ!!>>
<<退避しろ!建物から出るんだ!退避!!>>
<<うわぁぁこっちに来るなぁぁぁ!!糞野郎ぉぉ!!>>
<<早くトラックに乗れ!階級?知るか!早いモン勝ちだ!>>

数台の装甲トラックがハンガーから飛び出してきた。
しかし、二機は深追いをしない。もう弾薬もあまり残ってないからだろう。

レーダーに他の敵は見当たらない。
<<レサス軍の兵士が基地を捨てて逃亡し始めました!作戦は大成功ですよ!>>
高らかに勝利宣言をした。あとは基地に帰ってこのあと突入する手はずの地上部隊の連絡を待つだけだ。
ここでは狭いので操縦席の方に移動した。今回はもうレーダースクリーンを見る必要もない。
敵は逃げてしまったのだ。今更抵抗する輩もいないだろう。
狭っ苦しいレーダー室に比べれば大して広くもないコクピットも楽園のようだ。何より窓がある。

外を見ると、見渡す限りの平原が広がっていた――。



 2010/08/07:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
秋元 「施設も物資もかっぱらって一石二鳥! ですな。特に燃料とか」
アリス 「……燃料がないと飛べません」
「最低限必要なものだよネ」

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