ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜 第四章 |
||||||
「レサス、オーレリアの完全掌握を無期限延期」 16日、レサス軍はオーレリア軍により南部地域の物資駐屯地が壊滅したと正式に発表した。本部は「やけになった部隊の悪あがき」と声明を出しているものの、20日までにオーレリア全土を完全掌握するとした宣言を無期限に延期した。広報官は「残存兵力の掃討のため」と明言しているが、先日の航空制圧部隊の件もあり、軍上層部に緊張が走っているために今回の様な措置が取られたと思われる。また、戦争が長引く気配が出てきた中で、各国が相次いで今回の戦争の大義名分に疑問を呈し始めている。今後レサスはオーレリアとの戦闘だけでなく、国際社会とも戦わねばならないことは必至であろう。今後のレサスの動向に注目が集まる。 メール送信ボタンをクリックし、パソコンを閉じる。これで明日の紙面にこの記事がのることになる。 早期に決着が付くはずだったこの戦争は、数日前の事件から様子が変わってきた。 オーレリアの端にあるオーブリー。ここで爆撃及び制圧の任務に就いていたレサス軍部隊が壊滅した。それはたった2機の戦闘機に全ての航空機が撃墜されたというものだ、興味深いのは、オーブリーはグレイプニルにより部隊が壊滅したはずの場所ということだ。と言うことはあの攻撃をかいくぐった2機だろう。しかし興味深いのはそれだけでない。“たった2機”で制圧部隊を壊滅させるパイロットがまだオーレリアにいたことだ、私が知りうる限りでそんなことができるのは数人だ、ラーズグリーズ、円卓の鬼神、リボン付き・・・そんなエース達でなければ不可能なことができる人間がいる。それが驚きだった。 −だが私は忘れていた。彼らもまた、圧倒的不利な戦況下で生まれたエース達であることに。 オーレリア第一艦隊は、躑躅と共に一路パターソンを目指していた。 先日、敵の通信に興味深い内容があったのだ。その内容は、“プナ基地が落ちた”というものだった。これを聞いた艦隊重鎮達は基地を落とした者との接触を決意。そしてつい先日、暗号通信で接触することに成功。その正体はなんとオーレリアの残存戦力だったのだ。そしてパターソン奪回作戦の参加を打診され、現在に至っている。 “友軍がレサスに勝利した“このニュースはすぐに艦隊内に伝わり、絶望の淵にいた兵達は、活気づいていた。もちろん、多額の請求書を頂いたアレックスもである。 「まさか反撃に出る部隊がいたとは。レサスの連中大慌てでしょうね」 「だな、あのクソ野郎共が負けたのを上に報告するのが見たいもんだ」 「きっと、チビりながらしてるんですよ。赤ん坊みたいに」 ミヒャエルとマッケンジーが軽口を叩いている。それを見ているとウチの隊で唯一マトモなイェーガーが質問してきた。 「そう言えば隊長。パターソン攻略はウチの隊出るんですか?」 「いんや。今回は躑躅隊だけで行くらしい。大部隊で行くとレサスが警戒を強めて、増援を頼むと厄介だからな」 「そうですか・・・分かりました」 イェーガーの顔が悔しさに満ちていた。無理もない、祖国が反撃に出るという重大な一戦に参加できないというのはオーレリア軍人として、とても屈辱的なことだ。無論、アレックス自身も内心同じ心境だ。しかし、現在の状態では参加できないのだ。何せ先日の海戦でレイニー隊は全機被弾。大破した機体は無いものの、修理に時間が必要であった。それに予備機も底をついており、搭乗できる機体が無いのである。 「躑躅から何機か貰えないんすかね」 「難しいだろうな。というか向こうにファルクラムは無いぞ?確かフランカーだけだ」 「何でもいいんですよ。少しでも参加できれば」 「何、向こうに着いてから思いっきり暴れられる。その時までためておけ」 そう言うと、イェーガーに少し笑顔が戻ってきた。 躑躅のミーティングルームでは今回の作戦の説明が行われていた。 「今回の作戦はパターソン港の奪回だ。これを見てくれ」 スクリーンにパターソン付近の地図が表示されると、中にいた男達の視線が注がれる。 「現在、パターソン港には敵の艦艇が投錨している。艦隊規模は小さいがイージス艦が確認されていて戦力は低く無いと考えられる。しかし、湾に架かる可動式の橋の関係で簡単に身動きできない。それを利用し、湾内の敵を叩く」 しかし、スクリーンには駐留艦隊とは別の矢印が映る。これが意味するのは何か、敵の増援である。 「しかしパターソン港に敵の増援が接近中だ。規模からして3個大隊程の陸戦部隊。これが多数の護衛艦に囲まれながら進んでいる。こんな物が上陸されると残党軍に勝ち目が無くなる。ということでパターソン港はオーレリア残党軍に任せて、我々は敵増援艦隊を殲滅させる。参加部隊と部隊編成は資料の通りだ、あと1時間半後に作戦を開始する。以上!解散!」 そう安里が告げると男達は一斉に部屋から出て行った。 1時間半後、秋元はゼロのコクピットの中にいた。 今回ホーリー・ハウンド隊に出された指令は艦隊攻撃に当たるマリンヴァイパーの護衛だ、対艦ミサイルを満載した彼らがドッグファイトをするには難がある。だが過剰な護衛は付けられないため、躑躅のエース部隊の彼らに白羽の矢が立った訳である。 「ホーリー・ハウンドチーム、クリアフォーテイクオフ」 「ラジャー。ホーリー・ハウンドチーム、クリアフォーテイクオフ」 管制塔から離陸指示が入り、機体をカタパルトへ、そしてカタパルト上で機体の最終チェックを行う。−異常なし。後は大空へ舞い上がるだけ。 「ホーリー・ハウンドチーム、テイクオフ」 「ツー」 2番機の復唱を確認し、スロットルを操作、射出態勢へ− 圧縮された空気を一気に開放し、鋼の鶴は飛び立った。 そして、同じ鋼の鶴2羽と合流し、4羽の鶴は青い蛇を守るために空を駆けていく。 焦げた木材の異臭漂う中を僕らは歩いていた。 先頭を歩くのはオーブリーの整備長、ドレイク大尉。 後ろを歩くのは整備兵御一行様とグリフィス5ことニック・モルエッティ少尉、そして僕だった。 「おっ、あったここだここだ。そーら暇人共、この馬鹿がヘマしたのをみんなで取り返すぞぉ」 「・・・うぃーっす」 大尉が足を止めたのは破壊されたハンガーのひとつだった。 このプナ基地を奪取する際、敵迎撃機の発進を阻止するために駐機ハンガーを軒並み破壊したのだが、 ここに打ち込まれたミサイルはどうやら不発だったようで、建物の半壊だけで済んでいた。 このハンガーへは二つの理由で来た。 一つは、不発ミサイルの回収と不発の原因究明。 そしてもう一つは・・・ 話はプナ基地攻撃の直後まで遡る。 攻撃作戦を成功させ、オーブリー基地に帰還したときにそれは起こったのであった。 燃料を殆ど積まずに出てガス欠のグリフィス1と僕を乗せたホークアイが着陸した後、 グリフィス5が着陸しようとしていていたのだが、 着陸寸前に右エンジンが突然爆発。少尉はとっさの緊急ベイルアウトで事なきを得たが、 彼の乗機であったF-4Sはそのまま墜落、大破炎上してしまったのだ。 原因は簡単に見つかった。爆発した右エンジンからは貫通しなかった敵機銃弾が発見され、 これが着陸前に起こる半失速状態の機体振動に晒され炸裂したという結論に至った。 敵機銃弾については「なんか当たったような気はしていた。」とはベイルアウトした本人談。 おかげで今の彼の乗機はオーブリーのハンガーに放り込んであったT-2に即席でミサイルを6本ぶら下げただけの なんちゃってF-1になってしまっていた。それについて本人は結構凹んではいるようであった。 だから、今回はそのなんちゃってF-1に取り付けられそうな部品を探しに来たという目的もあるのだった。 崩れたハンガーのそこここからバキバキガラガラとあまり快くはない音がしている。 1時間ほど経って、僕が瓦礫の中から27mm弾が詰まった小箱を拾い上げたとき、不意に瓦礫の音が止まった。 しばらくすると、焼け残ったハンガーのほうを捜索しに行っていた整備兵が大声でなにやら叫びながらこちらへ走ってきた。 彼は整備長の前で息を整えてから何かを報告したようだった。みるみる整備長の顔色が変わっていく。 整備長がこちらを振り向いたとき、その顔には満面の笑みが湛えられていた。 「おいお前ら!ちょっとこっちこい!掘り出し物が見つかったぞ!」 焼け残ったハンガーにぞろぞろと発掘隊(?)のメンバーが何事かと集まってくる。 何故かハンガーの入り口にはブルーシートがかけられていた。 「ふふふ・・・お前らこいつを見て驚くんじゃねぇぞ。そら!」 ブルーシートが整備長の手によって勢い良く引き下ろされ、中に眠っていたものが姿を現した。 「おお、おおぉぉぉぉぉ!?嘘だろぉ!?」 マッハの反応を示したのはニック少尉だった。 ハンガーの中に鎮座していたのはダッソー・ミラージュ2000Cの対地仕様だった。 瓦礫の接触による細かい傷以外に目立った損傷はない。まさに奇跡の機だった。 「よぅし、この瓦礫退かしちまうぞ。おい誰か重機持って来い。」 それから、夜を徹しての撤去作業が始まったのだった――。 <<クラックスよりグリフィス隊、これより作戦を説明します。>> <ラビット1よりチーム・コパー及びチーム・コブラ、簡単に作戦を説明するぜ。> <<今回の作戦はパターソン港の奪還と敵輸送船団の入港阻止です。>> <んで、今日は先日コンタクトに成功したオーレリアの残存戦力との共同作戦になる。> <<日本の攻撃隊は輸送艦隊への攻撃を行う手はずになっているので、私達は湾内の艦船と陸上戦力を叩きます。>> <味方は白いF-4と茶色迷彩のミラージュ各1機ずつだ。くれぐれも同士討ちには注意してくれよ。> <<それでは作戦を開始してください。>> <よし、始めるぞ。> <ラジャー、チーム・コパー、エンゲージ!> <チーム・コブラ、エンゲージ!> <<イエス!グリフィス5!エンゲージ!!いやっふぅぅぅぅぅ!!>> ったく・・・この蛇は何時に無く快調だ。 でっかい獲物が見つかって喜んでるのは俺だけじゃないってこった。 最近はアサルトの出番ばっかでこちとら開店休業だったしな。 今日はたっぷり食わせてやるぜ。なぁヴァイパー・ベティー。 <ロイよりチーム・コブラ各機、今日は雷装だかんな。やることは分かってるだろうな?> <こちらレッド、もちろんですよ隊長。デカいのかましてやりましょうや> <こちらソリッド、最近出れなくてイライラしてたんだ。暴れさしてもらおうぜ> <こちらウルフ、同感だ> <こちらウォッチ、隊長、高度計はメートル表示のほうがいいですよね?> <無論だ。そっちのがやりやすい。> <了解> <ラビット1よりチーム・コブラ、もうすぐ敵艦隊と接触する。攻撃態勢に入ってくれ> さぁきたぜきたぜ〜と弥が上にもテンション上がってくる。 当然といえば当然だ。こんな好条件めったにないからな。 レーダーを見ると、敵艦との相対距離は5kmを切っていた。このまま行けば敵の横っ腹に突撃できるだろう。 <ラジャ、いくぞ!雷撃用意!> <ラジャー、シグナル・オールグリーン。システムクr・・・> <レッドよりウォッチ、おい新入り、うちではそんなまどろっこしいことはしねぇ。隊長について言ってみろ> <ロイよりレッド、んじゃ今日は全員で行く。ついてこいよ!> 操縦桿を思い切り前に倒し、急降下に入る。風防がビリビリと振動するが、そんなのお構いナシだ。 水面ギリギリで機首を引き起こす。高度15m。ここからさらに緩降下で水面に寄せてゆく。 高度5mを切った。速度を500km/hまで落とす。後続機がラダーで器用に各々の目標に進路を合わせた。 高度2m。機体を水平に戻し、後続を確認する。距離は1kmのラインに近づいた。 今日の目標はあのフリゲートだ。 さぁ、いつもの儀式の開始だ。 <全機兵装確認!魚雷ヨーシ!> <2番機ヨーシ!> <3番ヨーシ!> <4番ヨーシ!> <!?・・・5番よーし!> <高度ヨーシ!> <2番ヨーシ!> <3番ヨーシ!> <4番ヨーシ!> <5番ヨーシ!> <進路ヨーソロー!> <2番機ヨーソロー> <3番機ヨーソロー> <4番機ヨーソロー> <5番機ヨーソロー> 敵艦との距離がどんどん詰まってゆく。ついに500mまで迫った。今だ。 <発射時期迫る> <発射ヨーイ!> 一瞬の静寂、そして敵を目視・・・スイッチに手を掛ける。ここで躊躇ってはいけない。緊張が走る。 <テーッ!!!!全機離脱!!!> 腹の底からありったけの声を出し、それと同時に機首仰角2度。魚雷投下・・・! 腹にクるガコンという音が機体両サイドから耳朶を叩き、一瞬の振動の後機体が嘘のように軽くなる。魚雷が投下されたのだ。 すでに敵艦の姿がすぐ目の前に迫っている。 すぐに操縦桿を目いっぱい引き上げて離脱にかかる。強烈なGが体を押しつぶそうとしてくる。 マストを掠めるようにして機体を翻したとき、フリゲートの艦首と船腹から天を衝くような水柱が立ち上った。 その後猛烈な火柱が上がり、大きいとはいえない船体が火達磨になってのたうった。 今回使ったのは一五式航空魚雷改。 ASM-2を凌ぐ絶大な火力と引き換えに誘導性能を犠牲にした無誘導魚雷。 専用強化されたハードポイントが必要なため、現在はこのF-2M専用の装備となっている。 オーシアの空母だろうが当たり所によっては一撃で航行不能にだってできる代物だ。 それを二発も横っ腹に食らったのだ。耐えられるはずがない。 現にフリゲートは火を噴きながら傾斜の勢いを強めている。 こうなってしまっては沈むのも時間の問題だ。 同様の光景は他の艦でも起こっていた。 だが戦果を確認している余裕はない。 こんなちっこい蛇が乗っけてられる油なぞ高が知れている。 ただでさえクソ重いもんを運んできたんだ。さっさと帰らないと巣にたどり着けない。 <こちらロイ、全機攻撃終了したな。スコアラーはあっこの緑の嬢ちゃんに任して俺らは帰るぞ> <あやま、気づいてた?> 戦場に似合わない少女のいたずらっぽい声が聞こえる。まぁ、いつものことだ。 <2番機りょうかーい> <3番機以下全機了解だ> <リエナちゃーんよろしくね〜> <ほいほーい♪> さぁて、帰ったら寝るかぁ。今夜はぐっすり寝れそうだな。 緑の複座戦闘機が目視できる距離を通過していった。 IFFはすでに応答済み。日本軍機だ。 パッと見Su-37のように見えるがよく見るとかなり違う。 通信が入ってきた。相手は・・・その緑の奴のようだ。 <Hello. It is Japanese NAVY …ah・・・えーと、この場合何て言えばいいんだ?> <<こちらクラックス、日本語で大丈夫ですよ>> <それは助かる。どうも英語は苦手でね。 こちらは日本海軍第三空母飛行団通称“躑躅隊”第一偵察戦隊グリーン・アイ、リーダーの市川守少尉です。よろしく。> <それとリエナちゃんだよ♪> 僕は若干反応に困った。イチカワさんはいいとしても、リエナとは・・・どう考えても年端もいかない少女の声じゃないか。 <<・・・クラックスよりグリーン・リーダー、僕はオーレリア国防空軍オーブリー航空隊AEW管制員、 ユジーン・ソラーノ曹長です。よろしくお願いします> 一応当たり障りのない返答をしておいた。今は曲がりなりにも戦闘中。生きて帰ったらいくらでも訊けばいいのだ。 <ところで、急で悪いけど現在の状況はどうですか?> <<こちらは貴航空隊による敵艦隊の足止めのおかげで、揚陸を待つ敵地上部隊が港に釘付けになっていて 完全に一方的な戦闘状況です。支援感謝します。>> <お礼はいいんだ。そうそう、噂のグリフィス1は何処だい?> <<先ほど、敵戦闘機をあらかた片付けてからプナに補給に戻りました>> <そうか。うちの艦長が彼と知り合いらしくて是非会いたいそうなんだ。伝えてくれるかい?> <<了解です。イチカワさん>> <ゴースト、でいいよ。僕のタックネームだ。それじゃあ、僕も帰るよ。またどっかで会おう> <バイバーイ♪> 深緑の機体が高速で上昇してゆく。それにしてもあの娘は何者なんだろう。 そして、こんなにも強力な日本空母の艦長と知り合いの隊長も。考えていったらキリがなさそうだ。 通信を終え、ヘッドセットを下ろした僕に、例によって隣の通信士がイヤホンを渡してきた。 イヤホンから流れてきたのは盛大な金管バンドの音色と、堂々と勝利宣言をする地上部隊隊長のバーグ少佐の声だった。 パターソン港開放。歴史の歯車は軋みをあげていよいよ大きく動き出そうとしている―― |
||||||
2010/08/07:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
第三章へ 第五章へ 戻る トップ |