ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜
第五章




「辺境の拠点。通信途絶える」
00日、レサス軍はオーレリア南部の拠点パターソンがオーレリア軍により奪回されたと正式に発表した。軍の発表によると、先日オーレリア軍がパターソンを強襲、停泊中の艦隊と増援艦隊を壊滅させた。この戦闘により約600名以上の死傷者が出ていると発表された。また今回の敗北に対し、軍部は未だに余裕を示している。しかし今回の戦闘では空中要塞グレイプニルが使用されず、パターソンを捨石にしたのでは、という意見も出てきている。いずれにせよ、それが今戦争におけるオーレリア軍の初勝利に貢献したことは間違いではない。また今回の戦闘でこの戦争は長期化の様相を呈してきた、それに合わせるように各国がこぞってレサスに対する非難声明を発表している。オーシア、ユークトバニアは共同非難声明を発表した、また同盟国である日本は、レサスの行動を激しく非難し、日本から支援の艦隊を出港させたと発表している。電撃戦による早期戦争終結の目論みが無くなった今、レサスはこれまで以上に多方面で苦戦を強いられそうだ。

南十字星のエンブレム・・・。
南半球のシンボルがレサスに敗北をもたらしたその日、そのことは大した話題にもならなかった。
連日ガイアスタワーで開かれる豪華な宴、今日もナバロがご自慢の空中要塞について語っている。それも暗記できる位聞かされているので、こっちは豪華な料理に専念できる。結構なことだ。
私はふと、窓から半月を見上げた。そこで気づいた、月の満ち欠けも北半球と反対になっていたのか、と。
周りからはワインを通ぶって喋っている記者仲間の声が聞こえてきた。だが、私はそこに興味深い話題を見つけた。私が今飲んでいるワインの値段だ。
その値段は一般的なレサス国民の年収の何倍以上にもなる。長い内戦でレサスは疲弊していたのではなかったのか?
そもそもレサスをめぐる資金の流れは不透明な部分が多かった。
この国に来てからこっちレサスの軍部に気を使わされてきたが・・・
「調べてみる価値があるかもしれないな」
それは単なる呟きでしかなかった。その時は・・・。

「・・・3,2,1,0」
プロデューサーのカウントの後、カメラが回るのと同時にJPBNEWSのロゴが表示される。
「こんばんは、JPBNEWSの時間です。まず初めに今日、長瀬総理がオーレリアレサス紛争に対しての声明を発表しました。なお、この声明にはレサスに対する激しい非難を示すとともに、窮地にあるオーレリア軍を支援するため、艦隊を派遣することなどが盛り込まれており、実質的に我が国が戦争に介入するということになります。総理官邸に中継が繋がっています。小林記者、聞こえますか?」
総理官邸前の映像に切り替わる。
「はい、聞こえます」
「現在の状況はどうですか?」
「声明を発表してから2時間になりますが、先ほどオーシア、ユークトバニア、オーレリアの大使が官邸内へ入って行きました。これからの対応について協議するものと思われます。また、日本の近隣諸国も日本の行動を支持するとの声明を発表しており、国際社会で大きな反発は無いと思われます。しかし、国内では野党が平和的解決を求める声明を出すなど、国内では今回の艦隊派遣について賛否両論のようです」
「分かりました、今のところは混乱は無い、ということですね?」
「はい、その通りです。今のところ目立った混乱はありません」
「分かりました。気をつけて取材を続けて下さい。では次のニュースです−」

スタンドキャニオンのとある洞窟。そこにオーレリアの極秘の技術開発基地はある。開戦から2週間たった現在でもレサスに発見されず、基地の戦力は減っていない。−そもそもオーレリアでもこの基地の存在を知っているのはごく僅かの人間のみであり、まず侵略されることはないので、割り当てられている戦力はほんの申し訳程度であるが。
そんな基地のハンガーに4羽の黒き鳥達は眠っている。彼女達こそ、この基地が存在する真の理由でもあった。
「全機各部に異常ありません。あとは実際に飛行するだけなのですが・・・」
「分かった。だが仕方ないだろう?開戦からこっち、ここのテストパイロットにまで実戦部隊に召集がかかった。お陰様で機体はあってもパイロットがいない。それに仮にいたとしても、システム上普通の人間には操作できない」
「そうですね・・・」
「そんなことより、被験者の候補ファイルは残っているか?」
「あ、はい。一応残ってはいますが、何人生きているか・・・」
「安心しろ、その選定に残るのは並々ならぬ猛者達だ。1人や2人は生き残っているさ」
そう言って彼は目の前の4羽の鳥達を仰ぐ。本当なら平和な空を飛ばしてやりたかったんだが・・・。どうもそれは無理らしい、ならばせめて今後彼女達がその主と共に生き残るために最高のことをしよう。そう心に誓い、彼は彼女達の主が1人でも生き残っていることを願った。


轟音がなり響く。
周りでは人が騒いでいる。そして自分は走っている。隣の誰かと一緒に。
轟音が近づいてくる。瞬間、隣にあった建物が崩れる。
人が何人も飲み込まれる。そして後ろからは、さっきとは違う軽い、軽快な音が聞こえる。人が倒れる音、悲鳴が入り混じって聞こえてくる。その音はだんだん近くなっていく。
また轟音が響く。
近くに巨大な土煙が上がる。

人が、ちぎれた肉体が上に舞っている。

そしてもう1回。また近くに土煙が上がる。態勢を崩し、倒れる。その後ろから勢いを増した軽快な音が聞こえる。ポップコーンが弾けるようなその音は軽い音とは裏腹に、人に恐怖の声を上げさせる。声にならない叫び。誰かが殺られた。しかし更に勢いを増して軽い音が響く。
一刻も早く逃げなければ―一緒にいた倒れている誰かを起こそうとする。
その瞬間、その誰かと目が合う。そして、青年は恐怖に陥る。起こそうとしたのは確かにその誰か。しかし、その誰かは赤く染め上げられていた。その顔に目が合う。それは彼に一言告げた。

ごめん―

声が響く、それは僅かな時間、一瞬だった。


「グハッ!」
アレックスはベッドから跳ね起きた。ハアハアと肩で息をする。背中を伝う汗が非常に心地悪い。
またあの夢か−しばらく見ていなかったのにな。耳ではまだあの声が聞こえてきそうだ。ああ気味悪い、もう別のこと考えよ。そう心で呟いて彼は今日のことを思い出す。確か今日は非番のはずだ、だがドレッドノート艦長からお呼びがかかっていたな。一体何なんだ?
そう考えながら着替えて部屋を出る。
既に彼の頭にさっきの夢は無くなっていた。





 2011/01/23:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
秋元 「耳から離れない声、妙に生々しい夢。嫌ですな」
アリス 「……妙に現実感があったり」
「感触すらあったり」

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