ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜
第六章




<ゴーストよりアザレア・コントロール、駄目です。見つかりません>
<そうか、君たちをもってしても見つからないとなるともうここには居ないと考えたほうがよさそうだな。
それならそれで都合がいい。>
<それでは、帰還しますか?>
<いや、君たちが出たついでだ、その島も結局奪還目標であることには変わらないからな。
もう少し敵情を探ってきてもらえないか?>
<了解しました。>
<悪いな。>

緑の戦闘偵察機はぐっと高度を上げ、島の内陸部に侵入していった。
それに気づいていたのは高緯度地域ならではの沈まぬ太陽だけであった。



寒空の中を2カ国の航空隊によって構成された編隊が飛んでゆく。
僕たちの眼下には、新顔のオーレリア機がちらほら姿を見せていた。

そのなかで一段と浮きだって居るのは、
3日前合流したオーレリア第二艦隊旗艦空母「カラナ」のアグレッサー部隊、フォーカス隊だった。
彼らは航空際のアクロバット飛行を専門を手がけているので、その道の人間には結構名の知れた部隊でもあった。
6機の構成機は全てラファールM。つや消しの黒に赤と青のV字ラインが印象的だ。

<<こちらクラックス、フォーカス隊の皆さんはじめまして。今回の作戦管制をいたします、ユジーン・ソラーノ准尉です>>
<<・・・あ、おう。こちらはフォーカス1、リョウスケ・エブナー中尉だ。・・・うーんやっぱBRSかなぁ・・・>>

海風に当てられてガラガラ声が多い海軍兵にしては珍しく、張りのある通った声だ。
そういえば聞いたことある。
この人は極度のカラオケ好きで、軍港祭で熱唱したり、艦の自室にカラオケセットがあったりとか。
ただ、本人曰く「空軍のミチシ隊の一番機に勝てる気がしない」らしい。

まぁいい。なんにせよ重要な作戦前に無駄なことを考えている余裕はない。
時間もそろそろだ。作戦説明をしなければ。

<<クラックスより各機、これより作戦説明をします>>



最近、かつての相棒が思い起こされて胸が痛くなる。
アサトは何かを知っている風だったから余計気になる。
俺の唯一にして最高の相棒。孤独だったあのときの俺に居場所をくれたのもあいつだったな。
だが最終的に俺は逃げ出した。あいつを残して、独りで。
俺はアサトの言うような英雄でもなんでもない。
困難から逃げた、自堕落で駄目な人間だ。
おまけに自分の部下すら助けてやることもできなかった。

・・・そろそろ潮時かもしれん。


<<クラックスよりグリフィス1、隊長、どうかしましたか?>>
<<ん・・・?ああ、続けてくれ>>
<<珍しいですね。隊長が喋るなんて>>
<<・・・・・・>>
<<では、作戦説明を続けます>>

<<このターミナス島には油田が存在し、作戦拠点としても重要ですが、ここにはグレイプニルの整備施設もあります。
  そこに我がオーレリアの科学者が捕まっているという情報が入っています。
  彼はグレイプニルについて何らかの情報を持っているらしく、今後作戦を展開する上で重要な鍵を握っている可能性があります。何より彼はこの国の民間人ですので、必ず救出する必要があります。
  また、彼の救出任務に第二艦隊の潜水艦「ナイアッド」がつきました。

  そこで今作戦ですが、私達はナイアッドを敵の目から隠すための陽動作戦を行います。
  私達はこれより70km先で待機している巡洋艦「タラッサ」及び第四水雷戦隊と合流し島の反対側の軍港に攻撃を掛けます。作戦内容は以上です。まもなく作戦空域ですので注意してください。>>

クラックス機が躑躅のJE-1とともに離脱してゆく。さぁお仕事だ。



愛機の甲高い咆哮がヘルメット越しに伝わってくる。目に映るのはアナログな計器とHUD。そしてHUDの先にオーレリア100景に選ばれている景色が見えてくる。―これが通常のフライトであれば、コクピットに座る彼の顔に笑顔があったに違いない。しかし戦時に通常なフライトなどありはしない。今回も例外では無い。
数時間前、ドレッドノート少将にレイニー隊は呼び出され、そこで今回のミッションを伝えられた。その内容は、スタンドキャニオンにいる友軍部隊を支援し、そのついでにそこのレサス基地を壊滅させてこい、というものだった。しかしこれだけならわざわざ彼らが呼ばれた理由ではない。何故呼ばれたのか?答えは至って簡単。そこは“グレイプニルの巡航ミサイルの射程圏内”であったのだ。オーレリアを開戦から僅か10日で壊滅に陥れたあのミサイルが頭上で炸裂している状態で飛ばなければならない。更に言うと、ミサイルは一定の高度以下であればダメージは入らないことがグリフィス隊の損傷から判明している。なので、峡谷内で高度を下げれば問題無く作戦は遂行できる。ただ、グリフィス隊と日本艦隊はグレイプニルが居座っていると思われるターミナス島に向かうため、そのような無茶な作戦が出来る隊が彼等しかいなかったのだ。
未だに作戦を説明している少将の顔が浮かぶ。何か部下が驚いているのを楽しげに見ているような目だったな。もしや閣下はSなのか?しかもドが付くほどの。そうこう考えている内に作戦空域に近づく。
「間もなく作戦空域に入る。各機増槽を投機。戦闘態勢に移行せよ」
「レイニー隊了解。戦闘態勢に移行する」
スターアイの指示が入り、各機増槽投機。身軽になった状態で戦闘空域へはいる。
「こちらディビス隊!救援に来てくれたのか!」
「ああ。今レイニー隊がそっちに急行している。こき使ってくれ」
「よし分かった。扱いは海兵達と一緒でいいな?」
「もちろんだ」
「おいおい、何いってんだよ!チクショーこのクソ野郎!覚えとけ!今度お前のとこに全部ツケてやるからな」
「おしゃべりはそこまでだ。さっさと片付けてスターアイのお高いお給料で乾杯するぞ」
軽口を叩きあいながら飛行していると峡谷が近づいてくる。高度を800フィートで侵入。とりあえず近くにいたロケット車両にガンを浴びせる。たった一瞬トリガーを引いただけで車両はスクラップへと早変わり。そんなものは無視して峡谷を更に進む。
「レイニーリーダーより全機。自由戦闘を開始しろ。ただ地面にキスだけはするなよ。したかったら基地に帰ってからしろ」
「了解」
やる気のある声と無い声が聞こえると、後ろでトライアングルを組んでいた3機が一斉に散開。それぞれ好きな目標を狩りに飛んで行った。

「お、おい!友軍だ!友軍が支援にきたぞ!」
「よっしゃ!これならいけるぜ!おめぇらあそこのアホに一発かましてやれ!」
友軍の到着に海兵達は沸いていた。今までの絶望的な空気はどこへやら。すっかりと元のテンションに戻った海兵達は数で圧倒するレサスを凌ぐ勢いになっていた。
もちろんディビスも例外ではない。
「3時方向より敵戦車!」
「戦車ぁ?おい、ジャベリン持ってこい!さっさとあのオカラ野郎に打ちこめ!」
「Sir!yes,sir!」
部下がジャベリンを担いでくる。そしてロックオン。打ち出された対戦車ミサイルは一定の距離を進み、上昇。戦車にトップアタックを仕掛ける。
数秒後、坂の下から凄まじい爆音が響く。どうやら先頭車両が爆破したらしく、道をふさいでしまった。これで後続の車両は当分は大丈夫。しかし人間はそんなことお構いなしに坂を駆け上がり陣地に突っ込んでくる。
ディビスは長年の相棒、M4のダットサイトに敵を捉えるとすぐさま発砲、頭から血を噴き出して敵は倒れる。しかし、1人倒したところで何も変わらない。敵はまるで波のように押し寄せてくる。新兵達なら恐怖のあまりにただ撃ちまくるだけだっただろう。しかしここにいるのは海兵隊。そんのそこらの軟弱特殊部隊何かより恐ろしい部隊。射撃技術もかなりのもの。数回に分けてトリガーを引き、無駄球を使わずに確実に仕留めていく。少し離れた場所では、MINIMIを持った数人がこれでもか!と言わんばかりのバースト射撃を行っている。お陰で未だに防衛ラインは破られていない。
「ヒイィィィィィィィィィィィィハァァァァァァァァァァァァァァァ!」
海兵達は狂ったような雄たけびを上げながら発砲していく。だがその音も上からの音にはまだ小さい。
「敵のヘリだ!」
誰かが叫ぶ。頭上にはMi-17“ヒップ”。海兵達から少し離れた場所に兵員を降下させる。さらにミニガンが地上を舐めまわす。
「おい!ウエスト!あいつにスティンガーをブチ込め!」
「了か−」
返事をしようとした部下がミニガンの餌食になった。
「ああぁ!ウエストが殺られた!」
「ジャクソン!お前が代りにやれ!」
「って俺っすかぁ!」
代りの部下がスディンガーを担いでロックオン。そして発射。白煙は正確にヘリの横っ腹に吸い込まれていく。直後爆音が響き、1機のヘリが墜落する。だがまだ3機残っている。
「隊長!スティンガーが切れました!」
「んだと!?ッチ!おい!マシンガン持ってる奴はヘリを狙え!残りはサポートだ!」
MINIMIを持った兵は一斉に上空のヘリに向かって射撃を開始する。しかし所詮は短機関銃。そんなもので落とせる訳がない。さらに水平射撃ではなく上部へ発砲しているため、弾は重力に引かれ、威力が減衰してしまう。
「クソッ!こんなんじゃいつまでたっても落とせねぇぞ!」
「喋ってる暇があるなら撃て!」
このままじゃヤバイ・・・。海兵達にそんな予感がよぎる。
だが突然ヘリが火を噴いた。それも1機ではなく全て。一体なんだ?−海兵達が上を見上げると1機のファルクラムが上空をフライパスしていった。

「ありがとよ!おかげでなんとか生き残れた!後で奢ってやるからな!」
窮地を救われた陸戦部隊から感謝の通信が入る。とりあえず上空の輸送ヘリは落としたが、まだ危機を脱した訳ではない。さっきまで足止めされていた戦車隊が遂に侵攻を開始したのだ。
「奢るのはいいが気をつけろ!戦車が上がってくるぞ!」
「分かった。だが今俺らには対戦車装備がねぇんだ。お前さんの爆弾で何とかしてくれ!」
おいおい嘘だろ!?だが注文されたのだから仕方がない。一回ループし、高度を稼ぐ。そして兵装をUBAMへ、レティクルが表示され、目標指示ボックスがその中に入るように微調整。そして急降下しながら予測位置に爆弾投下。地面スレスレで機首を上げ地面とのファーストキスと回避。そして渓谷の中へと戻って行く。その後ろでは、派手な黒煙が昇っている。
「こいつら正気か!?なんでこんな速度で峡谷内を飛べるんだ!?」
「まさか・・・こいつらがパターソンを落とした連中なのか!?」
否応なく耳に敵の通信が入ってくる。その言葉には苦笑いしか出ない。確かにこんなところで戦闘機動するのは正気の沙汰ではない。本音を言えば岩肌がスレスレでチビリそうなのだが、一応隊長なのでそんなことはしない。だが部下達はー
「うひゃあ!のぉぉぉぉ!」
「えぁぁぁぁ!危なかったぁ」
「ってここで弾幕張るのかよ!?だが右側が甘い!そんなおバカな連中はこれでも食らってろ!」
いろいろとカオスなことになっていた。マトモな反応を期待したアレックスの完敗である。そもそもこのオーレリア海軍にマトモな人間なぞいないのである。ドレッドノート少将然り、レイニー隊然りである。
だがそんな彼にも1つ気になることがあった。
「レイニーリーダーよりスターアイ。グレイプニルは来ないのか?作戦開始からずっと警告がないが?」
「その通りだ。どうやらグレイプニルはサンタエルバに引き返した様だ。ターミナスを攻撃中の部隊から“グレイプニル発見デキズ”と通信が入っている」
「分かった。引き続き近接航空支援を行う」
グレイプニルが来ないのか、それはありがたいが何か引っかかるんだよな。陸上戦力は海兵達で何とかできる程度に下がっている。でもこんな戦力の浪費をレサスはするのか?そう思っていた矢先。スターアイから通信が入る。
「各機に通達!方位140より敵航空部隊!すぐさま撃墜されたし」
やっぱりまだ終わっていなかった−
レイニー隊はフォーメーションに戻りドッグファイトに備える。戦闘機はいいが攻撃機に突破されると非常に厄介だ、何としても全機撃墜せねば。

日が暮れ始めた巨大渓谷は、茶色い岩肌がオレンジに染まっていく。そして、日が当らない場所で、影も濃くなっていった。



戦闘開始から十数分経った。
レーダーにすでに敵影はない。
途中敵の対潜哨戒機ニムロッドが出張ってきて冷や汗をかいたが、何とか撃退して現在に至る。
ナイアッドは島の正面付近に接岸し、海兵隊がこの国の科学者の救出に向かった
味方機は一度空域から全機離脱し、ナイアッドからの報告を待っている。
無線は未だ待機を表すレッドランプが点灯している。
海兵隊の突入からそろそろ5分が経過しようとしていた
汗が一筋頬を伝った。
不意にランプの光が緑に変わる。
突然のことで驚いたが、ここは冷静に行かなきゃいけない。
震える手を押さえて僕はヘッドセットのスイッチを入れた。
<<はい、こちらクラックス>>
<<こちらナイアッド。やったぞ!科学者の救出に成功した!これより帰還する!急速潜行!!>>
港湾部分に表示されていた味方艦船を表す輝点が徐々に薄くなってゆく。ナイアッドが潜行を開始したのだ。

同時に繋がっていた別の無線からワッと喝采が起こるのが聞こえた。
僕も同じく叫びたい気持ちで一杯だったが、ここは我慢しなければ。
声も手もまだ震えが収まっていないが、無線に手を掛ける。息を一杯に吸い込んだ。
<<クラックスより各機、作戦は成功です。全機帰k――>>

突如おこった腹に響くズズゥンという音が僕の言葉を途切れさせた。
<<一体どうした!?こちらスペード1!ナイアッド、現状を報告せよ!>>
<<こちらナイアッド、どうやら機雷に接触したようだ!注排水弁と舵をやられた!浮上させる!!>>
「機長!管制機では私たちが一番近いです!すぐに向かいましょう!」
「ラジャ、しっかりつかまってろよ!」
僕たちを乗せたE-2Cは機体を大きくバンクさせ、現場に急行した。

<<クラックスよりナイアッド、どうですか?>>
現場に到着したとき、海原に浮かぶ潜ることを忘れた鉄の鯨は黙々とひたすらに真っ直ぐ進んでいた。
<<こちらナイアッド、駄目だ。ベントは故障、舵も言うことを聞かん。おまけにスロットルが戻らん>>
<<そのまま全速で直進してください。防空駆逐艦隊がそちらに向かっています>>
<<無理だ!このままじゃあの氷山にぶつかっちまう!>>
<<そいつは心配いらねぇ。こちらフォーカス1、あの氷山は俺らがなんとかする>>
<我々アサルトキャッツも加勢しよう>
レーダーに12個の輝点が映し出され、それらは同じレーダー上に映し出された白い塊に向かってゆく。
まず先行したフォーカス隊が彼らの一番の得物、スタンド・オフ・ディスペンサーを放った。
放たれた12本のSODは一直線に氷山へと向かってゆく。
やがて氷山の真上に達したそれらは、腹の中に抱えた小型爆弾を大量にぶちまけた。
小刻みな破裂音の後、巨大な氷塊は中央部分から真っ二つになり、鋼鉄の鯨を通す道を作りだした。
<<しゃあ!!やったぞ!フォーカス1よりフォーカス各機!今日は部屋でカラオケパーティだ!!>>
<<こちらナイアッド!グッジョブ!フォーカス隊!!助かった!>>
<今回も出番は無いみたいだな、レオナ>
<あぃ〜残念ですぅ〜>

<<こちらナイアッド!脱出ラインに到達した!航空支援感謝する!>>

<<了解。こちらクラックス、今度こそ作戦成功です。全機帰投してください>>
今日も僕の長い一日が終わろうとしていた。はずだった・・・
<<フォーカス1よりクラックス、ユジーン、今日はうちの空母に泊まってけよ。まぁ寝かせるつもりはないがな>>

僕の長い一日はまだ続きそうだった――。



俺は今回の戦いも生き残った。
今までもずっとこうしてきた。
味方が蝿のように撃墜されていっても、戦いの後に俺は必ず戻ってきていた。
それ故俺は空っぽな存在だ。
守るべきものも、祖国も、みんな失くして今この空にいる。
そんな俺に飛ぶ理由なんて見つけられるはずも無い。
開きっぱなしの無線から友軍の歓声が聞こえてくる。

大切な人・・・か。
そんなものがあったら、俺はこの空を飛ぶ理由を見つけられるのかもしれないな。





 2011/01/23:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
秋元 「友軍機がやってきた! それだけで地上部隊は歓喜もの」
アリス 「……私達はその場に留まれないので、支援時間には限度がありますが」
「そこはネックよね」

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