ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜 第七章 |
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「敵射程に入ります!」 「よーし。各車両目ん玉ひん剥いて狙え」 「Sir!yes,sir!」 通信機にその声が入ると同時に6台のエイブラムスの砲塔が動き出し、指定された位置で停止する。 「撃てぇ!」 そう叫ぶと同時に視界がマズルフラッシュで白く染まり、ヘッドフォンをしているはずの耳から爆音が轟く。120mm滑腔砲から放たれたAPFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は敵のT-72に突き刺さり、貫通。あるものはそのまま、あるものは機関室に誘爆し、あるものは弾薬庫が爆破され、いずれも戦闘続行は不可能になった。 だが数で圧倒する敵は未だ進撃を止めない。−いいだろう。そんなにユージア紛争を再現させたいのなら、喜んで再現してやろう。 「各車次弾もAPFSDS!ロートル共に引導を渡してやれ!」 次弾装填し、射角を調整。轟音が鳴り響き、再び車体がマズルフラッシュに包まれ、独特の形をした砲弾がT-72の装甲を突き抜ける。ユーク生まれの古兵達は1機残らず引導を渡された。しかしまだ歩兵が残っている。戦車の敵ではないが対戦車ミサイルを持っていられると厄介だ。さっさとお掃除をしなければ。そんな時はこれで解決。 「うらぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 車体上部に取り付けられているM2重機関銃のうなり声に負けない大声で男は叫ぶ。狙いなど付けなくても撃てば当たる。しかも僚機の支援と随伴している歩兵達からの支援で最早弾幕と化した機銃弾をかわせる者がいるのか否か。気づけば弾幕の向こうでは阿鼻叫喚の地獄絵になっていた。 スタンドキャニオン上空では、幾つもの軌跡が交錯し、橙の空に白い雲で絵を描いている。地上から見上げるとそれは芸術の様に見える。ただ、それを描いている本人達はそう思っていない。生か死か、いずれかしか存在しない戦場の空。そんな中で誰1人としてその軌跡を芸術と呼ばないだろう。そして、空に幾つもの火球が浮かび上がる。 「おい!後ろに付かれてるぞ!」 「分かってる!畜生!こいつ、ふりきれねぇ!」 目の前のF-16の叫びが聞こえてくる。幾度の過激な機動で体に相当な負荷がかかったらしく、最初の鋭い切れが無くなってきている。そのせいか、今まで不規則だったジンクが規則的になってしまっている。左、右、左・・・何度かチャンスを伺い、4回目に右に来た瞬間、フライトスティクのトリガーを引く。吐き出された機銃弾はエンジン部分に直撃。そしてF-16は火球となって空を照らす。 「なんなんだこいつら!あの星の奴以外にもこんなのがいるなんて!」 「落ち着け!数ならこっちが上なんだぞ!」 「スパロー4!下に敵機!」 「え?どこですか?う、うわぁぁぁ!」 「おい!スパロー4!おい聞こえてんのか!」 「くそ!あの雲のマークの野郎!」 やっぱり俺らも解放戦に参戦すればよかったかなぁ。そうすれば何か2つ名でよばれたかもな。ぼやき、嘆いているのはアレックス。パイロットにとって2つ名とはまさしく自分がエースであることの証明である。彼も撃墜数ならエースの仲間入りをしているが、如何せん敵に与えるインパクトが少なかったようだ。確かに言われてはいるが「雲の野郎」では確かに悲しい。だがそうは言っても今日もしっかりと2機撃墜。ただ、機銃、ミサイル共に残弾0。戦闘の続行は不可能になったが、敵は攻撃機のみなので3,4番機に任せておいて大丈夫だろう。あ〜早く片付けてくれないかな? 無線は敵の叫びしか聞こえてこない。―あまり心地のいいものじゃないな。さっさとおわらせるか。マッケンジーはそう呟き、目の前の敵のケツをとる。心地よい音がスピーカーから聞こえる。それを確認し、真後ろからミサイルを打ち込む。 「レイニー3。FOX-2!」 ファルクラムから切り離されたR-73は一目散に獲物であるA-10を目指す。敵は必至に回避行動をとるが、所詮はA-10。回避できる訳もなく、エンジンに直撃を食らった。更に運が悪いことに、エンジンの爆発した破片が搭載していた爆弾に刺さり、爆発。いくら頑丈な装甲を持つA-10であろうとも、大型爆弾の威力には耐えられない。パイロットが脱出する暇も与えずに機体は消滅した。 「レイニー3。スプラッシュ2」 そう撃墜報告を行い、周辺の索敵を行う。どうやらレイニー4もミラージュを撃墜し、敵攻撃機部隊は壊滅。隊長達も既に護衛機を片付けた様だ。これで完全に作戦は完了。あとはスターアイの奢りで80年物のワインを2,3本あけるだけ。 「レイニーリーダーから各機。ジョイントアップ、RTB」 「ツー」 「スリー」 「フォー」 隊長からの空中集合命令がかかって、帰路へ付く。ダイヤモンドフォーメーションを組んで陸上部隊の上空をフライパス。無線には友軍の歓声が鳴り響いている。未だ戦闘は続いているがそれは撤退しない意地の悪い連中を攻撃しているだけ。そんな部隊に近接航空支援はしなくても、友軍が片付けてくれる。−ん?敵が上空を指差している?一体何を? その答えはすぐに分かった。一本の白煙が空に向かって真っすぐに伸びていく。−これはSAMだ! 「ア、 アラート!?畜生!何処から!」 「隊長!下からきます!」 下?てことは携帯SAMか! フライトスティックを限界まで引き寄せ、リミッター解除。空にそれまでより小さいエッジを描きながら飛ぶ。どれくらい飛んだだろう?もう振り切っただろうか?― そして大きな衝撃が背中を襲った。 「ぬぉっ!」 「隊長っ!」 「隊長!聞こえてるんなら返事してくださいよ!」 「おい!レイニーリーダー!応答しろ!死んだら酒も奢れないぞ!」 「バカ!何やってんだ!その機じゃもたねぇ!ペイルアウトしろ!」 ミヒャエルの指摘した通りだ、エンジン部に直撃しなかっただけよかったが、右翼をもって行かれてしまった。さらにエアインテークにもダメージが入り、エンジンがいつ爆発するか分からない。早くペイルアウトをしないと− 「早くしろ!パイロットが帰還すれば大勝利って言葉があるだろ!」 「分かってる!陸の皆さんや、回収よろしくたのむぜ!レイニー1イジェークト!」 イジェクションレバーを引き、座席ごと大空へ打ち出される。愛機は自分の主が脱出したのを確認するように、彼が脱出してもしばらく飛行し続けた。−じゃあな、相棒。今までありがとよ。爆散した愛機を見つめ、アレックスは心で呟いた。 何とか無事に着陸は成功した。怪我もない。とりあえずこの重いパラシュートをはずす。そして護身用のUSP.45と予備マガジンがあることを確認。それと緊急セットもしっかりとある。これで大丈夫なはずだ。あとは隠れる場所を探せば完璧だ。なんせ未だに抵抗している部隊があるから、そんな部隊に見つかってしまうと大変なのだ。 歩き回っていると、ちょうどいい大きさの洞窟があった。とりあえず今晩はここで過ごそう。そう決めて壁に寄り掛かると自然の物とは違う、無機質な冷たい感覚がした。びっくりして振り向くと、そこには扉があった。―奇妙なことに、そのドアにはオーレリアの国旗が描かれてあった。もしかしたら友軍がいるかもしれない。その淡い希望に動かされ、ドアノブを引く。少し抵抗があったが、すんなりと開いた。何があるか分からないので、銃を構えながら進んでいく。そして、彼は忘れ去られた基地へ足を踏み入れた。 アレックスが基地に侵入してから少したった時。 1人の男が、ハンガーに駐機してある機体を眺めていた。彼の名はシャハトといい、とある研究においてオーレリアを代表する1人である。そんな彼に彼の部下が慌ただしく駆けてくる。 「中佐!侵入者を確保しました!」 「侵入者?レサスか?」 「いえ、オーレリアのパイロットです。D-2区画のハッチが開いていたのでそこから侵入したのでしょう」 部下の報告を聞いていたシャハトは1つの単語に反応した。 「本当にパイロットなのか?」 「間違いありません。フライトジャケットにはオーレリア海軍航空隊のパッチが縫ってありますし」 多分その侵入者は本物のパイロットだろう。もしかしたら、あれの被験者であるかもしれない。 「すまないが彼と面会してみたい。部屋へ案内してくれないかな?あと、オリヴァー中尉にも来るように言っておいてくれ」 「承知しました」 そう言うと部下は走り出していく。 シャハトはそれを見送ると、再び機体を眺める。 「もしかしたら、お前達の主かもしれないな」 そう語る彼の言葉には、やはり哀愁が漂っていた。 秘密基地的なところに侵入したのはいいが、すぐにアラートを鳴らされてしまい拘束されてしまった。やっぱり潜入には段ボール(ミカン)が必須だったな、生身は危険すぎる。拘束された俺が言うから間違いない。みんなも友人宅に潜入するときは段ボールを持っていこう。これで見つからないぞ!−と、読者の方々に対して私のルートの主人公がぼやいておりますが、無視してやって下さい。いくらあなたがBIGBOOSの称号があっても不法侵入で通報されます。 天の声にこなくそ言われたアレックスは今、オーレリア軍スタンドキャニオン技術研究基地の拘置所に置かれている。部隊章などで確認をしてもらい、オーレリアに軍籍があることは確認してもらったが、この基地には客を泊める部屋が無いという理由で拘置所に置かれているのだ。―しかし、自分に翼が無いことがここまできついとは思わなかった。やはり自分が飛行機に乗るために軍に入ったからなのだろうか?それとも戦線に戻れない歯がゆさか。たった1日程しかたっていないのに、言いようのない無力感が漂っている。まるであの頃のような絶望だ。自分が戦闘機乗りを目指したあの頃抱えていたような。 一人考え込んでいると、看守が寄ってきて鍵を開けた。 「中尉。シャハト中佐が面会を希望しておられます。こちらへ」 そう言うと、中年の軍曹はアレックスを面会室に案内し始めた。 「にしても・・・本当に被験者が生き残っているとはな」 「そうですね、奇跡としか言えません。しかもただの被験者ではなく、第1候補者であった点も本当に奇跡としか言いようがありません」 部下であるオリヴァー中尉と話していると、不意にドアをノックする音が聞こえた。 「アレックス中尉をお連れいたしました」 「わかった。通してくれ」 中年の軍曹はドアを開け、アレックスが部屋に入ったことを確認すると、ゆっくりとドアを閉めた。 「オーレリア海軍第一艦隊所属、第2航空隊隊長のアレックス・ヴォーラ中尉です」 海軍式の敬礼を施し、目の前の将校に自己紹介を行う。 「私はここで研究を行っているシャハト少佐だ。こっちは部下で副官のオリヴァー中尉だ」 「オリヴァーです。よろしくお願いします」 一応双方の自己紹介が終わり、話が始まる。 「さて中尉、なぜ君がここに呼ばれたのか説明をしなければならないね。簡単に言うと、君にテストパイロットをやってほしいんだ」 少佐の説明をオリヴァー中尉が引き継ぐ。 「わが軍は日本と共同研究しているプロジェクトの一環として、新システムを搭載した戦闘機を開発しました。しかし、システムの構造上、誰でも使えるものではなく、限られた一部の人間しか使用ができません。その人達は開戦までこの基地にいたのですが、本部から臨時召集がかかってしまい、パイロットが1人もいなくなってしまったのです」 「オリヴァー君の言っている通りだ。機体は完成していても、飛ばせばければ意味が無い。そこで、君に白羽の矢が立ったという訳だ」 なんだか訳が分からない。話を聞いていると新しい戦闘機のテストパイロットをやってくれという話だが、問題はそこでは無い。問題はそのシステムは常人には使えないという点だ。何の説明と根拠も無しにそんなことはできない。 「あの〜話を聞いているとそれは一般人には使えない代物だそうですが、自分が使用できるのですか?」 「それは問題無い。君が拘束された時、君がパイロットと言うことだったので調べてみたんだ。そうしたら案の定君が候補者だったと言う訳さ」 簡単に言ってくれても困るのだが。どうやら自分がその物騒なものの候補者だったらしい。 だが、今の自分には翼がない。パイロットにとって翼が無いとは存在意義が無いに等しい。そんな中で実験機とはいえど、翼は喉から手が出るほどにほしいものだ。この研究員達も多分信用できる人間だろう。そして彼は言ってしまう。 「分かりました。やってみます」 満面の笑みを浮かべた少佐は、早速彼に指示を出す。 「ではレクチャーに入るからハンガーへ来てくれ。君も早く戦線に戻りたいだろう?」 読まれていたか、さすがは技術士官。でもこれで自分はまた空へ戻れる。それがたまらなく嬉しかった。 そして、これが全ての始まりだった ところ変わってパターソンの洋上。ここには複数の艦船が投錨していた。 数時間前、パターソンの司令部に緊急の通信が入ってきた。 「多数ノ敵来襲セリ、高速道路ヲ使用シ、パターソン方面ヘ進撃中」 これはキングスヒルで監視に就いていた部隊が最後に送った通信だった。 軽装甲車のみの部隊では機甲師団を食い止めることなど無理だった。本部に報告をした直後に部隊は壊滅した。しかし、この僅かな時間は艦隊を港から出航させ、陸に部隊を展開し、市民を退避させるのには十分な時間であった。もし、報告が遅れていたら袋叩きにあっていたに違いない。 だがまた重要拠点を奪取されてしまった。やろうと思えばその場で交戦することもできただろう。しかし、これ以上いたずらに戦力を浪費したくはなかった。だから空母をはじめとした艦隊は洋上へ避難しているのだ。 夜も更けた空母の飛行甲板の端で、一人の男が星を眺めていた。空の星達は、夏の訪れを待たんばかりに光輝いている。月も今日は夜空の主役ではなく、ひっそりと光る1つの灯りとなっている。 あいつは無事にこの空を眺めているだろうか? そう撃墜された隊長のことを思う。あいつのことだ、どうせまたのらりくらりと帰ってくるに違いない。なんせ海軍学校からそうだったからな。 ふと、ミヒャエルはアレックスと過ごした学校生活を思い出していた。何もかもが自分と違がっていた。だからこそ仲良くなれたのかも知れない。まだ交友歴は幼馴染たちより少ないが、今はっきりとあいつは俺の親友だと言えるただ1人の男だ。 しかし、あの時そんな奴を助けることが出来なかった。自分は何もできなかった。確かにあれは不可抗力だったかもしれない。全てあいつの責任だった。 ―だが、あの時自分は助言出来なかったのか?ペイルアウト以外の最善策を教えられなかったのか?―どうしても自分を責めてしまう。らしくないなとは思う。だが、そうしないと自分が壊れそうなのだ。人として大切な何かを無くしそうなのだ。それが怖かった。それに、あの記憶がまた蘇りそうで、怖かったのだ。 友人の無事を祈りつつ、ミヒャエルは満天の星空を眺めていた。 目の前には漆黒の機体が駐機してある。その中の1機のコクピット内にアレックスはいた。快諾から数時間でこの機体の操作を徹底的に教え込まれていた。確かにテスト前の1夜漬けはかなり得意だったが、百科事典数冊並みのマニュアルを手渡されて、すぐにそれを見ながら覚えろ、と言われて覚えるのはさすがに無理がある。 「よし、休憩にしましょう」 オリヴァー中尉がそう言うとキャノピーが開き、黒いパイロットスーツを着た男が身を乗り出す。 「あ〜疲れた!なんでこんなに暑いんだよ!室内だろ?ここ」 「仕方ないですよ。エアコン壊れてるんですから」 「てか技術者だろ?それくらい直せよ〜」 「部品がありませんて」 とりあえず床に降りてベンチに座る。キンキンに冷えたスポーツドリンクをあおるように飲むと、乾いた体に潤いで満ちてくる感じがする。 「上出来ですよ。さすがは実戦を経験しただけあります。今まで以上のデータが取れてます」 嬉しそうにオリヴァーが話しかけてくる。研究者としての血が騒いでいるのだろう。それはアレックスにも理解できないことはないが、多少テンションが高くないだろうか? 「そういえば、この機体の名称ってあるのか?」 このまま喋らせておくと面倒なので適当な質問をする。 「型番としてATD-Xが与えられていますが、フランカーやイーグルと言った名称は特にありません。よかったらこの機に名前を付けてやって下さい。正式名称は別に付くとはおもいますが、それまで名前が無いのはかわいそうですし」 「分かったけど、う〜んそうだなぁ〜」 彼の持てる知識を総動員して機体の名前を考える。あれこれ考えること約5分。やっと決まった。 「フリージアなんてどうよ?」 「完全に響きだけでいきましたね」 「いや、いーじゃん。もしコイツが女だったら絶対喜ぶって」 「この機が女の子とは限りませんよ?」 「いやいーの。俺の機体だからな。よし!決まり!」 早速アレックスは新たな相棒に駆けよって語りかける。 「これからよろしくな。フリージア」 このときアレックスは不思議な視線を感じていたが無視していた。 それがどういう意味なのかを理解していなかったからであろう――。 |
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2011/01/23:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
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