ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜 第八章 |
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洋上に吹き付けるのは暑い潮風。空からは太陽が飛行甲板を焼いている。そこには数多の戦闘機も並べられ、発艦を待っている。 梯子を登り、愛機のコクピットへ、ハーネスを締めていると、専属の整備員が今回の兵装の確認と、整備チェックシートを持って梯子から身を乗り出してサインを求めてくる。 「はいよ。今回は制空権の確保だから、空対空ミサイルをフルで積んでおいた。空対地も積めるがどうする?」 チェックシートにざっと目を通し、異常が無いか確認し、サインを入れる。 「いや〜今回はいいだろ。対地攻撃は日本がやるんだろ?だったら制空権の確保に重点を置かないとな」 シートを返しながら答える。 「はいよ、確かに受け取ったぞ。それにしてもお前さんまだ気にしてんのか?あの件はお前は悪くないだろう。そこまで思いつめないでもいいじゃないか」 「うるせぇな。そんなことどうでもいいだろ。ほら、次俺らだから早く降りろよ」 やれやれ、と呟きながら整備長は降りて梯子をはずす。ったく、何でみんなして心配すんだよ。大きなお世話だぜ。 キャノピーが閉まり、コクピットは完全な密室と化す。誘動員の指示に従い、カタパルトへ機体を運ぶ。 「レイニーフライト、クリアフォーテイクオフ」 「ラジャー。レイニーフライト、クリアフォーテイクオフ」 「スリー」 発艦態勢に移行し、カタパルト近辺から白い蒸気が上がり始める。カタパルト要員は安全位置に退避。進路上には何もない。 「レイニーフライト、テイクオフ」 「スリー」 マッケンジーからの返答を聞き、スロットルを操作。発艦する。 上空で旋回し、4番機の合流を待つ。数分後、無事合流し、編隊を組む。友軍部隊と合流し、進路をパターソンへ向ける− 数回使用されたとはいえ、新品同然のコクピットには心が躍る。しかし、長く使い込まれてきたというものを感じないのも少し寂しい。 「中尉、離陸準備はできたかな?」 「はい、完了です。いつでもいけますよ」 「了解した。では1番滑走路への進入を許可する」 中佐が言うと、突然目の前の壁が開き始め、奥に滑走路らしきものが続いている。さすがは秘密基地と言ったところか。 機体を移動させ、離陸開始の合図を待つ。この基地では、滑走路脇の信号の様なものが指示を出すことになっている。そして、1つずつ黄色いシグナルが点灯し始める。 フルライティング、ブルーシグナル。 瞬間、スロットルレバーを思いっきり倒し、離陸滑走を開始する。 爆発的な加速力を得たATD-Xは、久しぶりにオーレリアの空へ舞い上がる。 どっ、とシートにアレックスは押しつけられ、ハーネスが食い込む。 なんて加速力だよこいつは・・・。今まで乗ってきたファルクラムとは出力差が半端じゃないな。 「中尉。最初の試験だが、好きに飛んでくれて構わない。その機体の特徴をしっかりとつかんでくれ」 「了解」 一言だけ答え、フライトスティックをいじってみる。 とりあえず、スティックを斜め右下に倒し、バレルロールを行う。倒した瞬間、機敏な動きで機体はバレルロールに入る。それこそ彼が今まで乗ってきたファルクラムとは比べ物にならない物であった。 その後もいくらかの機動を試してみる。 そして、アレックスは思わず新型機の性能に感動を覚えた。今まで以上に素直に機体が反応し、キレのある動きをして見せる。そうかと思えば新型のラムジェットエンジンは、小さめのこの機体に合わないような大出力を誇り、圧倒的な速さを生み出している。 繊細さと大胆さを併せ持つこの機体は、基本設計が日本であると聞いている。さすがはWWUにおいて世界最強の戦闘機を生み出した国だ、戦闘機産業から数十年隔離されていても現行機と遜色ない機体を生み出している。 この極上の快感は病みつきになりそうだ。 アレックスが新型の性能に快感を覚えている頃、洋上では群れを成した戦闘機達が隊列を組み、パターソンを目指していた。 もちろん、レイニー隊もその一部である。 戦闘機の大編隊なんてどれくらい見ていなかっただろう?とりあえずは戦争が始まってからは初めてだ。思えば自分が参加する作戦でこんなことは無かった。あるとすればDACTや観艦式位だが、ここまでの編隊では無かった。 周りを見回すと、友軍のF-4Sが目に入った。エンブレムにグリフィスと南十字星が描かれているそれは、この戦争をひっくり返した張本人である。 オーレリアにおいて数少ないファントムドライバーである彼らグリフィス隊には、毎年DACTの決勝戦で連敗を喫している。その連携の取れたチームプレイと、1番機の技量はほぼ無敵といってもいい。 しかし、そんな彼らは2機しかいない。5機編成であった彼らは、グレイプニルのSWBMにより3機撃墜されてしまったのである。 そんな彼らも今の俺のような気持ちなのだろうか?ミヒャエルは考える。SWBMで成す術もなく散って行った仲間に対して、彼らもまた、悪くない自分を責めているのだろうか? 答えは分からない。だが、同じ境遇のような仲間がいる、それが分かっただけでもよかった。 「こちらは今日君達の管制を行う躑躅隊の伊勢修兎だ。まぁよろしく頼む。」 ヘッドフォンから少し気だるそうな声が聞こえる。さて、お仕事しますかね。 思考を変え、正面を睨むように見る。そこにはいつものミヒャエルがいた。 キングスヒルに向かう編隊の中に僕を乗せたホークアイは居た。 今日は朝からなんだか嫌な予感がしている。グリフィス1が居ないせいもあるのだろうが、 自分の足元の床がなくなってしまったような不安定な感覚がする。 今回の作戦ではグリフィス隊は躑躅の指揮下に入りパターソンの再々奪還へと向かっている。 向こうの管制は確かもみじとイセとかいう男女のコンビだったな。 しかし普段頼っていた存在が居ないってことがこんなにも不安だとは正直思っていなかった。 <<うぅー頭ガンガンする>> <<スタンドよりファインド、飲みすぎですよ、隊長>> <<あー雨も降ってきたし・・・最悪だぁ>> <<フォーカス1、大丈夫ですか?・・・大丈夫かな・・・>> <<クラックス、なんか言ったか?>> <<あ・・・いえ>> <<こちらバラード1、リョウスケ・・・出撃前に馬鹿やってんじゃねぇよ>> <<う・・・うるせぇ!お前だって昨日部屋に行ったら・・・>> <<お・・おい馬鹿!それは言わねぇ約束じゃ・・・>> <<こちらバラード2、そんなことうちの隊はみんな知ってますよ。隊長♪>> <<な・・・なんだとぉ!?嘘をつくなぁ!!>> <<じゃあ証拠に言ってあげましょうか?>> <<やめろぉ!それ放送コードに引っかかるから!!マジでやめてくれ!!>> そんなやりとりを聞いて不意ににやけている自分がいることに気づいた。 なんだか皆の会話を聞いていたら変に安心してきたからかもしれない。 皆勝利を経験して余裕ができてきたからだろう。 だが流石に作戦前にこれ以上喋っていてもアレだ。さっさと話を進めよう。 <<クラックスより各機、現在パターソンでは友軍部隊が再々奪還作戦を行っています。 今は優勢に作戦が進行しているようですが、味方地上部隊が敵の援軍要請を傍受しました。 そこで本作戦なのですが、この近辺で目撃されている敵の集結地点を見つけ出して叩いてください。 しかし、敵の集結地点は巧妙にカモフラージュされてるらしく、先行した偵察部隊は発見できなかった模様です。 なので、集結地点から出てくる敵を叩きつつその場所を探ってください>> <<まぁつまり、敵のアジトを見つけて潰しゃあいいんだろ?ユジーン>> <<そういうことです。あっ、レーダーに敵車両!>> <<了解。おーっしゃ、皆いくぜー>> 各6機、計12機のラファールとシュペルエダンタールが一斉に編隊を解き、降下してゆく。 3本ある主要道路の間の森の至るところから次々と敵車両が飛び出してくる。 各機は各々の目標に一気に襲い掛かった。 <<ブレイド、FOX2!!>> 僕たちの真下にいたAAガンにミサイルが飛び込む。直撃を喰ったAAガンは火を噴いてのた打ち回った。 ふと息をついたとき、僕の中に再びさっきの不安感が巻き起こった。 何かがおかしい。 戦闘開始から20分。敵の反撃もなかなか激しくはなってきているが、何処か緊張感に欠けている節があった。 いやな予感がして、レーダーサイトを覗き込んだ。 攻撃を仕掛けている味方機のマーカーが数箇所にまとまりつつある。 まさか・・・?冷やりとした汗が背中を伝った。 大航空団は既に作戦空域へ入り、戦闘態勢へ移行しつつある。まず、対地攻撃を担当する日本のアサルトフランカーが低空のポジションへ、次にオーレリア、日本の混成戦闘機部隊が対地攻撃隊の上空支援の為に上空へ展開している。更に高度40000フィートの超高空にはSu-37jkRが高空からの偵察に、また主力部隊の後方にはSu-37jkEが展開し、AEWでは出来ないような電子支援を行う。陸ではスタンドキャニオンからこちらへ海兵隊が進撃を開始しており、バーグマン少佐の部隊と共にパターソン再奪還へと望む。 そして、戦闘機部隊が要撃機のF-1を撃墜し、戦闘は幕を上げる― 「来たぞ、あの星のエンブレムの機体だ」 「何、ここを盾にすれば簡単には攻撃出来ないさ。今日こそあいつを落としてみせるぞ!」 「撃てるもんなら撃ってみろ!ここを攻撃されて困るのはお前達の方だ!」 混成部隊は到着するとすぐに派手な歓迎を受けた。普段の勢いならこの程度すぐに片付くのだが、今回はそうはいかない。何せ敵はコンビナートを盾にしているのだから。確かに石油貯蔵タンクを攻撃すれば、それこそ大爆発で敵を全滅させることが出来たかもしれない。しかしそこには民生用の石油も貯蓄されており、そう易々と攻撃できたものではない。それが弊害となり、アサルトフランカー隊も上手く攻撃出来ない。 「畜生!こいつら狙われるとすぐにタンクに隠れやがる!」 「よし、いい子だ・・・ってこの野郎!」 どうやら部下達も上手く攻撃出来ていないようだ。ここは隊長である自分が威厳を見せねば―煤原は機体を上昇させ、高度を稼ぐ。ある程度の高度まで上昇したら、一気に機首を地面へ向ける。狙われたことを悟った対空砲は狂ったように発砲してくる。しかし、何の目的もなく放たれる弾は虚しく空を染めるのみ。一方、アサルトフランカーから放たれた30mm口径の機銃は正確に対空砲を貫き、タンクを壊すことなく敵の撃破に成功する。 早めのタイミングで攻撃を切りやめ、すぐに上昇を開始する。そうでもしないと鈍重なこの機体では地面にキスする可能性があるからだ。 なんとか高度を確保し、次の目標へ―ん?あいつは一体? 驚いた視線の先には1機のF-4が何両もの対空車両を破壊していく姿が目に入っていた。 「何なんだ!?こいつにはこの盾も通用しないのか!?」 「落ち着け!あいつも人間だ!怯んでないで撃ち落とせ!」 レサス軍は恐怖で満ち溢れていた。ここを盾にすればいくらあの星の奴でさえ攻撃できず、一方的にいたぶれる―そう言われて、非人道的とは分かりながらも、ここへ部隊を展開し、奴を狙っていた。しかし結果はどうだ?確かに敵の攻撃機はここを攻撃出来ていない。しかしあのF-4は、星のエンブレムはコンビナートの合間を縫って攻撃してくる。おかげで対空戦車の類は壊滅しかけている。頼りの空軍も、敵に完全に制空権を握られ、敵の対地攻撃が可能な機体はそちらへシフトし始めていた。絶望の渦の只中にあった彼等にとって、この通信は天にもすがる思いだった。 「こちらミラー第3機甲師団。これより市内に展開中の友軍の支援へ回る」 とっさのことだったが僕は叫んでいた。 <<全機散開!!ブレイク!ブレイク!!>> <<何でだ!クラッ・・・どぉわ!!>> 機内にレーダーロックの警告が響き、直後ミサイルアラートに変わる。 レーダーに多数のミサイルマーカーが出現した。10・・・15・・・とても数え切れない。 ハメられた・・・と、僕は苦い感情を味わった。敵は自分たちを車両で誘導して一網打尽にしようとしていたんだ。 ギリギリで気付いて散開したから即撃墜には至らなかったが、依然ピンチであることに変わりはなかった。 <<バラード2被弾!!>> <<バラード2、無理するな!離脱しろ!!>> <<こちらフラッシュ!なんとか切り抜けた!援護する!!>> <<くっそ野郎め!これでも喰らえ!ファインド、SOD発射!>> フォーカス1の打ち込んだSOD森に突っ込んだ直後、3箇所から大きな爆発が起こった。 しかしSAMは勢いを変えることなく打ち上げてくる。 敵の第一波が通り過ぎたと思われたころ、それは突然起こった。 不意に自機(E−2C)のミサイルアラートが鳴り響く。 レーダーに突如出現した2本の鋼鉄製の槍がこちらへと向かってくる。 パイロットが何かを叫び、機が上昇し左右に振り回される。僕は必死に手摺に掴まりながらレーダーサイトを凝視した。 こちらは所詮プロペラ機。ミサイルが相手では到底逃げ切れるものではない。 「チャフ発射!!」 機体後方から大量の金属片が放出される。 一方のミサイルがチャフの方へ吸い込まれていった。 しかしもう一方はチャフに騙されることなく自機に迫っていた。 彼我距離が200mを切った。この距離ではもう回避も間に合わない。 距離、150m・・・100m・・・70m・・・50m・・・ 「総員衝撃に備えろ!!」 機長が怒鳴る。 僕はぎゅっと目を瞑った。 直後強い衝撃が体を揺さぶった。どこからか「うわぁぁぁぁ」と叫ぶ声が聞こえた気がした。 僕は一瞬先かもしれない死を予感した。子供のときからの記憶が目の前を駆け巡ってゆく。これが走馬灯というやつだろうか。 畜生!また増えた!−ミヒャエルはコクピットの中で呟いた。 地上攻撃部隊はコンビナートのおかげで攻撃ははかどっていない。だからと言って支援に回れば先ほどから来ている増援部隊に好き勝手されてしまう。地上への攻撃を敢行している者もいるが、そいつらはミサイルが切れて機銃しか使えない連中なのであまり意味が無い。データリンクで送られてくる情報は全て敵の増援を知らせるものばかりで、いい情報は全く入って来ない。電子戦機も活躍してはいるが、こうも敵が多いとその効果も半減してしまう。だが何としてもここを維持せねば。 「おい、レイニー3と4は日本の攻撃機をつけ回してる奴を狩って来い!」 「スリー」 「フォー」 「クラウディア聞こえるか!お前さん達は俺と一緒に増援の阻止へ行くぞ!」 「おう!任せとけ!落とされた連中の恨みを晴らねぇとな!」 「ってリーダー!残存ミサイルはR-73 1発だけですよ!?」 「ガンは何のためにあんだよ!ガンは!」 この作戦ではオーレリア海軍の指揮権を任させているので、この様に部下だけでなく、味方の部隊へ指示を飛ばせる。言われた時は面倒に思っていたが、やってみると案外楽しかったりする。そして、レーダーにいくつかの機影が現れた。 向かってくるのはF-14。あの某映画のおかげで、戦闘機と言えばこれ!という代名詞的な存在になった機体である。公開から数十年たった今でも時々放送されたりしているほどの作品だ。 ヘッドオンで一機撃墜し、更にスコアを重ねようともう1機のケツをとった。敵は巧みな機動でミヒャエルを翻弄するが、可変翼の悲しさ、翼の開き方で速度域が見破られてしまうのだ。そこで、敵の主翼が開き、減速するのを見計らって予測軌道上へ機銃を放つ。弾は確実に敵の背中を捉え、機体が真っ二つになった。−これで2機。後は? 現状を把握するために周囲を見渡す。どうやらクラウディアの連中も上手くやっているようだ。一応増援の到着は防げている・・・いや、まだ来ている?・・・まずい!そっちはがら空きだ!そしてその先にはアサルトフランカー。 「レイニー2よりアサルトキャッツ!正面から来るぞっ!回避しろ!」 「んなっ!警告感謝!クソッ!もっと早く動けよッ!」 必至の機動で回避行動へ移るが、攻撃機ゆえに機敏に反応できない。もう少し遠ければレーザー照射で撹乱出来たが、この距離では不可能だ。そして敵はミサイルを放つ―はずだった。横から伸びてきた白煙が無ければ。 その走馬灯は急に中断された。不意に機体の揺れが収まったからだ。 「っ・・・!損害報告しろ!!」 衝撃から我に返った機長がまた怒鳴る。 「両エンジン正常!油圧若干低下!その他異常なし!本機は被弾していないようです!!」 「一体何があったんだ!ユジーン、レーダーは!?」 ボーっとする頭を振ってサイトを見直す。そこには新たに4つの白い輝点が表示されていた。 それらはフッと味方を表す青の輝点に変わった。 「アンノウン4機発見!いや、IFF応答!味方戦闘機です!彼らがやってくれたんだ!」 僕はなんだか嬉しくなってヘッドセットをかけなおした。 <<こちらクラックス、味方戦闘機へ支援感謝します>> その返事は意外なものだった。 <<やらないか>> 空気が凍りついた。 僕がその返答にあっけに取られていると、 <<その声は・・・まさか・・・ジサーイ大尉!?>> どうやら共有回線での通信を聞いていたらしいファインドことフォーカス1が口を開いた。 しかし、いつものテンションは何処へやら。完全に声が引きつっていた。 <<あのブルーのMig-21・・・間違いない、ジサーイ大尉だ。こちらファインド、フォーカス隊よく聞け。ミチシ隊が来たぞ!この戦闘は勝ちだ!!>> <<こちらマラート、嬉しいこと言ってくれるじゃないの。それじゃあ、とことん期待に応えてやるからな。ミチシ隊散開!>> <<ラジャー!アストン、エンゲージ!>> <<カリブ、エンゲージ!>> <<ローズ、エンゲージ!>> 先頭の青いMig-21を基点に3機の緑のMig-21が一気にブレイクした――。 一時的にひっくり返された戦闘の趨勢は、今や決定的にこちらへ傾いていた。 対空火器は明らかに勢いを弱め、そこここから煙を噴き上げている。 敵戦闘機もちらほらと出てきていたが、片端から落とされてしまったようだ。 何とか間に合った。スタンドキャニオンからここまでぎりぎりの燃料で飛ばしてきた甲斐があったと言うものだ。 「救援感謝!ってお前さん何処の部隊だい?IFFは友軍となってるが、俺らそんな機体見たことないぞ?」 あ〜やっぱりか、まあ仕方ない説明は面倒だから要点だけ。 「ん〜近くの試験基地からの増援だ、やっとこの子が飛べるようになったからな」 「おう、そうか。じゃあこのまま手伝ってくれよ。人手たりねぇんだ」 「任せとけ」 一応そう言ってれば大丈夫だろう。さて、次の獲物は?ん、ファルクラム?もしや― 「おい!ミヒャエルお前か?」 「誰だ!うるせーんだよ!・・・ってアレックスか!?」 その声は驚きが満ちていた。 「なんで飛行機に乗ってんだ!?そもそも何で生きてんだ!?」 「人聞きの悪いこと言うなよ。説明は後、それよりも残りを片付けるぞ」 1機の漆黒の鳥と、青い隼はさらなる獲物を求めてさまよい始めた。 しかし、戦局は大勢を決していた。ミラー師団を壊滅させられ、キングスヒル方面から敵機甲師団が向かってくるとあらば、消耗した部隊に勝ち目はない。レサス軍は撤退を開始し始めていた。 そして、この港は確実にオーレリアの反攻の狼煙を上げた初めの地となった。 厚い雲に覆われている空は、所々の雲の切れ目から日が差し始めてきていた。 バラード3が最後に残ったUGBを地下格納庫に投下すると、遂に敵車両は出てこなくなった。 <<敵車両及び敵基地の撃滅に成功しました。全機帰還してください。また、ミチシ隊の皆さんありがとうございました>> するとジサーイ大尉から通信が入った。 <<こちらマラート。基地へ帰れる燃料がなくなっちまった。お前たちの空母に寄りたいのだが>> <<え!?>> これには流石に驚いてしまった。艦載機ですらないMig-21を空母に下ろすなんて前代未聞の事態だからだ。 <<で・・・できるんですか?そんなこと・・・>> <<不時着よりマシだろう。男は度胸、何でも試してみるもんさ。>> <<は・・・はぁ>> 30分後、僕たちは空母「カラナ」上空へと到達していた。もう後には退けない。 念のためフォーカス隊とバラード隊は先に着艦し、すでに格納庫へと退避させてある。 僕たちのE−2Cもそれに続いて着艦する。こいつは格納庫へ下ろすと後が大変なので、とりあえず第一カタパルトの方へと牽引されていった。 <<カラナ・コントロールよりマラート・・・着艦を許可する。気をつけてくれよ>> カラナは初の陸上機による着艦に備えて最大戦速での航行を始めた。幸い海は凪いでいて揺れは少ない。 ミチシ1ことジサーイ大尉機は許可を受けると何故か水面ギリギリへと降下していった。 <<マラート・・・一体どうする気なんだ?>> 青いMi-g21は速度を落としながら水面を這うように「カラナ」に接近してくる。 距離が250フィートを切ったころ、ジサーイ大尉機は急上昇しスピードブレーキ全開状態でアプローチを始めた。 そのまま軽い失速状態でタッチダウンする。後輪が第四ワイヤーに引っかかり、あわや大事故かと思わせたが、機体はそのまま「カラナ」甲板上で静止した。 列機もそれに倣って四機とも着艦に成功した。 甲板の隅に駐機された青いMig-21のコクピットから一人の男が甲板上に降り立った。 男はゆっくりとヘルメットを脱いでゆく。 中から現れたのは・・・いい男だった。 世の中格好の良い男はイケメンやハンサムなどと呼ばれるが、そんな安っぽい比喩などには値しない、 正真正銘のいい男だった。 また、思わず「ウホッ、いい男」などと口について出てしまいそうになる独特の雰囲気を持っていた。 「奇跡の瞬間に立ち会えて光栄だよ、大尉。」 彼の前に進み出たのは「カラナ」艦長のヘルマン・カールトンだ。 「こちらこそ、艦長。」 二人はがっしりと握手を交わした。 「今日はゆっくり休んでくれ。機体の修理とマネジメントは任せてくれ。」 「恩に着ます。」 最後に二人はお互いの肩を叩き合って別れた。 この日の午後、今まで通信の途絶えていたヘリ及び垂直離着陸機空母「スパイラル」との交信に成功。 午前3時25分、合流を果たした。 また、午後にはグリフィス隊も「カラナ」へと帰還した。 モルエッティ少尉はミラージュを破損させてしまったらしく、ハリヤーの後席で帰ってきた。 彼は次の作戦では日本軍から予備機のマリンヴァイパーを借用して上がるらしい。 ちなみにグリフィス1のF−4Sは今も健在であるのは言うまでもないだろう。 その日中にこの艦に入ってきた通信は スタンドキャニオンの味方部隊救出成功、 パターソンの再奪還成功、 オーレリア南部の残存戦力の集結、 各地での義勇軍結成などであった。 一度は圧倒的戦力によって分断され、窮地に追い込まれていたこの国が 再び一つにまとまり、一大反攻勢力となって 交通の要所であり首都への足がかりであるサンタエルバを奪還、 そして忌まわしき空中要塞「グレイプニル」の撃破に挑むことになる。 僕たちには28時間の休息時間が当てられた。 寝不足でふらつく頭を落ち着けながら甲板を歩く僕のそばを 一羽のカモメがゆっくりとフライパスしてゆく。 彼らの瞳には今この国を包んでいる「戦争」は映っていないのだろう。 なぜだかそれが僕にはとても悲しく見えた――。 |
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2011/01/23:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
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