ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜
第一一章




一機の戦闘機が今丁度着陸を行おうとしている。既にギアは降り、地上の誘動員が発しているレーダー誘導も最終段階へ入っている。後は風に流されないよう機体を安定させるだけだ。そして、徐々に高度を下げ、遂に滑走路へタッチダウン。リアのギアが地面をしっかり捉え、その衝撃をコクピットへ伝える。STOL性能に優れたこの機はオーバーランする事無く着陸に成功する。すぐに駐機場へ移動させ、これから離陸するMig-21の邪魔にならない様にする。

駐機場でエンジンを止め、キャノピーを上げると、機付き整備員が寄ってきて梯子をかけてくれる。
梯子を下りて、機体正面へ回り込む。
「ったく・・・。機体が喋る訳無いよなぁ」
ふと、呟いてみる。
「そろっと信じてくんない?エンジン止まっても会話出来てんだから」
「ぬおっ!まだ喋りやがった!やっぱ俺の耳おかしいのか?」
また声が聞こえた。さすがにエンジンが止まれば聞こえなくなると思ったのだが。
「大体さぁ〜私がこの機体の魂みたいもんなんだからさ、エンジン=心臓じゃないから」
「おい、アレックス。一体何独り言喋ってんだ?」
顔なじみの整備員が聞いてくる。
「あ〜何でもない。ちょっとな」
「ふ〜ん。あとさ、さっきから女の子の声聞こえるんだけどさ、お前こんな声が趣味だったんだな。分かるぞ、お前も遂に俺らの同志となったか」
整備員が感慨深く頷いている。
「アホ。そんなことしね〜よ。大体、俺は2次元に目覚めて無いぞ」
「えー。じゃあこの声お前がネットから拾ってきてipodとかで再生してるんじゃねーのか」
一体何考えてんだこいつは・・・。別に彼が変な考えをしているのは気にならない。そもそも、どの国の海軍、空軍は時折常人には理解できない馬鹿な事をする。オーシアでは銃に取り付ける赤外線レーザーで某超有名SF映画ごっこをしたりだとか、ユークトバニアでは、んなアホなと言う様な華麗な動きでコサックダンスしてみたり、ウスティオでは世界で誰もが知っている某歌手のダンスで機体を誘導したり、ベルカでは戦闘機でスラロームをしてみたり、日本では新興文化を取り入れた基地祭を開催したり・・・etcなどなど、どの国も既に“覚醒”が始まっている。―だからそんなことは気にしない。だが、“あの声“が自分以外の人間に聞こえたのが驚きだった。やっぱり、これは現実だ。認めたくはないが。ならば認めるしかないだろうか?
「お、やっと私を認める気になったか」
「一応な、だがまだ信じてないからな。・・・って何で考えてることが分かるんだよ!」
「それは秘密ぅ〜」
「覚えてろ、絶対仕返ししてやるからな・・・」
そう誓い、自室を目指す。だが、アレックスのその顔には、久しぶりに本当の笑顔が戻っていた。

超高層ビルからの景色は絶景だ。祖国ではまずお目にかかることは無い。そもそも、このような物を作る経済力が無かったのだ。21年前、ユリシーズ衝突時に破片が一部レサスへと降り注いだ。その被害は相当な物だった。ニュースでは落下地点であるユージア大陸のことばかり放送されていたが、実際は他の地域も相当な被害を被っていた。もともと不安定だった国政は乱れ、遂には大統領まで暗殺されると言った様相であった。また、その間に一部の軍派が政権を奪い、事実上の独裁国家となった。しかし、それを良しとしない派閥は各所でクーデターを起こし、レサスは内紛の時代へと入って行った。―無論私もクーデターを起こした1人だが―おかげで荒れ果てた国は更に荒れ、GDPは約半分まで後退した。それがつい昨年終結した。当たり前だ、わざわざ ゼネラルリソースと組んだ訳では無い。そのおかげで自分の派閥は西側の超高性能兵器を使うことが出来たのだから。兵器において1世代の差はとてつもなく大きい。2世代ともなれば圧倒的だ。だから、圧倒的少数だった自分が勝てたのだ。
失礼します―ノックと共に1人の人間が入ってきた。それは副官であった。
「閣下、グレイプニルの出撃準備整いました。また、撮影班も現地に到着し、PVの撮影準備に入ったとのことです」
「分かった。くれぐれも私の“製品”を汚すようなことはするな、と伝えておいてくれ」
「ハッ!了解致しました」
そう言うと、副官は退室していった。だが入れ替わりでまた1人の男が入ってきた。
「今日もお元気ですな、ナバロ閣下」
「そういう貴様もな。たまには二日酔いで酔っている姿も見たいものだ」
「それはいいですね。ただ、あいにく私は酒に強いので。ウォッカ3杯ストレートでいけますよ?」
「それは病気と言うんだ。ところで今日は何の用かな?ゲイツ専務?」
「もう商談ですか?少し早い気もしますが・・・。まぁ始めます。とりあえず試作機“フェンリア”ですが、ハードの方は完成しています。後は我が社が開発した戦闘能力向上システムの搭載を待つのみです」
「フム・・・。時に試験は順調に進んでいるのかね?」
「もちろんですとも。つい先日も実戦を行い、システムの最終検査を行ったばかりです。後はサンタエルバ辺りで、日本軍の同様のシステム搭載機との戦闘データ取れれば、それをフィードバックして搭載するだけです」
そう話すゲイツの顔は営業スマイル以外の表情が見て取れない。さすがはゼネラルリソースの高級幹部だ。こう言った商談技術は身につけている。
「あと、試作機のパイロットが欲しいのですが・・・」
「そっちのテストパイロットではいけないのか?」
「幾ら我々がPMC業務を行っていて、そこから腕っこきの猛者を担当させてもよいデータが取れないのです。それに傭兵共は非常に言うことを聞かないので困るんです。ですが、レサスには旧ベルカ空軍から逃亡してきた人間も多いとのこと・・・きっと傭兵以上の成績を出してくれるに違いありません。それに、契約条件もありますし、ね」
「全く、いつもお前には勝てないな。分かった、アレクトを回そう。奴らは戦いたくてうずうずしている頃だ、すぐに引き渡そう。場所はアーケロンでいいな?」
「はい、結構でございます。しかしありがとうございます。レサスのトップエース部隊を回していただけるなんて」
「何、これもビジネスの内さ」
「おっと、それを忘れていましたね。では、またお会いしましょう。失礼しました」
にこやかに笑いながら部屋を出ていくビジネスマンの後ろ姿にナバロは虎を見た。こいつはマークしなければ―あの頃の本能が警告してきている。しかし心配はいらない。何か不都合があれば奴は“自殺”をするはずだ、絶対に。
ふと外を見ると、雲1つない夜の空にゼネラルリソースのロゴが入ったAV-8Bが轟音を轟かせ羽ばたいていった。

幅数百メートルはあろうかという滑走路、巨大なビルの様なハンガー、その脇には小さなハンガーが並んでいる。ここはサンタエルバ近郊ある巨大な空軍施設。怪鳥のオーレリアでの巣であるここには、その怪鳥が翼を休めながら、次の出撃準備を進めていた。次の作戦はサンタエルバの防衛。ここに侵攻してくる愚かなオーレリアの残党を狩りに行くのだ。無論負けなど想定していない。実際、グレイプニルに攻撃を敢行し、成功した者はいない。当たり前だ、この機はSWBMだけではなく、機体にも多数の対空設備が整えられているのだ。さらに、陸からの攻撃であろうとも、ショックカノンがあれば問題は無い。これならば1個大隊ほどなら瞬時に蒸発させる。これほどまでの装備があれば負けることなど考える余地も無い―そう考えているのはバーリントン、このグレイプニルの艦長だ。彼は最初から艦長だった訳ではない。開戦1週間前に急きょナバロ本人から直々に艦長への辞令が交付されたのだ。レサスを救う為に軍隊に入った彼にとって、祖国の切り札とも言える物を任せて貰える―それはとてつもなく名誉なことだった。しかし、初め彼からしてみればこの戦争には疑問が山積みだった。何故こんなにも早く軍備を整えられたのか?本当にオーレリアは不当な搾受を行ってきたのか?最大の友好国ではなかったのか?そもそもこの戦争が本当にレサスを貧困から解放してくれるのか?など、幾つも疑問があった。―少なくとも艦長に任命されるまでは。
艦長に任命されてからというもの、その考えは“無かったこと”にした。そうでなければ任務に集中出来なかったからだ。何よりも全てが祖国の為になる。そう自分に思わせてきた。だから、今回も負けるはずが無い。そう思い込んでいた。
「艦長!出撃準備整いました!」
「よし!全員第2戦闘配置にて待機!出撃命令を待て!」
声を張り上げて命令する。さあかかって来い、オーレリアの愚民共。全員まとめて地獄へ案内してやる。
その瞳には開戦前の誇り高い光が失せ、何かに駆られている様な光が入っていた。





 2011/01/23:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
「普通は、いきなり声が聞こえたら、幻聴か!? 俺、頭イカレちまったのか!? って思うよネ」
「まぁそれも含めていろーーーーーーーーーーーーーっんな意味で普通じゃないのが被験者だ」
「ああ〜↑」
「なんだその『ああ〜↑』は」
「……私の声は幻聴ではなく、姿も幻視ではないのでご安心を」

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