ACE COMBAT X skies of Deception 〜英雄と偽りの空〜
第一二章




<<クラックス、クリアーテイクオフ>>
<<ラジャー、グッドラック、クラックス>>
通信を切り、ヘッドセットを下ろすと回転を強めた2つのプロペラが空気を切り裂く音とともに緩い浮遊感が体を包んだ。
レーダーには味方を示す多数の青い輝点。
これが数時間後にいくつ残っているのか・・・?
そんなことは今は考えたくなかった。
今一度大きく息を吸い、その味方に今言うべきことを伝えた。

<<全機揃いましたね。さぁ、化け物から私たちのサンタエルバを取り戻しましょう>>


「艦長、奴等が来ました。陸と空、数は不明ですが多数です。」
「そうか、ご苦労。」
私は遥か地平線の先から我々を倒しに来る『敵』のことを考えた。
 我が祖国、レサスを内戦の混乱に乗じて搾取し続けてきた忌まわしき国家、オーレリア。
 その『敵』は我々の「正義」を以て一度は排除したはずだった。しかし、奴等はまるで害虫の如く湧き出してきて、尊大な「正義」に対しての脅威となりつつあった。
 だが、最後には「正義」は必ず勝つのが世の道理だ。そして、その「正義」今我々にある。

「艦長より達する。これよりこの『グレイプニル』は、最大の力を以てオーレリアの哀れな虫共を叩き潰す。「正義」は我々にあり。総員発進準備にかかれ!」

その為の力はある。
この空中要塞がいる限り我々の負けは無い。
そしてこの「正義」もまた、揺るがぬものなのだ。


トラックの乗り心地はお世辞にもいいとは言えない。だがあとは徒歩か戦車内部かの2択だ。ならトラックの荷台とはいえ十分なスペースと移動に使う労力が無い分まだましだ。
いつもは騒いでいる同僚達も今日は皆黙っている。無理もない。今回の任務はまるで捨石そのものなのだから。
突然、時計のアラームが鳴り、作戦開始時刻を告げる。みんな一斉にM4やMINIMIを担いで車外に出る。そして、目的地まで走り出す。脇には陸軍のチャレンジャー。なんとも心強い。
機甲師団と歩兵は幹線道路を進んでいく―しかし、グレイプニルどころか、陸軍ですらいない。
「こちら偵察隊、どうも妙だ。敵陸軍の姿がほとんど見当たらない」
「それにあのデカブツもいないな」
「ったく、レサスの野郎何考えてやがる」
無線から入ってくるのは仲間達の愚痴だ。だが、敵がいないとなれば、簡単にここを解放出来る。それは願っても無いことだった。
すると、何処からか轟音が響いてきた。しかしそれは戦闘機のそれでは無かった。もっと、巨大な何かだ。
「お、おい・・・上見ろよ!」
誰かが叫ぶ。皆はっとなって空を見上げる。
「グレイプニルだ!」
「お前らぼさっとして無いでさっさと撃て!」
「SWBMは無いから通常兵器に気をつけ―」
「おい!何だよあの青白い光―」
視界が白く染まった瞬間、そこにいた兵士全員が蒸発した。

自分の目を疑った。いや、認識したく無い。グレイプニルは・・・奴はあんなものまで持っていたとは・・・
「た、隊長。何すか今の・・・」
「俺が知るか、聞きたいのはこっちだ」
「ですけど、これで満足に攻撃出来るのは我々だけですか・・・」
<<イェーガーよ、そんなこと言うな。俺らは勝てる。なんせ俺らにゃ南十字星が付いているだぜ?なぁ?>>
<<・・・・・>>
南十字星―グリフィス1は何も答えない。だがそれは、不安を感じさせるものではなく、何故か勝てる感じがしていた。
<<おいおい、俺らは期待されて無いのか?>>
<<期待してるさ。ただ、南十字星よりはして無いけどな>>
<・・・グリフィスさんが相手では当たり前かと>
<<止めてあげなよ、隊長がへこんで>>
本当にこれが決戦に向かう兵士達の会話であろうか?だが、彼等は知っている。こういう時に冗談が出ない奴はすぐに死ぬ、と。
<<クラックスより各隊へ、アリスさんとフリージアさんの探知で光学迷彩中のグレイプニルの位置を特定し、各機へデータリンクで転送します。まずは奴の光学迷彩を無力化して、SWBMのランチャーを破壊できるようにして下さい>>
今作戦の通信士であるクラックスから各機に作戦の最終確認が行われる。
<<了解!まっかせときな!>>
<<・・・了解>>
MC2人が返事をするとともに、各機のレーダーにグレイプニルが現れる。それはとてつもなく大きい物だった――。


今まで味わったことの無い衝撃が私達を襲った。
「ミサイル着弾!各部被害報告急げ!」
「こちら射撃班!通常火器損傷無し!」
「こちら巡航ミサイル班、弾頭及びランチャー損傷無し」
「こちら索敵警戒班、左翼レーダーが損傷。また後部索敵レーダーが全壊しました」
「こちらダメコン、目立った損傷無し!」
「ミサイル発射位置特定急げ!対空戦闘用意!ネメシスに違いないぞ!」
各所から飛びこむ被害報告。だが、たかがミサイル程度でこの空中要塞は落ちたりしない。だから、入ってくる報告も全て損傷軽微だけだった。ただ1ヶ所を除いては――。


流石に12本ものXLAAを喰えば、多少なりともダメージは与えられると踏んでいた。
その結果がこれだ。嬉しい誤算と言うべき外無いだろう。
虚空に広がった12の火球はしかし、グレイプニルのその大きなアドバンテージの一つを見事に打ち破り、その巨体をサンタエルバの夕焼け空に晒させていた。

正直な話、いくら説明されてもMLSの強みは分からなかった。
だが百聞は一見に如かずという日本のことわざ通り、
この装置が如何ほどの実力を持っているのかがハッキリした。
自分の体が少し震えているのが自分でも分かった。

<<よぉっしゃあ!!見ろよ!奴の化けの皮が剥がれたぜ!>>
<さて、一番槍は俺が貰う。ハウンドリーダー、エンゲージ!!>
<<負けるかよ!レイニー1、エンゲージ!>>
<<・・・・・・>>
<<・・・っく、ああもう!グリフィス隊、エンゲージ!!>>

個性的な交戦宣言を残し、12機が一斉に散開。各自が自由戦闘に移行した。
その宣言に負けじとさらに青い10の輝点が増える。

<<おいおい兄貴、こんなの墜とせるのか?>>
<<漢は度胸、何でも試してみるもんさ>>

<<なんだお前ら、SODかよ?そんな装備で大丈夫か?>>
<<大丈夫だ、問題ない。どうせ俺らは陸上部隊の支援だ>>
<<工工エエェェ(´д`)ェェエエ工工>>
<<ほれ行きまっせ、隊長。フォーカス隊、エンゲージ!>>

南の2隊も各自航空支援に移った。
二度目の大反攻作戦。
暮れなずむサンタエルバの街は、今まさに地獄になろうとしていた。


「光学迷彩に深刻なダメージ!光学迷彩維持できません!」
その報告が入った瞬間、CICの中は凍りついた。そして更に、
「こ、こちら索敵警戒!敵航空編隊捕捉!奴がいますっ!星の奴がいます!」
なんてこった。いくら護衛に戦闘機が付いているとはいえ、奴ならすぐに蹴散らすだろう。
「これでは敵に丸見えだぞ!何とかならないのか!?」
「だ、駄目です!」
「くそっ、ならばSWBMだ!この機体が少々傷ついても構わん、あの虫共を吹き飛ばすのだ!」
「了解。SWBMスタンバイ。・・・間もなく発射出来ます」
「疫病神め、今日こそ息の根を止めてやる!」

背筋に一筋の冷たい感覚が伝わる。
それがどういった意味のものであったか、私は覚えていなかった。


日本、オーレリアのエース・オブ・エースはやはり凄かった。
ここから見ていても惚れ惚れするような飛び方で、グレイプニルとその護衛機を次々に落としていく。
化けの皮が剥がれたグレイプニルはもう只の的でしかなくなっていた。
だが、敵もそれほど馬鹿ではないようだ。敵に何か動きがあった。
レーダーに新たな光点が浮かび上がり、それが物凄いスピードで高度を上げていく。

まさかこれは・・・

<<クラックスから各機へ、グレイプニルがミサイル発射!SWBMと思われます!グレイプニルより高度を下げて下さい!>>
光点脇の高度表示が止まり、今度は下がっている。もう猶予は無かった。
<<ミサイル着弾まであと10秒!・・・5・・・4・・・3・・・2・・・1ッ、着弾!>>
瞬間、物凄い振動が戦域から離れたここまでも襲ってきた。

クラックスが弾頭炸裂を告げた瞬間、とてつもない振動がアレックス達を襲った。
<<ミサイル発射!高度を下げて下さい!>>
<<またかよ!一体奴は何発花火を上げる気だよ!?>>
<<いいから頭下げろ!落ちるぞ!>>
<<ミサイル着弾まであと10秒!・・・5,4,3,2,1、着弾!>>
また空から衝撃が襲ってきた。くそ、これじゃあ攻撃しようにも迂闊に攻撃出来ない。無理をすればハリネズミの様な対空砲火でお陀仏だ。
<<クラックスから各機、全機SWBMランチャーを潰して下さい!そうでもしないと話になりません!>>
<<分かってる!だが対空砲火が激しくて近づけない!>>
どうやら日本の連中も手が出ないらしい。その時、彼の声が聞こえてきた。
<<グリフィス1、スプラッシュ2>>
護衛戦闘機でも落としたのかと、彼のF-4Sを探す。すぐにそれは見つかった。だが、その位置が不思議だった。グレイプニルの前方上空?すこし視線をずらすと、そこには背中から黒煙を上げている怪鳥の姿があった。


炎の柱が巨体から噴き上がるのが見えた。
HUDにはDESTROYDの文字が躍る。
それを確認すると機体をロールさせ、スロットルを叩き込んだ。
世界が180度回り、胃が裏返しになる感覚が体を襲うが、躊躇せずに一気に巨体の下に潜り込む。
直後強い衝撃が機を揺るがし、轟音をあたりに撒き散らした。
思わず言葉にならないようなうめき声が漏れる。
それでも操縦桿を薙ぎ払い再び上昇を始めた。

正直ここまでヒートアップした感覚を味わうのは久しぶりだった。
多数の仲間を葬った兵器が憎いのか、それとも強大な敵を前にして高揚感を覚えているのか、単に体がスリルを渇望しているだけなのか、俺には分からなかった。

高度を得た機体を良い位置で水平に戻し槍を放つ。
それは正確に3つ目のランチャーを貫いた――。

偵察隊壊滅。しかし、これによって敵の新たな兵器が明らかになった。これで奴らの死も無駄では無くなっていた。そのおかげで陸軍は侵攻せず、安全戦域で待機し、戦力を温存出来ているのだから。だがしかし、それは待機している本人達にとってはつらいものであった。
「隊長!我々だけでも侵攻しましょう!報告によればまだ対空火器が市内に残っています!せめてこいつらを撃破して、空軍を支援させて下さい!」
「俺だって行きたいのは山々だ、だがなぁ!ここで俺らが消耗したら誰が街を取り戻して守るんだ!それに・・・」
攻めたい。攻めて空のエース達を少しでも援護したい。それはここにいる海兵隊全員の希望だった。もちろん、ディビスだって同じだ。だが、彼は隊長であり、一時の感情で動いてはいけないことも分かっている。感情で動いて得をしたことなんて今まで無い。だから今回も同じに違いない―そう自分に言い聞かせている。それがとてつもなく辛い。だが、負ける訳にはいかない。負ければそれは部隊の壊滅につながる危険があるからだ。
ディビスが葛藤している時、その通信は入ってきた。
「こちらクラックス!グレイプニルのSWBMランチャー破壊成功!待機中の航空部隊は至急現場に急行して下さい!」
また南十字星がやったのか。俺らも頼ってばかりじゃいけねぇな―
「よぉし!決心着いた!全部隊進撃!南十字星を援護すんぞぉ!」
「Sir!Yes,sir!」
今までで一番威勢のいい声が返ってきた。みんな見ていられなかったのだ。そして、自分達で自分達の街を取り戻したかったのだ。
エイブラムスが低く重いエンジン音を轟かせ進んでいく。彼等の家を取り返す為に。
「ディビス大尉。こちらはバーグマン少佐だ。まだ進撃許可は出ていないぞ?」
「いいんですよ、どうやら我々もヤキが回ってきましてね。空軍の無茶癖が移ったんですよ」
「奇遇だなぁ。我々もそうなんだ。あと数分で市内へ突入出来る。海兵隊は南側から攻め行ってくれ」
「分かりました。ご武運を」
「お互いに、な」
ったく、あの野郎またしても俺らを出しぬきやがった。絶対今度はこっちが出しぬいてやる―

加速する戦場の時間はそんな考えも過去へと押し流そうとしていた。





 2011/01/23:子鶴軍曹さん Rspecさんから頂きました。
「空飛ぶデカブツは、遥か昔からのロマン! わかるか?」
「分かるような分かんないような」
「そしてそれを叩き潰すのも、ロマン!」
「……巨大な敵を打ち破る理論ですね」

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