こちら岐阜基地航空管制、ゼロ・セト、コールはカイトに。カイト、滑走路進入許可
カイト了解。滑走路に進入する
岐阜基地航空管制、Eゼロ・チェイサーはカイト離陸後に滑走路に進入してください
Eゼロ・チェイサー了解。カイト離陸後に滑走路に進入
岐阜基地航空管制、カイトに離陸を許可します。Good luck
カイト、了解。離陸する


外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第一話


背中で高鳴る排気音とともに、フランカー・ゼロは地を駆け、空に舞い上がった
「こちらカイト。Eゼロ・チェイサー、フラッシュAJ-26の燃焼に異常なし」
「こぉらぁ〜っ。一哉っ、それあたしの仕事っ」
頭に声が響いた
無線でもコ・パイロットでもない
ゼロ・セト。俺、北見一哉少尉が操るこの機体は、現在飛行開発実験団の所有する唯一のMLシステム機だ
一部では実戦配備されているMLシステムだが、まだ不安要素や新型装備品の発展の余地がある
2053年、9月12日。六月に行われたエアショーで突然発表された米軍の新型機FX−11
その機動性はフランカー・ゼロをも凌ぐと噂されていた
極秘にMLシステム機の実験を2050年頃からはじめていた日本空軍だが、この機に対応するにはMLシステム機でも不安が残る
お蔵入りになっていた新型エンジンの搭載はそんな中出てきたものだった
とは言っても新型エンジンには不安が残る。最終的な相性をチェックするのは、この飛行開発実験団だ
「わりぃ。セト、チェイサーとリンク確立。エンジンの燃焼状況を送信」
「うん、今やっとるとこ」
HUDの隅にLINKの文字が出る
新型エンジンとしてMLシステム機に搭載予定のフラッシュAJ-26だが、機体特性との相性、MLシステムの相性のまだ未知数
もし異常がなければ、実戦部隊のMLシステム機に搭載される
「セト、ほかの箇所の異常は」
「うんっと・・・すべて異常なし。燃料消費量の調整もうまくいったみたい。前回より5%改善」
「よし、訓練空域へ向かう。小松基地の航空隊は?」
「まもなく離陸して訓練空域に出る予定。やっとかめやて。実戦試験は」
「やっとかめ・・・?」
「あっ、久しぶりってコト」
生まれも育ちも岐阜基地だったせいか、セトの言葉には時々意味不明な方言が入る
「そうだな。新型エンジンの慣熟運転が忙しかったからな」
新型エンジンは巡航速度も少し上がっている。以前よりも早く福井県上空から日本海海上に出る
レーダーに青い影が映る。小松基地所属のSu-37jk
「こちら第303飛行隊、第二、三飛行小隊。飛行隊長の木元少佐だ。そちらは二機か?」
「いや、後ろのはチェイサーだ。訓練、実戦テストは当機一機のみだ」
「いくらMLシステム搭載機でも六機相手では・・・」
どうやらMLシステム機と戦ったことのないパイロットらしい
「たかだか六機程度、十五分もかからんさ」
「な、なんだと・・・よし、ヘッドオンですれ違ったらスタートだ。いいか」
「りょーかい。シージャッジにデーター転送」
シージャッジとは海上用訓練システム。早期警戒機によるミサイルシュミレーションに代わる装置
海軍の地方隊所属の小型イージスのフェイズドアレイレーダと模擬ミサイル、ACMI(空戦機動計測装置)からのデータから命中を判断する装置
領海近くで日常的に訓練を行う場合は、こちらのほうがコストが安く上がる
「向こうも編隊組んだみたいだがね。レーダー感度は87%」
「ミサイル確認」
「AAM1・4基、AAM2・5基、AAM3・3基、GUNに650発」
「了解。セト、いくぞ」
正面から迫る六つの機影
すれ違いざま、見えないと分かっていても敬礼を交わすのが訓練の礼儀
「カイト、エンゲージ」
後方警戒レーダーで感じ取った六機のブレイク方向
上方向に二機、左右に一機づつ、下に二機ブレイクするのが手に取るように分かる
MLシステム搭載機特有の機体との一体感
「セト、AAM2、スタンバイ」
声をかけると同時にエアブレーキ展開、斜めひねりクルビットをきめる
機首の向く方向は斜め上方向にブレイクした機体
「カイト、フォックスツー、フォックスツー」
放たれたミサイルをそのまま、クルビットが下を向いたときにA/Bをオン、ダイブする
「セト、AAM3をさらに二つ用意」
一機撃墜の文字がHUDの隅に浮かぶ
ダイブしたさきには下にブレイクした二機
「カイト、フォックススリー、フォックススリー」
一発づつ離れたミサイルは、距離がそう離れていなかったせいか、ろくに回避するまもなく命中
仮想空間上で二つの花火が空に浮かぶ
「一哉、後方に残りの三機」
「距離があるな。チャフ用意」
予想通り、先頭の一機からのミサイルとともにミサイルアラートが鳴る
レーダーミサイルなら心配は要らない。アフターバーナーを使い、相手を引き離す
「温度は?」
「まだ大丈夫。でも、前に比べると圧倒的な加速力だがね」
新型エンジンの性能は上々。ノーマルエンジンの他機を引き離す
ミサイルをある程度引き付け、チャフを撒いてインメルマンターン。高度を稼いで速度を落とす
機首の先には残る三機
「カイト、フォックスワン、フォックスワン」
長距離アクティヴ全弾発射。レーダー感度が高いため、命中はそれなりに期待できる
各機回避行動をとるも、三機のところにミサイルは四発。二発のミサイルに迫られた一機が撃墜される
残り二機はミサイルをかわし、回避行動で見失った敵機を探す
その次の瞬間、一機のHUDに「LOST」の文字
上空にまわっていたカイトがダイブしながらの機銃射撃で一機を落とす
「スプラッシュダウン。残りは?」
「AAM1・0基、AAM2・3基、AAM3・1基、GUNに590発。敵残存機一機」
残り一機
後ろから接近してきたのは、最初に交信をした木本機。カイトはスティックを引き、旋回する。ハイGバレルロール
だが、相手も高度を上げ速度を落としながら旋回をする。ハイスピードヨーヨー
並んだ機体は互いを前に押し出そうと機動を繰り返す
上昇に移ったカイトを追いかける木本機
だが、その予想位置にカイトは存在しない
次の瞬間、HUDにはLOSTの文字
「スプラッシュダウン・・・っと。何とかうまくいったな」
高等技術、ホバリング。機体重量よりもエンジン出力の大きいSu-37jkは、うまく速度を合わせればホバリングも可能
ただ、バランスを崩せばスピンに陥るし、照準を合わせるのにもベクターノズルでの微妙な調整が必要だ
「こちら第303飛行隊、第二、三飛行小隊。さすがだな。感服したよ。こちらの負けだ」
「何。ノーマルチューンの機体でここまで追ってこれるなんてたいしたものさ」
「いや。最後のホバリングは見せてもらった。そろそろ訓練時間終了か。またお手合わせ願うよ」
「了解。状況終了。帰還する。」
夕暮れになり、日が沈む日本海上空で六機のフランカー・ゼロか翼を振り、ブレイクしてゆく
それを見たもう一機のフランカーも翼を振って答えた
その一機はチェイサーを従え南に向かう。飛び立った鶴が巣に戻るように

日が沈み、街の光を下に見ながらタッチダウンし、カイトは岐阜基地に着陸した
タキシングしてエプロンで停止
ヘルメットを脱ぐと同時に主翼の付け根に光が現れ、人の形を作る
小柄な、黒い髪をポニーテールにした女の子
「お疲れ、セト」
「あ〜。本当にえらかった(疲れた)。そろそろ夕食の時間でしょ。はよ行かな」
地上係員に後は任せ、機体から降り立つ。セトもぴょんと翼から降りた
地上整備員から少し離れた位置に小さな女の子が立っていた
外国人だろうか。金髪の小学生ぐらいの女の子
「こら、勝手に入ってきちゃ危ないよ。早くおうちに帰りなさい」
「何よ、ここに立ってちゃいけないわけ?」
流暢な日本語に驚くも、基地内に部外者を入れるわけにはいかない。研究施設もあるから軍機も豊富だし
「もうこんな遅い時間なんだから、早く帰らないとお母さんが心配するぞ。ほら、帰った帰った」
「子ども扱いしないでよ。ち、ちょっと、無理やり追い出そうってわけ?」
騒ぎを聞きつけて整備員たちが駆けつけた
「どうしたんですか、北見少尉」
「いや、この子が勝手に入ってきたみたいでさ。ちっとも帰ろうとしないんだよ」
「いるんですよね〜、そーゆーガキが。ほらほらお嬢ちゃん帰る時間だよ」
「うるさ〜い。さっきから私を子ども扱いして・・・こら、離せぇ〜」
暴れるその子をとり押させる整備員
「どうしたんだ、騒がしいぞ」
やべぇ・・・三菱の出向社員・・・
この人は何かにつけて「これだから公務員は」とか「これだから軍隊は」とか言ってくるいけ好かないやつ
「い、いや、勝手にこの子が入ってきてしまって」
「まったく、警備体制がなってないな。軍機が漏れたらどうするんだ。これだから軍隊は・・・」
と言いかけたところで、その三菱社員は固まった
それを見てにやりと笑う侵入小学生
「お勤めご苦労様だな、橋本研究員。層流翼の計算を終わったのかね?」
「あ、え・・・いえ・・・。お、おい、お前らっ・・・そ、その方を離せっ!!」
言われるがままにその小学生(?)を離す
乱れた襟を直し、小学生とは思えない顔で三菱社員(橋本だっけ?)を睨む
「ちょうどいい機会だ。私のことをこいつらに紹介してくれたまえ」
「は、はいっ。お、お前ら。こ、この方はノエル・スホーイ様だぞっ」
固まる整備員たち・・・しかしその間からぼそぼそと話し声
「だ、誰だ?ノエル・スホーイって?」
「さぁ?聞いたこともねぇぞ・・・」
真っ赤になって震える三菱社員。血管切れるぞ・・・
「馬鹿者っ!!フランカーを作ったスホーイ設計局のご令嬢だ!!」
今度こそ、みんな固まった


2004/03/09 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
いいですね〜、チェイサー! Eゼロ・チェイサーは、Su-37jkEを小改造したデーター採取機だそうです。あの巨体ですからいろいろ積めますねw 後、セトもかわゆい方言でイイ! ノ、ノエルたん・・・イイ!
萌えますたw
実験団の物語・・・戦争の裏方。これも一つの戦いですなw

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