「うわっ、重っ」
機体の下に取り付けられた大型ミサイルのようなもの
もともと大型ミサイルを取り付けるようできていないゼロにとって、これはかなりの負担だ
「こんなんつけて飛べるの?ノエルちゃん」
「理論上は飛べるはずだ。新型エンジンの出力もあるから艦上からでも飛べるはずだ」
取り付けられるミサイルを眺め、頷くノエル
輝くミサイルの先端のCCDカメラ。中にあるのはひとかけらの青い石

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第三話

「じゃあ、簡単に説明する」
ブリーフィングルームのホワイトボードの前に立つノエル
白衣を着たその姿は研究者にも見えなくもないが、理科の実験に挑む小学生にも見えなくもない
だいたい、背が届かずに段ボール箱に乗ってホワイトボードを書くのが情けない
「今ミッションは、新型MLシステム装備のテストだ。試験機と空中で切り離し、ドッキングだ」
「質問〜」
「なんだね、北見少尉」
「機体の下側にドッキングするこの機の場合、目視でドッキングするのは不可能なんだけど」
「ふっ、その点はぬかりはない」
ぬかりはないって・・・さすがロシアの天才児、すばらしい日本語を使ってくれるが
「このミサイルはMLシステムの応用版だ。まるでミサイルから見ているような視覚が得られる。
 それにある程度近づいて信号を出せば自動的にドッキングする」
「へぇっ、すごいシステムじゃないか。なかなかやるな、ノエル」
そう言うとつまらなさそうにそっぽを向くノエル
「いや、私の担当はミサイルの空力設計。他はほぼ日本独自の技術だ。あのウワジマとかいう男、なかなかやる」
詳細なフライトプランを書かれた紙を渡された
「あと、チェイサーだが、私も乗るからな」
「え・・・の、ノエルが?」
「当たり前だろう。チェイサーは高機動はしないし、状況に応じて私が指示を付け加えることもある」
「いや、そうじゃなくて・・・」
小首をかしげるノエル
「背、届く?チェイサーの座席に」
ホワイトボードのイレーザーが顔面に激突した

「カイト、離陸する」
スロットルを上げ、離陸に入る
荷物が重い分離陸は遅い。いつもより長く滑走して、テイクオフ
「脚上げOKっと・・・やっぱり重いか、セト」
「重い・・・けど何とか。チェイサーとLINK確立しとくで」
機体の情報がチェイサーのほうに流れているだろう
「こちらチェイサー、ノエル。どうだ、そっちは。ラブラブしてるか?」
「こちらカイト。こっちは異常なし、足はブラブラしてるか?」
空中戦ではなく舌戦・・・
「・・・試験を始めるぞ。ミサイルを起動してくれ」
「了解、セト、ミサイルにモーニングコール」
ちくっと頭に痛みが走る。ちょっぴり痛い
「チェイサー、なんだか妙な感触があるのだが。頭に痛みが走るような・・・」
「ああ、意識の一部を移す・・・ようなものかな。とにかく害はない、安心したまえ」
「ついでに顔がじんじん痛いのだけれども・・・」
「自業自得だ、害はない」
冷静なこといいやがって・・・大人びた行動をとろうとしているが、からかられるとついカッとなるのだろう
他の研究員とは硬い喋り方をするのに、セトにはかなり打ち解けた喋り方をする
俺とは・・・どうなんだろ、呼び方はいまだ北見少尉だし・・・
「一哉、何よそ事考えとんの。もう用意終わっとるよ」
「おっ、悪りぃ。チェイサー、追尾用意はいいか」
「こっちの準備は完了した。発射してくれ」
「了解。カイト、リリース」
切り離された実験装置
大型のミサイルのような形をしたそれは、少し落下して翼を開く
ターボジェットエンジンに点火、機を追い越す
まるでミサイルから見ているような独特の感触
「カイト、ミサイルを旋回できるか?」
「了解、やってみる」
まるで体を動かすよう。意思のままに旋回を始める
旋回性能は良くない、大きな8の字を書く
「よし、次は上昇と下降してくれ。1000フィートづつ」
「了解」
上昇性能も大してよくない。まあミサイルなんだからしょうがないが・・・
「カイト、本体の機体姿勢が乱れている。意識を少しだけ本体に戻せ」
気づくと機体がバンクしている
ミサイルに集中しすぎると機体の制御がおろそかになる
「一哉、私も手伝うから」
「ああ、頼む。ミサイルの安定を保ってくれ」
傾いていた機体を戻し、ミサイルに意識を戻す
上昇と下降も問題ない
「よし、カイト。ドッキングテストに移る。ミサイルを機体後方へ」
ミサイルは大きく旋回し、機体の後ろ側に回り込む
自分の乗っている機体が見えるとはなんとも奇妙なものだ
誘導用の目標ラインが視覚に重なる
「表示されたラインのとおりに進め、そして指定された位置で五秒間間隔を保て」
「了解」
ミサイルは旋回性が悪く、エンジン出力の調整が効かない
意識を飛行機とミサイルの両方に振り分け、じりじりと機体に近づく
「一、二、三、四、五・・・おっと・・・」
いきなりミサイルと機体のコントロールが体から離れる
プログラム作動、レーザーの十字で細かい位置を合わせ、機体とミサイルが寸分の誤差のない位置をとる
ドッキング装置がミサイルを捕まえる
「ドッキング完了。十秒間目を瞑って深呼吸しろ」
言われたとおりに目を瞑り、深呼吸しながら十数える
目を開くと元の感触。コクピットに座る自分
「セト、どうだ?異常はないか」
「うん、なんもないよ。なんか変な感じ」
「よし、こちらカイト、ドッキング成功」
「了解、状況終了、そのまま帰還する」

フライトの作業を終え、自室に戻る途中だった
「ああ、一哉少尉。少しいいかね」
呼び止めたのはここの基地司令だ。俺が敬礼すると「あっ」と小さく声を上げて、遅れてセトが敬礼する
基地司令は側の会議室に招きいれた
「実戦試験ご苦労さん。近いうちに実戦部隊のMLシステム搭載機に新型エンジンを搭載することが決まったよ」
やはり自分の仕事が実戦機に生かされるのは嬉しい
それでだ、と基地司令は切り出す
「今日試験したミサイルだが、フル射程で試験を行うとなると実験する場所がなくてね」
しつもーん、とセトが手を上げる
「別にミサイル程度だったらここらへんでも実験できる射撃場がないですか?」
「いや、このミサイルの射程は500キロ以上だ。海上の島に向けて射撃を行うしかないが・・・なかなか場所がなくてね」
ばさっと広げた大きな地図。二箇所マークがうってある
「2033年に米軍が撤収して譲り受けた硫黄島射撃場ですか?」
「いや、あの基地は建物が多くてね。それに他の部隊の訓練予約もたまっている。そうなると・・・」
基地指令の指は西につつーっと動き出し、一点でとまる
「沖大東島空対地射撃場。君には沖縄に移動してもらうことになる」


2004/03/18 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
今回はMLM-1とMLTR-1に繋がる物体のテストでなw
飛んできたチョークと「ラブラブ」「ブラブラ」その他もろもろで笑いましたw


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