クーラーの聞いた部屋、床に寝そべりながらテレビを見る至福のとき
「ねぇねぇ、一哉。見て見て〜」
顔を覗かせるのはセト。髪留めは新しいハイビスカスの髪留め
「何?何か変わっているの?」
「え〜、一哉。気づいてよぉ・・・」
とっくに気づいているって
「さて、そろそろフライトの時間かな?行くぞ、セト」
「あ、一哉。待ってよ」
振り向きざま、思い出したように言ってみる
「そうだ、そのハイビスカスの髪留め、似合ってるよ」


外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第四話


暑い・・・
クーラーの効いた室内から出てきたから、余計暑く感じられる
10月15日。すでに秋に入っているのに、この暑さは尋常じゃない
沖縄、那覇基地
ここには艦上機と長距離ミサイルの実験をする飛行開発実験団那覇分隊がある
「ご苦労さん。ミサイルの取り付けと整備は終わっているぞ」
ここの整備班長
取り付けられているのは前回の改良版、巡航ミサイルとしての使用を想定している
空力設計を手伝っているノエルはまだ向こうでいくつか実験があるらしく、こっちにくるのは数日後だそうだ
「ありがとうございます」
「ブリーフィングは終わっているな。それじゃ、ミサイル、壊すなよ」
機体に乗り込み、スティックを動かしながら動作確認
「どうだ、セト。整備の具合は」
「うん。ここの整備班長さん。とっても整備が上手」
セトも上機嫌みたいだ
エンジン始動、電磁始動式のファンが回転し始める
ディスプレイに表示、[READY?] [ML.System SETO] タービンの回転計が、安定域へ。電磁モーターOFF。[READY] 
滑走路に向けてタキシング
「こちらカイト。那覇管制、離陸許可を願う」
「那覇管制、離陸を許可する。グットラック」
滑走路に入り出力を上げる
程なくして離陸
「どうだ、セト」
「う〜ん、前より少し軽くなった感じがする。でも対空ミサイルを積んどるし」
こっちに来てからフライトの際は対空ミサイルを必ずつけている
実戦に近い実験をするためにという理由もあるが、岐阜に比べてこちらはテロの脅威が大きいのも一因だ
2050年の侵犯機撃墜、他にも同様の事件は後を絶たない
敵と遭遇しない保証はどこにもない
「リンク接続済み、ミサイル発射地点まであと少し」
後ろに随伴しているチェイサーは那覇基地所属のものだ
「ミサイル、スタンバイ」
ちくっと頭に痛みが走る
二、三回繰り返しても慣れることのない微妙な感触
「チェイサー加速」
「よし、ミサイル発射支援システムオンライン。ミサイル・・・リリース」
切り離されたミサイルが少し落下し、ロケット・モーターに点火。一気にマッハ3.0まで加速する。
前とは比べ物にならない加速力。ミサイルとしての高速性を優先したタイプ
マッハ3.0到達後、丁度固形燃料が切れ、ロケット・モーターが切り離される。そこからラムジェット推進、速度を更にマッハ4.2へ
後ろから引き離されながらも必死でミサイルを追いかけるチェイサーが見える
あらかじめ教えてもらっておいた沖大東島のイメージを思い出す
現在は無人島だが、その昔はリン鉱石採掘のために2千人の在島者がいた
その頃住んでいた人たちの残留思念をたどる
途中関係のない思念に引っ張られそうになりつつも沖大東島へ向かう
「見えた・・・あれか・・・」
空対地射撃場、沖大東島
目標地点は・・・見えた
目標地点は目前
視覚だけでなく感覚までミサイルに乗り移っているので、まさにミサイルに乗っているような気持ちだ
自分の感覚を移したミサイルを目標に当てるのは、さながら特攻
避けてしまいそうになる恐怖心を押さえて突っ込んだ
目の前に迫る地面
そして、衝撃、レンズがつぶれる。ブラックアウト
「っく・・・セ、セト・・・」
「こ、怖かったぁ・・・死ぬかと思った・・・」
目を開けると、ついものコクピット内
これは・・・尋常じゃなく怖い
地面に自分から突っ込む
自分から墜落するようなものだ
「こんな兵器使ってたら・・・まいっちまうよな・・・」
「そうだよね・・・あれ?」
妙な感覚が来る
何機ものレプシロ機の編隊・・・これは・・・零戦?
次々と米軍空母に突っ込むゼロ戦たち
とめどなく流れ込むイメージ
自分がまるでその機に乗っているように感じる
対空砲火を潜り抜け、空母に迫るゼロ戦
そして甲板めがけてフルスロットルで降下する
甲板の上にいる米兵と目が合う。ひどく怯えた顔のその米兵
そして・・・
「セト、イメージを遮断だ。早く!!」
「くぅぅっ、こ、怖いよぉ、や、やだぁ・・・だめっ・・・」
[ML.System down]とディスプレイに表示される
くそっ、最悪だ・・・
MLシステム緊急遮断、サブシステムに移行・・・
間に合わない、機体がきりもみに入る
おちつけ、おちつけ・・・
[ML.System out] 
迫る海面
「二度も三度も堕ちてたまるかぁっ」
エンジンオン。スティックを引いて機体を安定姿勢に戻す
「セト、セト。大丈夫か・・・」
「あ、ああっ、か、一哉ぁ・・・」
今にも泣き出しそうな声
「大丈夫だ、大丈夫だから・・・」
セトを慰め、無線で管制を呼び出す
「こちらカイト。那覇管制、応答せよ。機体に異常発生、緊急着陸を願う。コントロールは正常・・・」


2004/03/19 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
鎌土達の使用したMLM-1・・・それのプロトタイプですな。あれはヤヴァイですよぉ、何せ命中の直前まで“見えて”ますから。セトも過去を見てしまったようですね、何せ沖縄はある意味“一番最悪”な戦場でしたから。


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