10月19日、23時55分・・・
基地は緊迫感につつまれていた
ジェインの予告した時間まであと五分
基地内のすべての機体に取り付けられているミサイル
ピンはすでに抜いてある。いつでも引き金を引けるしるし
アラートハンガーに待つのは通常機とは異なるカラーリングの機
Su−37jk フランカー・ゼロ“セト”

外洋機動艦隊外伝   蒼穹の守り
第六話

あの日から毎日実戦訓練が行われた
俺たちには優先的に訓練空域が割り当てられた
しかし、文句を言う人は誰ひとりとしていなかった
むしろ、みんなからかけられたのは励ましの声
この基地唯一のMLシステム機パイロット
岐阜基地のほうからも戦局の安定まで沖縄基地の防空にあたることが認められた
基地司令はこの基地が攻撃される危険性が高いことを訴えられていた
しかし、本土の防衛が優先されて那覇基地増備計画は却下
さすがにいきなり日本まで侵攻してこないだろう、アメリカ大陸制圧を先に済ませるのではとの意見が大半だったらしい
万が一攻め込まれたら・・・防ぎきる能力はなった
唯一、防げる可能性があるとしたら・・・そう、自分たちにかかっていた
MLシステム機は一機で従来の機の中隊をも上回ると言われている
もちろん、現場での噂で多少誇張も入っているが、一機がそこまでの戦力を持つということは、戦争の質的変化までをおこす
全員でまとめて襲い掛かっても、勝てるかどうかわからない相手
そんな敵が戦場にいたら・・・戦場は恐怖に包まれる
MLシステム機同士の模擬空戦以外で落とされたMLシステム機はほとんどいない
俺たちだって無敵じゃない・・・でも、みんなが信頼してくれている
俺たちはアラートハンガーの中、エンジンを暖機しながら待っている
万が一、攻撃があってもいつでもすぐ飛び立てる
一時間前には基地司令じきじきに激励の言葉をいただいた
「すまない、こちらの基地の事情に巻き込んでしまって・・・しかし、頼れるのは君たちだけだ。沖縄県民134万人の命・・・君に預けたぞ」
そういって申し訳なさそうに頭を下げた。将官クラスの司令が、尉官クラスの俺にだ
期待・・・されているのは分かっている
でも、そこまで俺は戦えるのだろうか
主翼の上に座っているセトを見る
俺が守れるのは・・・コイツ一人で精一杯なのに・・・

10月19日、23時59分57…58…59…10月20日
時間と同時、基地内のテレビに中継で映し出されたジェイン
「愚かな国の者達に告ぐ。我々は寛大にも4日待ったのだ。それでも返事はNOである。したがってこれより我がアメリカは、愚かな国々に対し、宣戦を布告する。それでは神の慈悲があるように」
何が寛大に待ってやっただ、一方的にそっちが仕掛けた戦争だろう
そんなことを思っても仕方がない。俺はただの一兵なんだから
と、緊急通信が入る
「沖縄沖に敵艦発見。発射されたトマホークがこっちに向かっている。全機緊急発進!!」
まさか、宣戦布告とともに攻撃?
しかもそれが沖縄だと・・・
攻撃の可能性が高いことは分かっていた
でも、どこかで本当に攻撃されることはないだろうという甘えもあった
くそっ、真珠湾攻撃よりましか?予告があった分
「一哉。いつでも離陸できるよ」
セトが機体と同化しながら言う
アラートに入っていたのでエンジンはすでにかかっている
「カイト、離陸許可を願う」
「那覇管制、離陸を許可する。グットラック」
無線はすばやく言い、管制作業に忙殺されている
一気にフルパワーで離陸する
後ろから次々に飛び立つ戦闘機群
無理もない、今この基地にトマホークが迫っているのだから
「こちら第五高射群、第17高射隊。ヒマラヤ対空ミサイルでトマホークを迎撃する。ミサイルコリドー確認……ファイヤ」
基地の一角から光があふれ、ミサイルが飛び立つ
「セト、レーダー感度は」
「レーダー感度10%以下。ヒマラヤもあたるかどうか・・・」
管制からの通信が入る
「こちら南西航空警戒管制隊。全機へ。西からヒマラヤが撃ちもらしたトマホーク接近。できるだけ迎撃してくれ」
「了解、カイト、エンゲージ」
いくつものエンゲージの声が無線の向こうから聞こえる
ミサイルの位置が分かりづらい。レーダー感度は悪い。迎撃の効率は落ちる
「一哉、長距離ミサイル用意はできとるよ」
「了解、カイト、フォックスワン、フォックスワン」
惜しげもなく全弾投射。撃ちもらしたら基地に当たる。贅沢は言ってられない
周囲のゼロたちからも一斉にミサイルが放たれる
遠くに照明弾かと思われるほどの光が輝く
「全弾撃墜・・・か?」
「一哉、あれ!!」
機体の側を数発のトマホークが駆け抜ける
追いつけない・・・
ミサイルはそのまま基地の鶴や毒蛇たちの上に落ちる
流れ込む思念
『ぐっ、こ、こんなところで・・・』
『いやだ、こんなところで死ぬのはいやだ。誇り高く空の上で・・・』
『助けて・・・死にたくない・・・母さ・・・』
飛び立つこともできないで、地上でむざむざ死んでいったものたち
ジェット燃料を浴び、生きながら燃える者
機体ごと粉々になるもの
「こちら那覇管制。ランウェイは使用不能、繰り返す、ランウェイは・・・あっ、た、助け・・・」
引きちぎられるようにして無線が途切れる
少しして同じ周波数で違う声
「管制、沖縄基地に引き継ぐ。こちらもランウェイは使用不可。レーダー感度低下、迎撃管制はほぼ不可能に近い」
くそっ、開戦数十分で管制システムは全滅か・・・
バックミラーの向こうに赤々と燃える基地が見える
流れ込む残留思念に頭が痛くなる
「セト、大丈夫か。無理するな」
「大丈夫・・・っ、まだ戦えるから」
地上からの迎撃管制も途切れ途切れにしか聞こえない
地上部隊はほぼ全滅・・・
空に上がれた部隊は半数以下に過ぎない
やはりトマホークの探知が遅すぎた・・・
「一哉、敵機接近。一時の方向」
「了解。セト、AAM2スタンバイ」
「分かった・・・前方よりミサイルアラート!!一哉、避けて!!」
トマホーク迎撃でこちら側は長距離ミサイルは使い切った
あとは敵の長距離ミサイルを交わして近距離戦に持ち込むしかない
レーダー感度が低下しているものの、二機三機と火の玉になる
「ロックオン・・・フォックスツー」
ミサイルをヘッドオンで放つ
もう基地は存在しない、帰るところも・・・ない
最悪の空戦が、今幕を開けた


2004/03/25 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
始まりましたな、沖縄戦!! 沖縄制圧はかなりのハイペースで行われたので・・・これから起こる戦闘が目に浮かぶようです。
本国軍上層部の怠慢・・・そして世論の認識不足・・・いつの時代も変わりません。


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