空戦は一機でできるものではない
地上レーダー、早期警戒機、仲間の戦闘機のレーダー
いくつものレーダーでデーターリンクし、地上の迎撃管制から効率よく迎撃できるよう誘導される
しかし、頼れるものなどどこにもいなかった
味方機の大半は地上でトマホーク攻撃にあい、壊滅
迎撃管制もトマホーク攻撃を受け、ほとんど機能していなかった
そして、基地はすでにトマホークを受け使用不能
燃料も、弾薬を補給することもできない
そして、最悪の悪夢が目の前にある
空を埋め尽くす、F-15FFG/25の群れ・・・


外洋機動艦隊外伝   蒼穹の守り
第七話


放たれたミサイルが敵に向かう
R-73jkFの改良版。飛行開発実験団オリジナルの新型空対空誘導弾
IRイメージ誘導により、赤外線画像として敵機をとらえ、誘導するもの
通常タイプより画素数を上げ、また感度自動調節により、敵の姿をいつでも捉えられる。ロケット燃焼時間も格段にアップ
ヘッドオン射撃での命中精度が格段に上がり、交わされても推力偏向ノズルで追いかける
実験段階でまだ正式配備もされてなく、基地のストックも少ないが、今日は出し惜しみなしだと整備班長が笑って付けてくれた
「その班長も・・・お前が・・・」
あの爆撃下、砕け散る命たちの思念の中にあの班長の心もあった
『すまない・・・美弥子、弥生・・・お父さんは帰れそうにない・・・』
一瞬ミサイルを交わしたように見えたが、それでもミサイルは追いかける
敵の残留思念が流れ込む
『な、なんだこのミサイル、や、やめてくれ・・・うわぁぁぁっ』
爆発
航空技術の粋を集めたジュラルミンが砕け散り、夜の海に落ちてゆく
かまっている場合はない、その間にも後方に敵機が迫る
絶望的な戦いが繰り広げられているのはここだけではない
陸から地対艦ミサイルが放たれ、海に向かい、最新鋭艦を漁礁に変える
お返しとばかりに海からロケット弾の雨が降り注ぐ
『ふふ、俺もひいじいちゃんと同じ靖国神社行きか・・・』
『うぐっ・・・ジェイン様・・・万歳・・・』
『助けてくれぇっ、俺はまだ・・・やりたいことが・・・』
『故郷に残してきたあいつ、分かれなきゃ良かったかな・・・あいつのことを想って死ねたら・・・よかったの・・に』
砕け散る命、命、命
「セト、っく、大丈夫か」
「命が・・・だ、大丈夫だから。まだ・・・戦えるから」
砕け散る命の間、俺はがむしゃらに敵を堕とし続ける
アサルトフランカーやF−2Mさえ、対艦攻撃が終わっても引かない
いや、引けないのだ。基地にはもう降りられない。戦い、果てるしかない
機動性に劣るアサルトフランカーたちはいいカモだった
ミサイルに吹き飛ばされ、粉々になって堕ちてゆく機体。脱出は・・・ない
「フォックスツー・・・スプラッシュダウン」
機内に警告音、ミサイルはもうない
「一哉、いったん基地に戻って・・・」
「バカヤロウ。もう基地から通信は来ない・・・誰も・・・生き残ってない」
唯一残されたガンを使って戦う
味方機はほとんど残っていない
何機もの敵が襲い掛かる
「セト、フレア射出」
「だめっ、もう一発も残ってない!!」
くそっ、と毒づき、複雑なマニューバを繰り返してなんとかミサイルを撒く
「ねぇ、一哉」
「なんだ・・・今忙しい」
「私・・・役に立っとらんのかなぁ・・・」
「・・・」
「さっきから・・・一哉にフォローされてばっかりで・・・さっきもギリギリで・・・」
「そんなわけ・・・」
敵を目の前にひねりこむ。機銃が敵の胴体を打ち抜き、パラシュートが花開く
「スプラッシュダウン・・・そんなわけないだろう。弾は後何発?」
「あと約200発。被弾は後ろ水平尾翼に一発、主翼に一発かすり傷」
「セト・・・お前・・・」
「大丈夫、これくらい・・・大丈夫だから」
実体化していない今はセトは機体と同化している
被弾したとき、泣き言も言わずに耐えてくれた
「なぁ、セト」
「何、一哉・・・」
「・・・前の話はお流れになったけどさ、戦いが終わったら、一緒にまたきしめん食べに行こうな」
「・・・うん、楽しみにしてるから・・・」
愛しかった、失いたくなかった。でも、戦局は限りなく絶望的だ
レーダーにはもう青い光点は見当たらない
伝えたい言葉が、山ほどあった
いろいろ言葉を考えていた、でも、声に出せなかった
体力も、燃料も、弾も、すべてが限界
「くそっ・・・かわし切れない・・・」
迫りくる曳光弾のスピードが遅く感じる
そして、命中
「くうっ・・・さ、左右エンジン火災発生、消火・・・」
セトが叫ぶ。二機ともエンジンは止まり、もう動き出すことはない
「か、一哉、ねぇ、一哉。大丈夫?」
「ははは、わりぃ、セト・・・もう・・・動けない」
コクピットの中は血に染まっていた
砕けた部品が腕を深くえぐった
血がどくどくと流れ出す。手の先が冷たい
「もういい、もういいからぁっ。一哉、ベイルアウトしてよぉ・・・」
セトの声はすでに泣き声だった。泣いているあいつの顔を思い出す
「お前をおいてはいけない・・・それに、脱出レバーも握れない・・・」
手の感触はほとんどない
脱出レバーを引くこともできない。それに、俺だけ脱出できない
あふれ出した血がぬるっとして気持ち悪い
血が足りない。頭がぼんやりして、目の前が時々暗くなる
「一哉・・・あのね・・・」
「なんだ・・・セト・・・」
「私・・・あなたのことを愛してる。世界で一番愛してる」
まさか、こんなところで愛の告白を聞くとは想わなかった
もう死が決定したその時に
「俺だって・・・愛してる・・・」
「私、一哉と離れたくない。一緒にいたい。だけどね・・・一哉が死んじゃうのは・・・もっといやだから」
一度消えたディスプレイに再び灯がともる
コンソールシステムに流れる文字
Seto have Control. Ejection system,on-line.
「だから・・・さよなら・・・」
Bail out system...start
K-36DO射出座席のシステムが作動し、シートが倒れ、対G姿勢となる
吹き飛ばされるキャノピー、下に押し付けられるものすごいG
外の冷たい空気を感じ、目を見開いた
煙を上げ、下に堕ちてゆくセト
「セ・・・ト・・・」
雲の間に機体が消えるの手前、セトが手を振っている気がした
とめどなくあふれる涙と、血
目の前がだんだん暗くなっていった


2004/03/25 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
セトォォォォ! やりましたな最終手段。強制脱出!! 主人が居なくなった機体はどうするのか?


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