「私、一哉と離れたくない。一緒にいたい。だけどね・・・一哉が死んじゃうのは・・・もっといやだから」
セトの目から光が零れ落ちる
次の瞬間、セトの腹部は機銃によって打ち抜かれる
セトは光の粒となって消えてゆく
「だから・・・さよなら」

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第八話

ぼんやりと目を開いた
まっしろな何か・・・
ここは、天国か?それとも地獄か?
死んだなら・・・そうだ、セトに会いに行かないと・・・
「あら、起きたの」
突然上から声がかかった
天使だ・・・とは思わなかった。こんな小太りしたおばさんの天使がいたら嫌過ぎる
「ここは?」
「日本軍那覇病院。今日は10月30日。あなたは砂浜に倒れているところを救助されてここまで来たの。目を覚まさなかったから心配したわ」
そうか、まだ、生きてるんだ・・・
涙があふれてきた
守れなかった・・・セトを
あれだけの戦力差とか、基地がどうだとか、そんなことは思わない
俺の力が足りなかった・・・それでセトを失った・・・それだけだ
「ともかく、目が覚めたんなら大丈夫ね。昨日からあなたにずっと付き添ってた小さな女の子がいるんだけど・・・」
セトか?いや、それはない。小さな女の子とは言わないだろう
少し考え、その看護婦は言った
「あなたって・・・ロリコン?」

開け放たれた窓から風が吹き込む
頬をなでる風も、もうどうでも良い
「どうだ、体の調子は」
久しぶりに会った少女
その少女とお喋りしたり、久しぶりに会って「やっとかめ」と言う人は、もういない
ノエルは淡々と話し出した
10月20日、あの日、沖縄は陥落した
最初のトマホークミサイルで航空部隊の半数以上を失い、制空権はクーデター軍のものだった
あの基地司令も、最初のトマホーク攻撃を受けて死んだ
最後まで司令部にとどまっていたらしい
それからしばらくのあいだ、クーデター軍の占領下に置かれた沖縄だったが、10月25日、第二外洋艦隊が到着しクーデター軍への攻撃を始めた
糸満市、豊見城市、そして那覇市解放
北部で粘っていたクーデター軍も、28日、ついに降伏したらしい
クーデター軍降伏とともにノエルは沖縄に来た
「それから・・・フランカー・ゼロ“セト”の残骸が発見された」
分かっていたことだった。セトが、助かるわけがなかった
一粒、目からこぼれた涙をノエルは見逃さなかった
「・・・何を泣いている・・・」
答えなかった。涙声まで聞かれたくなかった
「情けない。情けないぞ北見少尉」
ノエルは立ち上がった
部屋を出るとき、ノエルは小さく言い残した
「私には・・・まだできることがある。北見少尉、君にもだ」

ベットからは意外に早く出られた
それからはリハビリの毎日だった
右手も治癒がだいぶ進み、動かすのに支障はなかった
ただ、その傷跡は一生消えることはないだろう
どこそこのお偉いさんがいらっしゃって、長々と口上をたれ、特別功労章とやらをおいていった
気が付かない間に五機以上も落としていたらしい。これはゼロ・セトの残骸の中の記録から分かったことだ
別に誇らしいともなんとも思わなかった
自分の一番大切なものを守れなかったんだから
体を動かしている間はそんなことは気にならなかった
毎日をリハビリに費やした
医者は回復力を驚き、もうすぐ飛行許可を出せるといっていた
しかし、俺は飛ぶんだろうか
戻るんだろうか、セトのいない空に・・・
退院が明日に迫った11月19日、俺はノエルに呼び出された
玄関に隊差し向けのリムジンが横付けされている
そこにいたのは金髪の、小さな女の子・・・ノエル

町は活気を取り戻していた
ところどころ崩壊している建物もあったが、人々の生命力は強い
「今日は北見少尉にに見せたいものがある」
俺たちを乗せたリムジンは進む。ところどころ抜け落ちているけれど、どこかで見た風景
「那覇基地・・・か」
「そうだ、そこに向かっている」
ふぅっと小さく息を吐いた
「俺はもう戦闘機には乗らない」
「どうして?」
「セトのいない空には戻る気がしない。もう、二度と空は飛びたくない」
「セトが、この先でセトが待っていたとしてもか?」
耳を疑った
セトが・・・セトが待っている
「残骸が見つかった話はしただろう。砂浜に不時着したため、機体はぼろぼろだった。でも、形は保っていた」
ノエルが見せた一枚の写真
砂浜に墜落しているフランカー
飛行開発実験団のマークが付いたこの機体は、間違いなく俺のフランカー・ゼロ“セト”
「こっちに来てから即座にそれを回収させた。散らばっている部品もできるだけ集めさせた」
リムジンがいったん止まる。小銃を構えた兵士が敬礼している脇を通り抜ける
「幸いMLシステムのブラックボックスはなんとか生きていた。しかし、機体と同化している場合は機体の破壊が死につながりかねない」
「それじゃあ、セトは・・・」
「大丈夫・・・なはずだ。できるだけもともとの部品を使いリストアした。だか、元の部品は全体の60%、微妙な数字だ」
リムジンは止まった
降りると、そこは那覇基地の格納庫のひとつ。飛行開発実験団が使ってたものだ
「開けてくれ」
巨大な格納庫の入り口が開く
中には一機のフランカーゼロ
飛行開発実験団のマーク、水色に紺色でラインを縁取りし、青のラインが駆け抜ける。セトのオリジナルカラーリング
あのときとまったく同じカラーリング
そして、セトと出会った時の、MLシステム特有の共鳴感・・・
「あとは君しだいだ。私たちにできることは、すべてした」
「ノエル・・・」
「何だ」
「ありがとう」
「礼を言われることをした覚えがない。私はただ大切な友達を・・・セトを取り戻したかっただけだ」
そっぽを向くノエル
機体の前に立つ
目を閉じてセトとすごした時間を思い出す
はじめてあったときの驚き、よろこび
セトと飛び回ったあの日
ノエルと一緒にセトにからかわれたこと
そして、セトを失ったあの日
今度つかまえたら、二度と離さない
ずっと、セトを守り続ける
「セト・・・出てきてくれ」
機体のノーズギアのあたりに光が集まる
MLシステムの光・・・
そして、その光が固まり、姿が現れた
間違いない。髪の毛は解いているけど、間違えることはない
「セト・・・」
目から涙が零れ落ちる
その少女は辺りをきょろきょろ見回し、言った
「あの、すみません・・・どなたでしたっけ?」


2004/03/30 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
セト復活!! でも・・あれ? 記憶が・・・
うあ・・生きてたのは不幸中の幸いだが、これはこれで最悪の方向ですな。


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