月明かりがハンガーを照らしていた
ほの暗い半月の月の光
月の光に浮かび上がるシェルエット
フランカー・ゼロ[セト]


外洋機動艦隊外伝   蒼穹の守り
第十話


「セト、出てきてくれ・・・」
ノーズギアの前に集まる光
髪を解いたセト
「あの・・・一哉さん・・・ですよね」
「ああ、そうだけど、どうして名前を」
「ノエルちゃんから聞きました。昨日いろいろ検査をしたときに」
セトは俯く
記憶を失う前には考えられなかった表情
「記憶は・・・どうなのか?」
セトの表情が曇る
「・・・ごめんなさい。私、何も覚えてないんです。いきなりあなたがマスターだって言われても・・・分からないんです」
重い沈黙が流れる
その沈黙を振り払うように、わざと明るく言った
「なぁ、今から飛ばないか?」
「えっ・・・」
セトの驚いた表情。まとめていない髪がさらりとなびく
「でも、私、飛び方なんて・・・」
「大丈夫。不安定だけどMLシステムなしでも飛べるし、それにきっと体が覚えてるって。ダメかな」
セトは俯き、しばらく考え込んで言った
「あの・・・お願いします、マスター」

「こちらカイト。那覇管制、離陸許可を願う」
「こちら那覇管制、離陸を許可する。グットラック」
スロットルをぐっとおしだす
あれ以来の久しぶりのフライト、背中に押し付けられるGの感触
月明かりの下、ふわっと浮き上がる機体
「わわっ、わわわわわ・・・」
「セト、大丈夫か」
「だ、大丈夫です・・・けど・・・」
「けど?」
少し考えてセトはいう
「うまくいえないんですけど・・・なんだか懐かしい感じです。それに・・・なんだか気持ちいいです」
「そっか、じゃあ・・・」
下でギアが格納される衝撃
フラップを戻し、スティックを引き上げた
「おかえり、セト。空に」
緩やかな円を画きながら空を舞う
思い出していた、初めて空を飛んだあの日を
初等練習機のプロペラ機に乗り、初めて空を飛んだあの日を
自分の翼で初めて風を切り、空を飛んだ
後ろの教官は怖かったけど、お陰で俺は空を手に入れられた
初めてのジェット機の加速感、猛烈な対G訓練
卒業と、百里基地配属
伸び悩んでいた俺に手を差し伸べてくれた、あの人
訓練空域に達したことを確認し、エアブレーキ展開、スティックを引き上げる
前に進みながら、機体は一瞬で上を向く。フランカーの得意技、コブラ
「わわっ、か、一哉さん・・・」
「セト、ホバリング。出力とベクトルの調整を手伝ってくれ」
スティックの微妙な調整で排気の偏向を調節し、スロットルはホバリングを持続できる微妙な領域へ
いつもよりふらつくも、ホバリングを保てる
「セト、落ちるぞ」
すっとスロットルを下げ、後ろ向きに落ちてゆく
スティックをひねって機体を下に向け、失った速度を取り戻す
そのままループ。そしてループの機動に入ってインメルマンターン
高い空から海を見下ろす
「どうだ、セト」
「なんだか・・・体が覚えているみたい・・・ちょっと痛いけど」
「じゃ、もう少しやるか」
速度が落ちているところをクルビット
視界がぐるりと妙な角度で一回転
そして真下にダイブしてスプリットSを決める
空にいくつもの円を描く
ヴェイパーをまといながら、さながらダンスのように空を舞う
「どうだ、セト。何か思い出したか?」
「ごめんなさい・・・でも・・・」
セトがすっとコントロールを取り、バレルロールさせた
「とっても気持ちよくて、楽しいです。マスターと空を飛べることが」
大人しいマニューバをいくつか繰り返すセト
セトがループさせる。開始地点と終了地点が寸分の誤差なく重なる見事なループ
機体のコントロールはほぼ完璧にできるみたいだ
「マスター・・・あの・・・さっきくるくる〜って回ったの、どうやってやるんですか?」
「あ、クルビットか。初めにコブラのほうから練習しないとな。セト、こっちにコントロールまわして」
エアブレーキ展開。速度をギリギリまで下ろし、スロットルを微妙に調整しながらスティックを引く
強いGとともに視界が回り、半分の月が目の前に広がる
あの時・・・初めてコブラを教わったときと同じ月・・・
ころあいを見計らって機首を戻す
「どうだ、セト。分かった?」
「えっと・・・難しいです・・・でも、やってみます」
十分に、失速の限界まで速度を落としてから機首引き上げ
でも、スロットルの調整がうまくいかずにスピンに入る
「わわっ、か、一哉さん」
「大丈夫、まだ高度はあるから、落ち着け」
程なく機体は安定を取り戻した
そうだ、俺もそうだっけ。しょっちゅう機体のバランスを崩して・・・
それでもあの人はしっかり見てくれたな
二、三回コブラを練習する
自分の体だけにその動きはすぐ上手くなってゆく
燃料系に目をやる
フェイル・・・ビンゴ
燃料がもうないことをセトに伝えると、セトは基地へ機首を向けた、
最後に機体をバレルロールさせる
久々にに感じた風を体に浴びるように


2004/04/01 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
記憶が無くても、ラブラブですなw コレなら何とかなるかも・・w
くるくる〜が可愛いですw・・・げふっ(もみじのボディーブロー+アリスの無表情睨み)


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