エンジンはすでに停止
機体はみるみる高度を下げてゆく
手の届きそうなくらい近くに見える家々
動かないエンジンでは一度失速したらあの世行き
「北見少尉。早く脱出しなさい」
「でもっ、麗華センパイは・・・」
「私は機体を市街地からそらしたら脱出する。北見少尉、脱出を」
「で、でもっ・・・ここからじゃ・・・」
麗華センパイは振り向き、微笑んだ
「大丈夫、私、約束を破ったことないでしょ」
「・・・分かりました。必ず脱出してくださいね」
シートの横の脱出レバーを引く
シートが倒れ、対G姿勢になって打ち出される
パラシュートが安定したところで機を探す
ふらつきながら、何とか市街地から離れ水田地帯にたどり着く機
いきなり光とともに衝撃が押し寄せた
鼓膜が破れそうなほどの大音響
そして、落ちてゆく機体のかけら

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第十一話


「マスター。マスターったら・・・」
目を開けると、心配そうに俺を見つめるセトの姿
額を腕でぬぐうと汗でびっしょり
「どうしたんだ、セト・・・」
「それはこっちの台詞ですよ。なんだか嫌な感じがして、部屋を覗いたら北見さんがうなされてて」
MLシステムの感応とかだろうか
久しぶりにあの夢を見た。部屋にある小さな冷蔵庫からスポーツドリンクを取り出し、喉に流し込む
「あ、あのっ、北見さん・・・」
振り返ると心配そうに俺を見るセト
「何か、心配事でもあるんですか。良かったら・・・」
「ほっといてくれ」
自分でもびっくりするほど冷たい声
びくっとセトは震えた
「ご、ごめんなさい。私、おせっかいですよね。勝手に部屋に入ってきてすみません。失礼しました」
扉のしまる音が後ろで聞こえた
「最悪だ・・・俺・・・」
呟いた声は誰にも聞こえずに、闇の中に霧散した

「おはようございます、マスター・・・」
しょんぼりした表情で機のところで待っていたセト
その表情は見ているだけでつらい
「あのさ、昨日は・・・」
「ごめんなさいっ」
びくっと頭を下げるセト
「あの・・・私、マスターの気持ちも考えないで・・・勝手なこと言ってしまって・・・」
そう言って下げられた頭をなでる
驚いた顔して顔を上げるセト
「続きは・・・空でしないか?ここではちょっと話しづらいし、二人っきりになれるし」
「・・・は、はいっ。分かりました・・・」
慌ててこくこく頷くセト
その後ろで揺れる髪は・・・

訓練空域に到達
でも、機体は動かさない。オートパイロットのまま
「セト、好きに飛ばしてみる?」
「え・・・でも・・・」
「大丈夫。昨日の復習みたいなもの。でも、ゆっくり。ちゃんと綺麗にあわせて」
セトが緩やかな円を画いて飛ぶ
軽いループ、そしてバレルロール
「どうだ?」
「やっぱり、自分で風をきって飛ぶのは気持ちいいです」
そっか・・・初めて自分を出して飛べたときのこと。そしてあの人
「なぁ、セト・・・」
「?」
「昨日は・・・ゴメン」
機体が水平飛行に移る
セトは無言のまま
「一番、思い出したくない夢だったんだ。昔あった、一番思い出したくない思い出の」
空は、いつもと変わらず蒼く輝く
あの日も、今日と同じよく晴れた日だった
「それで、俺、混乱してて・・・ゴメン・・・」
「そ、そんなっ。気にしてないですよ。勝手に部屋に入った私が悪かったんだし・・・」
セトの慌てる様子が目に浮かぶ
「なぁ、セト。俺が昨日どんな夢を見たか・・・知りたいか?」
実体化していたならば、びくっとしたことだろう
なんとなく、雰囲気で分かる
「え、でも・・・」
「俺が見ていたのは、飛行開発実験団に来る前のこと。昔、ブルーインパルスに所属していた頃のこと」
上を見上げる。上空を細くたなびく白い雲
「俺が飛行開発実験団に来る前のこと、記憶を失う前にセトに一回話したんだ。他の人にはほとんど話した事ない」
目をいったん閉じる。暗闇の向こう、風をきる音だけが聞こえる
「本当の事言うと、誰にも話したくない、思い出したくもない。でも、それがきっかけで俺はセトに出会えたんだ」
目を開く。眼前に広がる紺碧の空。セトと飛ぶ空
「聞きたくないんだったら、言ってくれ。でも、これからもずっと俺のパートナーを勤めるなら・・・聞いてくれないか?」
セトが口を開く
「私、あなたのことが知りたいんです。どうしてそんなに寂しそうなのか・・・いつも明るいようだけど、心の奥はなんだか暗いんです。
私・・・マスターの力になりたいから・・・」
ため息をつく
この話を他人にするのはどれぐらいぶりだろう
シートに体を預け、上を見上げながら話しはじめた


2004/04/20 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
おおっと、そんなひでーこと言っちゃダメですぜ、少尉。過去をもう一度語って、セトを取り戻せ!(何


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