「それでは、本日のメインイベント。ブルーインパルスによる展示飛行です」
背筋を伸ばし、他のメンバーと横一列で行進する
ここの部隊に転属してから二年が経った
本番も何度か繰り返し、いつのまにかプルーインパルスのレギュラーメンバーとして定着していた
自分の機の前で別れ、整備員に敬礼。Gスーツを装着する
ヘルメットとマスクをつける。シートベルトを付けてくれた整備員が離れ、はしごを取り外す
「エンジン、始動」
麗華センパイの声
「了解、カイト、エンジン始動」
エンジン始動の声が次々と無線から聞こえる
電磁始動式のファンが回転し始める
ディスプレイに表示、[READY?] タービンの回転計が、安定域へ。電磁モーターOFF。[READY] 
「カイト、エンジン始動完了」
「了解、全機エンジン始動完了。タキシングに入る」
スロットルを少しあげ、タキシング開始
整備員に敬礼。タキシングを続け、滑走路に入る
「スモークとエンジンのチェック」
エンジンを吹かし、異常がないことを確認。スモークも正常に出る
「カイト、異常なし」
「了解。全機異常なし。管制塔から着陸の許可は出ているから・・・Take off!!」

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第十三話


エンジンの出力が高まり、離陸する
先頭の麗華センパイの機、コール、ヴェーチェルの斜め後ろ下、四機目の位置にに陣取る
右の一機は自分よりもずっと先輩の巌中尉。コールはウォノミ。麗華センパイよりブルーインパルス歴は長いが、ここでは実力が物を言う
左側のはプリースト。狐守夏紀少尉。俺と年はそう違わないが、向こうのほうが練習期間が長い。腕は・・・俺より少しだけ上手いかな
「スモーク。旋回するよ」
旋回しながらスモークを出す。脚は出したまま
密接した編隊のまま、会場上空をフライパスする
「スモークオフ、ギアアップ。編隊をさらに小さく」
編隊の間をさらに狭める
手が届きそうなほど近くに見える僚機
会場に背中を見せるように旋回しながらフライパスする
「よし、ちょっと編隊は大きめにね。あれ、いこっか」
「え、でもあの技は・・・」
「大丈夫。この二人は問題ないし。カイトもだいぶ上手くなってる。いいね」
麗華センパイの声
「ウォノミ、異論はない。はじめるぞ」
「プリースト。了解。カイト、しくじるなよ」
そっちこそ。と返し、前を見つめる
練習では何度も上手く言った技
本番では初挑戦だけど・・・やってやる
「よし、全機エアブレーキ展開用意。その後に技を決めるから。タイミングは指示する。エアブレーキ・・・ナウ」
合図と同時にエアブレーキ展開
背中のエアブレーキが立ち上がり、前へのGとともに急減速。後ろで鳴る風の音
地面が近い。恐怖感を押さえそのときを待つ
「逆Gコブラ・・・ナウ」
くっと機体を前に倒す
機体は真下を向くが、そのまま前に進み続ける
地面までの高度はあまりない。観客の上、すごい速度で流れる地面
「リバース・・・ナウ」
機体が元の方向を向く
逆Gコブラ成功。ほっと息をつく
「カイト。まだ安心しないの。まだまだ行くよっ」
「はいっ」
「ブレイクするよ。全機決めてあった方向にブレイク・・・ナウ」
ヴェーチェルは上に、ウォノミは右に、ウルベースは左に。そして俺はそのまま直進
ここからはヴェーチェル、麗華センパイ単機の演技
上昇していたヴェーチェルの速度が遅くなる
そして、空中で静止
ホバリングからエンジンの推力を横にずらし、テールスライドを決める
エンジンのオフ。機体は横に倒れ、そのままひらひらと落ちてくる
そのすべてが計算し尽くされた完璧な動き
地面すれすれでリカバリー
そのまま滑走路すれすれで上を向きながらのテールスライド
「再集合。もう一度編隊を組みなおす」
「了解」
ヴェーチェルが高度を取り、それぞれの機が集まってくる
「スモーク。レインフォール、行くよ」
そのままループし、レイン・フォール。地面すれすれで左右に広がりながら引き起こす
あとはいくつかの慣れた演目をこなすだけ
下に目をやる。観客たちはこっちを見ながら大歓声を上げていることだろう

エンジンを切り、Gスーツを機内で脱いで地上に降り立つ
整備員に敬礼。そして握手をする
「それでは、見事なアクロバット飛行を見せてくれたメンバーを紹介しましょう。四番機。北見一哉少尉」
呼ばれるのと同時に歩き始める
周りから聞こえる拍手。ここでの飛行で四回目の本番だけど、だんだんファンの間にも名前が知られてきた
「三番機、狐守夏紀少尉」
きゃ〜っと女の子たちの黄色い声。手を振って答えるキザな男、夏紀
こいつは基地祭があるとその度に女の子をナンパして歩く
隊の風紀が乱れるとか、言ってくれないかなぁ・・・言ってくれなさそうだ。うちの隊長は
「二番機、巌泰三中尉」
ごつい岩山のような巨体が歩き出す
こんな巨体、よくあんなに小さなコクピットに納まってたな・・・
麗華センパイよりもプルーインパルス暦は長いけど、ここは実力主義社会
でも、自分よりずっと年下の麗華センパイに文句ひとつも言わずに命令を聞いているのはすごいな・・・
「そして一番機、我らがアイドル、麗華少佐です」
いままでで一番大きな声援
腕では超一流だし、容姿も人並みはずれた麗華センパイはファンの中では有名で、ファンクラブまで存在する
全員一列に並んだところで花束をもらった
麗華センパイに花束の次にマイクを渡される
「みんな、来てくれてどうもありがとう」
観客からの声援が響く
「このあとブルーインパルスのグッズ販売と、サイン、握手会もあるから来てね〜」
うぉぉぉっと響く男性陣の歓声
こりゃ絶対航空祭じゃない。アイドルのライブのようだ・・・

「あ゛〜、疲れた」
休憩室のソファーの横になる
強いGにもまれた体は気持ちよくソファーに沈む
終わった後にさらに続いた握手会
新入りの僕にサインを頼むような人はあまりいなかったけど、麗華センパイの方には長蛇の列
さすが、話題の人は違うよ・・・
ガチャ・・・とドアの開く音
ドアの向こうから現れた岩山のような巨体
「巌中尉、お疲れ様でしたっ」
慌ててソファーから立ち上がり敬礼をする
立たなくてもいいといった風に手を振る巌中尉
「あっ、お茶を入れてきますね」
返事はない・・・が小さく頷いたようだ
新しく茶葉を入れ替えた一番茶
ゆっくり蒸らして淹れたそれ前におくと、小さく頷く巌中尉
基本的に無口な人。でも、技術的には麗華センパイに匹敵する
「お疲れ様でした、中尉。流石でしたねぇ〜。動きがキビキビしてて。俺なんか遅れそうになりましたし」
相変わらず無言
まあ、この人相手に話をするときはいつもこうだ
「でも、町田少佐。大人気ですよねぇ。あんな曲芸飛行ができるようになればいいのになぁ・・・」
「お前には無理だ」
低く重く響く声
その大きな手に包まれる湯飲みは、まるでお猪口のように見える
「気づいているか・・・お前」
「え、何のことっスか?」
お茶をすすり、下を向いたまま目だけでこっちを見る巌中尉
「あれだけの曲芸飛行をして、地上で握手会をやって、疲れた様子ひとつ見せないんだ。あの機動。何Gかかってると思っているんだ」
俺たちと同じ機動をした後、さらにそれよりもハードな個人演技
それを終えた後でも、確かにセンパイは疲れた様子ひとつも見せない
「あいつは・・・化け物だ。凡人が何年かかっても追いつけやしない。・・・恐ろしい女だ」
話は終わりだとばかりに、飲み終えた湯飲みを置いて与えられた部屋に入る巌中尉


2004/04/20 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
まさにアイドルですな、先輩は。そして最後の一言・・・・・・・「あいつは化け物」 うん、それ言っちゃったらMLシステム機パイロットは皆化け物_| ̄|◯
因みにコブラ機動は4.5Gです。


第12話へ  第14話へ
戻る  トップ