空を舞う、まるで妖精のような華麗な演技
しかし、パイロットにかかるGは計り知れない
ブラックアウト寸前のGと戦いながら舞うものたち
国の威信をかけて舞う、もうひとつの戦士たち・・・

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第十四話


「お疲れ様、北見くん」
もうすでに機から降りた麗華センパイが、俺の機のコクピットを覗きながら言う
完全に体が動かない
エンジンを切ったところで全体力を使い切ってしまった
「あれ?北見くん、動けないの? 情けないなぁ〜、男の子なのに」
「せ、センパイが・・・凄すぎるだけですよ・・・」
今日は二人っきりで練習・・・という言葉にだまされた
単機での高機動技の猛練習。センパイの指示するマニューバは容赦ない
コブラを上回る6Gを超えるマニューバの連続。ブラックアウトの世界に半分足を突っ込んだマニューバ
センパイの見せた機動を単機で真似するだけの練習、周りの機に気を使わなくていい分楽なはずなのだが、かかるGが恐ろしい
鉛のように重い腕での繊細なスティック操作
それを何十分も続けて疲れないほうがおかしい
「え〜、私なんてまだまだだよぉ。ねっ、北見くん。お昼ごはん食べに行こっ」
「センパイ・・・待って・・・まだ動けない・・・」

本当に鉛の塊になってしまったのかと思うぐらいの体を抱えて食堂に
ホント、練習生の時以来にパニックボタンを使用してしまうんじゃないかと思ったぐらい
さすがにフライトレコーダーに使用記録が残るとカッコ悪いもんなぁ・・・
テーブルに伏せ、肩で息をしている俺
目の前で平然とカレーうどんを食べている麗華センパイ
「あれ? 北見くんは食べないの?」
「あんなすごいマニューバをした後に平然とカレーうどん食べているセンパイの方がどうかしてます」
あんな今にも胃の中身が逆流しそうなマニューバを繰り返して、その後にこってりカレーうどんだなんて・・・
俺はぼんやりとセンパイの食べているさまを眺めるだけで精一杯だった
おいしそうにカレーうどんを食べるセンパイ
その左手薬指にある銀色の指輪
どんなときもセンパイはあの指輪を欠かさずはめている
誰があげたんだろう。あの指輪・・・
「この後もう一度フライトがあるんだから、何かお腹に入れておかないと辛いよ?」
「いや、マジで、本当にこのままじゃ離陸すら危ういんですけど・・・」
「大丈夫、今度は私の機の後ろの席に乗って見学しているだけでいいから」
なるほど、それなら何とか耐えられるだろう。正直気を失っても墜ちることはないだろうし
センパイなりに俺のこと、気遣ってくれてるみたいだ・・・
「思いっきり飛ばすからね〜。何か食べておかないと体、持たないよ。あっ、でも戻すのはやめてよね」
前言・・・撤回

半分死にそうになりながらも麗華センパイの機動に耐える
金華山沖上空
さっきからマニューバのお手本だか対G訓練だか分からない訓練が続いている
「北見くん、大丈夫、生きてる?」
「ダメ・・・死んでます」
「その調子ならまだ大丈夫だね。もう一丁いくよ」
「だ、ダメッ、センパイ。そ、それ以上はうわぁぁぁっ・・・」
天地が反転し、世界がぐるぐる回る
気を失いそうな強烈なG
「ふむ、まだ気絶してないか。それじゃあもっと・・・」
「センパイ・・・今度やったらマジで死ぬ・・・」
「冗談だよ。燃料余っているから、すこしぶらぶらしながら帰還するね」
今までとは違い、やわらかい旋回にほっと息をつく
「すごいですね・・・センパイ。俺なんか耐えているのが精一杯で・・・」
「そんな・・・私、まだまだだから・・・あの人に負けてられないから・・・」
「あの人・・・って?」
そう聞き返した俺に慌てて言うセンパイ
「な、なんでもないよ・・・私もまだまだだなってこと」
「怪しいな〜、誰ですか?あの人って・・・」
なんだか嫉妬しちゃうな・・・センパイの憧れの人だなんて・・・
「もうっ、北見くんには関係ないでしょっ、それっ」
「わ、あ、ち、ちょっとセンパイ・・・それはダ、わぁぁぁぁ・・・・」
俺の悲鳴はループを繰り返す機の中で消えていった

「あ゛〜、五回ぐらい死んだ」
死ぬかと思ったをはるかに超えた経験を今日一日で何回も繰り返した
それでも風呂はその凝り固まった疲れを少しだけ癒してくれた
この宿舎には交代で入る小さな風呂が一つ
下っ端の俺は入るのが一番最後・・・って、でも、長風呂が好きなセンパイは一番最後に入るって言ってたっけ
「センパイ〜、風呂空きましたよ」
部屋に呼びかけても返事は返ってこない
テレビのある食堂にもいなかったし・・・こうなると、後はハンガーかエプロンかな?
「まったく、戦闘機が好きな人だねぇ・・・」
湯冷めしないようにジャンパーを着て、外出た

センパイはエプロンの自分の機の前で立っていた
声をかける事ができなかった
満月の明るい月明かりを浴びて立つセンパイ
黒く長い髪が月明かりを浴びて輝く
それは、この世のものとは思えない幻想的な風景
一枚の絵に収めたら最高の美術品になりそうな風景
「あれっ、北見くん、どうしたの?」
先輩の声で我に返った
「あ、あっ、センパイ。お風呂空きましたよ」
「ん、了解。わざわざありがとうね」
センパイは宿舎に向かって走り出した
「あっ・・・」
声をかけようと思ったけど、それよりセンパイの方が早かった
声をかける前にセンパイとの距離が開く
一瞬正面から見えたセンパイの顔
その目は確かに赤くなっていた


2004/05/22 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
確かに戻しは無しですな、コクピット内がゲロまみr(以下略)
そして薬指の銀色指輪・・・それは“アレ”を誓った証。


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