麗華センパイの憧れの人
そして、ハンガーで見た先輩の涙・・・
いつも笑顔で笑っている先輩の見せた涙が気になった
空に浮かぶのは、大きな満月・・・

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第十五話

「おはようございます・・・麗華センパイ・・・」
「おはよう、北見くん・・・ってあれ、あんまり眠れなかったの?」
「い、いえ・・・大丈夫です」
実を言うと、確かにあまり眠れなかった
昨日の先輩の見せた涙
あの幻想的な風景はそのまま幻だったかのように、今日のセンパイはいつも通り元気だ
「それじゃ、今日の練習は・・・あれ?」
センパイが見上げた方向
逆光でシェルエットしか見えないが、あの音は・・・
「Su-37jk・・・おかしいな。この基地にはないはずなのに・・・」
松島基地にあるのはブルーインパルス用のSu-37jkTBといくつかの練習機
あとF−2Mと偵察隊や早期警戒機、救難隊の機体だけだったはずだけど・・・
着陸進入してくるその機体
光の角度かずれ、機体があらわになる
一つの部隊にのみ許されている緑色のまだらのカラーリング
パイロットたちが最も恐れ、そして最も尊敬する部隊
「フランカー・ゼロ・アグレッサー・・・どうしてここに・・・」
軍最強とも言われるパイロットたちを集めた部隊
戦競時の敵機役を務めたり、各基地を回って空戦の敵機役を勤める航空総隊飛行教導隊、通称アグレッサー部隊
「今日来る予定、ありましたっけ?センパイ?」
返事がない
振り返った先には、いつもの優しいセンパイからは想像できない厳しい表情
その視線の先にはみどり塗装のSu-37jk
目の前のエプロンに入り、エンジンを停止させたその機体
キャノピーが開き、男が出てくる
「町田、久しぶりだな」
「深沢大佐・・・私用で新田原からここまで飛ばすなんて相当暇なようね」
「千歳からの帰りに少し寄っただけさ。それに、完全に私用って訳でもないだろう」
センパイがため息をつく。その仕草はいつもより心なしか冷たい
「その話なら前にも断ったはずよ。何度も蒸し返さないで」
「今この国が置かれている状況が分かっているのか。いつまでもくだらない遊びを・・・」
センパイの目が鋭く深沢大佐を睨みつける
その視線を軽く受け流し、深沢大佐は軽く笑った
「それじゃ、一勝負と行くかね。場所は金華山沖。そっちがSu-37jkTBな分だけパワーはセーブするが・・・」
「ハンデはいらないわ。こっちの地元で風の流れが分かる分だけこっちが有利だから。帳消しよ」
もうすでに機体の準備は整えられ、麗華センパイは俺の事なんか忘れて機体に乗り込もうとしていた
「さっさと準備しなさい、深沢大佐。まさか、燃料が足りないなんて言い出すんじゃないでしょうね」
「まさか、こうなると思って空戦に程よい分だけ燃料は残してある」
ムカツク奴。と麗華センパイは呟き、キャノピーを閉めた
深沢大佐は俺に目を合わせ、軽く笑った
「まったく、こうすぐ熱くなるところは昔から変わっていない。さて、君も基地のレーダーから空戦を見たらどうだね。きっと面白いものが見られるぞ」
そういい残し、ひらりとコクピットに乗る大佐
二機ともタキシーアウトしたあとに残されるのは俺とジェット排気の残り香
かん高い離陸音ではっと我に返り、レーダー室へ走り出した

「マジかよ・・・信じられねぇ」
松島基地のレーダーはものすごいものを映し出していた
フェィズドアレイレーダーでの情報を処理し、いま目の前に投影されている画像
訓練システムの地上側、仮想空間内でのミサイルの飛翔位置や各機の機動、残弾数から燃料まで
戦闘の様子が手にとるように分かるシステムになっている
ブルーインパルスで磨き上げたトリッキーな動きで後ろを取ろうとするセンパイ
しかし、深沢大佐はマニューバ自体は地味だけれども、着実にセンパイを追い上げる
「おいおい、マジかよ・・・あっ、また落とされた」
横で見ていた狐守少尉が呟く
落されたのはセンパイの機
もうかれこれ五回目だろうか
一回目は撃墜までに時間があったが、それ以降は立て続けに何度も落とされる
あのセンパイが・・・だ
無線が流れる
「くっ、も、もう一度・・・」
「そろそろ燃料が切れるころだろ、もう訓練は終了だ」
確かに、センパイの機の残燃料は基地に帰る分しか残っていない
深沢大佐の分は・・・まだ余裕が残っている
大佐の機からはセンパイの機の燃料が分かるわけではないのに・・・
「まだ・・・まだ戦えるっ」
「無駄だ。今のお前では何度やっても勝てない・・・」
センパイは大佐の機の後ろにぴったりとつけ、ロックオンする
大佐の機は巡航速度で悠々と水平飛行し、基地へ向かう
いつでも撃墜できるんだぞと示すかのように・・・
「くっ・・・ヴェーチェル、帰還する・・・」

エプロンに機を止め、機体から降りた瞬間、センパイは崩れ落ちた
「せ、センパイ!!大丈夫ですか・・・」
「大丈夫・・・このくらい・・・なんともないから」
ウソだ
顔が青ざめ、汗でぐっしょり濡れている
ディスプレイに表示されていたセンパイの機のGはいつもすごい値を示していた
さすがのセンパイでもこんなGには耐えられない
しゃがみこんでいたセンパイに影が差した
冷たい視線でセンパイを見下ろす大佐
「まったく、情けない。これほどの素質を持ちながらそれを生かせないとは・・・」
「なん・・・だと・・・」
「貴様の機動には無駄が多すぎだ。Gが強すぎる機動、燃料の消費が多すぎる機動。いくら他の人より飛びぬけてGに対する耐性が強くても、それでもGは体力を奪う。先読みをし、無駄のない戦闘機動ができればこれほどたやすい相手はない」
そんな・・・
簡単に言っているが、センパイの機動は到底先読みできるものじゃない
いつ飛び出すか分からないコブラ、フック、クルビット
それを先読みしているだなんて・・・
「それに、お前の飛び方には迷いがある。相手を追いこむ時の、一瞬のためらい。戦場では死を招くぞ」
センパイの機はいいポジションが取れても攻撃しなかったときがあった
攻撃するときの一瞬のタイムラグ・・・それは命取り・・・
「いつまでこんな遊びを続けている気だ。こうしている間にもこの日本がテロに蝕まれていることが分からんのか!!」
そう言った大佐をセンパイは睨みつける
大佐はため息をつく
「帰って来い、町田。いつまでもくだらない昔のことを引きずっているんじゃない」
「くだらない・・・ですって・・・」
そのままにらみ合う大佐とセンパイ
だが、先に視線をはずしたのは大佐だった
「返答はまた今度でいい。さっさと帰って来い。みなもお前を待っている」
そう言い捨てて給油の終わった機体に大佐は乗り込んだ
ジェットの排気を残し、みどりまだらの機体は大空へ舞い上がった
その機影が見えなくなるころ、どさっと足元で音
「せ、センパイ。大丈夫ですかっ」
苦しそうに腹を押さえ、うめくセンパイ
「だ、誰かっ。担架を用意っ」
遠くで俺の声に気づいた救護班が駆け出した


2004/05/22 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
戦場での迷い事、ためらい事は己のみならず部隊の全滅をも招く。その迷いをいかに“切り捨てれる”かが戦士の条件。
何処まで非情になりきれるか・・・・強さを求めすぎぬよう・・・・


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