あの日のあと、変わったことはあまりない
センパイは、アグレッサーへの誘いは断った
今までみたいに、戦うのが怖いからじゃない
俺と一緒に・・・飛びたいから

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第十七話

「北見くん、おはよ」
「あっ、センパイ。おはようございます」
あれから、一年が過ぎようとしていた
あの日のあとも、二人の関係は特に変わらない
いうまでもなく・・・まあなんだ・・・あーゆーこともしてない
ただ、俺には分かる
センパイのことが・・・
「よっ、北見っ。おはよ」
いきなり後頭部を小突かれる
「い、痛っ・・・何するんだよ、狐守」
「なんかぼんやりしてたから、目が覚めてないんじゃないのか?それともセンパイに見惚れてただけか?」
プルーインパルス一お調子者にして女好きな狐守少尉
ここにいるのも多分・・・
「ところで麗華さん。これから空いてる?いい喫茶店見つけたんだけど・・・」
「何言ってるの。狐守くん。これから狐守くん、私と練習でしょ?」
そうだっけ・・・はははと笑う狐守
ふふふ、センパイはすでに俺のものだぜ、狐守
センパイを口説こうなんて無駄無駄・・・
「・・・ってセンパイ。狐守と練習なんですか?」
「だって、北見君の機体、オーバーホール中でしょ?一緒に飛べないでしょ」
あ゛・・・たしかに・・・
くそっ、センパイと飛べるなんてなんて羨ましい・・・

と、その穏やかな光景がサイレンによって妨げられる
「緊急、緊急。いわき沖方面に向かう多数の機影を確認。F−2M部隊、スクランブルせよ。なお、第四航空団第11飛行隊、ハンガーに集合せよ」
基地中が急に慌しくなる
「狐守少尉、北見少尉。行くわよ」
「了解!」
こんなときの先輩の動きは実にキビキビしている
三人一緒に基地の中を駆け抜ける
途中何人もの人とぶつかりそうになりながらもハンガーについた
ハンガーには一足先に巌中尉がいた
「中尉、現状報告」
「敵機の数が多すぎてF−2M部隊だけでは防ぎきれないらしい。百里、三沢基地からの援軍も時間がかかるため、こっちにも出動がかかった」
「で、でもっ、Su-37jkTBには武装が・・・」
俺が言うと、巌中尉が親指で後ろの機を指した
ハッチが空けられ、ガトリング砲が大型の機械によってねじ止めされてゆく
「Su-37jkTBはいつもは機関砲を取り外してあるが、いざというときはすぐに取り付けられるようになっている。知らなかったか」
よく見ると、ハードポイントにも次々にミサイルがつけられている
取り付けられるミサイルは短距離ミサイルばかり
いつもクリーン状態で高機動な動きを訓練してきたので、機体はできるだけ軽いほうが助かる
「ぐずぐずするな。ヘルメットとフライトスーツの準備は」
「は、はいっ。いますぐ」
俺たちは駆け出した

「機体の準備完了しました」
「よし、全員搭乗」
センパイの掛け声で、みんなは自分の機に駆け寄る
え・・・俺の機は・・・
「北見くん。君は私の機に乗って」
「えっ・・・」
「君の機はいまオーバーホール中だから。私の機の後ろの席に乗ってほしいの」
「えっ、でもセンパイ・・・」
それにね。とセンパイは付け加えた
「見てほしいの。私の空戦を・・・あれ以来、初めてだから」
頷くしかなかった
後ろ側の席に乗り込む。キャノピーがしまる
「松島グランド。タキシング許可を願います」
「松島グランド。滑走路07までのタキシングを許可します。タキシング後タワーにコンタクトしてください」
「了解。ヴィーチェル、滑走路07までタキシング開始します」
センパイのサインとともに滑り出す三機
「センパイ、空戦は・・・」
「あれから、私、訓練したでしょ?北見くんぱっかりに守ってもらうのは・・・かっこ悪いし」
ちょっと振り向いて先輩が笑った
あれから一年。訓練の合間を縫って俺とセンパイは戦闘訓練をした
麗華センパイは戦闘訓練から離れて五年近くが経過していたが、その技術は俺をはるかに上回るものだった
訓練を重ねるにつれ昔のカンを取り戻し、俺では太刀打ちできないほどの腕になっていた
「松島タワー。出発準備完了しました」
「こちら松島タワー。ヴィーチェル離陸を許可します」
「ヴィーチェル、離陸許可を確認しました」
滑走路に進入
三機の三角形を作る
後ろで高鳴るジェット排気
軽いGとともに舞い上がる機体
すぐさま無線
「こちら松島タワー。ヴィーチェル、作戦指令にコンタクトしてくださいグッドラック」
「了解。作戦指令にコンタクトします。ありがとう」
キビキビとした先輩の声
そこにはまったく恐れが含まれていない
「こちらヴィーチェル現在の戦況は」
「F−2M部隊が何とか持ちこたえ、まだ進入していない。しかし、敵機は福島原発を狙っている危険性もある。充分留意せよ」
「了解。早期警戒機よりデータ受信。これより戦闘を開始する」
攻撃が主体のF−2M、防空戦闘ではさすがに見劣りする
百里からの援護は・・・まだ来ない
対空ミサイルも射程外
それまでの防空は俺たちにかかっている
「プリースト、新しい侵入機に備え120へ。ウォノミはこのまままっすぐ、F−2M部隊の援護。でも無理はしないで」
了解、と声がかかり、各機が散開していった
「センパイ・・・俺たちは」
「私たちは最終防衛ラインへ。なんとしてでも原発は守らなくっちゃいけないから」
そう、東京電力、福島原子力発電所は首都圏に電力を送る重要な戦略目標
それだけじゃない。備え付けられた六つの原子炉
そこに攻撃を受けたら・・・周囲は放射性物質で覆われるだろう
「ヴィーチェル、エンゲージ」
F−2M部隊の攻撃をかわしたMiG-29FMが五機こちらに来る
主力部隊を振り切り、安心したところにセンパイのミサイルが降り注いだ
ミサイルが一機を吹き飛ばしたところで、敵が攻撃態勢に入った
四対一。センパイなら負けないだろうけど、振り切られて原発が攻撃を受けてしまえばおしまいだ
負けることが許されない戦いが始まる・・・


2004/05/30 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
ラブラブ(?)な空間から実戦空間へ移行。ようこそ北見少尉、殺し合いの世界へ・・・・
なんて感じですな。戦いの定義は何でしょう? 私は“守る為”です


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