相対速度時速3500キロ
秒速約一キロメートル
見えたと思ったら、すれ違う距離
コンマ一秒のためらいがその命を奪う
そう、それは、空の騎士たちの命をかけた早撃ち・・・

外洋機動艦隊外伝 蒼穹の守り
第十九話

機体に軽い衝撃、それは、発射の衝撃かそれとも命中の衝撃か
刹那、機体が轟音とともにすれ違う
沈黙の数秒・・・
後方警戒レーダーの光点が・・・消えた・・・
「スプラッシュ・・・ダウン・・・」
安堵のため息
周囲に敵機はいない
もうすぐ、百里基地の機も来る・・・
体の力を抜いた・・・とたん警告音が鳴り響く
モニターを見る
左エンジンに火災発生。油圧パイプライン破損、これは直ちに予備ラインに切り替えられるので問題はない
「左エンジンに被弾していました、自動消火装置作動します」
大丈夫、多少のエンジン火災なら自動消化で鎮火する・・・
でも、シミュレーターどおりに、画面は進まない
おかしい。モニターを操作し、破損箇所を詳しくチェックする
破損箇所は・・・
「消火パイプライン破損、エンジン消火できません。火勢は弱まりましたが依然燃えてます!!」
「くっ、エマージェンシー、エマージェンシー、こちらヴィーチェル。被弾し左エンジンに火災発生、消火不能!!」
ここはいわき沖
最も近い空港は・・・民間だけど福島空港か!!
「センパイ。福島空港に緊急着陸を進言します。この程度の火災なら福島空港で持つかと」
「了解。こちら日本空軍ヴィーチェル、福島アプローチ、30分以内に緊急着陸を願う。左エンジンアンコントローラブル」
「こちら福島アプローチ、了解。方位300を維持し、滑走路19に進入してください。消防車の用意をしておきます。レーダー誘導します」
百里からの増援部隊がレーダーに見える
これで、敵の攻撃は失敗に終わっただろう・・・だが
「依然エンジン消火不能、くすぶり続けてます・・・もちますかね、福島空港まで」
「もたなかったら・・・ベイルアウトしかないわね。できるだけはやってみないと」
くすぶり続けているとはいえ、火勢は弱い
うまく福島空港までたどり着ければ御の字、最悪、できるだけ陸に近づいてからベイルアウトしないと・・・
陸が近づいてきた
右エンジンのみの片肺飛行
だが、左エンジンの熱にあぶられ、それも調子が悪い
でも何とか福島県内に入り、いわき上空からのアプローチコースに乗る
「こちらヴィーチェル、福島アプローチ、滑走路18に・・・」
どんっといきなり衝撃音
「右エンジンの出力が急激に低下、持ちませんっ」
「くぅっ、パン パン パン(緊急通信の意味)。こちら日本空軍ヴィーチェル。右エンジンも停止」
右エンジンも、どうやら熱に耐えられなくなったようだ
エンジンが両方ともほぼ死んだ
「こちら福島アプローチ。滑空によるアプローチをできますか?」
「ネガティブ。この速度と高度では到達不能」
多分、福島空港まで、もたない
福島空港へ向かえば、阿武隈高地越えをしなければならないからだ
エンジンが両方死んだ今、阿武隈高地越えは自殺行為だ
それに山岳地帯に落ちても救助は困難を極める
「センパイ、はやく、脱出を」
「もう少し、北に出れば田園地帯がある。そこなら脱出しても大丈夫だから」
センパイは無線を司令部につなぐ
「こちらヴィーチェル、不時着、およびベイルアウトの可能性高し、救助部隊、現在の座標は北緯37度3分、東経140度52分、いわき市上空10マイルほど北上してからベイルアウトの予定」
残り少ないエネルギーで北へ変針する
誰もいない平地じゃないと、安全にベイルアウトできない
いわきの市街地を抜けた北部
市街地から離れ、少しづつ水田地帯もでてきた
「北見くん、先に脱出して。このあたりの田になら脱出しても安全だから」
「でも、センパイは・・・」
「私は後で脱出する、まだ家が完全に途切れたわけじゃないから、私が脱出したらこの機がどこへとんでゆくか分からないから」
でも、機体はかろうじて飛んでいる程度。いつ機体が崩壊するか分からない
下は田畑の中にぽつりぽつりと民家が点在している
この状態で脱出したら、機が民家に墜落する可能性も否めない・・・けど
「でも、いつまで飛んでいられるか分からないでしょ」
「北見少尉・・・君が航空学校で一番最初に覚えたことって何だった?」
え・・・
た、たしか、入学してすぐに読まされたのは・・・
「我ら日本空軍は、日本国民を守るために常に切磋琢磨し、近代の防人として・・・」
「そう、私たちは国民を守るために働いている。命に代えても国民を守らなくちゃならない」
けどね、センパイは軽く笑った
「あなたは、こんなところで死んじゃダメ。君はきっと、多くの人を守れるから。私にしてくれたみたいに、多くの人を助けてあげれるから・・・」
「でも、センパイ・・・」
「大丈夫。私は機体を市街地からそらしたらすぐ脱出する。だから、心配しないで。私、約束を破ったことないでしょ」
麗華センパイは振り向き、微笑んだ
センパイは、約束を破らない人だ
だから、今度もきっと・・・
「センパイ、今日の夕食、一緒に食べましょうね」
「うん、北見君のおごりでね。私、カレーうどんがいいなぁ」
「ははは、分かりました。先に帰ってカレーうどん注文しておきます。だから・・・」
涙声になりそうなのを、必死で堪える。頑張って、笑う
「絶対脱出して、帰ってきてくださいね。カレーうどんが伸びる前に」
「うん、絶対、帰ってくるから・・・」
ダメだ・・・これ以上・・・堪えきれない・・・
シート横の脱出レバーを強く握る
「メイディ メイディ メイディ、こちらヴィーチェル、北見少尉、脱出する・・・」
K-36DO射出座席のシートが倒れ、対G姿勢になって打ち出される
キャノピーが吹き飛ばされ、首の骨が折れそうな振動に耐える
勢いが弱まり、音とともにパラシュートが開く
黒煙を噴きながらふらふらと飛ぶ機
機首を下げ気味にする。その墜落コースには建物は一つもない
早く・・・センパイ、脱出を
刹那・・・
視界が、光であふれた


2004/09/17 誌ー摸乃譜さんから頂きました。
吹き飛ぶキャノピー……それは、さよならの証し? それともセンパイはカレーうどんを食すのか?
原発を守った、あとはセンパイと一緒に。
福島は、私の田舎でもあげふんっげふんっ。


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