良き物は 残る
良き物は 残らない
その所業は 儚きもの
紡がれるもの それは
姿なり


「なあ優哉」
「何だよ松居」
「柚里亜さんってさあ、誰かに似てね?」
「またさん付けか。お前中学ん時から変わってないな〜」
「やかましい」
「ぅ〜…そういえば…そうだ。誰に似てる?」
「忘れた」
「……」



外洋機動艦隊 -mashine with the heart- 外伝
〜終わり無き雲海の彼方に〜
第4章「紹介」
臆病者程…大変なことだ。




「中尉、誰です、そのカワイ子ちゃんは?」
着艦後、百武隊以外のクルーから最初にかけられた言葉だった。
「さて、誰の事かな?」
そのままでは退屈なので、しらばっくれてみる。柚里亜は一言も喋らない。…喋ったところで泣くのがオチだが。
「この子ですよ!」
そういって、柚里亜の服のそでを引っ張る。が…
「うわ〜ん!」
それだけで柚里亜はさっと岡野の後ろに隠れ、怖くて泣き出してしまった。岡野のパイロットスーツは柚里亜の涙でぬれていく。
「あ〜あ、やっちまった」
俺は半ば笑っている。いや、柚里亜の泣く姿は見たくないけど…。あの日の事を思い出してしまう…
「っわわわわ、ごめんよお嬢ちゃん…」
なかなか面白い反応だ。このクルーは、とりあえずハンカチを差し出している。が、柚里亜は気付かず、泣き続けている。
「わわわ…ちゅ、中尉、後お願いします!」
そういって敬礼して逃げていった。
「あ〜あ…柚里亜、そろそろ泣きやめ。恥ずかしいから。あいつはどっかいったぞ」
「ほんと?」
超絶なまでの小声だ。聞き取るので精一杯だ。
「うそをついても意味はあるまい」
「でもマスターこの間…」
「うっ…分かった分かった。居ないから信じろっての」



柚里亜の紹介。最低でも艦長と…この扉の向こうにいる腐れ縁の女1名には紹介しておこうと思い医務室の扉の前にいる。あいつどんな反応するだろう…


−着艦から1時間半後、水仙医務室−
「光?阿知波准尉?」
今度もだ。ただ…親密的な声。昨日のギスギスした声ではない。
「何?」
「何です、安藤中尉」
「だあれ?あなたの後ろにいるのは?」
かなり興味津々。俺の後ろに隠れている柚里亜をのぞき込もうとするが、柚里亜は反対から顔を出し、見事にかわした。
「こいつ?」
柚里亜の頭に手をぽん、と置きながら岡野が聞いた。こいつにしらばっくれるのは止めた方がいい。
「他に誰がいるの?」
「扉の向こうに百武のメンバー」
そう。居るのだ。まあもし居なかったとして、ただ単にからかいたかっただけ、といったらもれなく地獄逝きだ。こいつは…昔から凶暴だった。小学校のときだったか、いす持って襲ってきたこともあった(記憶はあやふやだが)。まあ最近は(中学校くらいからか?)そんな事はない。
「いるんかい…まあいいや。で、その子は?」
「Su-37jkフランカー・ゼロ“ユリア”」
「何つった?」
「Su-37jkフランカー・ゼロ“ユリア”!」
「頭大丈夫?」
まっとうな人ならこう答えるのが普通だろう。そう、まっとうな人。岡野は…
「准尉、説明頼む。俺にゃむり」
説明を覚え切れてないようだ。
「はい。この子は彼らの機体に搭載された…」

話は、准尉の辞書に「終わり」の単語は無いかと思える程、延々と続く。柚里亜はまだ一言も喋らない。

「……ということです。分かりましたか?」
「はあ…なんとなく」
岡野には、沙紀がめんどくさくて聞き流していたことがすぐに分かった。
と、沙紀が袖を引っ張る。
(光?)
(何?)
准尉には聞かれたくないようだ。
(どゆこと?)
……やっぱり…
(まあ戦闘機の心を実体化する不思議システムてこと)
アバウトの固まりのような説明であるが、こうでないと分かってくれない。というか、面倒なのが99%だ。
(ふ〜ん…)
いくら何でも聞き流しすぎだ。少し柚里亜がふてくされている。嫉妬したな?この感じだと。おっと。
「柚里亜、自己紹介。この人は信頼できるぞ」
「ほんと?」
「俺は保育園からこいつと12年以上同じクラスにいたんだぞ」
「ちょっと、「こいつ」はないでしょ!?」
「はいはい」
横殴りがあったが気にしない。
柚里亜は岡野の横に立って、
「ぅ〜…始めまして、柚里亜です、よろしくお願いします!」
…と言って、またくっついた。
「どうにか言い切った!偉い!」
さっき艦長に自己紹介したが、何も言えなかった。まあ艦長があれでは仕方がない。まさに漢だから。
「言い切ったって…」
沙紀が聞く。
「こいつ臆病でさ、すぐ泣きやがんの。まあ艦長はあれだけど…」
「そ」
さて…どうしたものか…うん。こうしよう。
「ええと…准尉! 2人きりにさせよう」
名案だ。女にしかできない話もあることだし。
「え〜!」
柚里亜の猛反発を無視し、准尉に言う。
「いいからでてくぞ」
「はい、中尉」
准尉は何だか楽しそうだ。
「沙紀!」
くっつこうとする柚里亜をくっつかせまいと押さえながら、岡野は言う。
「何?」
「終わったら呼んでくれ」
「はいよ」
「マスター〜……」
泣き顔の柚里亜。


〜医務室扉前〜
「お帰り」
…にやにやしている。4人とも、だ。
「何が起きた?」
「な〜んにも」
二村の言葉…怪しい。
「嘘はよくないぜ二村くんよ。大体4人が4人ともにやにやしてる時点でわかるっつうの」
「だ〜か〜ら隠してないっての」
二村はそう答えた。少し声がうわずっている。
こいつは確か嘘をつくと声がうわずる癖があったな。と言う事は、やはり何か隠しているな。 はてさて、どうして聞き出すかな?


〜医務室内〜
いきなり沙紀は柚里亜をじろじろ見始める。
「ぅ〜ん…」
「えっ…ぁ…」
「普通とかわんないなあ」
「む!当たり前ですよお!」
もろに泣き顔だ。
「失礼失礼…。で、敬語はいいよ」
「え…いいの?」
「いいって。そうねえ、何かあったら相談して。あいつ頭のねじがだいぶ抜けてるから」
「だよねえ…」
柚里亜はくすくす笑いながら答えた。


〜医務室扉前〜
「ハックション!」
岡野がくしゃみをした。
「う゛〜…」
「中でお前の噂でもしてんじゃねえの?」
小澤が聞く。
「だろうな。あいつらのことだし…で?何があったのかな?」
しつこく聞いてみる。
と、4人はさっと集まってこそこそ話し始めた。
「言う?」
「どうする?」
「言わないどくか」
よく聞こえている。おや…元に戻った。
「…で?」
「言うとあれだからいわんどく」
「そ」
余計な詮索はしない方が正解だ。よって、放置。気になるのは山々だが。


それから10分程経ったか、柚里亜が出てきた。
「終わった?」
「うん!」
「じゃご飯でも食いにいくか」
「うん、おなかぺこぺこ!」
「ぁ、でも…」
岡野はある事を思い出す。
「どうしたの?」
「ここジンジャーエールがおいてない」
岡野にとってそれは重大だ。
「……」
呆れて何も言えない柚里亜だった。



−同日午後11時、百武R.R−
「そろそろ部屋に戻るか、柚里亜」
「もう抜けるのかよ、岡野」
たった今小澤をレースゲームでノックアウトした二村が、凶悪なのをさくりと一撃プレゼントしてくれた。じゃあお前らはいつまで居るんだ?と思いながら、
「悪いか?明日は忙しそうだしな」
と答えを出した。
「……何かあった?」
明日は、インド艦隊との合流。そして、曲芸飛行を見せなければならない…と伝えようとする。
が。
「二村、もっかい!」
言う前に小澤のリベンジという名の横槍が飛んできた。
「待っとけ。…で、何?」
「……ったく。明日は、インド艦隊との合流。そこで曲芸飛行」
それを見事に聞きとったメンバーは…

「………………………」
「………………………」
「………………………」
「………………………」

まず固まる。そして、

「忘れてた!」
…と口を揃えていった。
「どーしよ!」
小澤が言った。
「練習はしたけど…」
松井も言った。
「だから寝るつったんだよ」
「ぁ〜…なる程」
皆納得した。
「寝るかぁ!」
優哉が言う。
「じゃお休みぃ!」

…………………………………………

あっという間に俺と柚里亜だけになってしまった。こいつらには瞬間移動装置でも付いているのか?そんなわけないが、そう思える程の早業だった。
さあ、明日は大変だ。

…ととと、こいつを送ってかないと。いや、送らされる…



−10分後、柚里亜自室前−
「ここでいいな?」
「うんっ!」
厄介はごめんのため、さっさと済ましたかったから、あっさり納得してくれたのはうれしかった。まっさかこんなにあっさりとOKとは。まあ夜中にベッドに入り込まれたらたまったもんじゃないからな。
「じゃ、明日」
「お休み、マスター」
1日も終わりだ。今宵は何も起きそうにない。何もないのが一番だ。


「ど〜やらだな…」
そうつぶやきながら岡野は自室へ向かっていた。
と、そこに後ろから小走りの足音が聞こえる。
まさか、と思い、振り向いて分かった。何も起きそうにない、というのは間違いだったと。
「マースター!」
半泣きの声。そう…柚里亜だ。まあここまで一人で来れたというのは奇跡とも言えるが、それどころではない。
「げっ、柚里亜!」
何故か本能的に逃げようとしたが、体が脳からの指令に反応する前に柚里亜にくっつかれた。やれやれ、どうしてこうなるんだ?
(はぁ〜、もうやだ)
そう思いながら、柚里亜に聞く。
「どうした?」
「……一人じゃ怖い」
…ご丁寧に服は寝間着だ。どうやら寝ようとして初めて一人ということに気づいたらしい。
くそう。
「やれやれ、百武のやつらと沙紀には絶対言うなよ。何言い出すかわからんから」
そのうちばれるだろうが、一時しのぎだ。
「いいの?」
「守れるならいい」
俺は呆れた。まさに。他にたとえようがない。
何てこった。しかし、マジで寝ている間にベッドに入られるよりはましだからそれで納得しておこう…い、いやしたくないけど…



−更に20分後、岡野自室−
とりあえず自分も着替え終わった(ただ、時間がかかったのは言うまでもない)が、問題があった。
「さて、どうしたものか…」
「何が?」
「寝床だよ寝床。一人分しかない」
個室だから仕方ない。
「一緒に寝るっ!」
……………………………………………
「そう言うか…」
「怖い!」
もうダメだ。こうなったら地獄の果てまでもこいつの横にいてやる。いや、前か? …そっちが正論かもしれない。
腹をくくった岡野は(むしろあきらめだ)、
「いいけど…やっぱり言うなよ」
「は〜い!」

…………

とりあえずベッドにはいる。
で、電気を消す。
で、またくっつかれる。
「あの…柚里亜?」
「何?」
かなり喜んでいる。
「ここでもくっつくの?」
「うん」
………これでは眠れない…
「かなり眠りづらいのだが」
「ぅ〜…」
また泣きかける。くそう。しかし、こいつを泣かせたくない。
「ぁ〜もう勝手にしろい!」
「はーい!」
…そこでその反応は止めてくれ…


さゆり…今日から眠れない夜が訪れそうだよ…





姿 それは生き様
在るがままの姿
偽りの姿
在るがままの姿は 変わり続け
偽りの姿は 変化しなくとも
いずれ… 崩れ落ちる



 2006/02/17:蒼剣さんから頂きました。
秋元 「泣き虫萌え──はぁうあっは!?」
アリス 「……(じー」
秋元 「ぎくっ)はっはっはっ、冗談だ! やっぱ寝てる時に急に入ってこられると恥ずかしいですよねw」


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