ACECOMBAT0 INNOCENTSNOW | ||||
「――――♪」 冬空の下、あたり一面の銀世界、すっかり葉の落ちた木の下で十歳くらいの少年が空を見上げながら鼻歌を歌いながら彼らを待っていた、 「――――♪」 名前も知らない歌だが、彼はこの歌が大好きだった、彼らの一人に教わった曲だったからだ、 「――――♪」 この木の下であたりから西のほうを向いていれば、大概彼らの姿を見ることができるのだ。 といっても彼らが出てくればの話だが、 「――…おっ?」 音が聞こえてきた、彼らが飛び立つときに発する音だ。 そして彼らの姿が見えてきた、陽光を反射して輝いている見える鋼鉄の翼を持つ鳥達そしてその翼の力を借りて大空を駆ける彼ら。 少年は彼らに向かって千切れんばかりに力いっぱい手を振った。 そのうち一人が翼を振って応えてくれた。 少年の首には蒼い石のペンダントが揺れていた。 ACECOMBAT0 INNOCENTSNOW 第一話 白い雪 1995年3月29日 アインバウム 南ベルカの地方都市「アインバウム」 この町の小学校では現在授業のまっ最中であり、教壇では教師が道徳の授業を行っている、行っているのだが…。 「すかー、すーかー」 一人の綺麗な銀髪をした少年が平然と机に突っ伏して静かな寝息を立てている。 「…ちょっとおきなさいよ」 隣に座っている赤毛のショートヘアが似合う小女がシャーペンの頭で小突いて少年を起こそうとする、すると彼は顔だけを彼女のほうに向けてうっすらと目を開けた、 「……んっ?なんだよ人がせっかく練乳かけまくったいちごを投げ合いながら、讃美歌を歌いつつ、ハーフマラソンを走り切る、という面白い夢を見ていたのに起こすとはいったい何事だ?」 「どんな夢よそれ…」 少女が呆れ顔でこちらを見ていたが少年は構わず内容を話しだす、 「面白いぞー?参加者の中に羊とか、熊とか、イエティとか、ミルコ・ク○コップとかがいてなぁ」 「あーもーそんなのどうでもいいわよっ!それよりちゃんと先生の話聞きなさいよ、あんた唯でさえいつもバカやってるせいで先生達に怒られてるんだから!」 少女は叫んだ、小声で。 「んなこと知らん!おれはテストの点数が良いから成績はどん底になることは無い!だから寝る!」 少年もまた小声で高らかに宣言すると再び眠りに就いた。 「くっ…」 だがこんな事でくじけるような彼女では無かった、話し合いが通用しないなら実力行使、武力制裁だ、彼女は先ほどのシャーペンを取り出すと先っぽを少年の脇腹に突き刺した。 「アギャッ!」 少年はおもわず奇声をあげてしまう、 「…サイス・ゾーデンシュテルンどうかしたか?」 「いっ、いえなにも」 サイス・ゾーデンシュテルン、それが彼の名前だ。 サイスは隣に座る残虐行為を平然と行った(注・彼主観)少女、アンナ・トップを睨みつけたがアンナは知らんぷりをした。 周りの友人たちも何事かとこちらを見てきたが、あぁいつもの痴話喧嘩かという感じに前に向きなおった。 「くっ、この女狐め、おもいっきり国際法違反なことしやがって」 「あんたが悪いんでしょ、恨まれる筋合いはないわ」 「あーハイハイやめやめ、授業が終わってからやろうな」 途中から隣から口を挟んできたのはギュンター・シュニーヴィント、サイスの友達グループのまとめ役だ、 「そうよ、さっきからうるさいのよサイス」 「俺だけかい!」 続いて口を挟んできたのはエリカ・マンシュタイン、黒髪ロングが印象的なメガネ美人である。 「いやあ飽きないねえ、ホント」 「ほんと、おしどり夫婦だわなあ、なあサイス?」 「喧しい、アフターバーナーでこんがり焼いてベンガルトラの餌にするぞ」 前の席から振り向いてきたのはお調子者のカール・ヒッパー、それと地元名家の息子エーリヒ・ルントシュテットの二人だ、 「あーもう!うるさいわねぇ黙りなさいよ!」 「なんだとこの冷血メガネ!そのメガネにマジックで渦巻き書いてやろうか!」 「いいぞー、やれやれ」 ヒートアップする口論が収拾がつかなくなりかけたその時、気弱そうな少女、リリィ・ガスナーが声を掛けてきた、 「あ、あのみんな…」 「ん?なんだリリィ、今現在、今後の学校生活を左右する大事なディベートをしてるんだが」 「で、でも先生が…」 見ると教師が顔に青筋を浮かべこちらを睨みつけている。 それを見てその場にいたサイスとリリィを除く全員が顔を見合わせ唱和した。 「「「「「サイスが悪いんです!」」」」」 「ええぇっ!?俺だけぇ!?」 眼下に広がる茶色に赤や黒が混ざった大地は荒涼としていて、緑は一つとして見当たらない、だがこの下には大規模な地下資源を持ち、また北ベルカに進むにはここを通らなければいけない、そしてこの場所を保持し続けることによりベルカは周辺諸国に大国としての威信を見せつけているのだ。 それ故ここは重要な拠点として古くから何度となく戦いが行われた、そして今大戦でも各国のエースたちが凌ぎを削り、そして散っていく。 「B7R」、戦闘機パイロットはここで己の力、誇り、理想、希望、そして命、これらを賭け、己のルールに従って飛んでいる。 ここには上座も下座も無く、ただ強い者が生き残るという純然たる論理のみが働いていた。 故にここを飛ぶパイロットにはこう呼ばれていた、 円卓と… 1995年3月29日 エリアB7R 『――ヴァイス隊へ、こちらヘルクレス応答せよ』 その無線が入ったのはいつもの円卓の警戒を始めて一時間ほど経った頃だった、ヴァイス1、TACネーム・ウィールズ、ルードヴィヒ・シュトラウス中尉は編隊長機として返答する、 「ヘルクレスへ、こちらヴァイス1、どうぞ」 AWACSのヘルクレスことテオドール・シュトルヒ少佐が、レーダーに円卓に侵入してきた敵機を捉えたことを伝えてきた、 『方位230より敵が侵入、高度五千、機数4、敵機が君たちに気付いた様子はない、迎撃に向かえ』 「ヴァイス1ラジャー」 『ヴァイス2ちょっくらいってくらぁ』 相棒である二番機ヴァイス2、TACネームはマートン、ヴィルヘルム・ライオネル中尉が軽い感じに答えるがいつもの事なので自分も少佐も注意しない、というか注意する気がしない、少々問題な気もするが…。 彼は愛機「Mig−29 ファルクラム」を旋回させ方位230に向ける、二番機も全く危なげない動きでぴったりとついてくる。 『しかし今日はレーダーがご機嫌で助かる、なあヴァイス1?』 「ああまったくだ」 ここ円卓は地下にある大量の鉱物などのせいか電波状態が良くない、レーダーにノイズが入り、敵味方の無線が混線する、そんな悪い環境なために基地を建設して恒久的な防御線を敷くこともできず、航空機による警戒のみという不完全な状態なのだ。 といってもそれは敵にも言えることで、こうやって危険を承知で強硬偵察をしてくるというわけである。 そうこうするうちに自機のレーダーでも敵機を確認。 「来たな」 『来やがりましたぜ、どうする?』 「決まっているさ、円卓から退場してもらう!ヴァイス1!エンゲージ!SAAMモーニングコール!」 『うっし!エンゲージ!SAAMモーニングコール!』 二人は迷わず長距離ミサイルを使用する、HUDに表示される円の中に敵機を捉え、ロックする。 「FOX1!FOX1」 『FOX1!FOX1』 二機ともほぼ同時に発射、敵機はやっと気づいたか慌ててブレイク、だが間に合わない。 二人の放ったミサイルは一発ずつ命中、あっさりと敵機二機を火の玉に変える。 「スプラッシュ!」 『イエーイ!スプラッシュ!』 二機減った残りは二機。 そいつ等はどうやら逃げずに仇を討つつもりらしい、こっちに向かって来る。 点にしか見えなかった敵機が大きく見えるようになり、機種も分かるようになった、「F−16C ファイティングファルコン」だった。 「マートン?敵機を引き離して、後はそれぞれOK?」 『あいよ〜』 二人は機首を上に向け高度をとると、一気に敵に向かってダイブした。 敵は横転して回避、急旋回急上昇で下から追撃逃さない、そして一機の後ろに喰い付いた。 そいつは旋回して回避しようとし、もう一機がルードヴィヒの後ろにつこうとする、だが後ろにつこうとした奴は下から突き上げてきたヴィルヘルムに追い散らされる、その間にルードヴィヒは逃げ回る敵機の後ろにぴったりとつき、その機影をガンレティクルの中に収める、ガンファイア。 放たれた火線は正確に命中、右翼を吹き飛ばした。 吹き飛ばされた敵機はくるくる回りながら落ちていく、とコクピットから何かが飛んだ、パイロットが脱出したのだった。 「…撃墜」 『よーそっち終わったか?こっち終わったぞ?』 ヴィルヘルムの言葉に後ろを向けば、機体が爆発したのであろう、黒い煙が空中に広がっている所だった。 『今ので最後だったみたいだな?』 撃墜は二人で四、実はルードヴィヒは今回の一機目でダブルエースになっていた。 そこにヘルクレスから通信が来た、 『ヴァイス隊御苦労さん、相変わらず速いな』 『だろ?これが俺の実…』 「運が良かったんですよ」 『おいルゥ!俺に最後まで言わせろ!』 ヴィルヘルムはとりあえず無視、 『あー、とにかく御苦労さん、ヴァイス隊基地への帰還を許可する』 「ラジャー、RTB」 『おーい、無視しないでー』 二機は翼を翻すと基地絵の針路をとった、自分の仲間のいる場所へ帰るために。 1995年3月29日 アインバウム 放課後皆で遊んでいたサイス達は解散し、それぞれの帰路に就いた、そして今サイスは自分の家のドアの前に立っているのだが、 「ただいまー…と言いたいところだが、何か変だな…おれの勘が読んでいるここは危険だと!」 サイスは動物的な勘で身の危険を察知してドアを開けるのをためらっている。 そのとき背後から近づいて来る人影があった、その人影は音を立てずに彼のほうに向かってくる。 その影が背後に近付いたとき彼は気配を感じて振り返った、そしてそこにいた人物を見て悲鳴を上げた。 「ああぁぁっ!あっ姉貴!いぃっ今お帰りで?」 そこにいたのは彼の姉、マレーネ・ゾーデンシュテルンが冷たい笑顔を浮かべ立っていた。 「お帰りーサイス、で?洗濯物は取り込んでくれたのかなぁ?」 はっと記憶を手繰り寄せる、確か朝登校する時そんなことを言われた気がした、がしかし、すっかり忘れていた。 「あっ、えっと、あはは」 サイスはそれだけ言うと家の中に逃げようとしたが、あえなく捕まった。 「あんたね、言われたことはちゃんとしなさいってーの!いい?お・姉・ちゃ・ん・の・命・令・は・絶・対・な・の・よ」 彼女はサイスの両方のこめかみに指を当てるとおもいっきり握りしめた、いわゆるアイアンクローだ。 「ぎゃあああああぁあぁっ!いたぁ痛い!あっ姉貴暴力反対!」 じたばたもがくが無駄な抵抗だった。 サイスはなんとか起死回生の一手を痛む頭で考える。 そしてなんとか考えついた。 「あ、あああごごあ、ああ、姉貴、ききき」 「ん?何」 「う、うううぎぐぐ、う、後ろにあ、なたの恋人、るる、ルゥ、さあささんんん、だだえう!」 「え!?」 マレーネが手を放す、サイスが言ったのは「後ろにあなたの恋人であるルードヴィヒ・シュトラウスがいますよ」ということだった。 マレーネは馬鹿正直に反応して慌てて後ろを見回す。 サイスはそれを尻目にコソコソ逃げ出す。 「るるるる、ルゥ!?!?!?いいいいい、何時からそこに」 「へ?ホントにいた?」 姉が叫びに振り向けば本当にそこにルードヴィヒが苦笑しながら立っていた。 「いやあ、仲が良いね本当」 「えええ、ええぇ、まあまま、みゃ、みゃあね!」 「上のセリフを正しくすると「ええ、まあね」と言っております、はい」 サイスはあらぬ方向に謎のセリフを投げかけると、ルードヴィヒの方に向き直し、パ二クってるマレーネを横目に用件を聞いた。 「ほいで?今日は何用ですか?警急とかいいの?」 「ああ大丈夫だ、実はな」 「今日は相棒のダブルエース祝いだーーー!」 「とまあこの馬鹿がうるさくてな、これから騒ぎに行くんだが、どうだ?一緒に行くか?奢るぞ?」 「どこまでもついていきます、大兄」 サイスは即答した、その間わずか0,1秒 「現金な奴だな、おい」 「それよかマレーネちゃんどうすんだ?あれじゃ連れてけんぞ」 「たらららあらら、ら、らいじょうう、たただ、たいじょおふ」 「上のセリフを解説すると「大丈夫大丈夫」と言っています、はい」 「誰に言ってんだ?」 あさっての方向に何か説明しているサイスを見てルゥは怪訝な顔をするが、とりあえずマレーネを宥めにかかった。 それがしばらくかかりそうなのでサイスはヴィルヘルムに話しかけた。 「よおヴィル景気はどうだい?」 「んー、まあボチボチだ」 普通にタメ口で会話する二人、サイスも年上の人に敬語を使うぐらいのマナーを持っているが、一部の人に対してはそれは使用されない。 「ヴィルはダブルエースまだー?」 「あと一機だよ、次で必ずなってやるさ」 「おお!なったら何か奢ってー」 「強欲なやっちゃな、俺らの給料そんなに高くねーぞ」 「いいじゃん、減るもんじゃないし」 「いや、減るから、普通に減るから、何言ってんのお前」 そんな事を喋っているとルゥがマレーネを宥めるのに成功して戻ってきた、マレーネはまだ顔が赤い。 「姉貴ー?大丈夫」 「大丈夫よ、全くだれのせいでこうなったと思うの」 「姉貴」 「くっ」 マレーネは反論したそうだったが、自重した。 「ほいじゃどこ行く?」 「「酒飲みたーい」」 「ヴィルヘルムは良いとして、サイス駄目」 「えーいいじゃん、俺、心は成人してる」 「寝惚けんな」 「サイス、次アホ言ったら、あれもう一回だからね」 「サーイエッサー」 マレーネとルゥ、同時のツッコミに敬礼で答えるサイス。 こんな事を言いながら飲食店に向かう四人。 サイスはこの光景がとても楽しく、嬉しかった。 その光景は変わることが無いはず、なのに… 了 舞台裾(あとがき) 天鶴「一話目終了」 サイス「御苦労さん、で?この後の展開は?」 天鶴「とりあえずゼロの話をベルカ側から見たストーリーになるはずなのだけど」 サイス「けど?」 天鶴「エスコン×外機の話のはずなのに、外機のキャラはゼロではほとんど出てこない、またゼロのキャラもごく一部、しかも直接的には、ほとんど出てこない」 サイス「おい、なんじゃそら」 天鶴「だって主人公子供の上に、主人公と同年齢って設定してんだぞ?外機のキャラ、十歳で前線出ろってか?」 サイス「いやそうだけど」 天鶴「とにかくゼロ編が終わってからだ!」 サイス「そこまでやる根性あんの?」 |
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2007/08/09:天鶴さんから頂きました。
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