ACECOMBAT0 INNOCENTSNOW




幕が上がる、舞台が始まるから。
幕が上がる、役者が演じ始めるから。
幕が上がる、観客たちが待ち望むから。
幕が上がる、その向こうに待つ悲劇を知らぬから。
さあ幕を上げよう、その愚かな行為の代償を払いながら。


ACECOMBAT0 INNOCENTSNOW

第四話 さあ開演の時間だ


1995年4月20日 アイゼン航空基地
アイゼンバウムの副官を務めるフィーゼラーは会議室で、基地司令ディセンベルと、飛行隊長エーバーズ、その他数名の司令部要員と会議を行っている、会議の議題はウスティオ攻撃について。
「ウスティオ…ですか…」
「ああ、この頃盛んに動き回っている、ゲリラの動きも活発…何よりこれだ」
テオドール・シュトルヒ少佐が資料を差し出してきた。
「航空基地…あのウスティオ最後の拠点ですね、しかし円卓の守備をほっぽり出してまで攻撃する必要があるのですか?敵機は少数しかいないそうですが」
フィーゼラーが知っている限りでは、この「ヴァレー空軍基地」には大した戦力はないはずだ。
確かに一度こちらの攻撃を退け、少しではあるがベルカ軍の進撃に泥を塗っている、だがそれよりこいつらに補給を送っているオーシアを叩いたほうが効率的なはずだ。
「ああ、確かに少数しかいない、だが数は問題じゃないんだ」
「…つまり質の問題と?」
シュトルヒはそれに重々しく頷く、そして一拍置いて別の資料を差し出した、それには数人分のプロフィールデータ等が書いてあった。
「これは…傭兵部隊?こんな連中をウスティオは雇っているのですか?」
「だが腕は確かな連中だ、そのうえ命知らずで、金さえ払っていれば補充は簡単ときてる」
「しかもそれだけじゃないらしい」
シュトルヒは大きな封筒から資料をとり出した、資料は数枚の写真だった、写真には青い石が写っている。
「なんですかこれ?宝石ですか?」
「…実を言うとこっちも良く分かっとらん、この写真も極秘だってのを無理やり持ってきたんだ、とにかく得体のしれない敵の新兵器だ、」
「こんなのが兵器?火薬の代わりにでもなるんですか?」
まじまじと眺めるフィーゼラー、その石は綺麗で、兵器とかそういうものからほど遠いように見えた。
「全く何も分かっとらんのだ、オーシアの連中もそれについては極秘にしているらしく、情報が極端に少ない」
「でこいつを使っているオーシアの部隊が、このヴァレーに配備されたって情報が来たんだ」
「そいつを叩けと」
「そう、でヴァレーを我がベルカ軍は全力を持って叩くことになり、アイゼンバウムはその前の地ならしとして敵残存陸上戦力に攻撃を行うはずなのだが…」
「?どうしました?」
急に歯切れの悪くなったシュトルヒ、そこを補うようにエーバーズが口を開いた。
「実はこの土壇場になって参謀本部で内輪揉めがあったらしい」
「内輪揉めですか…」
嫌そうな顔をするフィーゼラー、前線の兵士にとって上の優柔不断はこの上なく迷惑だ。
「ああ、良くわからんが参謀本部内の派閥争いだとよ、全く傍迷惑な、早くしてほしいもんだ、中止のするにせよ、決行するにせよな」
「その辺にしとけ大尉、あんまり司令部批判が過ぎるとMPに連れて行かれるぞ」
ディセンベルはそう言ってエーバーズを止めると皆のほうに向きなおり、とりあえず作戦が実行されるのか、されないのかわからないが、各人準備を怠らぬようにというと皆を解散させた。
「………」
フィーゼラーはみんなが出て行った後もしばらく写真を見つめていたが、写真を封筒の中にしまうと会議室から出て行った。

1995年4月20日
「よい、ほい、せい、はい、そい、へい」
所変わってアインバウムはガスナーベーカリー、ここの二階のリリィの部屋でサイスは変な掛け声を上げながらぬいぐるみを作っている。
「ふい、むい、こい、ろい、すい、てい」
「いやいやいや、あんた何言ってんの、何?すいとか、ろいとか、訳解んないこと言ってないでちゃんとやんなさい」
「へーい」
注意したのはエリカだ、ぬいぐるみを作るにあたって彼女が当然先生役をやっている。
加えて何故かアンナもここに来てサイスのぬいぐるみ作りを見ており、そして当然ながらこの部屋の主であるリリィもいる。
「んーと、ここで止めて、こうして」
「そうそう、最初にしては上手じゃない、裁縫なんてやったこと無いんでしょ?」
「うん、ずっと姉貴に任せっぱなしだったからな」
「うーん、器用だし、順応能力高いみたいだしね、あんた家事に向いてんじゃない?エプロンとか案外似合いそう」
「ふざけたこと言うな」
エリカに見ていてもらうが、横からアンナが茶化す。
「エプロンの色はピンクで、熊さんとかプリントしてて、うふふふふふ」
「やめい、その変な妄想を」
「ピンクが嫌ならサイス君は何色がいいの?水色とか?黄色とかもいいね」
「あー!エプロンから離れろ!」
今日は慣れない事をしているせいか、ずっとこんな感じで、アンナはおろかリリィにまでいじられてしまっている。
「はいはい、よそ見しない、ちゃんとやる、自分の指刺しても知らないよ」
「あいあい、分ってますって……つっ!?」
噂をすればなんとやら、サイスは自分の指を刺してしまった、指の先から血が出る。
「ちょっ!?もうなにやってんのよ」
「あーあ、えっと絆創膏、絆創膏」
「はわわ!?あわわわわ!?」
エリカとアンナは冷静だがリリィは少しパニックになっている。
「ああ、大丈夫、大丈ー夫、こんなの大して…ってリリィ?」
パ二クッているリリィを宥めようとするが、リリィが何故か近づいてきた、なにやらぼうっとした表情をしながら、そして…
「あむ…」
「!!!」
「「あああっ!?」」
なんとリリィがサイスの指を咥えた、あまりに予想外な行動にサイスは固まる、何やら悲鳴のような声が聞こえたような気がしたが、サイスはそれどころではない。
「あ!?あーーのーーのーー」
頭がまともに回ってくれず、あのしか出てこない、その間もリリィはサイスの指を咥えたままだ。
「あむむむむ」
「あう!?ちょ、ちょっ!」
否、むしろ悪化した、リリィは更にサイスの指を丹念に舐めている、サイスはこそばゆくて情けない声を上げる、リリィはリリィで何やらその表情は赤くてとろんとしている。
(き、危険だ!危険すぎる!俺の勘が言っている、このままいくと何かBGMが変わってイベントに突入しそうな感じだ!ヤバイ何か!何かないか!!!)
サイスは訳のわからない言葉を頭の中で叫びながら、残っている二人のほうを向いた、がしかしアンナとエリカは口をパクパクするだけで完全に停止している。
(く、くそっ!まずいまずいまずいまずいまずい…)
思考が頭の中でループする、ただ単にリリィをひき剥がせば済むことだが、今のサイスにはそこまで考えが向かなかった。
頼りの二人も、自力でもどうにかできずに追い詰められたサイス、このままこの小説で書けないような所まで行ってしまうのか!―――と思いきや、思わぬ救世主が登場した。
「リリィ~、みんな~、お菓子持ってきたよ~、お姉ちゃん~みんなと一緒にお茶したいな~」
のほほんとした言葉づかい、そして外見からも優しそうな雰囲気が漂う女性、リリィの姉、ヘレーネがお菓子と紅茶セットを持って部屋に入ってきた、そのヘレーネはサイスの指を舐めているリリィを見てきょとんとした。
「リリィ~?サイスくんの指を~どうして舐めているの~?」
リリィはその声にやっと我に返ったか固まる、そして…
「あ、ああ、あああ」
顔を真っ赤にして、明らかにパニック一秒前になるリリィ。
「あ、あの?リリィさん?」
どうにかリリィを鎮めようとサイスが声をかけたが、結果的にこれが引き金を引いた。
「き、ききき、きゃああああああああ!!!」
しばらくガスナーベーカリー二階は戦場のような騒がしさになった。

1995年4月20日 エリアB7R
所変わり円卓。
彼は何時もどおり円卓の警戒に出ていた、円卓に入ってくる愚か者はいない、今日もまた何時もどおり任務は終了するだろう。
「ん?」
だが今日は最もよくある何時ものパターンとは違った、二番目に何時もあるパターンだった。
「レーダーに反応、二機だけだと?」
彼はせせら笑った、無謀だとしか言えない、ここ円卓には彼以外にも多くの戦闘機がおり、腕も一流ぞろいなのだ。
彼は愛機を旋回させると、愚か者に制裁を加えるために加速した。
「撃墜スコアを稼がせてもらう」
彼は楽観していた、どうせ馬鹿な連中が身の丈も知らず、勇み足を踏んだに違いないのだ。
「敵機視認、エンゲージ」
どうせすぐ終わる、終わったらシャワーを浴びて、バーにでも行こう、それでポーカーをやって、今日こそこの前の負けた分を取り返してやる。
このとき彼は負けることなど考えていなかった。
だが、彼が自分の考えが間違っていることを知るまで、そう時間があるものではなかった…。

1995年4月20日 アインバウム
「はふー」
サイスは一息ついた、やっと初めてのぬいぐるみが完成した。
「むうー」
完成した三毛猫のぬいぐるみを見て思った、へたくそだ、お世辞にも良い出来だとは言えない。
例えば顔のパーツは微妙にずれており、なんだか泣いているような、微妙な表情になってしまったし、胴体は入れた綿が偏って形が歪んでいる。
「うーー」
「何うなってんのよ」
「ん?エリカ、どうも可愛らしい出来とは言えないようなんだが」
「何言ってんのよ、こんなの最初にしては良い出来よ」
「そうなのか?しかし…」
「あーもう!あたしが最初に作ったのはこれより酷かったし、それに作るの指導したのあたしなのよ、そんな風に言ったらあたし教えるの下手みたいじゃない」
そう言ってメガネの向こうからサイスを睨むエリカ、サイスはその気迫に押されたか思わず後ずさる。
「はいはーい、そろそろ完成したー?」
そこにアンナが入ってきた、アンナは『サイス君の指ナメナメ大事件』(ヘレーネ命名)の後、恥ずかしさのあまり寝込んだリリィを見舞いに行って、今戻ってきたのだ。
「おー、なかなか可愛いじゃん」
「そうかい、なんならお前にやるよ、その三毛玉」
そう言うとサイスは、いつの間にやら命名されたぬいぐるみ――三毛玉――をアンナに差し出す、アンナは驚いた表情を浮かべる。
「えっ、良いの?」
「いい、持って帰れないし、どうせ誰かにあげるつもりだったからな」
「あっ、ありがと…」
アンナは三毛玉を受け取ると大事そうに抱きかかえた。
「うー」
「ん?どした」
なにやら変な声が聞こえるので振り返ると、エリカが不満そうな顔をしてこっちを見ていた。
「??どうしたんだよ黒々メガネ、唸ったってその黒々としたメガネは白くならないぞ」
「ふん!なんでもないわよ!」
そう言ってそっぽを向いてしまう、サイスは訳がわからず途方に暮れる。
「は~い~、入るよ~?」
途方に暮れているとヘレーネが入ってきた。
「あ~、ぬいぐるみできたんだ~、いいな~お姉ちゃんもほしいな~」
「はあ」
なにやら物欲しそうにこっちを見るセシル、サイスは何と答えてよいかわからず間の抜けた声を出す。
「あ~、そうだ~、サイス君~ちょっといい~?」
ヘレーネは膝を折り、サイスと同じ目線の高さにすると。
「サイス君~、今日~うちに泊まって~いってほしいの~」
「えっ?なんですいきなり」
「うん~、リリィも~サイス君が~、そばで看ていてくれると~嬉しいと思うの~、だからね~お願い~」
「でもご迷惑になりませんか?」
「大丈夫~、むしろ~皆がいて~、楽しいほうが~私も好きだし~」
「はあ分かりました、家に電話して、泊っていいか聞いてきます」
そう言うとサイスは一階にある電話に向かった。
一階に下りる途中後ろから「私も」とか、「泊まる」とか聞こえたような気がしたが深く考えなかった。

「というわけなんだよ姉貴、どう?いいかな?」
『…』
サイスはマレーネに電話して許可を求めたのだが、姉からの反応がない。
「姉貴?」
『…』
「おーい」
『…』
「おーい?どうしたー姉貴ー?」
『さっ』
「さ?」
『さすが我が弟!!!!!』
姉の大きな声にサイスは慌てて受話器から耳を話す。
「はい?なに?」
『うんうん、そうね、其処まで行ったのね!あたしうれしいよ!』
「いやどこまで?」
『サイス!据え膳食わぬは男の恥じよ!』
「は?『すえぜん』て何?」
『おもいっきり間違えを起こしてきなさい!赤飯炊いて待ってるからね!』
「い、いやちょっと姉貴!…切れた」
しょうがないのでサイスは受話器を元に戻し、二階に戻ろうと歩き出したが、途中ふいに振り返ると玄関から外に出た。
「………?」
サイスは南東の空を見つめると、言い知れぬ不快感に顔をしかめながら、胸のペンダントを指で弄んだ。

1995年4月20日 アイゼン航空基地
「急げ!とにかくケンプファーとヴァイスを上げるんだ!」
「弾薬まだか!なにのろのろやってる!」
そのころアイゼンバウムでは慌しく戦闘機部隊の出撃準備が進められていた。
基地司令ディセンベルはその光景を管制塔から見つめている。
「司令」
声をかけられ振り返ると副官フィーゼラーが、苦虫をかみつぶしたような表情で通信文を持ってきた。
ディセンベルはそれに目をとおし、顔を上げた。
「…やられたよ、円卓の警戒部隊はかなりの被害を受けて後退、増援に行った他の基地の連中も返り討ちにあったようだ、しかも二機だと?やれやれ敵を過小評価していたな」
ディセンベルはそう言うと、格納庫に目を向けた。
その格納庫では四機のSu-27と、二機のMig-29の周りで整備兵が慌しく動き回っている。
「さて奴らに追いつくか…」
ディセンベルはそう呟いた、とそこに…。
「司令!」
ディセンベルが再び振り返ると、フィーゼラーが先程より青い顔をして立っていた。

「よし!OKだ!」
愛機の下から整備員が声を掛けてくる。
「よし、管制塔へすぐタキシングを開始する、指示を!」
ルードヴィヒは管制塔に急かすように指示を仰ぐ、が…。
「待て!出撃中止!パイロットはいったん戻れ!」
「はあ?ちょっとまて!ウスティオの連中はどうするんだ!」
「それどころじゃないんだ!」
ルードヴィヒは管制官に噛み付くが、次の言葉に衝撃を受けた。
「連合がフトゥーロ運河に向けて攻勢を開始した!奴ら反撃を開始したんだ!」




舞台裾(あとがき)
天鶴「四話目終了―」
サイス「なんか心労が…」
天鶴「そりゃ可哀想に」
サイス「誰のせいだ、てめーーーーー(怒)」
天鶴「くははは!」
サイス「くっ」
天鶴「くはははははは!」
サイス「ぷち(何か切れる音)」
天鶴「⊃ΦД)◦゜。 あべし!」
サイス「えー次から戦闘増量します、やっとガルム隊を出す予定」
天鶴「…(動かない、まるで屍のようだ)」



 2007/08/09:天鶴さんから頂きました。
秋元 「白が良いです。真っ白。純白。これ、最強。清楚な感じが出て最強」
アリス 「……(ポッ」

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