外洋機動艦隊外伝〜もう一つのMLシステム〜


 力。どんな言葉で着飾ろうとも人を傷付ける事しかできない。一歩間違えれば憎しみと悲しみを際限無く生み続けるそれを、世界を変えられる存在だと信じて疑わない者は実はかなり多い。それが一国の軍事力と言う力を持つ者にまで浸透してしまえば大きな争いへと発展するだろう。そう今の私の祖国のように……

ある将校の私的日記より


第一話「第二次沖縄戦」

二〇五三年 十月十九日 二三○○時(現地時間)
沖縄諸島近海

 アメリカによる世界統一を受け入れるか否かの回答期限が後一時間と迫る中、沖縄諸島近海の洋上にアメリカ軍――今やU.S.A.J.と名を変えた艦隊が目視では数え切れない程に集結していた。
「――流石に、これだけの艦艇が集まると爽快だなぁ――そのお陰で頭痛が酷くて堪らないが!」
 時差ぼけの残る頭を抱えつつ、イーシャルヘッド級の飛行甲板の一角を陣取りながらジン・ノースウィンド大尉は、周囲の光景に嘆息していた。
 ジンは髪こそ銀色であったが、顔立ちや肌の色は日本人のそれであった。これは彼が日系二世の証であった。
 流石に、シアトルの軍港からハワイをスルーし、そして沖縄への増援艦隊に紛れ込んで沖縄諸島近海まで一気に辿り着くと言う強行軍には辛いものがあった。しかも、ジンの様に義勇兵として対テロ戦争に参加した者を除き殆ど将兵は実戦を経験していないため、戦争勃発と言う緊張感も相俟って船酔いを起こす者が続発していた。
 その甲斐あって数時間前まではニミッツ級航空母艦一隻とその護衛艦が僅かに居るだけであったのだが、今や空母だけでもジンが乗艦するイーシャルヘッド級一隻を中核にベロー・ウッド級二隻とニミッツ級四隻の大所帯である。それに追随する艦艇がどの程度居るのかは、ジンには正直数える気すら起きない程に多い。
「尤も人質と言う愚作を初っ端からやっている時点で――」
 自身の兄も人質に取られている事を棚に上げてジンは身も蓋もない事を大声で口走った。
「――この戦争は俺達の負けだぁ!!」
「不謹慎です、マスター」
 その声と共にジンの背中を何者かが蹴り付けた。その勢いで彼は前方につんのめり、あわや飛行甲板から真下の海に向かって地獄のダイビングを行う所であったが、真っ青になりながらも何とか根性で持ち直し、荒くなった呼吸を整えるとジンは鬼もかくやと言う形相で自身を蹴った人物の方へと振り返りながら大声を挙げた。
「俺を殺す気か!!」
「その程度でマスターは死にません」
 泣く子をも黙らせるジンの抗議はしかし、にべも無く切り捨てられた。切り捨てたのは十代後半と思しきまだ幼さの残る少女であった。空色のツインテールに魔法使いを髣髴させる黒いロープを着たその格好は、一部の特殊な趣味を持つ者に確実に受けそうである。尤もそんな輩は彼女に声を掛けるだけでジンの情け容赦の無い制裁を喰らう事になる。
 どちらにしろ周囲にはその少女は何かの手違いで軍艦に乗艦したとしか思えない感情しか与えなかった。が、彼女は歴とした軍人であり、ジンにとって掛け替えのない相棒であった。
「……で、何か用事でもあったか、カグヤ?」
 気勢を削がれながらも目の前の少女に用件を訊く。
「時間です。マスター」
 分かっている事だが、カグヤは不必要な事は喋らないし必要な事も最低限しか喋らない。これでは他人との意思の疎通ができるはずもない。ジンにとって密かな悩みの種であったが、彼とは問題なく意思疎通ができているので表立って口に出したりしない。
「ああ、もうそんな時間か。飛行服に着替えてくるから向こうで待っててくれ」
 その言葉を聞くとカグヤは軽く一礼するとジンの愛機の下へと戻って行く。それを見送りながらジンの心中は複雑であった。
「人であって人でない者。機械であって機械でない物。MLシステム、精神生命体か――何とも不思議な話だな」
 飛行服に着替えるため、パイロットロッカーに向かっている途中でジンは小さく独り言を口の中で呟く。
 このMLシステムと精神生命体の概念はU.S.A.J.には無かった。元々日本で研究・開発が進められていたが、日本軍から亡命してきた将校によってU.S.A.J.にもたらされたのだ。核にはアメリカと日本でしか採掘されないブルーレイン――日本では蒼晶石――と呼ばれる結晶石が使われており、U.S.A.J.でも進められたブルーレインの研究成果と比較検証を行うため、ジンの愛機に搭載されている物を含め幾つかのデッドコピーが試作されたが、結果は無残にも失敗に終わった。日本軍が行っているMLシステム被験者の選定基準までは分からず無作為に選び出したため、殆どの被験者がMLシステムによる精神的な負荷に耐えられず廃人と化した。
 尤もジンの兄が裏で色々と手を回していなければ彼がMLシステムに選ばれる事は無かったはずだ。また、ジンの兄は日本軍に太いパイプがあるらしく、何処からかMLシステムに関する詳細なレポートを手に入れジンの愛機に様々な調整を行っているのだから恐れ入る。言うまでもなくカグヤの事を含めてU.S.A.J.上層部には内緒であったが。
 そのためだろう。日本のブルーレイン搭載機は恐るに足らずとU.S.A.J.上層部は勘違いした。それが日本侵攻の一因になり、後々の失策に繋がっていくが、それはまた別の話である。
 そんな事を考えながらジンは手早く軍服から飛行服に着替え、ついでに飛行服に付けられていたU.S.A.J.の軍章を毟り取って手近なゴミ箱に投げ捨てた。そして愛機とカグヤの待つ飛行甲板へと小走りに向かった。そこに彼が最も嫌う物が居る事も知らずに。
「……ちっ、ゴーストかよ」
 それが飛行甲板へ出た時の忌々しげな第一声であった。
 ゴーストとは、ブルーレイン搭載の試作機に付けられたコードネームである。F-15FFG/25イーグル25をベースにブルーレインを搭載する事で無人機に改修した機体である。
 ベース機は基本設計こそ古いものの度重なる改良によって未だ第一線で活躍している機体である。現在は全体的に主翼や尾翼を大型化し、ソフトウェア面では集団戦闘用のシステムを搭載しているため、無人機化には時間が掛からなかった。
 欠点として専用の管制機で管制しなければば友軍機を誤って撃墜してしまうが、総合的な戦闘力は中堅パイロットに匹敵する。
 そのため、U.S.A.J.上層部はゴーストを次期主力機のモデルケースとして期待していた。
 忌々しい限りである。
 ふと、そこでゴーストの調整を行っていた技術者の一人と目が合う。その技術者は親の仇を見る様な目付きでジンを睨んでくる。当然だろう。無人機嫌いを標榜するジンは、ゴーストの関係者が乗艦してきた時、彼らと大乱闘を繰り広げたのだ。その日の内に乗艦した過半数の技術者は病院送りとなり、後日予定していたFX-10デスティニーの搬入が中止となった経緯がある。
 そんな大事を行ったジンの処分は沖縄到着までの営倉入りと言う極軽いものであった。そこには本来ならジンを取り押さえるべき憲兵隊が全く動かなかった事にある。憲兵隊が動かなかった理由として人質を取られた事によって溜まった鬱憤を晴らさせるために止めなかった説が有力であったが、買収と言う噂もあった。
 どちらにしろジンとゴーストに関わる技術者達との関係は犬猿の仲を通り越し冷戦状態へと突入していた。
 そのため、ジンはその視線に中指を突き立てて応えるとそこにもう用は無いとばかりにカグヤと愛機が待つ場所へ向かうべくその場を後にした。
 日本軍との戦闘開始まで残り僅かであった。

二〇五三年 十月十九日 二三五九時(現地時間)
U.S.A.J.南太平洋艦隊旗艦デインワッド

 旗艦は静かな緊張感に包まれていた。もう間もなく最高司令官ジェイン・ジョグナスの演説と共に全世界に対して宣戦布告が成され、戦闘が開始されるのだから致し方あるまい。
 そしてついに運命の演説が始まった。旗艦デインワッドのブリッジのメインスクリーンにジェイン・ジョグナスその人が映し出され大西洋と北太平洋、そして南太平洋に展開する艦隊の全ての将兵に宣言する。
『我々は恒久的な世界平和を実現するべく立ち上がった。この時に流れた血は我々が一生背負っていくべきものだろう。だがしかし、自身の地位と富を捨てられない一部の愚かな者たちによって我々の慈悲は無常にも黙殺された。これに対し我々は断固たる行動を取らねば成らない。将兵諸君らの健闘に期待する。神のご加護があらん事を』
 その演説と共にブリッジは喧騒の中へと放り込まれた。
「オペレーション・クルセイダー発動確認! 攻撃地点、オキナワ本島、オキナワ基地……」
 作戦の発動と共に沖縄本島の主要な施設が重要目標として入力される。
「全艦、トマホーク装填!」
「デスネイル隊、巡航ミサイル発射用意!」
「全空母より航空機隊全機発信準備完了です!」
「オールクリアー、全軍攻撃準備完了!」
 次々と舞い込む準備完了の報告にU.S.A.J.南太平洋艦隊司令官は厳かに宣言した。
「全軍攻撃開始!!」
 この瞬間、後の世で『第二次沖縄戦』と呼ばれる戦いの火蓋が切って落とされた。
 もう後戻りはできなくなった。
 南太平洋艦隊から放たれた巡航ミサイル、砲弾の嵐は日本軍艦隊の前衛を襲い完膚なきまで叩き潰した。それだけに留まらず日本軍艦隊の上空に通り過ぎ無数に構築された対空陣地や那覇基地などの侵攻に邪魔になる主要な施設へと襲い掛かった。対空陣地は地獄絵図と化し、基地は殆どの機能を失った挙句、滑走路は飛び立とうとした航空機と共に破壊され、洋上の艦隊は前衛が壊滅した事で立ち直れずにいた。
 両軍にとって長い一日が始まった。

二〇五三年 十月二〇日 ○○○○時(現地時間)
イーシャルヘッド級 飛行甲板上

 ジンは愛機のイーグル25の機内にて他のイーグル25に搭乗している部下と共に出撃命令を待っていた。この機体はパーソナルネームを“輝夜”と言い、右の尾翼に漢字で描かれている。機体色は空色で、左の尾翼には風を図案化したものを背景に箒に乗った魔女が描かれていたりする。
『ああ、ついに始まっちまったな』
《前衛艦隊全滅。対空陣地壊滅。基地機能停止。飛び立てた航空機も僅か……ですが》
『ん? どうかした?』
 イーグル25“輝夜”に同化したカグヤは何時も通りジンに淡々と戦況報告を行うが、珍しく最後の部分の歯切れが悪かった。
《ナハからの断末魔の思念が感じられません》
 それはジンにも薄々気付いていた事であった。パイロットと戦闘機を一体化させるMLシステムは、断末魔など負の思念を感じる事ができる。それを逆手にとって日本軍の被害状況を推測しているのだが、那覇基地からは一切の断末魔の思念が感じられなかった。感知できない程に遠いわけではない。その証拠に那覇基地の近くの基地からは断末魔の思念が感じられた。
――避難させたのか? 航空部隊を含む全ての基地要員を……?
 それは妙な話である。沖縄防衛を始めから放棄したとも考えられる。妙と言えば航空写真で見た廃艦寸前の五隻の旧式空母もジンには妙な事と感じられた。彼の記憶が正しければ既にその空母には艦載機は無かったはずである。
『まさか……な』
 自身の予想を裏切る事態が起きる事を期待しながらジンは甲板要員の誘導に従い愛機を電磁カタパルトにセットアップする。
『デューク・ワン、エンリル。行くぜ!』
 迷っても仕方がない事だ、と不確定要素を振り払うと同時に射出要員の合図と共にカタパルト・アームが唸りノーズギアを引っ張ってイーグル25を大空へと送り出した。
 予感がした。鬱屈とした気分を吹き飛ばしてくれる様な大事が起きる予感が。

二〇五三年 十月二〇日 ○○三○時(日本標準時)
那覇基地 地下司令部

「ダメです! 総司令部とのコンタクトが取れません!!」
「ちっ、やはり那覇の総司令部は壊滅か」
 オペレーターの悲痛な報告に那覇基地司令、功刀大佐はそう結論付けた。実際、U.S.A.J.がバンカーバスターを使用したため、総司令部が置かれていた沖縄基地の地下司令部は瓦礫と化していた。
 その事に薄々気付いていた嘉手納基地の将兵達は浮き足立っていた。
「うろたえるな! まだ負けたわけではない!」
 ドン、と卓上を思いっ切り叩き付けて功刀大佐が大声で一喝する。それに驚いて周りに居た者達は一瞬凍り付いたが、直ぐに我に返って司令官に向き直った。
 皆の視線が自分に集まっている事を意識しながら功刀大佐は指示を出した。
「沖縄基地壊滅に伴い那覇基地が指揮権を引き継ぐ! 対空陣地の残存状況の把握急げ! それから生き残った基地との連絡は密にしろ! いいな!!」
「はっ!!」
 将兵達に覇気が戻り司令官に敬礼を送ると自分の持ち場へ戻って行く。それを視界の隅に捉えながら卓上スクリーンに映し出された沖縄本島に目を向けた。歩兵部隊の陣地を含め殆どの陣地が壊滅状態で、それは那覇基地の地上施設も同じであった。狙いが精確だったのは工作員が潜り込んでいたためだろう。しかし、幸いにも功刀大佐が基地司令の権限で用意した秘策は無事であった。
 そして、その一つを出す時期は今しかなかった。
「航空部隊、発進せよ!」
 那覇基地の地上施設が使えないのにも関わらず功刀大佐は指示を出した。基地の滑走路がどんなに破壊され使えなくなってもよかった。ここに航空部隊が居ないのだから。

同刻 那覇基地航空部隊 避難所

『出撃命令、出ました。航空隊は速やかに発進し敵軍を迎撃せよ』
『それにしても功刀司令もとんでもない事を考え付くもんだな』
 オペレーターからの指示に那覇基地航空部隊のトップパイロット、白木奏中尉は酸素マスクの中で淡白に呟いた。常に冷静沈着である事を心掛けていた彼であったが、流石に功刀司令から、ここに移動しろ、と命じられた時は驚き、何故なのか、と食って掛かったものだ。
『そんな事はどうでもいいな。今は奴らを叩き潰す事が先だ』
 奏は過去の失態を何処かへ放り投げ目先の脅威を排除する事を優先した。既に彼の愛機であるSu-37jkフランカー・ゼロ“月詠”は航空機用エレベータに乗り格納庫を後にしていた。
 この機体は紺碧に彩られており、右の尾翼には“月詠”の文字が描かれている。
 航空機用エレベータは頂上に着くとそこには滑走路があったが、途中で途切れていた。
『ウィザード・ワン、アヌビス。発進する』
 滑走路が途中で途切れている事など意に介さず奏はアフターバーナーを全開にして愛機のゼロ・月詠を大空へと舞い上がらせた。
『木を隠すには森の中とは、よく言ったものだな』
 奏は上空から見た光景に嘆息する。
 そこには五隻の旧式空母が居た。ジン・ノースウィンドが気に掛けていた空母である。廃艦寸前の空母とあってU.S.A.J.は艦載機を数合わせに用意したF-2Mマリン・ヴァイパーかF-4EJFファントム改だと読み間違えていたため、第一波の攻撃を受けずにすんでいた。
 これには理由があった。単純に考えて空戦では同程度の性能を持つ航空機の場合、勝敗はパイロットの技量に左右される。フランカー・ゼロとイーグル25が同程度の性能であると仮定すれば対テロ戦争で実戦を経験していない――言い換えればエース揃いのフランカー・ゼロを経験不足のパイロットで戦わなければならない――U.S.A.J.にとって不利な状況に陥る事は想像に難くない。
 そのため、第一波の攻撃で空軍基地が重点的に狙われたのだが、功刀司令には見抜かれており、U.S.A.J.の目論見は――ほんの僅かであったが――水泡に帰したのだ。
『もっとも本当の意味で成功かは俺達次第だがな』
 そんな事を呟きながらゼロ・月詠に充分な高度を取らせると友軍のゼロを追い掛け回す一機のF-18IFG/45ホーネット45に狙いを澄ませダイブする。目標は目先の敵に気を取られていてゼロ・月詠には気付いていない。機首の20mmガトリング砲“オーディンVI”を選択し、ガンサイトに目標を捉える。何の感慨も無く奏はトリガーを引く。“オーディンVI”から吐き出された砲弾はホーネット45に突き刺さる。エンジンから胴体に掛けて蜂の巣になり、主翼が千切れ飛び炎上・爆発する。パイロットの脱出は確認できなかった。
『スプラッシュダウン』
 敵機撃墜を淡白に味方に知らせるのと同時に、機内にミサイル・アラートの警告音が響く。咄嗟に後ろを振り向くとAIM-120IR IRアムラームが迫ってくるのが確認できた。恐らく目標を見失い迷子になったミサイルが偶然にもゼロ・月詠を発見し追尾したのだろう。そうでなければ敵が撃ってくる前に奏の良く当たる直感で気付いて
いるはずである。
 どちらにせよ赤外線誘導で追尾してくるIRアムラームを何とかしなければならない。奏は機首を上空に向け急上昇する。対空ミサイルもその後を追うが、ある瞬間目標を見失う。それはゼロ・月詠が意図的に太陽に入ったため起こった事ある。対空ミサイルが自機を見失った事を悟るとフレアを散布してその場から急速離脱する。対空ミサイルは新たに発見した熱源に歓喜し突撃する。信管が作動して炸薬が爆発するが、その場にはフレア以外は何も無く虚しく散っただけであった。
『隊長!』
 その時になって旧式空母から発艦した僚機が追いついてきた。敵艦の対空砲火は激しさを増しており、編隊を組む様な余裕は無かったが、意外に士気は高かった。
『ザコを潰して目標に向かう!――我に続け!!』
 奏のゼロ・月詠を先頭に戦闘鶴・攻撃鶴が後に続く。高度を下げて低空飛行に入り目標に向かう上で障害になる敵艦に狙いを定める。その時、敵艦から放たれたバルカン・ファランクスの砲火が一機のアサルトフランカーを蜂の巣にし無残な姿を仲間の鶴達に見せ付けるが、誰も怯まない。
 そうこうしている間に戦闘鶴・攻撃鶴から空対艦ミサイルが発射される。CIWSが必死の防御行動に出るが、数発のミサイルを落とすだけに止まり殆どがU.S.A.J.の艦船に突き刺さった。ある艦は艦橋に直撃して殆どの機能を失い、ある艦は弾薬庫に命中して大爆発を起こし、ある艦は機関区の一部を破壊されて自走不能に陥った。
 それらの艦船を飛び越して鶴達はU.S.A.J.前衛の旗艦及びその周囲に展開する護衛艦に迫る。
『ヒット・アンド・アウェイで行く。いいか!? 対艦ミサイルを発射後、急速離脱だ!!』
『ラジャー!!』
 その言葉を合図に鶴達から対艦ミサイルが発射され、同時にその場から急速離脱する。一部のゼロが進路を誤って対空網の中に突っ込み十字砲火に晒されて撃墜される。
 それでも攻撃に参加した鶴の殆どが脱出を果たす。
『ミサイルはどうなった?』
 奏は後ろを振り返って戦果を確認する。対艦ミサイルの殆どが艦船の防空システムに阻まれるが、その内の一発が前衛旗艦に迫る。迎撃は間に合わない。奏は旗艦撃沈を確信した。だが――
『なっ!? バカな!!』
 それが誰の言葉だったかは奏には分からなかった。彼は冷めた目で対艦ミサイルが撃墜されるのを捉えた。CIWSでは無い。航空機による迎撃であった。その証拠に機関砲の砲弾によって作られた水柱が無数に上がっていた。
 その事を理解した上で奏は上空を見上げると、そこに急降下してくるイーグル25の編隊が映った。中でも空色の機体が目立っていた。そのイーグル25は海面ギリギリの高度で機首を上げると離脱する鶴達に襲い掛かった。

二〇五三年 十月二〇日 ○○三○時(日本標準時)
沖縄上空

 時間は少しさかのぼる。旧式空母の飛行甲板に那覇基地の航空部隊が出現した時、ジンは笑いこけていた。予想を大きく裏切る航空部隊の出現に鬱屈とした気分が吹き飛び、愛機を使ってはしゃぎ過ぎた余りカグヤに操縦権を取られてしまった程だ。
 勿論、そんな奇怪な行動を取るイーグル25“輝夜”を絶好の標的と見定め、何機かのフランカー・ゼロが襲い掛かってきたが、全て返り討ちにあった。
 今も一機のフランカー・ゼロがイーグル25“輝夜”に襲い掛かってくる。
『甘い!』
 ジンは相手からの機関砲攻撃を右へロールして避けるとそのままの勢いでひねりこみを行った。これにはゼロのパイロットも驚いただろう。旧日本軍のお家芸を真似されて驚かない者は居ない。その隙に乗じてジンは機関砲のトリガーを引いてゼロを蜂の巣にする。運良くパイロットは脱出した。
『スプラッシュ・ワン』
《マスター、はしゃぎ過ぎです》
 流石にこれではダメだと思ったのか、カグヤが釘を刺してくる。更に付き合いの長い副官のデューク・ツーからも釘を刺す通信が入る。
『デューク・ワン、何をやっているんだ!? 落とされたいのか!!』
 釘を刺す、と言うよりも、怒りをぶつける、と言うものだった。無論、ジンはそれを何処吹く風と聞き流していた。なおもデューク・ツーは何事か怒鳴ってくるが、全てジンの耳にすら入っていなかった。
 そこで那覇基地の航空部隊がU.S.A.J.の前衛艦隊に突撃を仕掛けるのが目に映った。何機かが対空砲火の前に落とされていくが怯む様子は無い。そうこうしている間に対応が遅れ対空網の一部が航空部隊の攻撃によって崩れる。そこからフランカー・ゼロやアサルトフランカーが突入した。
『デューク・ワンより各機へ。あいつらを止めるぞ!』
 急に真剣になったジンは僚機に指示を出すと突撃したフランカー部隊の後を追った。虚を衝かれたのかデューク・ツー以下三機の反応が遅れたが、直ぐにジンの後を追う。
 それをカグヤを介して確認しながらジンは愛機を前衛旗艦に向かってダイブさせる。先程のフランカー部隊から空対艦ミサイルが発射されCIWSが迎撃を始めるが、間に合わない。それを冷静に捉えながらジンはミサイルに向かってトリガーを引いた。それに僚機が続く。CIWSで撃ち漏らしたミサイルは前衛旗艦の目前でジン達の迎撃によって全て落とされた。
『次だ!』
 四機のイーグル25は海面ギリギリで機首を上げると離脱するフランカー部隊に襲い掛かった。フランカー部隊は離脱中の事もあり満足な反応を行う事ができなかった。エンジンをズタズタにされて海面に激突する機体、ミサイルによって爆散する機体、と呆気無い最期を遂げるが、幸いにも殆どのパイロットは脱出していた。
 そして、ジン達は更なる獲物を求めてイーグル25に疾駆させるが、そこに別のフランカー・ゼロの一団が立ちはだかった。機数はこちらと同じ四機であった。その四機のゼロがヘッド・オン状態で機関砲で撃ってくる。すかさずジン達は撃ち返した。
 その攻撃は互いに決定打とはならなかった。八機のイーグル25とフランカー・ゼロは攻撃を一旦休めると互いに擦れ違った。その瞬間、ジンはゼロの隊長機の尾翼に“月詠”と描かれているのに気付いた。
『カナちゃんの部隊か。楽しめそうだ』
 ジンは、本人が聞いたら軍刀を抜いて斬りかかって来る様な事を口走りながらイーグル25“輝夜”の機首をゼロ・月詠に向けた。途端に八機のイーグル25とフランカー・ゼロが入り乱れる大乱戦になった。
 イーグル25“輝夜”が宙返りで後ろを取ろうとすれば、ゼロ・月詠がひねりこみで逆に相手の後ろを取ろうとする。そんないたちごっことも取れる状態が延々と続く。
『あいつ、腕を上げたな――そうでなければやり甲斐が無い』
 中々後ろを取らせてくれない状況でジンは酸素マスクの中で楽しげに独白する。その時――
《マスター!!》
 珍しくカグヤは動転した様子でジンに呼びかけてくる。ジンはそれに訝しみながらもカグヤが思念で注意を促した上方へと見上げた
『なっ!?――全機、ブレイクだ!!』
 その瞬間、上空で日和見を決め込んでいた試作無人機ゴーストが敵である奏のウィザード隊は勿論の事、味方であるはずのジンのデューク隊に襲い掛かった。
 沖縄戦は、前衛艦隊や対空陣地を潰されながらも粘り強く抗戦する日本軍沖縄守備隊と、数に物を言わせてゴリ押しするU.S.A.J.南太平洋艦隊との間で熾烈な戦闘が続いていた。
 戦闘は泥沼の消耗戦の様相を呈し始めていた。

to be continued



 05/09/01:夜斗さんから頂きました。
秋元 「ん〜、成る程、そう言う話ですか!w ありえなくもない話ですな。心のあるMLS、心のないEF、EFL、この辺の分け目。因みに、私設定でもコピー機は存在してるんで、こういうのもありです」
アリス 「……アメリカは、MLSが心を持つ装置である意味を理解しませんでしたから」
リエナ 「んま、合理主義の塊だからネ(ぉ
アリス 「……因みに今回(05/09/01)から、この形式で感想を述べる事に大決定です」

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