武蔵君。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だいぶ混乱しているようだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも心配無用。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これからちゃんと説明してあげるよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ここはいったいどこなのか。そして……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

君はどうしてここにいるのかを……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天国の空

 

第2話

ようこそ天国へ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???の医務室 大和武蔵

 

 美女医フランカーは微笑みながら言った。

 「…わかった。説明頼む」

 俺はそう言うしかなかった。

 なんせ、機体が墜落して、変な夢を見て、起きたらベッドの上で怪我していて、生きていたと安心したら自分を戦闘機だと言う羽根付き美女医に死んでいると言われ、夢に出てきた女の子が今、俺のベッドの横にある椅子に腰掛け、顔を赤らめながら俺を見ているのだ。

 彼女の言う通り大混乱だ。

 「と、その前に。アイちゃん、ちゃんと自己紹介しなきゃ」

 「え?あ、は、はい!」

 そういえば、この子はアイという名前しか知らない。空色の髪を持つ少女。まさかこの子も……。

 アイは椅子を降り、ぺこりとお辞儀をする。顔を真っ赤にして、はにかみながら自己紹介を始めた。

 「あう、その、あの……。…ア、アイです![F-2]のアイです!よろしくお願いします!!」

 元気良く言い終えると、アイは再びお辞儀をする。

 やっぱりこの子もか。しかも[F-2]。少し落胆してしまった。

 

 米産の単発式小型戦闘機[F-16]をベースに日米が共同で開発した[F-2]。濃青と青の迷彩塗装が施された、空自の主力機。エアショーで優雅に、力強く空を舞うこの機体に魅せられて、俺は空自に入った。だけども、今はこの名は聞きたくなかった。

 

 『私は戦闘機です』なんて言われても、とても信じられることじゃない。しかし、アイはどう見ても純粋そうな子供だ。とても変な嘘をつくとは思えない。

 「ああ。よろしく」

 俺は軽く返事をした。アイはにこっと笑顔を返してくれた。とても可愛らしい。

 「ふふっ。さて、アイちゃんの紹介も終わったし、質問タイムといこう。武蔵君、何が聞きたい?」

 もう少しアイの笑顔を見ていたかったが、俺は今の状況が良くわかっていない。聞きたいことは山ほどある。その中で、まず聞きたいことは……。

 「あんたらの言っていることは、すべて真実なのか?」

 「ああ。そうだよ」

 フランはやはり微笑みながら即答した。しかし、眼鏡の奥から見える瞳は先ほどとは比べ物にならないほど真剣さを帯びている。

 「僕達は人間の肉体を持った戦闘機。これは本当」

 微笑みながら、先ほどより少し強い口調で言うフラン。横にいるアイにも聞くと、

 「はい、本当です。あ、あの私、嘘言ってませんよ?」と言った。

 「いや、なら良いんだ。信じるよ」

 とは言ったものの、2人の言っていることはどうも信じきれない。しかし、嘘を言っているという証拠もない。今の状況では、信じていようがそうでなかろうが納得するしかない。

 そもそもこの2人のことより、ここが何処なのかが分からない。まずそれを聞かなくては。

 「なあフラン…でいいよな?」

  一応断わる。

「ああ。構わないよ」

 「じゃあフラン。ここは一体何処なんだ?」

 「ここ?そうだね……」

 フランは俺のいるベッドに腰掛けた。

 「ここはね、幸せがたくさんある世界なんだ。」

 見間違いだろうか?フランの真剣さを帯びた瞳に、一瞬憂いのような影が見えた気がする。フランは続ける。

と、フランは立ち上がり、医療の本などが乗っている仕事机の上から何かを持ち出し、こちらに放った。

 俺のベッドに飛んできた物を手に取る。それは新聞だった。しかも朝日。

 「これは?」

 「新聞だよ」

 「ああ、上から読んだら新聞。下から読んだら読みにくい…って、なにベタベタなこと言ってんだよ」

 「ふふっ、ノる君も君だよ」

 アイが思いっきり吹き出している。こら、笑うな。

 「でも、内容は笑えないよ」

 フランは微笑ではなく、険しい表情を浮かべていた。そんなにすごいことが書いてあるのか?一面を開いてみた。

 世の中で起こっている大きな事件を載せる一面記事。その中にそれはあった。

 

 『自衛隊機墜落!搭乗員脱出できず死亡』

 

 内容はこうだ。

 

 『3月4日午後2時ごろ、日本海上空で演習中だった航空自衛隊機[F-2支援戦闘機]がエンジントラブルにより墜落。搭乗していた自衛隊員、大和武蔵氏(28)は脱出装置の不作動により死亡した』

 

眩暈がして、そのままベッドに仰向けに倒れこんだ。

 嘘だろ…?冗談だろ…?こんな事ありえない…。

 「まさか…こんなことが…」

 「でも、あるんだからしょうがないよ」

 フランは寂しげに言った。

 「ここは、生者は決して来ることの出来ない、幸福で…、とても不幸な世界……。…ようこそ天国へ、武蔵君。悲しいことだけど、君も、僕も、アイちゃんも、既に死んでしまっているんだよ。まあ、僕とアイちゃんは正確には壊れた、だけどね」

 寂しげ言うフラン。どんな顔をしているのだろう。今俺には天井しか見えない。見たくない。何も見たくない。何も考えたくない。

 「…頼む。1人にしてくれないか……」

 「…分かった。行こうアイちゃん」

 「あ…。はい…」

 軽く息をついて言って、フランはアイをつれて医務室を後にした。

………

……

 

 畜生。何でこんなことになったんだ。

 あの時エジェクションレバーが作動しなかったからか?

 ちゃんと俺が機体を診なかったからか?

 そもそも本当に整備は万全だったのか?

 機体の製作段階で欠陥は無かったのか?

 

 ……やめよう。

 こんなことを考えても意味が無い。

 何が原因であれ、結局俺は死んでしまったのだ。

 結果は既に出てしまった。原因を考えてもどうにもならない。

 …なんだか眠い。何もすることも無いし、したくも無い。とっとと寝てしまおう……。

 最後にせめて、京に……。

 

 

 

 気付くと俺は暗い部屋の中に立っていた。

 棚に飾られたぬいぐるみの数々。桃色のランドセルが置かれた学習机。そして、棚に置かれた、この部屋には不似合いな戦闘機のプラモデルの箱。

 見覚えのある部屋。…間違いない。ここは俺の大切な一人娘、京の部屋だ。

 京は今、ベッドの上で眠っている。

 俺はせめてもの願いを叶えてくれた誰かに感謝した。

 ぐっすり眠っている娘を起こすのは忍びないが、どうしても伝えたいことと、渡したい物がある。

 しゃがんで、恐る恐る京の髪に触れてみる。手にやわらかい感触が伝わってきた。どうやら触れる事は出来るらしい。

 少し体を揺すってみる。京は目を擦りながらゆっくり体を起こした。

 「ううん。なぁにぃ?」

 「京……。俺だ」

 京はこちらに振り向き目を丸くした。次の瞬間、涙が零れ落ちて、

 「お父さん!!!」

 俺に思い切りしがみつき、泣きじゃくる。俺もしっかり我が子を抱きしめる。

 「京…。ごめんな……」

 「お父さん……。もう…どこにも、行かないよね……?」

 俺だって、もうこの子から離れたくは無い。だが俺は死んだ身。この願いは、例え神だろうと叶えてはくれないだろう。なんとなく、それが分かった。

 「ごめんな、京。…それは出来ない」

 「嫌だ!どこにも行っちゃ嫌だ!!嫌だぁぁ!!!」

 京は再び泣きじゃくる。どこにも行ってほしくない。その気持ちはよく分かる。胸が締め付けられる。でも、こればかりはどうにもならない。

 俺は首に着けていたネックレスを外した。純銀製のネックレス。病院で眠った妻が残した、唯1つの形見…。泣きじゃくる京にそっと着けてあげた。

 「京。俺は駄目な父親だ。お前を1人にするなんて…。でも、できることなら…、俺という人間が…。大和武蔵という人間が…。この世界に、確かに存在したことを、忘れないでほしい…」

 そこまで言うと、体の感覚がなくなってきた。もう時間なのだろう。

 「…約束する…。約束するから、どこにも行かないで……!」

 「最後の最後まで、娘を泣かせちまう…。本当に駄目な父親でごめんな、京……」

 もう限界か…。目の前が真っ暗だ……。でも、これだけは伝えなければ…!

 「京……。こんな俺に…、ついて来てくれて…、ありがとう……」

 そして、俺の視界は闇に染まった……。

 

 

 

 気が付けば、俺はあの医務室のベッドの上だった。起き上がっても痛みは無い。体に巻かれていた包帯が全て取れていた。あれは夢だったのだろうか……。

 ふと、首に違和感があった。付いている筈の物が無い。やっぱりあれは……。

 「おはよう武蔵君。良い夢は見られたかい?」

 フランだ。机でパソコンを弄っている。どうやらアイはいないようだ。

 「あ、いや、良く覚えてない」

 「そっか。武蔵君、お腹減ってない?」

 腹?

 

ぐう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 ……思いっきり鳴きやがった。フランは腹を抱えて笑いを堪えている。

 「ぐっ…。ぷっ…。へ、減ってるみたいだね…。ぶふっ…!」

 「…笑いたきゃ思いっきり笑ってくれ…」

 あまりに恥ずかしすぎて泣きそうだ…。

 

約1分後

 

 「ふふっ。ご、ごめんごめん。あ、あんまり凄かったから…。そこに服があるから、着替えなよ」

まだ腹を抱えているフランが机の側にある棚を指した。ベッドから降り、近づいて見る。ガラス戸の中に、服が入っていた。

 戸を開けて服を取る。黒のタンクトップと青いジーパン。それと、[F-2]迷彩の施されたバンダナ。完璧に若者ルックだ。

 「ちょっと俺には若すぎる気が…」

 「大丈夫だよ。武蔵君はまだまだ若いじゃないか」

 「そうか?もう30前なんだが…」

 また違和感を覚えた。何故俺は会って間もないフランとこんなに打ち解けているんだ?確かにフランは俺から見れば親しみやすい感じはするが…。

 「大丈夫だって。自身持って」

 …やめておこう。むしろ色々なことを気軽に聞けて好都合じゃないか。とりあえず着替えることにしよう。ベッドの元へ行き、カーテンを閉める。

 ………

 ……

 …

 

 「どうだ?」

 カーテンを開け、フランに見てもらう。バンダナは巻き方が分からなかったので、鉢巻のように額に巻いた。

 「うわぁ……。初めて君を見たときもそうだったけど、やっぱり君はカッコいいよ……」

 フランはアイのように頬を赤らめながら、ため息混じりに言った。

 

 「うん、これならどんな女の子でもイチコロだね」

 「そ、そうか?」

 昔はそんなにモテたこと無いんだが…。

 「うんそうだよ。僕も君にメロメロだよ」

 「冗談はよしてくれ」

 フランは頬を赤らめたまま微笑んでいる。まったく、どこまで本気やら……

 

くう〜〜〜〜

 

 そんなやり取りをしているうちに先程より大人しめにまた腹が鳴いた。腹も若干痛くなってきた。

 「ああ、ごめん。食堂まで案内するよ」

 俺たちは医務室を出た。廊下はわりと広い。

 「さ、行こう」

 ほぼ同時に歩き出す。ふと頭に疑問が浮かんだ。

 「ああ、質問していいか?」

 「ああ、何なりと」

 フランはいつもの微笑みを浮かべる。

 「この世界は何なのか分かった。じゃあここは何処だ?」

 こちらを向き、フランは答える。

 「ここはね…」

 するとフランは窓の外を見る。俺も外を見る。とても美しい夕暮れだ。日本じゃそうお目にかかることは出来ないだろう。フランが口を開く。

 「第3話で教えてあげるよ」

 「おい、またかよ。何だよ第3話って」

 「気にしない気にしない。それじゃ、ばっはは〜い」

 「はあ…。もうどうでもいいよ…」

 



しろ〜と作家のあとがき・二式

 

こんにちは皆さん。YOUです。

今回は武蔵さんの現在状況をお送りしたわけですが…。

セリフ多すぎですね。半分くらいセリフで構成されてるんじゃないでしょうか。

まあそこはしろ〜とだからということで勘弁してください。

ええ、第3話では、ようやくほかの娘さん達ご登場です。

しかし、まだ機体の選抜が出来ていないという状態。だって戦闘機多いんだもん。

この話を読んでくれた皆さん、きっとお気に入りの機体があるでしょう。

というわけで勝手に緊急企画。

このしろ〜と作家の書いたへぼ小説を読んでくれた皆様の好きな機体を出してあげたい…。

「私はこの機体を出してほしいぞ」という方。

↓こちらまでお願いいたします。

falklam@yahoo.co.jp

〆切は、この小説が秋元中尉殿のサイトに張られて10日後。

よろしければ、「こんな感じがいいな」というイメージも一緒にお願いいたします。

 

でも、登場させる機体の選抜もできてないってのは問題ありだよなあ……。

 

っと、マイナス思考になってしまっては前進できない。

それでは皆様、このへんで…、

 

ふぁいと〜!いっぱ〜つ!

ツアギ様、ウラー!!

 

以上、映画「TOP GUN」に登場する[Mig-28]が、どうしても[F-5]にしか見えない、YOUでございました。




 05/09/15:YOUさんから頂きました。
秋元 「娘との別れ……悲しいですな。やはり、親しい人や家族との別れはつらいものです」
「…………そりゃそうさ……私だって、血を分けたЖуравлик達が殺られたら悲しいよ……」
アリス 「……因みに、TOP GUNのMiG-28は、そのまんまF-5です。……映画の敵役に、MiG-28という架空機を設定し、その役をF-5に演じさせたのがアレです」

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