外洋機動艦隊 外伝 −空母雛菊音楽隊−




 この世には、科学者や研究者にとっては常識でも、一般人には到底理解し難い現象や物体など、数え切れないほどある。
 レーダー感度理論もその内の一つである。
 その中でも、序々にTA内部の技術者や研究者の注目の中心となっていったのは、蒼晶石であった。彼らの一部は、それを様々な物に合金、、の様にして活用できないかと模索していた。
 まず始めに研究されたのは、鉄である。汎用性に富み、様々な合金の元として使われているから、である。これは結果的に失敗に終ったが、この後の研究に大いに貢献した。そして、成功した金属の中の一つに、真鍮があった。
 しかし周囲からは、この結果はほとんど評価されなかったどころか、「そんなモノ作ってどうする」というような反応だった。
 なにしろ、それが使われること自体、珍しい。

 ある一つの分野、ある一つの集団を除いて。




第一話 序曲

[思いがけないこと]




  -二〇五二年〇七月二九日一五時三七分、某大手メーカー 社長室-


「社長、最終テスト段階を終えてから言うのもなんですが、本当にコレを実用化する気ですか?」
とあるプロジェクトの研究員が言った。
「ああ、もちろんだ」
 社長は自信満々に、しかしどこか悲しげに言った。
 彼は、はじめはこのプロジェクトに乗り気ではなかった。だからTAは、今蒼晶石を使って行っている実験、、の概要、そして結果をごくごく簡単に説明し、それをそのプロジェクトに参加する予定の研究員や技術者にのみ、話すことを許可した。その会社の情報管理が、とても厳しいことで有名だったから。そこまでしっかり説明されたからこそ、彼はこのプロジェクトに乗ったのだ。
「社長、一体どなたにそれを……」
「“音楽隊”とTAの一部に、だ」
「えっ……」そのプロジェクトの研究員は、少々驚きを隠しきれずに言った。「何故でしょうか」
「……そこまではわからん」社長が重々しく口を開く。さすがにここまで深い意味は、彼も知らなかったのだ。教えられていなかったのだ。「ただ、蒼晶石を積んだ軍用機が存在しているから、その応用だろう」もっとも、私の想像でしかないがな、と彼は付け加える。
「なるほど……。それではなぜ、何故軍用機の次に目をつけたのがコレなのでしょうか」
「……流石にそれは見当もつかん」社長はお手上げの格好をしつつ、言った。「まあ、しっかり頑張ってくれ。絶対に他に話すなよ」
「もちろんです、社長」
 研究員が社長室から退出した後、「確かに、軍用機の次が何故コレなのだろうか」社長はポツリと言った。今度は、先程の自信が見られない。まだ、心配事はたくさんあるのだ。なんせ、これが初めての試みなのだ。確かに心配が無い方がおかしい。
 しかし彼は考えた。部下たちだって心配していることはたくさんあるだろう。しかし彼らは──時に社長に相談するが──そんなこと無いような顔して、毎日幾度となく失敗し、それを乗り越えて……の繰り返しを、毎日のようにしていたのであった。
「(俺がめげてどうする?皆あんなに失敗しても、それを乗り越えている。……なのに、指示を出しているだけ、、、、、、、、、、の俺がめげてどうする!?)」そう考えた刹那、やる気が湧いてくる。俺もがんばらねば、と。
 心配事を心の奥にしまい、この部屋のすみっこに置いてある彼女達、、、を見つつ、彼は机に戻っていった。



  -同時刻、空母雛菊上、雛菊音楽隊第三個人練習室にて-



「話とは何でしょうか」練習中、艦内放送で個人的に宇和島に呼び出された音楽隊員は、少々不満そうだった。
 彼の名前は、山内やまうち 一輝かずき。空母雛菊音楽隊所属のバストロンボーン奏者であると同時に、トロンボーンパートのパートリーダーである。階級は少尉。あだ名、黒鶴の技師、音楽隊付エンジニア。それは、大の工作好きであり──その腕もなかなかのものであるが故に、壊れた楽器の修理を頼まれることもある──、ロシア戦闘機、特にSu-27系列のものをこよなく愛するからである。
「TAへのお誘いなら、お断りさせていただいたはずですが」
 山内は、以前から何度もあった宇和島個人からのTAへの誘いを断っていたのだ。理由は彼曰く、「雛菊音楽隊に残れなくなる」だそうだ。それほど彼は雛菊音楽隊が好きだ。もっと言うと、彼はここでテナートロンボーンやテナーバストロンボーンではなく、“バストロンボーン”を演奏することが好きなのだ。雛菊音楽隊に除隊までバストロンボーン奏者として居続けようと考えている。
「いえ、今回は別件です」と、宇和島。「あなたに、新しい楽器を提供したいと思っています」
「どうせTAへ入るとかの条件付きなんでしょう?」山内は裏があるな、と考えた。
「いえ、そんなものありません。強いていえば…」
「?」山内の頭上に疑問符が一つ浮かぶ。
「そうですね、」宇和島は何か考えている。「あなたは、この空母内で一番設備の整ってる工作室がTA専用、、、、なのは知っていますよね?」
「はい」山内の頭上の疑問符はまだ消えない。それどころか、段々と増えていく。「ですがそれが何か?」
「その工作室を自由に、かつ、その中にある小部屋の一室をあなた専用の研究室に使ってもよい、というオマケつきで」
「……!」山内の目が変わり、頭上にある全ての疑問符が一瞬にして感嘆符に変わる。「……そこにある機器類は……」山内はおそるおそる聞いた。
「もちろん自由に使っていただいて構いませんよ。これは新型の小型軽量レーダー開発に協力していただいたお礼なのです」
 山内は、TAから外部協力者として呼ばれることがあるほどの技術を持っている。だからこそ、山内はTAに誘われていたのだ。つい最近にも、戦闘機用の小型軽量レーダーの開発に外部協力者として関わっていた。これは、低レーダー感度下において従来の物よりも感度を5%ほど上げることに成功し、かつ、ふたまわりほど小型化する事に成功した、まさに最新技術の賜物なのである。その設計を一人でこなすことができるほど、山内の技術者としての能力は高い。
 もっとも、山内一人に任せるようなことはもうこないでほしい、面倒だから。と考えているようではあるのだが。
「……。そういうことなら、わかりました。……ただ、」しばらく驚きのあまり言葉を発せず口をパクパクさせていた山内は、ようやく声を出して、おそるおそる質問する。「ただ、一ついいですか?」
「はい、なんでしょう」宇和島がにっこりとしながら言う。
「同じモデルでいいので、いくつか試奏してから決めてもいいでしょうか」
宇和島は簡単に答える。「もちろん」そのまま山内に敬礼しながら軽く一礼すると、「では、一週間後に」と言い残して、練習室から出ていった。
 元々、宇和島と山内は技術についてよく口論、もとい議論していたので、仲は良い。


 それより少し後、宇和島は、もう二人、山内と仲の良い楽隊員とも同じような話をした。
 一人は、幡村はたむら 吉城よしき。空母雛菊音楽隊のトランペットパートのパートリーダー。山内とは、中学二年の時に起こった、近畿大震災のチャリティーコンサートで知り合ってからの仲だ。とてもノリのよい、雛菊音楽隊のムードメーカーである。
 もう一人は、笹本ささもと のぞみ。空母雛菊音楽隊のフルートパート所属。無口・無表情を絵に描いたような性格で、全くと言っていいほど話さず、幼なじみの山内ですらごくわずかに変化する表情のから今の心境を読みとることに苦労するほどである。ちなみに階級は、どちらも少尉。
 二人には山内のようなTAへの考えがなかったために、条件なしでこの話にすぐに乗った。

夕方。
「……一週間後、か」山内はぼんやりと今使っている楽器をながめる。
 それは、山内が学生時代の恩師から借りたもの。アメリカのMIMB社製。型番、BTRB-50RO。購入当時の値段も、安すぎず、しかしして高すぎずだったと聞いている。音色も悪くなく、平均的。良くも悪くも、ごくごく普通のバストロンボーン。これがどんな楽器に化ける、、、、、、、、、のか、山内は内心楽しみでしかたなかった。少し早すぎるが、もう今の楽器は恩師に返そう、とも考えていた。そう考えていると、自然と口元が緩んでいくのであった。


 その夜三人は、宇和島から言われた事について話しあった。
「良い話じゃねーか」幡村は陽気に言った。「な、笹ちゃん」
笹ちゃん、というのは、幡村が笹本を呼ぶときのあだ名である。
「……(^_^)」笹本は少し嬉しそうだ。
 ちなみに、この顔文字は、山内が解釈した、実際よりもとてもはっきりした表情であることを補足しておく。それだけ笹本の表情は微妙にしか変化しないのである。
「んで、いつだっけ?」
「一週間後」
 山内が静かに答えた。
「くーっ、楽しみだなー!」
「だな」
「オイオイ一輝、なんか元気ねーな。どしたんだ?」
「それはおまえがはしゃぎすぎなんだろーが」
 じっと眺めている笹本の横で山内と幡村は漫才のような会話をしつつ、その日は終わった。三人とも、そんなことは気にしない。いつものことだから。


 しかし、これからのことが三人の人生を大きく変えることを、彼らは気付くはずもなかった。






第二話へ続く







後書きという名の何か

 初めまして。小鶴巡人です。
 まずはじめに、こんな下手な小説を読んでいただいて、本当にありがとうございます。
 自分なりに、あまりないような方向から外機を見た外伝を書いてみています。
 もしよろしければ、これからも読んでいただけるとありがたいです。

 それではまた次回お会いしましょう!いつになるかはわからないけど!!(ぇ



 2012/01/29:小鶴巡人さんから頂きました。
「成る程、これは面白いアプローチですねぃ」
「……技術開発部……TAシステム軍団の方々なら、やりかねないですね」
「ああ、変わり者集団だからな」
「あの人たちって、ほんと変わり者だからネ。どんなものでも思いついたらとりあえずやってみる、みたいな?」

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